第三十四話 蹂躙
第三十四話 蹂躙
サイド 矢橋 孝太
「な。なあ、蟻どもの巣が燃えたんだけど………」
「ちょっと待ってください。今確認するので」
引きつった顔の東条選手を手で制しながら、紅蓮と視覚を共有する。
視界には、何か粘液のようなもので固められた瓦礫と、それに囲まれたすごい数の『人間たち』。
「えっ」
紅蓮も視覚の共有に気づいたようで、地面にハルバートの石突きで文字を書いていく。
『ボスモンスターの討伐に成功しました。そちらは大丈夫ですか』
それにスマホを取り出して返答を入力して視認する。
「こっちは避難所で壁やバリケードを作り終えたところだけど、その人たちはなに?」
『彼らは、キラーアントたちに捕らわれていた者達です』
紅蓮とレイナはキラーアントの巣を発見すると、正面から突撃するのではなく侵入して内部から破壊することを選んだ。
バフの影響で紅蓮のハルバートは壊れても瞬時に再生する。だが、いっそ壊さなくても増やすことはできないかと挑戦したらしい。
結果は成功。レイナのナビでキラーアント達に遭遇せず巣の中にハルバートを設置していったらしい。
そのさなか、レイナの魔力探知により一か所に集められている人間たちを見つけたそうだ。
紅蓮にも詳しくはわからないそうだが、キラーアントたちはできる範囲で人間を殺さず回収していたらしい。だが、生きていればいいという感じらしく、粘液で拘束するだけでなく人によっては手足を噛みちぎられ抵抗できないようにし、傷口を粘液で塞いでいるだけの人もいる。
また、生け捕りにされていない人もいたらしく………想像したくないが『肉団子』にされて別の場所に保管されていたらしい。
どういうことだ。モンスターは三大欲求がないし、それにともなう機能をもっていない。食事も睡眠も、娯楽以上の意味はないはずだ。
だが、キラーアントたち遊びで人間を集めたとも考えられない。
「もしかして、ダンジョンの外に出たモンスターは食事をする………?」
『その可能性があります』
簡潔に返されたその言葉に、眩暈がした。
ただでさえ危険なモンスターが、より明確に恐怖の対象になった。これは避難所の人達に言えない。絶対パニックになる。人は、イメージしやすい恐怖ほど反応してしまうものだ。
「と、とりあえず、その人たちを守って。レイナも無事?」
『はい。魔力感知で周囲を警戒してもらっています』
負傷している人たちがあとどれだけ無事なのかはわからないが、今から巣の方に向かうわけにはいかない。
ちょうど、キラーアント達の先頭がこちらに向かっているのが見えたところだ。
「こっちも戦闘に入る。安全第一で頑張って」
『承知しました。主もどうかご無事で』
視覚の共有を切る。毎度ながら、使い魔の視界でものを見るのはけっこう疲れる。
「どうだった。やっぱりお前のとこの使い魔がやったのか?」
東条選手がきいてくる。
「はい。紅蓮、決勝で戦った炎を使う使い魔がやったみたいです」
それにしても、あの火柱はハルバートの一斉爆破だったとは。そういえば、ある程度なら炎をコントロールできると言っていたから、巣とボスモンスターは入念に焼いて、人がいる区画だけ熱を送らずにいたのだろう。こういう時酸素を消費しなくても燃える紅蓮の炎は便利だ。
「そうか!これで少しは防衛も楽になるかもな」
東条選手は笑いながら、何故か雪女を隣に召喚する。
「じゃ、行くぞ、雪音!」
「はいはい」
雪女、雪音と東条選手が手をつなぐ。
「「融合・雪羅!」」
光ったかと思ったら、雪音が消えて東条選手が白い着物姿になり、髪も水色になっている。
んんんんんんんんんん?
「え、いや、え?」
「ああ、孝太には初めて見せるんだったな」
いやなんだこれ。え、もしかして融合した?使い魔と?人間が?いや、よく考えたら東条選手は人間といえるか微妙だった。いや、それにしても使い魔と融合だなんて聞いたことがない。
「この体になってから、なにかできることはないかと思っていてさ。それで、使い魔達とのつながりが前より強くなっているのに気づいたんだ。それで、もしかして合体できるんじゃないかと試したら、できた」
「いやそんな軽いノリで!?というかそれでできるもんなの!?」
「ああ!」
元気いっぱいに返された。ええ………。
「それで、まあ今は合体できたのはいいとして。合体すると何がどう変わるんですか」
今のままだと戦闘員が二人から一人に減っただけなのだが。
「おう。融合した使い魔の一番高いステータスが俺の能力に反映されるんだよ。今回だと、特殊がAになっているな」
「それは………」
かなりインチキでは?
雪女は魔法こそ強力だが接近戦になれば弱い。だが、今接近戦は東条選手のステータスが反映されているわけで。そうなると、総合的な戦闘力はC+かそれ以上だ。
あれ、文字にしてみるとそこまで理不尽でもない。
「ただ、魔力量自体は合算になるらしくてな。実質魔力切れは心配しなくていい」
あ、やっぱインチキだわ。
だが、弾切れなしで魔法を撃てる砲台は心強い。こちらも東条選手の雪音に協力してもらおうと思っていたのだ。
「さて、他の使い魔もだして」
「あ、その前に先制攻撃をしましょう。巻き込んでもまずいですし」
「え?いや、まだけっこう距離あるけど」
「いや、たぶんいけます」
今こちらにいる使い魔で特殊が一番大きいのは金剛だ。だが、目の前にAの砲台がいる。
「今から全力のバフをかけます。なので最大火力でぶっ放してください」
「……わかった。なにか考えがあるんだな?」
いや考えと呼べるほどのものではないのだが、めんどくさいのでそれっぽい顔で頷いておく。
「よし!頼むぜ孝太!」
「『ブーステッドツリー・スプリンター』」
「くらえ!『牙天氷槍・改』!」
バフを受けた東条選手が魔法を唱える。すると、『空一面をおおう氷の槍が一瞬で生成された』。
「「えっ」」
槍は矛先をキラーアント達に向け、次々と射出される。速すぎて目で追えない。威力も尋常ではなく戦車砲が着弾しかのような轟音が響き、地面が抉れ飛んで土砂を跳ね上げる。
というか壁の上に立っていられない。自分同様壁の上でキラーアント達の進軍に備えていたハンドラーたちがその場にしゃがみ込む。東条選手以外かなりきつい。壁の上に胸当たりまでの塀を作っていてよかった。だれかが衝撃で転げ落ちるという事態は避けられた。
というか、ちらっと見えたけど槍が着弾した場所が抉れた上に凍り始めていた気がするのだが。
轟音がやみ、そっと顔をあげる。
なんということでしょう。地面の半分ぐらい埋め尽くしていたキラーアントの群れが、あたり一面氷の世界に。
いや本当になんだこれ。
「えっと、まだ生き残りいるけど、撃つか?」
キラーアントも一応生き残りはいる。一割以下まで減ったがそれでもまだ百ちかくいる。
「いや、やめときましょう。魔法の方が周辺への被害がやばい」
「だよな………」
というかこれ後で損害賠償とか請求されないよな。大丈夫だよな?今更になって心配になってきた。
とりあえず金剛、稔、フェリシアを召喚して金剛と稔に地上で迎撃してもらう。本当はフェリシアに壁の上から魔法で支援攻撃してもらう予定だったのだが、必要なさそうだ。
他のハンドラーの使い魔達も加わり、戦い、いや蹂躙劇はあっというまに終わった。
「勝った……勝ったぞ!」
「俺たち生き残ったんだ!」
最後のキラーアントを金剛が潰して、ハンドラーたちが歓声をあげる。それが聞こえていた校舎に避難していた人たちも、助かったのだと喜びの声をあげる。
こうして生きている喜びを叫んでいる人たちを見ていると、ここにきてよかったと思う。
「聖女様、ばんざーい!」
ハンドラーの誰かが、高らかにそう叫ぶ。というかあれって東条選手の取り巻きにいたような。
「聖女?」
疑問符を浮かべながらそちらを見てみると、相手もこちらを見ている。いや、自分の隣の東条選手を見ている。
「聖女……?」
「そういえば、あの治癒スキルの使い手を連れてきてくれたのも、あの人だった」
「あの凄い魔法を使っていたのもあの人だ!」
あ、なんか段々と周りにも伝播していっている。
「聖女様ぁ!」
「聖女様、万歳!」
「聖女様ばんざーい!」
う わ ぁ 。
正直ドン引きである。なんだこの光景。新手の新興宗教か。というか東条選手の取り巻きが言い出したって事は、東条選手はこれを計画していたのか?
あ、違うわ。無表情でめっちゃ冷や汗流している。これは完全に予想外の展開だったようだ。
まあ、勝手に祭り上げられるのはかわいそうだが、自分には関係ない。きっと東条選手なら自力でどうにかするだろう。
こっそり東条選手から離れて群衆に紛れ込み、それから紅蓮達に合流しよう。
いきなり、右手をすごい力で掴まれた。
(逃がさん、お前だけは)
小声だが、はっきりと聞こえた。おい、ふざけるな聖女(男)。こっちを巻き込むな。たしか貴方には貸しがあったはずだ。今見逃してくれたらチャラでいいからは、な、せ。
(なんで僕の手を掴んでいるんですか。これは貴方の問題でしょう)
(ふざけんな、俺たち親友だろうが。一人にするなよ)
(貴方と親友になった覚えはありません。遠くから応援していますので頑張ってください)
(ムリ。オレ、オマエ、ミチヅレ)
(ふざけんなこのラノベ主人公がぁ!)
というか、聖女呼ばわりされている人に手を掴まれて話しているせいで周りからの視線が凄い。
「なによあの男、正樹君との距離が近すぎるわ!」
「くそ、あの位置には俺が立っているはずだったんだ!」
「殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺………」
というか東条選手の取り巻きやハーレムメンバーからの視線が怖い上に。
「おお、あの人は俺の怪我を治してくれた人だ!」
「母さんの恩人だ!」
「きっとあの人も聖人にちがいない!」
なんか治療した人たちが変な感謝のし方をしはじめているのだが、これはどうすればいいんだ。
とりあえず、この場から離れなければ。
(実は、キラーアントの巣に捕らわれていた人たちがいるんです。その人たちの救助に向かわないと)
「なんだって!」
急に東条選手が大声をだす。
「助けを待っている人たちがいるんだな!なら、今すぐ救助に行かないと!」
あ、こいつさてはついてくる気だな。
「いえ、僕一人でいいんで。東条選手はここの守りを」
「ここはもう安全だ!皆、俺たちは助けに行かないといけない人たちがいる!ここで自衛隊の救助を待っていてくれ!」
言うがいなやこちらを(何故か)お姫様抱っこして壁から飛び降りた。
「ご主人様!?」
フェリシアが慌てて後を追う。地上にいた金剛と稔が東条選手から自分を取り返そうと臨戦態勢になる。
だが、本当に急がないといけないのも事実だ。それは東条選手もわかっているだろう。やむなく、戦闘になる前に金剛たちを戻す。
「ああ、聖女様!」
「そうか、あの方たちはまだ人を救うために」
「ありがたや、ありがたや」
「「「正樹くーん!!!」」」
「「「東条さーん!!!」」」
なんか壁の向こうから聞こえてくるが、今は無視だ。
どうしよう、避難所を助けに来たことを後悔し始めている自分がいる。




