第七十三話 新国家
第七十三話 新国家
サイド 矢橋 孝太
東条家に行った次の日、とんでもないニュースが流れた。いったい何度目のとんでもないニュースなのやら。ダンジョンが出来てからずっとこんな感じな気がする。
ユーラシア大陸。魔獣大陸とまで言われたその大陸に、新国家が存在すると言うのだ。衛星からの映像でいくつかの街らしき物があり、そこに人工の明かりがついている事は今までも言われてきたが、まさか国家になっているとは。
どうも、かつて中国やロシアだった都市で、『征服された民族』を名乗る人達や、まったく関係なく、『自分が新たな王だ』と名乗りをあげている所があるらしい。
邦人保護の為に大陸へ向かった自衛隊が接触したらしいのだが、同時に、ロシア政府を名乗る都市がEU近くで存在もしているらしい。
暫定ロシア政権はEUに救援要請を出しており、EU側も彼らをロシアだと認め行動を開始しているとか。
また、国家を名乗る都市の中にはモスクワを焼いたスルトのハンドラー率いる『レヴァンティン』と、北京を水没させた応龍のハンドラーが率いている『金星党』なる者達もいるとか。
とりあえず元自称革命軍は論外として、これらの都市を国として認めるか論争になっている。というのも、彼らは邦人を少なくない数『保護』しているらしく、それを使って日本政府相手に交渉を持ち掛けてきたのだ。
いや、交渉と言うより、脅迫に近い。『邦人の保護を約束する代わりに我々を国家として認め、支援せよ』と言ってきているのだ。
国会から夜中のバラエティー番組まで大混乱だ。ある者は『奴らは国を名乗るテロリストだ』と叫び、ある者は『彼らを国として認めてまず日本人の安全を保障させよう』と叫ぶ人もいる。後者は、ほとんどがユーラシア大陸に仕事などで行っていて現在行方不明となっている家族がいる人たちだ。
国会では、与党を中心に対応が協議されている。大陸がモンスターであふれてから野党がやたら静かだ。自分や滝沢、佐藤を襲った犯人たちが何者かの手引きで大陸へ脱出したという話を小沢さんから聞いていたので、つい疑ってしまう。
織田総理としては、彼らを国家として認めるかは協議中だと言っている。ここまで強気な発言と行動していただけに、この発言は違和感がある。噂では、織田総理の妹が大陸にいるかもしれないとされているが、真偽はわかっていない。
自衛隊は一時日本へと戻る手はずとなったらしい。これでとりあえず海をわたってモンスターが攻めてくるというのは避けられるだろう。……たぶん。
教室でも大陸の話はよくされている。やれ『あそこでなら一旗あげられるかもしれない』とか、『いっそミサイルの雨をふらせろ』とか、『自衛隊の特殊部隊で彼らから日本人を救い出すべきだ』という奴までいる。
そういう話が出るたびに、何故か自分の方へと視線がくるのだ。いったいどうしろと。
クラスメート達としては現在クラスカースト的に無視できない自分の発言を待っていると思うのだが、偶に『お前行ってどうにかしてこいよ』みたいなのもいる。いや本当にどうしろと。
伊藤のグループは特に顕著だ。『大陸に行って日本人を助けに行けばいいのに、それをしない臆病者』と陰で自分の事を言っているらしい。じゃあお前らが行けや。
というか、伊藤の家は大丈夫なのだろうか。半導体がどうたらでIT系は大変らしいけど。まあ、自分の知った事ではないが。
放課後、部室にていつものメンバーで集まる。
「お前はどう思うよ、大陸について」
ここでも大陸についての話が上がったのだが、やたら真剣な顔で正樹さんが聞いてくる、無駄に顔がいいから真剣な顔されると少し怖い。
「どうと言われましても、『はあ、そうですか』としか」
そう返すと、なんか気の抜けた顔された。
「そうか。……いや、お前の事だからもしかして周りに流されて『ちょっと邦人の救助に参加してきます』とか言い出すんじゃないかと思ってな」
「いやどういうイメージですか」
正樹さんの意見にジト目を向けるが、三銃士達も何故か頷いている。
「教室でもさ、なんか矢橋が行けみたいな事言っている奴いるじゃん?だからちょっと心配だったんだよ」
「そうそう。なんか変な方向に思いつめてないかって」
滝沢と佐藤が言ってくるが、自分としては肩をすくめるしかない。
「と言ってもな。ぶっちゃけ僕が行っても特に出来る事がないんだよ」
「というと?」
下山が首を傾げるので、自分の考えを話す。
「第一に、僕は一般人だ。突然『手伝わせて』って自衛隊に言っても『帰れ』って言われるだろ。……というか言われたい」
万が一にも『おお、では手伝ってください』とか言われたくない。勘弁してくれ。
というか、天岩戸作戦の時だって散々世論から『徴兵だ』と叫ばれたのだ。今川政権が崩壊した理由の一因として無視できないはずだ。
「第二に、僕は隠密活動系の事を期待されても困る。邦人の救助って、普通に考えたらこっそりとだろ?そういうの向いてない」
紅蓮をはじめうちの使い魔は隠密型じゃない。というか最大戦力の紅蓮も二番目に強い金剛もどちらかといえば派手だ。炎まき散らしながらハルバートぶん回したり、地面隆起させまくってメイスで殴りつけてきたりと、めちゃくちゃ目立つ。
「第三に、魔獣大陸が魔境過ぎてちょっとついていけない。こっちは現代日本の高校生だぞ」
Bランク相当のモンスターがウロウロしているのはまだいい。いやよくはないけども。だが基本的に電気ガス水道が使えないのだ。あとネットもダメ。こんな環境で活動しろとか絶対に無理。
「そして、一番の理由として、僕が行きたくない」
日帰りで行くなんてまず無理だ。その間家族や友人に何かあったらどうするのだ。第一、なんで知らない人たちの為に命を張らなきゃいけないのだ。天岩戸作戦は参加しないと家族に石どころか火炎瓶投げられるんじゃないかと思ったのと、自分が参加せずに作戦がもしも失敗したらどの道日本に住んでいられなくなるというか、普通に状況が悪化するだけだったからだ。本心では参加したくなかった。
「……なんというか、お前ちょっと変わったな」
滝沢が目を見開いてこっちを見ている。いったいなんだと言うのだ。
「いや、いい意味でだぞ?ちゃんと自分の意見をもって言えるようになったんだなって」
「お母さん嬉しい!」
「誰がお母さんだ。というかその生暖かい目やめろや」
滝沢と佐藤にそういう目をされると無性に腹が立つ。具体的に言うと思いっきり耳を引っ張りたくなる。
「OK、とりあえず無言でファイティングポーズするのはやめろ」
「あとスキルは使うなよ?絶対だぞ?」
「なるほどフリだな?」
「「フリじゃねえよ」」
そんな感じでふざけていると、正樹さんがなんか黄昏ている。
「魔獣大陸かぁ……」
「どうしたんですか正樹さん。黄昏て気持ちわるい。広い食いでもしたんですか」
「お前本当に変わったな。ずけずけ言いやがって」
「すみません。謝るんでプロレス技は勘弁してください」
手加減は完璧だし、素人が下手にやって大怪我とかも武術を学んでいるらしいから大丈夫なのだが、この人のプロレス技って。めっちゃ胸とか太ももが当たるのだ。男として見れなくなるので勘弁してほしい。
「お前次いったらコブラツイストするからな」
「さーせん」
「でだ、俺が思っていたのは、今後の進路についてだよ」
「……言っときますけど、大陸にわたるって言い出したら百合さんと源一郎さんに告げ口しますよ。あとめちゃくちゃ妨害します」
正樹さんは色々狙わる理由が多すぎるのだ。魔獣大陸なんて色々もみ消しやすい所に放り込んだらモンスターに襲われる前に色々な組織から襲撃されるに決まっている。
「いやさ。俺達の体って……なんでもねえわ」
佐藤達がいるのを思い出したからだろう。正樹さんが不自然に言葉を止める。その後、流れで解散となり、家に帰った。ちなみに百合さんには報告しといた。
自室のベッドに寝転がりながら考える。自分や正樹さんは寿命で死ぬことはない。自分の体も、あと少しして全盛期と言えるとこまで成長したら老いる事が出来なくなるだろう。いや、もしかしたら既に歳をとれなくなっているかもしれない。
これから出来るだけ普通に暮らしていくにはどうしたらいいだろうか。いっそ複数の有力者に自分を売り込んで、それより少ない『若返り』の席を用意するか?
そうすれば有力者同士で争い、自分に媚びを売って若返りの権利をとりに行くかもしれない。……いや、これは都合の良すぎる想像だ。自分にそんな伝手はないし、そもそも海千山千な世界で生き残ってきた妖怪達相手に上手く立ち回れる気がしない。逆にいいように踊らされるだろう。
ならどうするか。いっそダンジョンに潜って、若返りの方法でも探しだすか?それを広めて日本全体で若返りだの不老だのが珍しくないものにする。そうすれば自分への関心も減るだろう。
ダメだ。なんかそれやったら源一郎さんが凄い顔しそうな気がする。すぐさま斬りかかるような真似はしないだろうが、滅茶苦茶微妙な顔をするだろう。
それに、そんな簡単に若返りの方法が見つかるなら苦労はしない。今頃ニュースにでもなっているだろう。
考えてもいい案が浮かばない。正樹さんの考えている通り、いっそ魔獣大陸にでも駆け込んで現代社会とは離れて暮らすしかないのだろうか。
気分転換もかねてスマホをいじる。何かアニメやゲームの面白い話でもないだろうか。
そう思って操作していると、一際騒がれているニュースがあった。
『不老の方法、ついに見つかる!?カギはモンスターとの合体!?』
…………なぁにこれぇ?
読んでいただきありがとうございます。
今後ともよろしくお願いいたします。




