第四十四話 学校
第四十四話 学校
サイド 矢橋 孝太
ついに学校が再開する日になってしまった。
久々に制服に袖を通し、玄関をでる。
「いってきまぁす」
自然と声から力が抜ける。めちゃくちゃ行きたくない。だが、いかねばならないのだ。学歴は大事。
さて、いったい学校でどういう扱いを受けるのやら。
学校が近づいてきた段階で周りからひそひそと声が聞こえる。
「おい、もしかして……」
「あれがK?」
「いや人違いだろ。いかにも普通そうだし」
「オーラないし別人だろ」
なんか聞こえてくる声を考えると、そこまで確定情報ではない感じか?だったら嬉しんだが。
「いや、あいつで間違いないよ。俺避難所にいたから知ってる」
「俺の親戚が学校の写真見て確認したよ。間違いないって」
よりによって避難所にいたやつもいるのか。これは言い逃れできないか……。
幸い教室まで誰かに話しかけられることはなかったが、遠巻きに見られているのはかなり居心地が悪く早足で教室に逃げ込んだ。
「おはよう……」
小声で挨拶をして教室に入ると、クラス中の視線がこっちに向いた。怖い。
「お、おはよう」
沈黙を破ったのは扉に一番近い席の生徒だ。
「なあ、矢橋ってさ、あのKって本当?」
そのまま質問してきた。いや、一応質問の体を取っているだけで、ニュアンスからして確信しているようだ。
誤魔化せないと悟り、小さく頷く。教室に「おおっ」という声が響いた。
「なあなあ、あの鎧の使い魔ってどうやって手に入れたの?」
「なんで今まで冒険者って黙ってたんだよ」
「冒険者が儲かるってマジ!?」
「え、えっと」
次々投げかけられる質問に四苦八苦する。
助けを求めて滝沢と佐藤に目を向けるが、両者とも他の生徒に質問攻めにされているので援軍は期待できない。
「矢橋さぁ」
集団を分け入るように入ってきたその声に、周囲で質問していた生徒の声が止む。
伊藤だ。
「なんで今まで冒険者って黙っていたわけ?」
「え、いや、それは言うタイミングを逃して……」
高校デビュー失敗したからですとは言えない。
「俺らの事馬鹿にしていたのか?底辺冒険者がって」
「そ、そんなことは!」
「けどさあ、第二回ハンドラー大会で俺を倒したのお前だよね」
「あ、いや、うん……」
「じゃあ、やっぱ見下してるんだろ、俺の事」
「ち、違う。見下してなんて」
そこで、前の扉が開いて担任が入ってくる。
「おーい、お前ら今日は体育館で集会だぞぉ」
その声に周りに固まっていた生徒たちが散っていくが、伊藤は逆に距離を詰めてきた。
「ぜってぇ許さねえからな……!」
そう言って伊藤も離れていった。
「…………」
思わず無言でしゃがみ込みたくなるが、ぎりぎりで堪える。
いや、大会で倒したのと馬鹿にしているどうこうは関係ないじゃん!?
そう声を大にしたいが、自重する。
「あ、矢橋!お前今回はこっちに並べな。校長から表彰されるから」
聞いてないんですけど???
「君は我が校の誇りだ!」
「アリガトウゴザイマス」
最悪だこの校長。これで完全に全校生徒に顔と名前が把握された。何が『我が校の誇りだ』だ。そう思うならお願いだから放置してくれ。
この位置からでも伊藤とそのグループからの視線が痛い。
たぶん、大半の生徒は自分の事なんて一週間もすれば興味を失い忘れるだろう。
だが、妬みや嫉み、憎しみの類はそう消えるものではない。断言できる。これから伊藤により何らかの攻撃がある。
だが、今はたぶんない。向こうも根回しとかに少しぐらいは時間がかかるだろうし、今は教師の注目もこっちにある。
だから、奴が行動を起こす前にこちらも動く必要があるのだ。
昼休み、速攻で教室をでる。
「冒険者部だ。矢橋って奴はいるか!?」
大柄な上級生が教室の前に立ち大声で名指ししている。早歩きでその場を後にして事なきを得た。
前日に滝沢と佐藤には今日は別の場所で食おうと連絡済みだ。
校舎裏の日陰で、三人固まって隠れるように昼食をとる。
「二人ともすまん。僕のせいで」
「いいって、お前は悪くないんだし」
「そうそう。というか俺らもお前には助けられてんだし、気にすんなよ」
食事を取りながら、今後について話す。
「それで、マジであれをやるんだな?」
「ああ。準備も済ませてきた」
「マジかぁ。荒れるぞ、伊藤も冒険者部も」
「だろうな、けど、いじめの標的にされて泣き寝入りはいやだ」
このまま何もしなければ、よくて村八分。最悪適当に罪をでっち上げられて人生を壊されかねない。
なら、動かなければ。
「二人とも、申し訳ないけどこれに名前を書いてくれ」
差し出したのは、自分の名前が書かれた創部届だ。
学校の再開が決まってから、紅蓮と色々相談したのだ。
その結果、派閥に狙われ、かつ既存の派閥には入りたくないのなら、自分の派閥を作るしかないとなった。
伊藤のグループには居場所がないだろうし、冒険者部にはいい噂をきかない。それに、どっちに入るにしても自分は利用されつくすだろう。
なら、自分の派閥を作って対抗する以外学校生活を送る道はない。いじめられて不登校になるぐらいなら、こっちも戦う姿勢を見せなければ。
正直、派閥を作るとかかなり面倒くさいだろう。その維持もだ。だが、背に腹はかえられない。
そのための創部だ。友人二人には申し訳ないが、力を貸してもらうよう説得した。
結果は、二つ返事の了承だった。理由を聞けば、『友達だから』と返された。少し泣きそうになったのは秘密だ。
だが、問題もある。うちの学校で部活を作る条件は最低四人の部員確保と顧問が必要なのだ。
顧問の方は、業腹だが校長を頼ればいけるだろう。一応自分は、この前まで地域でボランティア活動に従事していたうえ、『天岩戸』作戦にも参加している。そんな生徒が部活をつくり、地域の為に活動すると言えば食いついてくるはず。
ちなみに部活の目的は表向きダンジョンから魔石や薬草を入手し、地元の組合におろすことで地域の経済の発展に貢献することで部員の郷土愛を培うというものだ。活動自体は真面目にするつもりでいる。
残る問題は部員だ。自分にはこの二人以外に友達が学校にいない。当てがないのだ。
だが、二人には心当たりがあるという。なんでも、二人でダンジョンに行っている時偶然出会った同級生がいるとか。
友人の友人というのは少しだけ複雑だ。どう対応していいのか迷う。二人は気軽にいつも通りでいいと言っているが、自分のようなコミュ障には厳しい話だ。
昼食を食べ終えると、予定の空き教室に向かう。二人が事前に呼び出していたらしい。
教室に入ると、すでに男子生徒が一人待っていた。
「あれ?悪い待たせたか?」
「いいえ、まだ予定時間の五分前ですよ」
佐藤と話すその生徒は、なんというか、言っては悪いが地味だった。
キノコカットの頭に、黒日地眼鏡。中肉中背。どこにでもいそうな感じで、正直自分は好感をもてた。ここで陽キャっぽいのが現れたらどうしようかと。
「こいつは下山翔太。で、こっちのでかいのが矢橋孝太だ」
「初めまして」
「こちらこそ、初めまして」
お互いにぎこちなく挨拶する。そうだよね、友達の友達ってどう接していいかわからないよね?これが普通だよね?
「おいおい、二人とも硬いな」
うるせえ滝沢。お前だって同じ状況になったらこうなるくせに。
「安心しろ矢橋、こいつは俺たちの同類だ」
そう言って佐藤が下山の肩をたたき、滝沢が頷く。
「え、とんでもない特殊性癖ってこと?」
「え、お前俺らのことそういうふうに思ってたの……?」
「逆にどう思われていると考えていたんだ………?」
熟女好きとモン娘(八割以上モンスター)は通常の性癖ではないと断言できる。
「こいつは男が好きなんだよ」
「謝れ佐藤!同性愛は今の時代認められるべきものだ。お前らのような変態と一緒にするのは失礼過ぎる」
「お前が失礼過ぎない?」
「いえいえ、僕は彼らの同類ですよ」
下山が首をふって佐藤に同意する。過去よほど同性愛の事を否定されたのだろうか。個人的には別に卑下するようなことではないと思うが。
「僕のストライクゾーンは三歳から十二歳です」
「謝れ下山!僕の友達は変態だけど犯罪者じゃない!」
とんでもない事実をぶっこんできやがった。ショタコンだ。まごうことなきショタコンだ。できればただのキャラ付けであってほしいが、友人たちの様子からガチっぽい。
「落ち着いてください。現実のショタには手を出していません」
「ほ、本当だろうな」
「YESショタ、ノータッチ」
まあ、現実に手を出していないならセーフか?頭の中だけなら自由だ。別に人様に害を与えていないなら、大丈夫か。
「使い魔に発散させてもらってます」
「んんんんんん!?」
ツッコミたい。ツッコミたいけど普段の自分を鑑みて人に言える立場じゃない。自分も普段フェリシア達に『おっぱいおっぱい』とやっているし。
「俺たち四人、同類が揃ったな」
「え?」
「ああ。性癖の絆は砕けない」
「待って」
「人に認められない性癖を暴露できる。いい場所です」
「僕もなの?」
自分も?自分もはたから見たらこの変態たちと同類なの?
「これで『ダンジョン探索部』が作れるな!」
本当にいいのか、この部員達で………。
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