第五十八話 新たな力
第五十八話 新たな力
サイド 矢橋 孝太
買ってしまった。
福袋でポーションばかり当たったので、装備カードへの未練があったのだ。それと、そろそろレイナに装備カードを持たせたいと思っていたのだ。
というのも、Bランクダンジョンの魔石が思った以上に高く売れた。金には困っていないが、将来何があるかわからない世の中なので稼げる時に稼いだ方がいいかもしれない。
これからはBランクダンジョンを中心に通う事にしたのだが、そうするとレイナの防御力では一撃で死んでしまう恐れがある。世界樹の加護も即死には対応できない。
なので、レイナには盾の装備カードを買ったのだ。しかも端末みたいなのが飛んでバリアーを張れるタイプの奴。
数百万というかなりの値段だったが、必要経費だ。多少慣れてきたとはいえ、未だダンジョンが現れる前の価値観があるので指が震えそうになる。だ、大丈夫だ。まだ貯金が八億円ぐらいある。……よく考えたらもう働かなくていい気がしてきた。
いや、それでも生きていたらいつ急な出費が必要になるとか、突然物価が跳ね上がるとかあるかもしれない。お金は定期的に稼がないとダメなのだ。
なんにせよ、これからはBランクダンジョンに通う事にすると部の報告で言ったのだが。
「いや、一人で行くのは部のルール的にどうよ……?」
気まずそうな滝沢に言われてから気づいた。そういえばそんなルールあったわ。どうしよう、既に一回一人で行っちゃったよ。
「いや、一時期パーティー解散して一人にしといてなんなんだけどさ」
佐藤も気まずそうだ。この二人に一緒に来てくれと言うのは無理だろう。というか、Bランクダンジョンは許可がないと入れない。
この部で政府から許可が降りているのは自分ともう一人。
「しょうがねえなぁ、俺が一緒に行ってやるよ」
正樹さんがドヤ顔で親指をたててくる。
「いや、けど正樹さんの戦力でBランクは……その……」
言いづらいが、瞬間火力ならいざ知れず、普通に探索するには厳しいはずだ。ここは諦めてCランクダンジョンを誰かと回ろうか。
そう考えていたのだが、正樹さんは不敵な笑みを浮かべる。
「まあ、俺も成長してるんだ、安心しな」
え、ただでさえわけわからん事になってるのに、更に変なのになんの?
週末Bランクダンジョンにやってきた。
ちなみにマンティコアはこのダンジョンではない。あそこは臭いがやばすぎる。
今回はガーゴイルのダンジョンだ。巨大な狼男の石像みたいな見た目に、悪魔のような尻尾をしており、その能力は実質ゴーレムの上位互換だ。というかゴーレムダンジョンのボスがこいつだったりする。
攻撃方法はシンプルに物理攻撃のみ。ひたすら噛みついたり殴ったりしてくる。ただ、とにかく硬い。
物理的にも頑丈なのだが、魔法に対する抵抗力も持っているようで、面倒な相手である。
それでも、紅蓮ならどうとでもなる。こんなふうに。
巨大な通路を走ってくる三体のガーゴイル。一歩ごとに地響きがするのに、その速さは時速にして百キロを優に超えている。
先頭の個体に紅蓮が突撃を仕掛ける。その背中へ、自分もスキルを発動する。
「『ブーステッドツリー』!」
炎を放出して更に加速する紅蓮。ガーゴイルが前脚を振り上げたのとほぼ同時に、紅蓮はその頭を粉砕していた。
だが、ガーゴイルの頭が高い位置にある関係で紅蓮は跳び上がる必要がある。つまり今空中にいるのだ。
そこを狙ったかのように、二体のガーゴイルが爪を振るう。その一撃は戦車の正面装甲ですら穿つだろう。だが、当たらなければどうという事はない。
空中で紅蓮は背中から炎を放出して二本の前脚に対し、螺旋を描くようにして回避。そのままもう一体の頭を粉砕する。
残った最後の一体が、鏃状の尻尾を突き出す。それは空をきるだけで、紅蓮には当たらない。
既に紅蓮は天井に足をつけ、膝を曲げている。
轟音と共に、天井を蹴りつけた紅蓮がガーゴイルに降ってくる。紅蓮はハルバートから炎を放出し、横回転。ガーゴイルの体を削り切り真っ二つにしてみせた。
破片が飛んでくるが、自分の前で弾かれる。一緒に烈風の背に乗っているレイナの盾の力だ。
「おおー、相変わらずすげえな」
ユニコーンに乗って眺めていた正樹さんが感心したように呟く。
というか、ユニコーンしか召喚していないけど彼の言っていた新しい力とはいったい……。
「マスター、先ほどの戦闘音につられて一体こちらに向かってきています」
「わかった」
一体だけなら、傍に控えさせている金剛に相手をさせてもいいかもしれない。そう考えていると、正樹さんがユニコーンから降りて前に出てくる。
「ちょうどいいから、俺の新しい力を見せてやるよ」
そう言って、彼は使い魔を次々と召喚していった。
雪女、呪いの人形、ワーウルフ、そして初めて見るアマゾネス。……アマゾネスも見た目ロリなんだけど、やっぱこの人おっぱい星人のふりしたロリコンなのでは?
「行くぞ皆、ヘキサゴンフォームだ!」
「「「はい!」」」
「その名前ダサいからやめない?」
雪女以外が元気よく応える。確かにヘキサゴンフォームはダサい。
だが、変化は劇的だった。
正樹さんの服装が雪女のそれに変わる。ここまではいい。前にも見た。だが、髪が足元まで伸びたあげく黒く染まり、頭頂部には狼の耳が生える。よく見れば腰にも尻尾がある。
腕はアマゾネスの手甲が装着され、足元はユニコーンを憑依させた時の具足に変わっている。
最後に、長い髪が一人でに動き出して太い一本の三つ編みになる。
「見ろ、これが俺の新たな力だ!」
「え、えー……」
もしかしなくても、この人五体の使い魔と合体した?え、何がどうなってそうなった?
「この姿なら各使い魔の一番高いステータスが反映されるうえに、制限時間はない。かわりに魔力消費が大きいが、俺の魔力なら大丈夫だ!」
「いや、そういうこっちゃないんですけど」
問題なのはこの人がどういう生物に進化しようとしているかだ。なに?キメラ?
右手に突撃槍を呼び出し、通路の奥からやってきたガーゴイルに構える。
「いくぜぇ!」
紅蓮に匹敵する加速で正樹さんがガーゴイルに突進する。振り下ろされる前脚に正面からぶつかりに行った。
突撃槍と爪が衝突し、大型重機がぶつかったような音が響き渡る。押し勝ったのは、明らかにウェイトの負けている正樹さんだった。
槍を振った力をそのままに、彼は体を回転させる。それに合わせるように、翻った長い髪が巨大化した。
龍の尻尾みたいになった髪が、バランスを崩したガーゴイルを殴りつける。その衝撃にたまらず吹き飛ばされたガーゴイルへと、正樹さんが再度チャージの姿勢をとる。
「吹き飛べ」
二度目の突撃。それはガーゴイルの胸を撃ち抜き、遅れて上半身がバラバラに吹き飛んだ。
転がってくる破片に呆然とする。
彼の戦闘能力は、間違いなくAランクに到達している。認めたくないが、金剛よりも強い。まあ、流石に紅蓮の方が強いが。
「お、ラッキー」
ガーゴイルから落ちた魔石を拾い上げあげた正樹さんが戻ってきた。その顔は自慢げだ。
「どうだ、俺もBランクダンジョンでやっていけるだろう?」
「はい。それは分かったんですけど……なんですか、その姿」
「いやぁ、レベル上がって魔力量が増えたらなんとなくいける気がしてな。試したらいけた」
「ノリ軽ぅ!?」
そんな適当なノリでよくわからん新フォームだすなや。
「とにかく進もうぜ!あ、なんならどっちが多く魔石を手に入れられるか勝負するか」
「爆死王がぬかしよる」
「おうお前それは戦争だぞおい」
それから危なげなくダンジョン探索は進んでいくと、レイナが待ったをかけてきた。
「お待ちを。そこの壁から魔力反応があります」
「壁?」
特に他と見分けがつかない壁だが、レイナが言うのだから何かあるのだろう。
「金剛」
その壁を金剛に殴らせてみると、なんと壁の向こうに隠し部屋があったのだ。人一人ギリギリ入れそうな空間に、宝箱が置いてある。
「おお!俺宝箱初めて見た!」
「あ、ちょ」
止める間もなく正樹さんが宝箱に近づく。その直前、魔眼が発動した。
「罠です!」
「えっ」
声を発した時には既に正樹さんが隠し部屋に片足をつけていた。
ゴゴゴゴゴゴゴと地響きがする。音のする方向を見てみると、なんと巨大な岩が転がってきていた。
「うわぁ、また古典的な……」
「ちょ、どうするよ!」
慌てて隠し部屋から正樹さんが出てきたので、その肩を掴む。
「突撃してきてください」
「え、いやあれたぶんめっちゃ硬い……」
「霜の巨人よりはマシなはずです」
「おま、あれをやれと?」
「罠起動させたのは正樹さんでしょうが。ほら、『ブーステッドツリー・スプリンター』」
おざなりに正樹さんへとバフをかける。
「あー、畜生!男は度胸!」
「がんばえー」
「うぜぇ!?」
そして人間ビーム砲と化した正樹さんが岩を砕いたのだが、右腕を押さえて戻ってきた。
「待って、あれ硬さがヤバかったんけど。素直に逃げるって選択肢なかったの?」
「面倒じゃないですか」
「おう……いや罠起動させたの俺だけどさ」
ぶつぶつ言っている正樹さんをスキルを使って治療しつつ隠し部屋に押し込む。
「ほら、念願の宝箱ですよ。開けてきてください」
「え、いいのか?見つけたのお前の使い魔だろ?」
「いや、中身はじゃんけんですよ?開けるのだけお任せします」
「お前それトラップとか押し付けようとしてない?」
「してないしてない」
実際魔眼が発動しないので大丈夫だろう。まあ、びくついている正樹さんが面白いので黙っているが。
恐る恐る箱をあける正樹さんに、後ろから脅かそうか迷う。流石にダンジョン内でそれは自重した。
「おお!装備カードだ!」
「やりましたね!」
カードを持って嬉しそうに正樹さんが出てきたので、二人してカードを覗き込む。
「「………」」
無言で正樹さんがカードをよこしてきた。
「やる」
「いいんですか?もしかしたら強力な奴かもしれませんよ?」
「俺は絶っっっっ対に着ない!」
やっぱこの人持ってるなぁと思う。
装備カードに描かれていたのは、ビキニアーマーだった。
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