第三十三話 防衛準備
第三十三話 防衛準備
サイド 矢橋 孝太
「なんであなたがここに?」
「いや、なんでも何も俺ここの近所に住んでるんだよ」
マジか。そうなるともしかしたら中学が同じだったかも……いや、ないな。こんな主人公気質な人がいたら噂になっているはずだから、別の中学だったのだろう。
「というか、お前こそなんでここに。避難してきたのか?」
「あ、いえ、なにか手伝えることがあればと」
そう言うと、まるで大輪の花が咲いたような笑みを浮かべる。笑顔がまぶしい。
「そうか!お前がいてくれたら百人力だ!」
肩をバンバン叩かれる。一応手加減はしているのか肩が砕けたりはしないが、めっちゃ痛い。
「そ、それより現状を教えてくれますか」
「おお、そうだった」
東条選手が真剣な表情になり、校舎を振り返る。大人たちがバリケードを作りながらもこちらを注視していた。
いや、正確には東条選手と自分の横にいる金剛をだが。
「とりあえモンスターの襲撃は一時的にやり過ごすことはできた。けど、たぶんまた第二波が来る。それに備えていまバリケードを作っているところだ」
「なるほど。ちなみに、どっちから攻めてくるかもとか、わかるんですか」
それがわかるのならかなりやりやすくなるのだが。
「ああ、それならたぶんあっちからだろう」
「あっち?」
東条選手が指さす方個を見てみる。そして絶句した。
なんか、見たことのない巨大建造物が出来上がっている。なんだあれ。形状はドームぽいが、あっちこっちに穴が開いている。行ったことないけどテレビ越しに見た東京ドームより何倍もでかい気がする。
「一度目の襲撃の後、蟻どもがあれを作っているのをうちの使い魔が目視したんだ。たぶん、あれが巣だろう」
「え、もしかしてあいつらが通った後建物とかがなくなっていたのって……」
「あれの材料にするためだろうな」
マジか。家の近所が荒野になっていた理由ってそれか。自分はてっきり金剛とゴーレムがやり過ぎたからだと。ごめんね二人とも。
「えっと、くる方向はわかりました。それで、けが人はいませんか?僕のスキルなら」
「ああ!そうだった、お前治療系スキルじゃん!」
東条選手が大声をあげてこちらの腕を掴んでくる。ちょっと痛いが、反応しそうになる金剛を手で制する。
そのまま東条選手にひかれるまま校舎にはいり、二階に上る。
「負傷者はとりあえず二階の教室に避難させているんだ。治してやってくれ」
教室のなかを見てみると、そこはテレビでみた野戦病院よりひどかった。
足をなくしてしまった人。顔を酸で溶かされた人。脇腹が不自然にへこんでいるのを包帯できつく縛っている人。
「ひっ」
思わず声がでる。あまりにあんまりな光景だ。ダンジョンに潜ってきて、そういうのに耐性はできていると思っていた。
だが甘かった。猛烈な死の気配に、腰が引ける。
固まった自分の肩に手が置かれて、びくりとはねてしまう。見てみれば、東条選手の手だった。
「頼む。できる限りでいい。この人たちを治してやってくれ。救助がくるまで延命させるだけでも。お願いだ」
そう言われて、なんで自分がここまで来たのかを思い出す。そうだ、自分のスキルならと思ったからだ。なら、やらねば。
「し、失礼します」
脇腹が抉れている人に近づく。呼吸がおかしいし、視線をこちらによこす余裕すらなさそうだ。本当に、ギリギリ生きているだけ。あと数分もすれば死んでしまうだろう。
「『ブーステッドツリー』」
スキルを使う。光が対象者の体を包み、包帯が内側からほどかれる。そこには、傷跡一つない脇腹が見えていた。
「う……ここ、は……」
脇腹が治った人が、目を手でこすりながら周囲を見回す。
その光景に、こちらの様子をうかがっていた人たちが目を輝かせる。
「やっぱすげぇな、孝太は!」
「え、いや、凄いのはスキルで」
「き、君!」
笑いながら褒めてくる東条選手を訂正しようとすると、横から声をかけられる。
「き、傷が治せるのか!?な、なら息子を!」
「待ってくれ!俺の母さんが」
「私の娘と夫が危険な状態なんです!助けてください!」
気づいたら教室にいる全員が声をあげて助けを求めてきていた。
ど、どうしよう、誰からスキルを使えばいいんだ。というか、魔力はもつのか。第一波の襲撃の時レベルがかなり上がって最大魔力量も増えたが、廊下の雰囲気からして負傷者はこの教室だけではない。
トリアージなんて知識がないし、かといってここですぐに治療しないなんて言ったらリンチにあいそうだ。
困っているところに、手をたたく音が響く。
「落ち着いてください!順番に治療します!慌てないでください」
いや、そう言われても魔力がもつかわからないのだが。
そう思って東条選手を見ると、静かに頷かれた。
「魔力ポーションならダース単位である。ダンジョンに長時間潜る時用に準備していたやつを家から持ってきたんだ」
あ、これおなかちゃぽちゃぽになるやつだわ。いや人命優先だろうけども。
それから三十分ほどで、校舎にいた負傷者全員の治療が済んだ。近所で診療所を開いているという医者がいたので、その人が念のため治療した人の様子を診てくれている。まあ、おおむね問題はなさそうでよかった。
「うおお……」
二階の端っこ、先ほどまで負傷者が横になっていたところに、自分が倒れ伏していた。
東条選手がもってきたのは即効性のある高い奴で、なんと飲んで五分で効果が出る奴だ。それを六本ほど飲んだので、百人近い負傷者にスキルを使ったのに魔力自体は八割以上残っている。
だが、問題はちゃぽちゃぽになったお腹だ。動いたら吐く自信がある。というか、世界樹の加護がなかったら確実にお腹壊している。
「だ、大丈夫か孝太」
「も、問題ありません。あと少ししたら動けるようになります……」
心配そうに東条選手が見つめてくる。最初なぜか膝枕するといいだした時は焦った。なんというか、東条選手の取り巻きというか、ハーレムメンバーぽいのがもの凄い目で睨んできたのだ。まあ、今は彼ら彼女らはその東条選手に追い散らされてバリケード作りにいそしんでいるのだが。いや本当にまじで怖かった。
まあ、それでもここに来てよかったと思っている。自分がここに来たから助けられた命があった。負傷していた人たちやその家族から言われた感謝の言葉は、かなり心にきた。
だが、問題がある。おそらく、今回のことで世界樹の加護の効果がばれた。そんな事を気にしている場合ではないと思うのだが、それでも気になってしまう。
紅蓮がボスモンスターを倒して、蟻たちも殲滅出来たら色々面倒な事になるんだろうなぁ。
ついつい遠い目をしてしまうが、とにかくそれは置いておこう。きっと明日の自分がどうにかしてくれる。紅蓮あたりに知恵を貸してもらって。
どうにか立ち上がり、支えようとしてくれる東条選手を手で制して一人でトイレに向かった。
学校周りの防備は、だいぶ整った。というか、なんか要塞みたいになっていた。というのも、金剛に護衛はいいからバリケード作りを手伝ってきてと言ったら、まず学校をぐるりと壁で囲んだ。次に、その外側にもう一周壁を形成。
壁は岩を作っているわけではなく元々ある地面を操って作っているので、壁を作れば自然と深い堀もできる。それが二重。
そのうえ、東条選手の雪女とも協力したらしく、岩の壁に氷の棘やらなにやらが生えてきて、めちゃくちゃ物騒になっている。
壁の内側についている階段を上って上から全体を見下ろす。まあ、これなら余裕をもってキラーアントたちの襲撃に対処できるだろう。
ちなみに、蟻なんだから穴を掘って地下から攻めてくるのではと東条選手にきかれたが、実は対策済みだ。金剛が。
というのも、金剛が地下の岩盤を魔力でめちゃくちゃ硬く変質させている。一時的なものだが、効果は第一波の時下からは蟻たちが来なかったことから実証済みだ。
だが、問題もある。防衛しなきゃいけない範囲が広すぎる。
金剛や東条選手の使い魔、あと東条選手のハーレムメンバーの使い魔は戦力としてカウントしても大丈夫なのだが、それ以外が微妙過ぎる。正直役に立たないと思った方がいい。
何も考えずに一方向から攻めてくるのなら何とでもなるだろう。だが、部隊を分けて三方向ぐらいから攻め込まれたら流石に無理だ。その時はできるだけ時間稼ぎをして、どうにか人々と避難するしかない。だが、その時は脱出経路を作るために金剛が必要だ。殿を任せられるのがいなくなる。
すべては、ボスモンスターの統率がどれだけあるかにかかっている。ただの虫レベルならよし。だが人並みにあった場合は………。
そんな事を考えながらキラーアントたちの巣を見ていたら、なんか、燃えた。
「「ふぁっ!?」」
隣にいた東条選手と変な声が出る。
巣はただ燃えたわけではなく、巨大な火柱が全体を包んで空を焦がしそうなぐらいになっている。
その火柱は一分ほど燃え盛り、後には燃えカスになったか溶け落ちたかした巣の残骸のみとなった。
いや、一か所だけ無傷な場所がある気がする。だが、遠くて詳しくはわからない。
しかし、一種の確信ともいえることがある。
あれやったの絶対紅蓮だわ。だって直前に魔力がごりって減ったし。
まあ、これでボスモンスターの心配をしなくてよくなったんだし、良しとしよう!流石紅蓮!




