第四十二話 事が終わって
第四十二話 事が終わって
サイド 矢橋 孝太
霜の巨人を倒した日から、二週間が経った。
あれから隊長に口裏を合わせてもらい、使い魔をロストした一般組には『政府が保管している貴重な霊薬』と言って普通のポーションを飲ませ、陰からスキルを使って復活させたりしていた。できれば世界樹の加護はただの強力な回復スキルと認識されていたい。
三つのうち二番目のダンジョン、事前に自衛隊が行った調査により迷うことなくボス部屋へ到着した。
ぶっちゃけ大まかな流れは変わらない。
道中のモンスターがバジリスクで、ボスモンスターがゴルゴーンという巨大な怪物だったこと以外、霜の巨人の時と同じだ。
世界樹の加護で魔眼の効果を打ち消し、ユニコーンと融合した東条選手が突貫する。これによりゴルゴーンの討伐に成功した。
そして、三つ目のダンジョン。これには自分は、いやそれどころか自衛隊も関与していない。
小沢さんから遠くないうちに世間に知られるだろうからと、内密に教えてもらったのだが、なんと高橋選手とその仲間たちのみで攻略してしまったらしい。
当初は自衛隊側から高橋選手に協力の要請があったのだが、どうも交渉に失敗。ダンジョンを攻略する代わりにその所有権をよこせと言ってきたとか。
粘り強い交渉の結果、三つのうち一つのダンジョンを彼女とその仲間に立ち入り許可することで決着がついたとか。
そして、その報酬になるダンジョン。なんでも立っているだけで吹きすさぶ砂嵐でやすりにかけられたみたいにCランク使い魔なら削り殺されるダンジョンらしい。
最初は自衛隊と協力して踏破する予定だったのが、彼女たちは独断専行。作戦予定日前に攻略を開始して踏破してしまったのだ。政府の面目が丸つぶれだ。
そんなわけで、彼女の扱いにかなり困っているらしい。まあ、下手に暴れられたら抑えられる人がいないし。
そして今、自分は何故か今川総理の後任、織田総理大臣の前にいる。
「本当に、ありがとう」
「きょ、きょうしゅくです」
差し出された表彰状を受け取る。
というのも、ダンジョン攻略に参加した者全員が内閣総理大臣賞を受賞することになった。
一応出席しないという選択肢もあったのだが、もう目立たないという選択肢はなさそうだ。
霜の巨人、ゴルゴーンの両ダンジョン攻略の際、ダンジョンに入る前のところを自分達は撮られている。
ネット上だけでなく、マスコミが本気で身元を探しだして全国放送に全員の顔と名前を晒したせいで隠すのが無理になった。
ちなみに、当然その放送局には抗議の電話をいれたし、ネット上ではめちゃくちゃ炎上している。
なんにせよ、もうKである事を隠さなきゃとか言っていられない。有名人になってしまった上での身の振り方を考えなければ。
隊長を中心にならばされて集合写真を撮られながら、内心でため息をついた。
それからは上に下にと大騒ぎだ。テレビは未成年を作戦に参加させた政府への批判と、作戦成功に対する評価で真っ二つになるわ、避難所の一件がネットで更に広がるわ、家の前に少しだけどマスコミが来るわと大変だった。
ちなみに取材には受けていない。顔と名前が晒されたことで自分の中の信用がないに等しいからだ。
あと大変だったのが、覚えのない親戚からの電話が増えた。どこから作戦参加への報奨金について聞いたのやら。まあ、積極的にマスコミの取材を受けたりネットで自慢している参加者もいたので、そこからだろう。
幸いマスコミもだんまりな上に見た目に花がない奴より、おしゃべりな方に行ってくれるからすぐに家の前からマスコミは消えた。
そんなわけで、現在友人たちと気兼ねなくカラオケに来れたというわけだ。
「浪花の~!老婆がぁ~!」
謎の演歌を熱唱する佐藤を放置して、滝沢と話す。
「マジでお疲れ、矢橋」
「おう。今でも作戦の事を思い出すと足が震えそうになるわ」
これは本当だ。PTSDとまではいかないが、霧の巨人とゴルゴーンの迫力は今でも忘れられない。
「作戦の内容がよくテレビに出てるんだけどさ、あれマジ?」
「え、どれのこと……?」
マスコミに出たがる参加者は結構いるらしく、ホラをふく奴もそこそこいる。その結果、ある参加者が片手で巨人を倒していたり、また他の参加者は一人で龍の群れを足止めしていたりと、よくわかんない事になっている。
「まあ何にせよ僕の口からはあんまり言えない」
「やっぱそっかぁ」
一応、作戦の詳しい内容は喋らないよう政府からお願いされているのだ。契約とまではいかないが、一応言いふらさない方がいいだろう。
テレビで吹聴している人たちはまあ、うん。知らん。
「ただ、二度とごめんだっていうのは言える」
「お前でもそうとか、ちょっと想像も出来ねえわ」
「いや、僕は普通だよ。凄いのは使い魔とスキルだ」
「それってどう違うんだよ」
「違うに決まってるだろう」
滝沢が疑問符を浮かべる。最近、いや結構前からか。使い魔やスキルの凄さ=自分の凄さと考えるやつがいるのは。まさか滝沢もそうなっているとは。
「あのなあ、その辺混同していると早死にするぞぉ」
「な、なんだよ突然」
「いや、ちょっと命の危険に遭遇したもんだから実感がなぁ」
説教臭い事をいいたいわけではないので、佐藤への合いの手に移る。
「ああ~、貴女のうなじに~」
「あ、それそれ」
「……矢橋、お前相変わらず音感ないな」
「邪魔すんじゃねえ!?」
「あれぇ?」
それはそうと、佐藤の歌っている曲ってなんだよ。歌詞が老女への愛を送るやつってあれ過ぎるだろう。
「あ、そういや高校っていつから再開って通知きた?」
「いや、まだ」
「やっぱか」
現在高校は再開のめどがたっていない。というのも、校舎じたいがキラーアントに壊されてしまったのだ。なので、現在はネットでの授業になっている。
はたして、教室で授業を受ける日がいつになることやら。
自分は現在、どこから連絡先を入手したのか東条選手に呼び出されていた。場所は前に一緒に行くはめになったファミレスだ。
「いやなんで僕の連絡先知ってるんですか」
「え、小沢さんって人に聞いた」
個人情報ぇ……。スキルの隠ぺいについて、本当に大丈夫だろうか。
頭のなかで小沢さんの髪の毛をむしりながら、東条選手に向き直る。
「それで、どういった用事ですか?東条選手」
「………とりあえず、それどうにかしろよ」
「それ?」
「東条選手って言うのだよ。いつまでも他人行儀な。名前で呼べや」
「え………東条さん?」
「苗字!?」
若干東条さんがショックを受けた顔をする。
「おま、なんでそんな他人行儀?」
「え、いやそもそもそんな親しいわけでもないですし……」
「戦友なのに!?」
なんかリアクション芸人みたいな反応だが、どう返せばいいのだろうか。あとあまり大きな声を出すのは他の客に迷惑な気がするのだが。
「えー、名前で呼べよ下の名前で」
「あー…………………たまk……正樹さん?」
「お前いま名前間違えかけなかった?」
「そ、そんなことは」
「長考した時点でギルティだけどな」
「すみません」
ここは素直に頭を下げる。さすがに全くの他人というわけではないのに名前を忘れるのは失礼だった。
「まあいいけどさ……それより、あの後どうよ。色々」
「色々……まあ、ぼちぼちとしか」
「いやその色々を話せよ」
「と、言われましても……マスコミを無視したり、家族とお祝いしたり……あとは友達とカラオケ行ったぐらいですかね」
「カラオケ!いいじゃん、俺らもいこうぜ!」
なんか正樹さんのテンションが変な気がする。ここまで距離感がおかしい人だっただろうか。
もしや、なにかがあった?また事件か?
「あの、正樹さん。何かあったんですか?」
「………やっぱわかる?」
「なんとなくは……」
正樹さんが若干湿気たポテトをつまむ。
「いや、俺って友達少なかったんだなぁって」
「はい?」
このコミュ強オーラ出してて主人公気質な正樹さんが、友達が少ない?陽キャ基準でだろうか。
「俺って、ほら、体がこうなっちゃったじゃん?」
「あっ」
なんか、察した。
「それでさ、今まで友達だと思っていた奴が、エロイ目で見てくるようになったり、ちょっと距離取って別の友達とつるもうとすると怒り出すし……」
うわぁ………。
「女友達はなんか腫物を扱うみたいだったり逆にやたら距離が近くなったり……」
うわぁぁ………。
「あげくなんか喧嘩うってきた奴とかいるからそれに答えてたら何故か彼氏面しはじめるし……!」
うわぁぁぁ………。
「俺、どうしたらいいんだろ……?」
「とりあえず、食べてください」
テーブルに置いてあるポテトの皿を正樹さんにおしやる。
「ありがとう……で、どうしたらいいと思う?」
「まずなんで僕に相談しようと思ったんですか」
そういう人間関係についてアドバイスを求められても困るのだが。そういうのはコミュ強にしてほしい。
「いや、お前ならエロイ目で見てこないし、男扱いしてくれるし」
エロイ目でみていない自信はあんまりないが、男扱いしようと努力はしている。
というか、むしろ友人ならその辺率先して努力するものではないのだろうか。
「はあ……でも、僕から言えるのは特にないんですけど……」
「そっかぁ………とりあえず彼氏面する奴は殴る方向でいっかぁ」
「ちゃんと加減してくださいね?」
「努力はする」
正樹さんの全力で殴られると人間の頭ぐらい一撃でミンチになるので、そこは注意してほしい。
「よし」
いつの間にかポテトを食べ終わっていた正樹さんが伝票をもって立ち上がる。
「俺の家で遊ぼうぜ」
なんで?
ながされるままに正樹さんの家に来てしまった。
しかし、いくら男扱いしようと思ってはいても見た目は美少女。はたして、自分はちゃんと同姓として振る舞えるだろうか。
「とりあえずゲームやろうぜ!」
「といいいますと?」
「超松尾牛車大会でいいだろ」
超松尾牛車大会とは、松尾という平安時代の貴族に仕える男が主人公のゲームだ。内容は妨害ありのレース系。
「わかりました。お手柔らかにお願いします」
「ふふん、全力でこい。俺は昔仲間うちで一位を連続でとった男だ。……最近できてないけど」
自分で言って自分で傷つかないで欲しい。
まあ、こちらもフェリシアとよくやっている身だ。接待感覚でやってあげるとしよう。
「あ、おま!?いま牛糞投げたのお前だろ!」
「勝てばいいんですよ勝てば!」
「ならこれくらえや!」
「あ、ちょ、このタイミングで弓矢は卑怯でしょ!?」
「勝てば官軍ってぎゃぁぁああ!?」
「はっはっは、ざまあないですね!」
「てめ、これくらえや!」
「な、まだだ、僕には魔眼がある!」
「それはずるいだろ!」
「いやです!このまま最下位になるぐらいなら使えるものはなんでも、あ」
「ふぁースリップしてやんの!お先、あ」
「お互い様じゃないですか!?」
「なあ、この漫画さ、打ち切りってまじ?」
「あ、それ僕も読んでましたよ。たしか作者が捕まったとか」
「え、そうなの?」
「はい。なんでも昼ドラも真っ青な痴情のもつれだとか」
「うわぁ、マジか。超ショック」
「そういう漫画好きならあれ、この漫画とかお勧めですよ」
「ん?どんなの?」
「ちょっとまってください今そのサイトに……これです」
「へー、いい感じじゃん」
「ちなみに表紙の子は一話で死にます」
「なんでそれ今言った!?なあなんで言った!?」
「出来心だったんです。反省はしてますけど後悔はしていません」
「許さぬ」
「やっぱさぁ、巨乳だよな巨乳」
「わかります。大きなおっぱいには夢がつまっている。僕も一番の好みは巨乳です」
「だよなぁ。なんていうの、貧乳にはちょっと興奮できない」
「正樹さん、それはもったいないですよ」
「え?なんで?」
「おっぱいはとてもいいものです。けどちっぱいにもまた、希望が詰まっているんです」
「もしかして、ロリコン」
「違います。はー、これだからちっぱいに興奮すると言うとロリコン扱いしてくる輩は」
「いや、だって貧乳とか、未成熟ってことじゃん」
「しょうがありませんね。保存してある僕秘蔵のエロ漫画を公開するときの様です」
「お、おう。どうでもいいけどお前性癖の話になるといきいきするな」
「最近、友達と性癖の話が合わないんですよ……」
「ふーん。友達はどんな性癖なの?」
「熟女好きとモンスター率が八割以上のモン娘好きです」
「なんて???」
「じゃ、今日はありがとな!」
「いえ、こんな遅くまですみません」
「気いつけて帰れよ。まあお前なら大丈夫だろうけど」
「はは、じゃあ失礼します」
「おう、また今度な」
正樹さんの家を出て、数分ほどたったころ、はたと気づく。
あれ、めっちゃ同姓の友達っぽいことしてね?
自分はどちらかというと相手を自分の懐にいれるのにいくつも壁を作るタイプなのだが、気づいたら性癖の話までしていた。
恐るべき、これがコミュ強の力。
真のリア充(だった)人の実力に、ちょっと戦慄した。
日本がなんやかんや言いつつもダンジョンをクリアしたことに沸くなか、とんでもないニュースが飛び込んできた。
自称革命軍のテロリストにより、北京とモスクワ。中国とロシアの首都が消滅したというニュースが世界中に発信された。
読んでいただきありがとうございます。これで一章にあたる部分は終わりになりますが、続きもすぐに投稿したいと思います。
ブックマーク、感想、評価、いつも励みにさせていただいております。
今後ともよろしくお願いいたします。




