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第四十三話 激変する社会

第四十三話 激変する世界


サイド 矢橋 孝太


『こちら北京上空です!見てください、巨大な湖を土の壁が囲んでいます!あの湖の中に北京が沈んでいる状態です!』

『壁の高さは三百メートル以上あり、付近の街から駆け付けた消防も立ち往生している状態です!』

『現在、北京支局の局員とも連絡が取れず、その安否がわかっていない状態です。また、邦人の現状も把握しきれておらず情報が錯綜しています』

『街の外にいた人からは巨大な龍が空にいたという目撃情報も入っており』


『モスクワ上空です。今ヘリから撮影している場所が、モスクワなのです』

『信じられない事ですが、現在モスクワには炭と灰しか確認できず、降ってきた雪がそれを覆い隠していっています』

『現地にいた局員との連絡は未だ取れず、状況がわかりません。無事であることを祈るばかりです』

『現状ロシア政府からなんの情報もありませんが、首相が昨日モスクワにいたという情報が入っており、その安否が心配されています』

『リュベルツィの市民からは真昼のように明るく、雪が目の前で溶けていくほど暑かったという話もあり』


 テレビを前に、家族全員呆然としていた。

 頭が理解できない。どういうことだ?どちらも中国、ロシアという大国の首都だぞ。それが一晩で消えた?ありえない。


『続報です!モスクワ、北京が消失した件について、犯行声明を上げている組織があります。今から彼らの犯行声明を流します』

『我々は革命軍。自由と平等を取り戻すための使徒である。中国、ロシアの行っていた独裁に対し、誅罰をくだした』

『我々は志を同じくする同志たちとともに、独裁者を罰していく。そして、真の平等を世界に広めよう』

『中国、ロシアが秘匿していたAランクダンジョンについては、我々が代わりに攻略することを市民には約束する』

『この二国を平和にした後、我々は世界中を自由と平等が満たされるために活動をしていく』

『以上が、犯行声明です。声明文と一緒に動画がネット上にアップされており、北京、モスクワを彼らの使い魔が襲う姿が映されています』

『非常に衝撃的な映像の為放送することはできませんが、北京を襲ったのは応龍と呼ばれる使い魔、モスクワを襲ったのはスルトという使い魔であると、彼らは言っています』


 応龍、スルト。スルトの方は知っている。ゲームや漫画でたびたび見かける名前だ。たしか炎の巨人だったはず。

 そうなると比較に出てくるのは霜の巨人だ。神話での立ち位置を考えると、同格か下手すれば上回っている可能性すらある。

 そんな怪物を推定テロリストが使い魔として使役している?いったいどんな冗談だ。

 応龍の方は、ネットで検索すると出てきた。中国の神話に出てくる龍で、鳥のような羽根をもっているとか。

 神話上では応龍は黄河を作るために働いており、むしろ治水に関わっている。だが、龍はそもそも水害と大きく関わる存在であり、その神話上では黄龍に次ぐ二番手の龍である以上、可能か不可能かで言われたらもしかすると、といったところか。

 なんにせよ規格外の怪物だ。それが使い魔として現れたというのか、スルト同様テロリストのもとに。

 いや、逆か?それだけの力を持ったから、テロに走った?

 考えても結論はでない。今は、両親と共に北京やモスクワにいた人たちが一人でも多く生存している事を願うばかりだ。


「ぐ、紅蓮、レイナ」


 自室に戻り、紅蓮とレイナを召喚する。


「じ、実はこんなニュースがあって―――」


 スマホでニュース画面を見せながら、二人に説明をする。

 二人とも驚きこそ小さかったが、真剣な様子で考え込んでいた。


「どうなるのかな、これから………」

「社会は大きく変わるはずです。無論悪い方向にですが」


 レイナが重々しく口を開く。


「この解放軍を名乗る集団が行ったと仮定しますと、テロリストに大国二つの首都が同時に落とされたことになります」

「う、うん」

「それはもう、いつどこの国で同じことが起きてもおかしくないという事でもあります。市民の不安は、決して小さいものではないでしょう」


 それは、そうだろう。

 あの霜の巨人と同格の存在が突然街に現れて暴れまわる。いったいどうしろというのだ。紅蓮でも単体ではほんの少しの間しのぐのが精いっぱいだと言うのに。


「また、その不安を癒す間もなく、世界経済は混迷をきたすでしょう。中国ロシアはともに大混乱が予測されます。それにより株価、物価の変動。輸出入の滞り。考えだしたらきりがありません」


 その通りだ。当然日本もその影響を強く受けるだろう。両国へ進出している企業も多いし、二国からの輸入に頼っている部分も存在する。食料や燃料とかだ。


「日本でもテロが起きるかもしれない。しばらくは混沌とした状況が続くでしょう。革命軍とやらの動向次第で、大きく変わります」

「だよねぇ………」


 改めて状況を再確認されると、頭が重くなる。

 もちろん両国の首都にいた人たちのことも心配だ。だが、やっぱり最初に浮かぶのは今後の自分の生活。それに影響する日本の状況だ。

 現在日本は内閣が総入れ替えの最中であり、安定しているとはいえない。金崎大臣も自分の願望通り、スキャンダルにより政治生命を絶たれている。

 新しい外務大臣の木下大臣が会見で話していたが、今後アメリカをはじめ外国との連携でテロとは断固として戦う姿勢を日本は示している。

 はたして、革命軍とやらが日本に来てしまう事はあるのだろうか。来ないで欲しいなぁ………でも国としては近所なので来る可能性があるんだよなぁ………。


『心配なのは、直近の世界経済や混乱だけではありません』


 そこで、紅蓮がボードを見せてくる。

 え、これ以上にやばい事があるの?


『彼らは自分達がAランクダンジョンを攻略すると宣言していましたが、それが成功するとは限りません』

「えっ。いや、けど、それだけ強い使い魔を連れているのら、攻略はできるんじゃ?」

『勿論その可能性もあります。それはそれで国際社会的に問題が出てきますが、それ以上に失敗した場合が危険です』

「そうなの?」

『はい。思い出していただきたいのは、我らが参加した二つの作戦。そのどちらのダンジョンも、まず状態異常への耐性がなければ立ち入る事すらできないものでした』

「あっ」


 言われてみればそうだ。毒、呪い、魔眼。これらに対応できなければ、どのダンジョンも一歩も進めなかった。


「だけど、それは革命軍も対策するんじゃないの?」


 テロリストを擁護する用でいやだが、さすがにやるだろうとも思うのだ。


『対策をするにも、時間と情報収が不可欠です。ですが、事前勧告なしでの首都への攻撃。一般市民からの賛成を得られるはずがないその行いをしながら、言っている事は事実上の国家の乗っ取り。これでは、彼らが理性的で慎重な行いができる集団とは思えません』


 た、たしかに。

 言われてみると、どちらかというと考えなしな暴走集団な気がする。いやそんなのがやばい使い魔連れているとか悪夢でしかないが。


『それに、中国もロシアも日本以上に情報統制に力を入れている国です。少し調べましたが、簡単な手段ではAランクダンジョンを特定することは不可能です』

「つまり、革命軍はAランクダンジョンの場所の特定と、そのダンジョンの性質と内部構造を調べたうえで、その対策をしておかないと踏破はできないと」

『はい。その上、あとどれだけの時間猶予があるかもわかっていません。世界各地で未だダンジョンからモンスターがあふれたという報告が上がっています。完全にあふれるまでのタイムリミットは明日かもしれないのです』


 無意識に、硬い唾を飲み込んでいた。


「もし、中国とロシアのダンジョンが一斉に溢れたら、どうなると思う?」

『間違いなく、二国は陥落します。人が今まで通り住める国ではなくなるでしょう。そして、あれだけの大国。国内にあるダンジョンの数も多いでしょう。ならば、あふれたモンスターは国外にも流れることは容易に想像できます』


 紅蓮は一度ペンを止めた後、また書き始める。


『その段階で大陸は危険地帯となります。また、大陸内にある小国も踏破できるかは未知数なのです。そこからも溢れる危険性を考えるべきでしょう』


 本気で世界が危機に直面している。その事を理解させられた。

 呆然自失になりそうなところを、紅蓮が手を添えてくれる。


『おちついてください、我が主。これは最悪のパターンです。現在日本の他にアメリカ、ドイツ、イタリア、イギリス、それ以外にも多くの国がダンジョンの踏破を宣言しています。日本をはじめ外国への支援をすることでダンジョンからモンスターが溢れる事を阻止しようとする動きがあるはずです』

「そ、そうだよね、うん」

『主はそれよりも、ご自身の今後を心配なさるべきです』

「え、なんかあったっけ?」


 疑問符を上げていると、レイナが咳ばらいをする。


「マスター、たしか、つい先日学校より通知が来たとお話になっていたはずですが」

「あ、あああ!?」


 すっかり頭から抜け落ちていた。そうだ、世界がどうこう心配している暇はないのだった。何故なら。


「学校、来月には再開するんだった」


 完全に消し飛んでいた校舎が、再建できるめどがたったのだった。


 ダンジョンからモンスターが溢れだした一件で、そもそも使い魔に対していい感情を持っていなかった人たちがこう言い始めた。


『使い魔もいつ暴走するかわからないんじゃないか?』


 それを完全に否定できる人はおらず、着実に不安の声をもらす人は増えていった。

 このことに一番困ったのは冒険者の組合である。組合はダンジョンの管理からカードの売買まで関わっており、そもそもモンスターが溢れた一件で社会から非難を浴びていた。

 そこに収入源である冒険者への危険視である。これに対する組合の対策は、ある意味シンプルだった。

 ボランティアである。

 冒険者に組合から依頼という形で災害現場に行ってもらい、人命の救助や建物の再建を手伝う事で市民からの感謝を集めようと考えたのだ。

 というかその依頼に自分も参加していた。金剛とゴーレムの『大角』をつれて建設関係の人に従って整地や資材の運搬とかをやっていたのだ。

 こういった活動により、とりあえず使い魔=危険という認識は最低限に抑えられているとテレビで言っていた。

 そして、自分は参加していないが校舎の再建にもこういった形で組合から支援があったらしい。

 こうして、比較的短期間で校舎が元通りになり、耐震性などのチェックもかねて来月には再開となったのだ。

 教室でまた授業を受けられるという喜びはまったくないわけではない。だが、それ以上に不安がある。

 Kである事がばれている上に、ダンジョン攻略作戦『天岩戸』に参加していたことも全国放送でばれている。

 放送局としては結構な数の参加者からは許可をもらっていたので、それと混同して許可の出ていない参加者まで顔と名前を晒したらしいが、わざとではと疑っている。

 とにかく、教室での立ち回りをどうすればいいのか、それを考えなければならないのだ。特にAグループの冒険者、伊藤について。

 ああ、頭が痛い。


サイド レイナ


 目の前で頭を抱えるマスターに。チラリと紅蓮殿の様子をうかがう。

 紅蓮殿はマスターの肩に手をおいて慰めているが、先ほどは明らかに話をそらしていた。

 言ってなんだが、クラスでのカーストがどうとかは、今世界で起きている異変に比べれば些事だ。

 たしかにマスターの生活を考えれば重要だが、それならなおの事世界の状況について考えをまとめる必要がある。

 マスターは既に重要戦力として国と国民に考えられている。なら、何かしらのアクションが国からあるはずだ。

 だというのに、紅蓮殿は話しを変えた。それも露骨なまでに。

 一瞬目が合った。これは合わせろという事なのだろう。

 それに少しだけ考えた後、自分もマスターを慰めることにする。おそらく紅蓮殿は今だけでもマスターに日常を謳歌してほしいのだ。

 近い内起きるであろう、大きな波が来る前に。





読んでいただきありがとうございます。

ブックマーク、評価、感想、いつも励みにさせていただいています。

今後ともよろしくお願いいたします。

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― 新着の感想 ―
[一言] 元革命軍が革命軍に滅ぼされたか。虐殺された所の奴とか混じってるのかね。
[良い点] 小市民すぎてサイコー
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