第六十四話 共同戦線
第六十四話 共同戦線
サイド 矢橋 孝太
『はい、小沢です』
思い立ったが吉日。早速小沢さんに電話をいれる。ワンコールで出てくれるのはありがたいが、少し怖い。
「矢橋です。お世話になります。こんな時間にすみません」
『いや、構わないよ。何かあったのかい。もし、悩みがあるなら言ってくれ』
「悩みというかご相談なんですが、葛城始子の逮捕。自分も協力させてくれませんか?」
『……矢橋君。教団の件なら君が責任を感じる必要はないと伝えたはずだ。無理に動く必要はないんだよ』
「いえ、復讐や責任からお願いしているわけではありません」
紅蓮が提示した選択肢。自分は打って出るのを選んだ。ただし、『独自に動くのではなく、警察と協力する形で』だ。
そもそも、自分には捜査のノウハウはない。闇雲に葛城始子を探しても見つかるわけないし、むしろ人の多い所で襲われたり、家族を狙われたらたまったものではない。
その点、警察には葛城始子を捕まえる戦力に不安があっても捜査力自体は不足していないはずだ。彼らの協力を得て、暴れても問題ない所で葛城始子と対峙する。そうすれば紅蓮も全力を出せるし、オークチャンピオンを抑えている間に金剛や烈風でハンドラーを捕まえればいい。
『……言いたいことはわかった。だが、それには問題点が複数ある』
「はい……」
まあ、言っていて自分でも問題だらけだとは思っている。
『まず、君は一般人だ。未成年で、そのうえ犯人に狙われている。そんな君を犯人と直接戦わせる役を任せるわけにはいかない』
ごもっともだ。だが、こちらとて言い分がある。
「ですが、僕は天岩戸作戦に参加しています。今更一般人は関わるな、というのはきけません」
『それは……確かにそうだ。私には止める権利はない』
一度『未成年』で『一般人』な自分に自衛隊と一緒に危険地帯に跳び込んで戦えと言ってきたのは小沢さん。というか政府である。今回ぐらい融通してほしい。
『だが、ご両親はこの事を知っているのかね。了承してくれるとは思えないが?』
「それは、後で説得します」
『……せめて説得する目途がたってから言いなさい』
「はい……」
話は終わりという雰囲気にされてしまったが、まだだ。ここで引きさがるつもりはない。
「ですが、説得はするので協力させてください」
『いや、だからね』
「提案を受け入れてくれないなら自分一人で探します。なんなら『誰彼構わず』協力を要請します」
誰か構わずのところを強調する。意味が伝わったのだろう。電話越しに小沢さんが息をのむのを感じる。
『……脅しかね』
「いいえ、提案です」
誰彼構わず。つまり、日本所属の機関以外に話を持ち込む可能性もちらつかせている。例えばアメリカとか。
「僕、ハンバーガーとか好きですよ」
本気で移住とかする気はないが、向こうからしたらその可能性があるだけで頭を抱えたいだろう。
自意識過剰かもしれないが、自分は中々に貴重な戦力ではないかと考えている。日本でも数少ないAランク以上の使い魔と契約し、保有するスキルも規格外の回復能力を持っている。自衛隊を国外に出している今、自分が外国の勢力にいってしまうのは避けたいはずだ。
『君はそんな事はしないだろう。お父さんの仕事もある。馬鹿な真似はしないはずだ』
「両親には本当に申し訳ないと思っています。けど、死なせるよりはマシです」
『日本の警察に任せていては死ぬだけだと?』
「前までなら、信じて待つことも出来たんですけどね」
数秒間の沈黙。自然と冷や汗が出てくる。こういう駆け引きみたいなのとか脅しとか苦手なんだ自分は。
『……わかった。君がご両親を説得できたのなら、どうにかして警察とわたりをつけよう』
「ありがとうございます」
『だが、私も警察を顎で使えるわけではないんだ。色々な手続きやら根回しが必要になる。すぐにとはいかない』
「わかりました。どれぐらいかかりそうですか?」
『それを考えるのすら今は出来ないよ。焦らず待っていてくれると助かる』
「お待ちしています。ですが、あまり待たされるようでしたら……」
『……全力を尽くそう』
「よろしくお願いします」
『では、早速動くとするよ』
「はい。こんな時間にすみませんでした。失礼します」
電話をきり、大きくため息をはく。疲れた。凄く疲れた。何度『やっぱなしで』と言いそうになったか。あと小沢さんちょっと怖かったんだけど、実は滅茶苦茶怒っていたりしない?
「……紅蓮、どうしたの」
何故か紅蓮が床から少し浮いた状態で正座しつつ、頭の炎をメラメラといつもより大きく燃やしている。
『申し訳ございません。主の成長なされた姿に、つい感動しておりました』
「いや、成長って言うのかな、これ……」
どっちかというと駄々をこねて困らせているような感じもする。他人の畑に踏み込んで好き勝手言っているみたいで落ち着かない。
『主は自分で考え、自分の意思で、自分の為に動きました。普段ならとりあえず長いものに巻かれるところを、自分の意見を押し通しました。これは間違いなく成長です』
「そういうものかな……」
『そういうものです』
まあ、紅蓮は自分を持ち上げすぎるところがあるので、話半分程度に聞いておく。それより、問題がある。
「両親の説得、どうしよう……」
一時間後、全力で駄々をこねて両親を困らせる男子高校生の図が出来上がった。
翌日、学校に向かっているのだがいつもより視線が多い。しかもひそひそ声も増えている。これは、昨日の件が広まっているのか。
教室についても変わらず見られているのだが、伊藤達がニヤニヤとしている。いったいなんだ。
「おい、矢橋」
「あ、おはよう」
「おはよう。じゃなくてだな」
滝沢と佐藤が話しかけてくる。その顔はかなり真剣だ。小声で周りに聞こえないように喋ってくる。
「お前、反社会的なアレとつるんでいて、昨日はその抗争に参加していたって噂が流されているぞ」
「はっ?」
なんだそれは。というか反社会的なアレだったらどれだけマシだったか。この場で事情を説明したいが、言っていいものなのか考える。
実際に人がたくさん死んでいるのだ。それを吹聴していいものか。考え込んでいると、二人が気まずそうな顔をする。
「お、おい、なんで黙るんだよ」
「ま、まさか……」
「いや、そういう人達とは関わった事はない。ただ、説明が難しい」
そうこう話していると、先生が来て席に着くことになった。
それにしても、昨日の今日でここまで噂を広げるとは。十中八九伊藤と冒険者部だろう。どちらも落ち目だと思っていたが、意外とまだ人脈をもっていたのか。
まあ、人の噂も七十五日。そのうち消えるだろう。……七十五日って結構長いな。二カ月以上じゃん。
放課後、部室にいつものメンツが集まる。今日は報告会の日ではないので、他の部員はいない。
三銃士と正樹さんに昨日会った事を説明する。三人はドン引きしていたのだが、正樹さんは静かにブチギレていた。
「……葛城始子だな。写真とかあるか?」
「ありませんけど……」
「手に入ったらよこせ。というか今から似顔絵を描く。特徴を話せ」
正樹さんが真顔のまま言ってくる。正直怖かったので言われるがまま話したのだが、正樹さんは一切よどみなくペンを動かしていく。
「こんな感じか?」
「え、はい。そっくりです」
出来上がった絵は葛城始子そっくりだった。まさかそんな特技が正樹さんにあったとは。
「昔刑事ドラマで憧れて練習していたんだよ。この体になってから手先が器用になったから、これぐらいは出来る」
無表情のまま正樹さんが書き上げた絵を見る。
「とりあえず見つけたら半殺しにすればいいんだな。わかった」
「いやいや、危ないですから警察に連絡するだけに……」
「警察に協力する気のお前に言われても説得力ねえよ」
「それは」
「あの教団についていい感情はねえ。だが、これは俺に売られた喧嘩でもある。なにより気に食わねえのが、人のダチに手を出しやがった事だ。ケジメはつけさせてもらう」
「正樹さん……」
やだ、ちょっとキュンとした。なにこのおっぱいのついたイケメン。自分、男なのにちょっと乙女回路が反応してしまった。
「矢橋、顔きめえぞ」
「うるせえ奥歯折るぞ」
引いた顔で言ってくる佐藤を睨みつける。男だってキュンとする時ぐらいあるんだよ。
「……まじですまんが、俺は今回協力できねえ」
「俺もだ。すまないが、足手まといにしかなりそうにない」
「あ、僕はそもそも協力する気がないので」
三銃士が申し訳なさそうに……いや一人普通にだが、協力は出来ないと告げてくる。それも仕方のない事だ。自分には紅蓮はいるが、皆にはいない。
「気にしないでくれ。もし葛城始子を見かけたら決して近寄らずに、警察か僕に連絡してくれ」
頷く三銃士をよそに、正樹さんが顎に手を当てて考えている。
「……矢橋、この後空いているか。いや、家には出来るだけいた方がいいのか?」
「あ、一応、金剛と烈風を家に置いてきてますけど」
「……お前、それ法律的にギリギリアウトじゃね?」
「バレなきゃセーフですよ」
「それもそうか」
いや言っといてなんだけどそれで済ませていいのか上級生。
「まあいいや。すぐに帰らなくてもいいなら、ちょっと付き合え」
「えっと、どこに?」
「俺の家。ひい爺ちゃんに手伝ってもらう」
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