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第二十七話 ホウレンソウ

第二十七話 ホウレンソウ


サイド 矢橋 孝太


「早速で悪いんだけど、この人を『鑑定』してくれないか?」

「はあ?」


 滝沢に頼むと、慌てて周囲を見回した後、小声で話しかけてくる。


「お前、こんなところでスキル使ったら犯罪だろうが」

「わるい、忘れてた」


 スキルの性質上そう簡単にばれはしないだろうが、それでも非常識だし、まだこの不審者が嘘をついていて物陰からハンドラーが撮影しているかもしれないのだ。警戒は必要だろう。

 不審げに滝沢を見ている不審者に、一応紹介しておく。


「こいつは僕の友達で、『鑑定』持ちです。スキルを使えば、貴女の状態がわかるかもしれません」

「な、なるほど」


 不審者は小さく滝沢に会釈し、それに滝沢も答える。


「とりあえず、ここでスキルを使うわけには行かないので移動しましょう」

「わかった」


 少しは警戒するかと思ったが、不審者はそんな様子もなく席をたつ。これは、もしかしたら本当に東条選手本人かもしれない。

 会計を済ませてファミレスを出ると、滝沢を呼び出す時ついでに調べておいた近くの公園に向かう。

 もう暗くなり始める時間なうえ、公園はダンジョンの近くとあってそこで遊ぶ子供もたむろする若者もいない。ダンジョンから駅までの道とも違うので、通りがかる人間も少ないはずだ。

 なんだろう、こちらの方がうら若い美少女にいけないことをしようとしている不審者な気がしてきた。


「よし、誰もいないな」


 念のため誰かつけてきていないかと入口あたりを見回してみるが、人影はない。


「じゃあ、滝沢、頼む」

「結局詳しい事情きいてないんだけど……」


 ぶつぶつと言いながら、滝沢が不審者を見つめる。おそらくスキルを使っているんだろう。


「は?え……ええ?」


 滝沢が困惑の声を上げる。それに、不審者は不安そうに尋ねた。


「お、おい、何がわかったんだ?戻る方法とか、わかったのか?」

「いや、あの……」


 一歩近づいた不審者に、滝沢は三歩さがる。


「滝沢?」

「と、とりあえず、リザ!」


 慌てた様子で使い魔を召喚する滝沢に、目をむくが、自分もすぐに使い魔をだした。


「紅蓮!」


 滝沢が鑑定をした結果使い魔を出したという事は、この不審者はそれが必要な相手だという事だ。紅蓮の背後に隠れるように距離を取る。


「え、ちょ、え?」


 不審者は混乱した様子ながらも、重心を落として身構えている。なにか武道をやっているのだろうか、素人目に見ても様になっている。


「なんだよ、なんで使い魔を出しているんだ」

「滝沢、何が見えた」


 不審者に見えないようにスマホを取り出しながら、滝沢に問いかける。スマホをだしたのは、ここからの会話を録音するためだ。

 私有地と許可された場所以外での使い魔の召喚はその段階で罪になる。それをやってしまった以上、後で裁判になるかもしれない。その時有利になるかもしれないので、急いで録音アプリを起動した。

 滝沢はごくりと硬い唾をのんでから、不審者を警戒しながら口を開いた。


「こいつ、契約者のいないモンスターだ」


 その言葉に目を見開く。

 ありえない。モンスターはダンジョンから出られないはずだ。それは世界中の国が試してみた事だ。

 モンスターがダンジョンの外に出る手段は二つ。カード化するか、人間と契約して使い魔になることだけだ。

 だというのに、目の前の不審者は未契約のモンスターだと滝沢は言っている。流石に、瞬時に信じられる内容ではなかった。


「は?俺が、モンスター……?」


 だが、この場で一番驚いているのは不審者本人のようだ。

 明らかに動揺した様子で、先ほどまでの構えが嘘のように、おぼつかない足取りで後退る。


「嘘だ!俺は人間だ!」

「矢橋!どうする、とにかく警察を呼ぶか!?」


 焦って判断をあおいでくる滝沢に、とっさに迷う。

 本来なら、滝沢の言う通り警察を呼んで後の事を任せた方がいい。使い魔を呼び出していることも、事情を話せば許してもらえるはずだ。

 だが、使い魔ではないモンスターがダンジョン外にいるなどすぐには信じられない。この前紅蓮とダンジョンからあふれてくるのではと話したが、流石に今とは考えられない。

 それに、不審者の様子も変だ。どういうわけか彼?彼女?が一番混乱しているように見える。


「お、落ち着け滝沢。この人のステータスを読み上げてくれ」

「んなこと言っている場合かよ!?」

「大丈夫だ、紅蓮がいる。それとも、その人は紅蓮より強いのか?」


 ここで『うん』と言われたら怖いので、念のため金剛も呼んでおいた方がいいだろうか。もし目の前の不審者が高橋選手の使い魔と同等だった場合、手も足も出ないのだが。


「……わるい、動揺しすぎた」


 滝沢も落ち着いたようだ。よかった、少なくとも鑑定の結果紅蓮よりも強いだなんて結果は出ていないようだ。


「ホムンクルス、個体名は東条正樹。ステータスはオールCでスキルはよくわからない。モンスターなのに使い魔と契約している。状態は未契約。いや……これは、自分自身と契約しているのか……?」


 言っているうちに滝沢の眉間に皺が寄っていく。

 自分自身と契約している?モンスターなのに使い魔と契約している?自分の常識と離れず過ぎて頭がこんがらがりそうだが、ふと思った。

 使い魔とかスキルが現れた時だって常識は吹っ飛んだだし、また吹っ飛んだのでわ?

 そう思うとちょっと気が楽になった。とりあえず、頭を抱えてぶつぶつと何かをつぶやいている不審者、いや東条選手に呼びかける。


「東条選手」

「俺は、本当に東条正樹なのか……?みんなが俺だってわかってくれなかったのは……いや、違う、俺は……」

「東条選手!」


 錯乱しかけていたが、どうやら声は届いたらしい。肩をびくりと震わせた後、こちらを見てくる。

 その様子はまるで迷子の子供の様だった。


「落ち着いてください。僕はあなたが東条正樹さんだと信じています。それに、あなたが本人だという証明も出来ます」

「しょ、証明って、どうやって……」

「使い魔を、召喚してください」


 使い魔は、いかに同じカードだとしても他人とまったく同じ使い魔が現れることはない。そっくりさんレベルならあるだろうが、東条選手が大会で見せた使い魔は三体。三体も種族と容姿が一致するなら間違いなく本人だ。


「で、できない。できないんだ」


 しかし、東条選手は力なく首を振る。


「昨日から、何度も召喚しようとしているけど、三体ともロストした状態なんだ。予備のカードは家の中で、けどはいれなくて」

「わかりました。大丈夫です」


 ロストしただけなら、自分のスキルで復活できる。上手くいけば、元の姿にもどる可能性もある。ただし、この東条選手が本物ならという前提だが。


「おい、矢橋」

「大丈夫だ」


 滝沢の視線からして、世界樹の加護を使うのに反対なのだろう。使えば間違いなく使い魔は復活できるが、同時に東条選手にバフがかかるはずだ。

 もしこの東条選手が偽物、そうでなくても悪意があった場合、強化された状態の東条選手と戦うことになる。

 一度かけた世界樹の加護を解除するには、時間切れか重ね掛けして上書きするしかない。十秒しか機能しない『ブーステッドツリー・スプリンター』をかけたとしても、それはそれで危険だ。強化率が高すぎる。

 だが、このままここで暴れられるのも困る。見た目的には素手の美少女対使い魔をつれた男子高校生二人。自分だったら男子高校生側が悪人だと判断する。

 なので、騒動をおこして目撃者や乱入者をだしたくない。なら、東条選手にスキルを使って言っていることが本当か確かめた方がいい。

 まあ、万が一嘘で襲い掛かってきたとしても、紅蓮がいれば万が一はない。金剛も召喚すれば億が一もなくなるだろう。

 東条選手に右手をかざしてスキルを使う。


「『ブーステッドツリー』」


 緑色の光が東条選手を覆い、すぐに消える。


「滝沢」

「ああ、ロストした状態から復活した」


 滝沢の『鑑定』で診てもらうと、どうやら成功したらしい。ひとまず安心した。西園寺選手の時だけの成功ではなかったらしい。


「ほ、本当か!?」


 目を見開く東条選手に、黙ってうなずく。

 さあ、ここからだ。ここで召喚された使い魔が大会の時見た者達と同じならよし。違った場合は……どうしよう。とりあえず紅蓮の力を借りることになるだろう。


「出てきてくれ、皆……!」


 東条選手が祈るように召喚を行う。そして、魔法陣が浮かんで現れたのは見覚えのある座敷童、雪女、ワーウルフだった。


「み、皆……!」

「だ、旦那!?どうしたんだその姿!?」

「どういう状況なの?気づいたらロストしていたんだけど……」

「はえー、美人さんになったすねぇ大将」


 思い思いに騒ぐ使い魔達を、東条選手は目にうっすら涙を浮かべながらまとめて抱きしめた。


「よかった……よかった……」


 その様子を眺めながら、ほっと胸をなでおろす。どうやら、騙されて嵌められたという事はなさそうだ。


「お、おい、矢橋……」

「大丈夫だ、滝沢。東条選手の使い魔で間違いない」


 人の顔を覚えるのは苦手だが、美少女の顔ならそうそう忘れない。


「いや、それもあるけど……どうするんだ、この後……」

「この後………」


 そういえば、どうしよう。

 なにも考えていなかった。戦闘にはならないようだが、逆にどうすればいいかわからない。紅蓮に相談してみた方がいいだろうか。

 だが、紅蓮は東条選手とその使い魔達を警戒するようにハルバートを構えているので、それどころではないだろう。

 東条選手の話が本当なら、Bランク以上の使い魔が関係している上に、人間から人間に乗り移る未知のスキル。そして現在東条選手の体に入っている何者か。

 どう考えても自分や滝沢に処理できる許容量を超えている。


「よし」

「なにか思いついたのか矢橋!」


 録音機能を止めたスマホを操作して、目当ての人物に電話をかける。


「ちょっとなにも浮かばないから大人の人に相談してみるわ」


 頑張ってください公務員。


『はい、こちら井沢の携帯です』





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― 新着の感想 ―
[一言] そうだそうだ、勝手な大人はつかいたおせー
[一言] 家族が大変なのに、超常的にもやばくなってきた!
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