第五十九話 それぞれの過ごし方 3
第五十九話 それぞれの過ごし方 3
サイド 矢橋 孝太
前に部活で来た使い魔フリーに来ていた。
というのも、稔からの頼み……というか、『挑戦』である。
「よろしくお願いします!」
この前ダンジョンで手に入れたビキニアーマーの装備カードを身に着けた稔が、綺麗な姿勢で頭を下げる。
正直に言おう。滅茶苦茶エロイ。今日が平日の夕方でよかった。周りに人はいない。一応監視員のおばさんはいるが、それだけだ。
稔は真剣なのだろうが、巨乳を通り越して爆乳な胸に、うっすら腹筋の浮かんだくびれた腰。そしてまんまると大きなお尻。ついでにむっちりとした太ももとそれに負けない脚線美と、なんというか、全身がエロイ。顔もそのスタイルとは逆に童顔の美少女だ。
とりあえず今夜はお願いしようと思いつつ、稔の正面に目を向ける。
自然体で立っているのは、無手の紅蓮である。
そう、稔が挑む相手とは紅蓮だ。
稔から、『自分の周りで一番強い人と一度戦いたい』と頼まれたので、自分から紅蓮にお願いした。
紅蓮は了承したが、あまりに実力差があるため紅蓮は素手、スキル使用不可、バフなし。という条件を出してきた。そして、稔側は全部ありとも。
正直、稔は怒るかもしれないと思った。だが、意外なほどすんなりと『それでお願いします』と言ってきた。なんでも、自分でもこれがどれだけ無謀な戦いか分かっているからだと。
紅蓮のランクは自分からのバフなしでもAかA+、対して、稔はバフありでもCランクに届くかどうか。その差は歴然だ。子供が大人に挑むのに等しい。
だが、稔の顔に悲壮感はない。むしろ獰猛な笑みさえ浮かべている。
「では、構え!」
審判役のレイナ、その傍にいざという時の制止役の金剛が控えている。
「『ブーステッドツリー』」
ハンデとして稔にバフを盛る。
「はじめ!」
レイナが手を振り下ろすと同時に、稔が突進する。
「おおおおおおおおおお!」
両手に構えたメイスを振りかぶる。その動きは今までとは比べ物にならないほど速い。
それはあのビキニアーマーに原因がある。
ふざけた装備ではあるが、その性能は極めて高い。装備しているだけで敏捷がワンランク上昇。しかも一時的にならそこに+補正がつく。
もし紅蓮に装備させていたら最強になっていたかもしれない。だが紅蓮には絶対にビキニアーマーなんて着せない。……そもそも着れない気がするが。
なんにせよ、これにより稔の敏捷は一時的にだがC+相当。籠手も装備カードなので、バフも含めれば間違いなくCランクに届いている。
だが、大型トラックでも容易に横転させられる一撃は、あっさりと紅蓮に受け止められた。衝撃波と轟音を発することは出来ても、紅蓮を一歩後退させる事すらできない。
メイスの柄の部分、そこをがっちりろ掴まれている。稔は瞬時にメイスを手放した。それと同時に、紅蓮の拳が稔の鳩尾にめり込む。
「がっ!?」
稔の体がとんでもない勢いで後方に飛んでいく。着地こそできたが、地面を数秒間削るはめになった。
「稔!?」
やり過ぎではと思って声をかける。だが、世界樹の加護の効果で跪いていた姿勢からすぐに立ち上がる。
こちらには返答をせず、笑みを浮かべながらファイティングポーズをとる事で継戦の意思を示す。
大丈夫だろうか。紅蓮の方を見ると、足元にメイスを捨て置いて、なんと左手を腰の後ろに回し、右手で指を動かして『打ってこい』とでも言いたげに構えている。
「あああああああああ!」
雄叫びと共に稔が再度突撃。その速度は先程となんら遜色ない。逆を言えば変わっていないどころか、メイスを失っている分状況は悪化している。
紅蓮めがけて稔がラッシュを打ち込んでいく。一撃一撃が対物ライフルすら超える破壊を生み出すというのに、紅蓮は右手一本で捌いていく。
時に受け、時に流し、時に相殺する。
数分間、いや、実際は一分ほどの時間だったのだろう。紅蓮の右の拳が、稔の顔面に入った。
「ご、のぉぉ!」
だが、稔は首を仰け反らせるどころか、額を拳に押し付けて紅蓮の右手を抑え込んだ。
「だらぁっ!」
遂に、稔の拳が紅蓮の胴体めがけてぶち込まれた。
「紅蓮!?」
衝突音と共に、紅蓮が一歩下がる。
「どう、だぁ……!」
額から流れた血で顔を濡らしながら、稔が吼える。
それに、紅蓮は静かに両手を構える事で応えた。
「っ……!」
稔もすぐさま構える。その顔には満足気な笑みが浮かんでいるが、先ほどの一撃が脳を揺らしたのだろう。膝が少し震えている。
「おお……!」
稔が先に拳を振るおうとして―――。
「ごばっ!」
後から動いた紅蓮の拳が次々と稔に打ち込まれる。一秒間にいったい何発叩き込んだのか、気づいたら稔は壁に叩きつけられていた。
「が……がぁ……」
血反吐を吐きながら、稔が倒れこむ。しかし、直前で紅蓮が受け止めた。
バフによる治癒ですぐさま回復した稔が自分の足で立つと、紅蓮はただ親指を立てて稔を称賛した。
そして、自分は監視員のおばさんにひたすら頭を下げていた。流石にやり過ぎだと。
「こちらエコーズワン……くっ、通信が繋がらない」
また別の日、レイナと共にグールのダンジョンい来ていた。こいつ飽きないな、とは思うのだが、今日は趣向が違う。
「やはりこのコロニーはもう……!おのれ異星人め!」
なんと舞台が宇宙にあるコロニーという事になっている。
この前、レイナが欲しがっていたゲームを買ったのだが、タイトルが『宇宙コロニー大脱出!~スペースゾンビから君は逃げ切れるか~』という『え、どこのB級映画?』と思うタイトルだったが、無事気に入ったようだ。
レイナの服装はピッチリとした白ベースのボディスーツになっている。そこは大変いいと思う。スタイルの良さが際立っている。
だが、手に持っているのは通販で買った光線銃(笑)である。ぶっちゃけ見た目が企画もののいやらしいビデオみたいになっている。
「私は必ずこのコロニーを脱出して銀河警察に知らせて見せる。スペース機動隊がやってくるのを怯えて待つがいいわ、結社の奴らめ」
ちょっと設定についていけていない。とりあえず警察の宇宙版でいいのだろうか。
「く、光線銃のエナジーが……」
チラッチラッとこちらを見てくるので、今現れました、と言う感じで近づく。
「オコマリノヨウダネ、スペースデカ」
「貴様、出たな異星人!」
レイナが光線銃を向けてくる。マスクのせいで見づらいが、揺れる胸だけは見逃さなかった。
そう、自分は今マスクで顔を隠している、ハロウィン用に売られていたグレイマスクだ。
というか、最初は全身銀色タイツをレイナに勧められたが全力で拒否した。野郎の全身タイツとか誰得だと。
「ソウオコルナヨスペースデカ。オレハミカタサ」
精一杯の裏声を出す。これ役になり切れているかな?
そう紅蓮に目で問いかけると、サムズアップしてくれた。
「ホラ、エナジーダ。ヤスクシトクゼ」
「くっ、そもそもお前たちがこのコロニーに銀河ゾンビウイルスをまいたから……!」
銀河ゾンビウイルスってなに……?
「ソレハゴカイサスペースデカ」
「どうだか……!」
こちらを睨みつけたまま、レイナが差し出されたティシュの空箱を受け取る。一応『エナジー』とマジックで書いておいた。
光線銃に空箱を押し付けた後、こちらに投げ返してくる。
「見ていなさい。貴方達の悪行は必ずやスペース新聞社に知らせてやるんだから」
「ソイツハタノシミダヨ、スペースデカ。ケッケッケッケッケ」
そう言ってその場を去る……ふりをする。
「見ていて皆。私は貴方達の仇をとるわ……!」
とりあえずレイナのお尻を見守る作業に戻ろう。
今日はフェリシアとゲームの対戦をしていた。
「くらえ、牛糞スプラァッシュ!」
「いいえ、くらいません」
「ば、馬鹿な!?僕の牛糞を避けた!?しかし!」
「っ!?」
「設置しておいたのさ、もう一つの牛糞をな!」
「しまっ」
「ふははは!これで僕の勝ち、あ、ちょ、弓矢はやめて!?」
そんなこんなで、フェリシアと対戦したが、決して自分は本気を出していない。本当だ。僕の本気はこんなものじゃない。
そうしてレースを十回ほどやったところで、フェリシアが時計に目を向ける。
「申し訳ありませんご主人様。今日はここまでとさせて頂きます」
「……ふ、チャンピオンは常に不動さ」
「きゃー、すてきー」
凄い棒読みで言われた気がするが、きっと気のせいだろう。
「十分後に他の実況者とFPSで協力プレイをする予定です」
「え、大丈夫なの?」
他の実況者が動画広告とかで稼いでいた場合、使い魔であるフェリシアがその動画に参加するのは法律的にまずい。
普通に実況するだけでも色々手続きが必要だったのだ。こういう時はどうすればいいのだろう。
「問題ありません。参加者は全員キキーモラです」
「なんて?」
あまりにも酷い蹂躙劇を見た。
『後ろに』
「承知」
『前に出ます』
スピーカーから聞こえてくる淡々とした少女の声。そして、画面では一方的な殺戮が繰り返されている。
『動画映えの為に突撃します』
「わかりました」
『援護します』
恐ろしい軌道で敵の攻撃を神回避しまくる別の実況者に、それを援護する側も綺麗にヘッドショットを連発する。
『次、あえてハチの巣にされます』
「では私も」
『では私が適度に暴れます』
そしてピンチをあえて演出する余裕。圧倒的窮地から、まるで偶然という風に復活して敵を撃ち殺していく。
僕の知っているFPSの動画ちゃう。
後で編集された物をネットで見させてもらったが、あんな淡々としていたのに物凄いコミカルな何かに変えられていた。
フェリシア、恐ろしい子……!
紅蓮が部屋の隅でいじけている。
というのも、先ほど紅蓮と金剛でチェスをやって遂に金剛が勝利したのだ。
頭から金箔を放出して盆踊りをする金剛に、紅蓮がいじけてしまった。
「えっと、とりあえずおめでとう、金剛」
金剛がしきりに頷く。魔力で出来ている物だから時間経過で消えるとはいえ、部屋中が金ぴかになりそうだ。
「紅蓮も、そう落ち込まないで。戦績では勝っているんだから」
そう、今のところ自分の知っている範囲で二十八勝一負けで紅蓮が勝っている。だというのにこの落ち込みようだ。どうしたものか。
「そうだ、昨日こういうのを買って来たんだ」
リビングから昨日買って来たマシュマロを持ってくる。
それにちょっとだけ気分が回復したのか、紅蓮が立ち上がる。二人にマシュマロをわたすが、紅蓮が頭の火で炙ろうとするのをちょっと止める。
「待った、試しにそのまま食べてみて」
二人は首を傾げた後、ひょいっと口にマシュマロを放り込んだ。
一秒後、二人が壊れた洗濯機みたいに震え始める。
「え、ちょ、大丈夫?」
流石に心配になる。
紅蓮が震える手でボードに書き込む。
『これは、いったい』
「いや、試しに買った炭酸入りマシュマロなんだけど、ますかった……?」
紅蓮と金剛が首を横にぶんぶんと振るう。後そろそろ金剛は金箔を放出するのをやめなさい。
『新感覚です』
『くせになります』
「よかった」
そのまま、紅蓮と金剛は仲良くマシュマロを食べていた。
ちなみに、次に将棋で戦ったら紅蓮が大勝してはしゃいでいた時は、火事になるかもと心配になった。
その日の夕方、とんでもないニュースが飛び込んできた。
EUにモンスターが流れ込んできたという一報がはいったのだ。
読んでいただきありがとうございます。
ブックマーク、評価、感覚、励みにさせて頂いています。
今後ともよろしくお願いいたします。
「異世界にチート転生して成り上がったら日本が来た件について」も小説家になろうで連載しておりますので、よろしくお願いいたします。




