第二十六話 厄ネタ
第二十六話 厄ネタ
サイド 矢橋 孝太
保留にした。
なんかダンジョンからモンスターがあふれるかもしれないとか紅蓮が仮説を立てたが、それへの対処は保留だ。
というのも、どこかへ逃げようにも『どこに』?という問題がでてくる。日本どころか世界中にダンジョンは大なり小なり出現しているのだ。ダンジョンがない県など日本には存在しない。
両親に伝えるかいなかも保留だ。まず証拠がない。自分は他ならぬ紅蓮の予想だからありえると考えたが、他の人にはそう信じられるものではないだろう。
そして、警察や市役所などに報告するというのは絶対になしだ。こちらが気づけて向こうが気づいていないとは考えられない。そもそも向こうの対応を見て、紅蓮もこの仮説が一番ありえると判断したのだ。
政府がこうも隠している事を知ってしまったらどうなるか。口封じの方法が穏便とは限らない。
それに、この仮説は完全に的外れで全然違う理由だという可能性もあるのだ。変に騒いで悪目立ちしたくない。
よって、基本的に保留。金崎さんの言う通り両親のサポートをしつつ戦力を上げる。それしかない。戦力の増強はもしも仮説が当たってしまった時やっていてよかったとなるはずだ。
そんなこんなで、両親と井沢さんに冒険者を続ける旨を伝えた。金崎大臣に言われた理由も含めてだ。井沢さんは勿論、両親も賛成してくれた。正直少し複雑な気分だ。
両親がメインで召喚する使い魔に『ブーステッドツリー・ロングディスタンスランナー』をかけた後、学校に向かった。
昼休み、佐藤と滝沢に冒険者を続ける旨を伝えた。
「え、マジで?」
「これからは一緒にゲーセン巡りとかするんじゃないのかよ」
「それはすまん。けど、両親のことを考えるとなぁ」
金崎さんの事は流石に話せない。あの爺さんは存在が厄ネタ過ぎる。
「だからって、お前がそこまですることなくないか?」
「そうだって。いくらなんでも甘やかしすぎだろ」
両親を甘やかすって、この年でそうそう言う事ではないが、今回はあまり否定できない。自分でもそこまでサポートするのかとは思う。
だが、もしも両親が無茶をしてしまいダンジョンで命を落としたらと考えると気が気ではない。二人には紅蓮はいないのだ。
「けど、やっぱ不安だからさ」
「そうかぁ……」
「まあ、決めるのはお前だけどさぁ」
二人とも不承不承ではあるが納得してくれたらしい。
「それはそうと、二人はもう冒険者には戻らないのか?」
万が一予測が当たっていた場合、自衛手段はあった方がいい。そう考えると、友人たちにも冒険者に復帰してもらって使い魔を増やしてもらいたい。
だが、二人にはトラウマがある。人間同士で命を狙われたのだ。そう克服できるものではない。なんせ自分含めただの高校生なのだ。人に殺されかけたなんて初めてだった。
「おう、復帰しようと思っているぞ。今週の末ぐらいに」
「いや、矢橋が引退するっていうなら流石にやめとくかとは思ってたんだけどな?」
「あれぇ?」
予想外過ぎるかえしに変な声が出た。
「いや、え?だってトラウマが」
「そうは言っても、あれからなんもないしなぁ」
「そうそう。マジで報復とかなさそうだし、いいんじゃね?」
軽くない?いくらんでも軽くない?
「待て、そもそもなんで復帰を?」
「お前に追いつくって約束したんだ。立ち止まったままでいられるかよ」
「またパーティー組もうって言ってたろ?もう少しだけ、待っていてくれ」
「お前ら……!」
感動的だ。素晴らしい友情だ。二人にそんな男気があったなんて。
「で、本音は?」
「もう少しでサハギンのカードが買えるんだよ」
「マリーに不満があるわけじゃない。けどやっぱりハーレムは夢なんだ」
「んなこったろうと思ったよちくしょうめ!」
しょうもなさすぎる復帰理由だが、使い魔ハーレムを築いている自分がとやかく言える理由でもない。
なんだか、久々に馬鹿な笑いをした気がした。
両親をサポートするため(あと大臣からプレッシャーをかけられたため)冒険者を続けることにしたが、どうしたものか。
というのも、どのダンジョンを回るかである。
両親の手持ちを考えると、やはりオークとリビングアーマーのダンジョンだろうか。ただ問題は、その両者が同時に出るダンジョンがないのと、そもそも近辺にリビングアーマーが出るダンジョンがないのだ。
やはり前衛であるこの二種が一番ロストしやすい。復活用のカードを優先して揃えるべきだ。
となると、まずオークのカードを確保するべきだ。なので、今日はそのダンジョンに来ている。
フォーメーションは紅蓮を先頭にするのは変わらないが、自分の護衛に金剛、索敵兼移動補助にレイナという布陣だ。
稔とフェリシアは外させてもらった。稔には申し訳ないが、二人の能力だと正直Cランクは時間がかかる。ついでに金剛のコストも考えると、全員出すと自分がスキルを張りづらくなる。魔力量的にできなくはないが、限界までというのは正直怖い。
なにより、あまり人数が増えすぎると広さ的に同士討ちの可能性が出てくる。
稔にはリビングアーマーのダンジョンで活躍してもらおう。そう思いながら今日の攻略を終えた。
結果は魔石十八個のみ。普段を考えればあまりいい成果ではないが、それでもネットで得た知識からすると一日の収穫としては十分だろう。
なんにしても今日も紅蓮達はよく頑張ってくれた。マシュマロの補充は当然として、今度出るゾンビゲーの新作やフェリシアの欲しがっていたちょっと昔のゲーム機も買わなければ。
そう思いながらバスを降りて駅にむかって町を歩いていると、反対側の歩道を歩く少女が視界に入った。
その少女は白かった。肌も、服も、そして髪も。唯一違うのは紅い瞳のみ。均整の取れた体に人形めいて整った容姿、目に生気がない事も相まってまるでこの世のものではないかのようだ。
当然道行く人々の視線がその少女に向く。人通りの少ない場所だからその程度で済んでいるが、大通りなら周りに人だかりができていたほどだろう。
少女の顔を見た瞬間、背中に軽く電気が走ったような感覚を覚えた。恋愛的なものではない。ハンドラーとしての本能めいたものだ。
同時に、見覚えのある顔だとも思った。一度見れば忘れそうにないほどの美少女だが、なぜか頭に浮かんだのは一人の男の名前。
まともに会話した事すらない者の名前が口にでる。
「東条選手?」
何を言っているんだと自分に突っ込もうとした瞬間、少女が凄い勢いでこちらを見てきた。ちょっと怖い。
そして数秒口をパクパクさせたかと思うと、ずんずんとこちらに焦った顔で向かってきた。
整った顔でそんな顔をされると正直怖い。冒険者になる前の自分なら逃げようとしたかもしれない。まあ今も固まっているだけなのだが。
少女がこちらの肩を掴んでくる。
「ぐぅ!?」
思わず声が漏れる。予想外に力が強い。肩からミシミシと嫌な音がなっている。
「ちょ、力つよ」
「あ、ごめん」
少女ははじかれた様に手を放してくれた。一体何なのだ、初対面のはずだが。
「あ、あんた『俺』の事を東条って呼ばなかったか?」
「え、あ、すみません。ついとっさに知り合い……ってほどではないのですが、見たことのある顔が浮かびまして。すみません、人違いで」
「俺が、俺が東条だ!東条正樹だ!」
マサキ?東条選手の下の名前は知らないが、ニュアンスからしてそうなのだろう。というかこの少女はなんと言った?自分が東条本人だと?
いや、きっとこの少女も苗字が東条なのだろう。そこまで珍しい苗字でもない。
「はあ、そうですか。あの、僕はこの辺で」
「待ってくれ、なんであんたは俺が東条だってわかったんだ!?」
やけにしつこい。あれだろうか、美人局というやつか?ダンジョンから出てくるのを見られて金を持っていると思われたのか?
「あの、本当にすみません。ただの人違いでしたから、ほんと。あと東条選手とも話したこともないので、失礼します」
「だから待てって!」
「いった!?」
強引に腕を引かれる。肩が外れるかと思うほどの衝撃と痛みがはしる。
「わるい、けど離すわけにはいかないんだ」
力は緩めてくれたが、手を離してはくれないらしい。というか『世界樹の枝』の効果を実感する日がこようとは。みるみる痛みがひいていく。
そして、痛みがひいて周りの状況が見えるようになった。遠巻きにこの辺に住んでいるのだろうおばあさん方がこちらを見ている。もう少し若い世代ならスマホを向けられていただろう。
このままこの謎の美少女、いやもう不審者でいいだろう。不審者と話しているのはまずい。
「わ、わかりました。逃げませんから、場所を変えませんか?どっかのファミレスとか」
「……わかった」
しぶしぶといった様子で不審者が手を離してくれた。流石にこの隙をついて走って逃げるというのは無理だろう。
ためしに考えてみたら、魔眼が予知した。少女の右手がこちらの左手を掴んで脱臼させるのを。
諦めてスマホの地図頼りにファミレスに向かう。まさか女の子と行く食事がこんな形になろうとは。
ファミレスについてとりあえずドリンクバーとポテトを注文する。
「それで、貴女はいったい誰なんですか?」
「だから、東条正樹だ」
「つまり東条選手だと言いたいんですね……」
頭が痛くなってきた。警察か救急車を呼んだ方がいいのだろうか。
「というか、さっきからなんで選手なんだ?」
「え、ああ。東条選手とあったのが全国ハンドラー大会だったので」
「え、俺覚えてないんだけど……戦ったけ?」
もし目の前の人物が東条選手本人だとしても、わかるはずがない。なんせ自分はKとしてでていたのだから。
「あ、もしかしてKか?」
「ふぁyたうあんg「!?」
「いやそこまでおどろかなくても……」
何故ばれたんだ?もしかしてそういうスキルか?
「いや、もしかしてって思って言っただけなんだけど、マジで?」
「……今のは唾が気道にはいっただけでするので、別人です」
「お、おう。そういう事にしとくわ」
とりあえず注文した品がきたので、早速ドリンクを注ぎに行く。
「ドリンクバー行きますけどなんにします?」
「あー、コーラで」
「わかりました」
とりあえず飲み物を注ぎに行く。戻ってくるときには冷静になれているだろう。
わざとゆっくりコップにジュースをそそいで戻ってくると、皿の上になにもなくなっていた。
「わ、わるい。よく考えたら昨日から何も食べてなくって」
「いえ、べつに構いませんが」
コーラを相手の前におき、自分も席に着く。
「それで、貴女が東条選手だとして、どうしてその姿に?」
「それは、いや、その前になんで俺が東条ってわかったんだ?鑑定のスキルか?」
「ただの勘です」
「かん!?」
不審者が口を大きく開けて驚く。そういう顔をしても馬鹿っぽいというより可愛らしいと思える当たり美人って得だ。
「まあ、いいけどさ。それでこうなっっちまった原因だよな」
「あ、やっぱいいです。関わりたくない」
「なんでだよ!?」
「いやだって厄ネタ感が凄いし……」
そうなのだ。『人間離れした』美貌に、細腕からはありえない膂力。どう考えても使い魔の特徴だ。
使い魔の私有地、及び政府より許可の下りている土地以外での召喚、ハンドラーから一定以上の距離で行動させる。どちらも犯罪行為だ。
そんな相手に絡まれている。自分の勘が外れているのならどこかからスマホで撮影でもされているのだろうし、そうでないならとんでもない事件な気がする。
というわけで伝票だけ持って帰ることにする。触らぬ神に祟りなし。最強の護身術は危険な場所に近づかないことだ。
「お、おい、まさか帰る気か?」
「ええ、まあ。ここは払っとくので。お元気で」
そう言って立ち去ろうとすると、机についた手を握られる。ただし、今度は先ほどのような馬鹿力ではなく普通の力で。
「た、頼むよ。おれ、もうたよれるひとが……」
不審者、いや美少女の目から涙がこぼれる。
やばい、罪悪感がすごい。ついでに遠くでこっちを見ている店員さんの目が怖い。これこのままどっかいったら通報されるのでは?勝てるか?裁判に。
とりあえず席に座り直し、まだ使ってないおしぼりを差し出す。
「えっと、わかりました。お話を聞かせてもらってから判断しますので、泣くのは勘弁してください」
「な、泣いてないし……!」
かわいい。けど周囲の目がある場でさっきの行動は下手な脅しより質悪いと思うの。
乱暴の目物を拭いた後、東条(自称)が話し出す。
「俺も混乱してるから、結論から話す。元の体を乗っ取られたんだ」
「乗っ取られた?」
「ああ。昨日の夕方、路地裏で人が倒れているのを見つけたんだ。病人かと思って、とりあえず近寄って話しかけたら、突然そいつが使い魔をだしてこういったんだ」
東条がコーラを一口飲んで唇を濡らす。
「『お前の体をよこせ』って。そしたら突然目の前が真っ暗になって、気づいたらこの体でさ。そして知らない誰かが入った俺の体が動いてた」
「使い魔によるスキル……?」
「だと思う。使い魔の姿はリッチに似ていたけど、それの上位種?なのか雰囲気がやばかった」
「リッチの上位種……エルダーリッチですか?」
「いや……どうだろう……なんとなく、あんたの火を使う鎧がうかんだけど……」
「紅蓮が?」
そのタイミングで紅蓮を連想するとなると、その使い魔のランクはBよりも上の可能性が高い。エルダーリッチもBではあるが、下位の方だ。その上の種族を想定した方がいい。
それだけ上位の使い魔なら、一般に出回っていないスキルを使っていてもおかしくはない。
あとは、この自称東条をどこまで信じられるかだ。一応、その判定役も呼んでおいた。
ちょうど来たらしいので、入口に向かって手を振る。
「すまん、滝沢。急に呼び出して」
「いいけど……だれだ、その子」
そこには、ラフな格好で立つ滝沢がいた。




