第二十五話 大臣
第二十五話 大臣
サイド 矢橋 孝太
冒険者をやめるにあたり、ダンジョンに潜らなくてもレベルがあげられる方法をネットで調べ始めた。
その方法が話題になったのは自分が中三の夏頃、受験勉強まっさなかである。ダンジョン断ちしていたので当時は知る由もなかった。また、受験が終わった後はすぐに冒険者になったので存在を耳にしても特に調べようとは思わなかった。
いや、聞いた直後は興味を持ったのだが、それを取り上げた記事の見出しの段階で興味を失ったのだ。
ネットで検索して出てきたのは、『ダンジョンに潜れない方にお勧め。安全レベルアップ』という記事だ。
そう、この方法はダンジョンに潜れないことを前提としている。詳しいやり方は単純明快、ひたすらスキルを使い続ける。それこそ魔力切れをおこすまで。そして魔力がある程度回復したらまたスキルを使い続ける。これの繰り返しだ。
自分も寝る前に紅蓮達にスキルを使っているが、それだけでは全然足りない。それこそ空撃ちをしまくる必要がある。
確実にダンジョンでモンスターを倒していった方が効率的だ。レベルアップの仕組みは未だわかっていないが、結果だけは実証されている、らしい。
いくら戦力が増えたからもういいだろうと引退するとはいえ、何もしないというのはよくない。筋肉などと違って魔力やレベルは使わないと衰えることはないが、何もしなければ上がらないのも事実。
自分の場合魔力量がそのまま回復とバフの回数に影響するので、多ければ多いほどいい。
スキルと言えば、父たちの支援についても考えなければ。
一応考えはある。ブーステッドツリーにはもう一つ詠唱がある。これはダンジョン探索ではあまり使い道がないが、両親への支援としては破格の性能を発揮するはずだ。
その詠唱は『ブーステッドツリー・ロングディスタンスランナー』というものだ。詠唱が無駄に長い。代わりに、効果時間も長い。
通常の詠唱が五分に対し、この詠唱なら約十時間効果が持続する。これだけ聞くとかなりのぶっ壊れ能力に思えるが、欠点は当然ある。
まず、消費魔力量が通常一としたらこれは五だ。使い魔を展開したうえで全員にこれをかけようとすると、一回休憩をはさむ必要がある。
次に、回復量の低下だ。本来なら手足が千切れようが内臓が潰れようが一秒で全回復するところ、スキルの説明文的にこれだと骨折一つ治すのに三分かかる。
ステータスへのバフや状態異常に対する治癒力は据え置きであるが、正直紅蓮をつれてダンジョンに行くなら魔眼で予知するなりレイナに索敵するなりして、接敵直前にスキルを発動、必要ならかけなおすだけでいい。
だが、両親とわかれてダンジョンに潜るというならこれは非常に有効だ。
消費魔力が多いと言っても、両親の使い魔にかけるだけなら、自分は使い魔を展開していない分魔力は一回で持つ。一度戻してもかかったバフや状態異常は解除されないのは紅蓮達に就寝前スキルを使っているから知っているし、政府公式のサイトで確認済みだ。
回復量の低下といっても、通常に比べれば格段に落ちるとはいえ、ネットで調べた限りだが、回復魔法としては十分すぎる効果を得られる。何もしないより遥かにましだろう。
これだけメリットがあり、コストもかからない。だが、問題はある。
法律上、敷地内、および許可のある場所以外でのスキルの発動は違法となる。たとえ事前にかけておいたスキルのバフであってもだ。
この辺ではまずいないだろうが、都会では鑑定持ちのお巡りさんが目を光らせているらしい。ダンジョンの受付周辺にも鑑定持ちの人がいるかもしれないので、バレるリスクがある。
だから、今まで使い魔をわたすなど両親の安全を高めようとしてきたが、このスキルをかけることはなかった。しかし、今度からスキルをかける対象は使い魔。本人ならばれるだろうが、それなら一目ではわかるまい。滝沢に確認してもらったので大丈夫なはずだ。
ちなみに、ロングバージョンの反対に圧縮バージョン、『ブーステッドツリー・スプリンター』というのもある。
これは回復量と状態異常に対しては据え置きだが、バフの効果が変わる。なんと倍になるのだ。つまりランクが一つ分上がる。破格と言っても過言ではない。が、これにも欠点がある。
消費魔力量が五倍なのはロングと同じ。しかし継続時間は十秒。短すぎる。しかも同じスキルの重複はできない関係上、元々かかっていたバフをはがすことになる。そうなるとかけなおす必要があるのだが、そのタイミングを戦闘中に見極めるのが難しすぎる。ぶっちゃけ、自分では扱いきれていないのが実情だ。
閑話休題。
今日からダンジョンに潜る日以外はスキルを空撃ちしまくって魔力を消費し続ける必要がある。消費魔力的にスプリンターの方がいいだろう。空撃ちだとなんとなくもったいないし、使い魔の誰かにでも付き合ってもらう方がいいだろうか。ワンチャン基礎ステータスが上昇するかもしれないし。
ネットでレベル上げの方法を一通り確認した後、紅蓮にかけることにした。まあ、今はパソコンで将棋の対戦をしているところなので、それが終わったらだが。
週末、東京に父と二人で来ていた。
父に頼むのはあっさりと了承されて問題なかったのだが、週末二人で東京に行く事と目的を母に話した時は軽い口論になってしまった。
ダンジョンに潜らないし、それだけ強い使い魔がいるなら自分に貸してくれと言い出したのだ。
無論答えはノーだ。契約を解除した段階で、その使い魔の記憶も肉体もゼロになる。ステータスやスキルはそのままだが、そんな事をしたら金剛が金剛ではなくなるのだ。
再契約すれば、見た目こそ同じカードと同じ契約者ならそっくりな姿で召喚される。だが、もうそれは似ているだけの別人で金剛ではなくなる。
そう母に説明したが、なんと『なにを使い魔にそこまで入れ込んでいるんだ』と変な生き物を見るような目で言われた。
使い魔はあくまで道具であり、どう使おうと問題ない。むしろそれこそが正しい。何故なら使い魔側もそれを了承しているのだから。そういう考えを持っている人達がいることは知識としては知っていた。けど、まさか母がそうだとは思ってもいなかった。
自分だって紅蓮達を戦わせて利益を上げ、フェリシア達に夜の事をお願いしているのに、どの口でと言われるかもしれないが、正直そういう考えは嫌いだ。理屈がどうとかではなく、感情の問題で。
絶対に首を縦に振ることはできなかった。それに母は困惑して説得してきたが突っぱねたので、ちょっと気まずい。
というか、Bランク使い魔という段階で貸し借りとかかなりグレーだ。お金の取引だったら完全に豚箱行きである。
それはさておき、東京まで何時間もかかるし電車も乗り換えが必要とあって、かなり疲れた。日帰りというわけにはいかないので一泊する必要があるのだが、新幹線の代金は向こう持ちだし、宿泊先も向こうで用意してくれたのは幸いだ。
幸いなのだが……。
「本当に、ここでいいのか?」
「そのはず……だけど」
目の前にあるのは、テレビでも何度も取り上げられる超有名ホテルだ。日本最高峰のおもてなしと設備、料理だってミシュランで星を貰っている。当然、止まるのはお金持ちばかり、予約もいっぱいなのが普通。値段に関しては考えたくない。
駅で合流し、車で送ってくれた小沢さんの部下、井沢さんが苦笑を浮かべる。
「ご安心ください、ここで間違いありませんよ」
安心しろと言われても、いかにも高級そうなスーツを着ている貴方と違って自分たちのような庶民丸出しの恰好した奴らは目立っていますからね悪い意味で。
井沢さんにつれられるままホテルに入り、受付を済ませて部屋へと案内される。通された部屋はよくわからないけどめっちゃ高そうなとこだった。
「それでは、私はこれで失礼します。一階のレストランに予約を取っておりますので、明日の十時までならいつでもご利用可能です」
「色々とありがとうございました」
「いえ、それでは明日の十一時にお迎えに上がりますので、どうぞおくつろぎください」
父と井沢さんが話している横で、部屋の空気にのまれて自分は固まっていた。父もあきらかに動きがぎこちないが、流石社会人。自分よりははるかにマシである。
井沢さんが出て行った後、父と二人して大きくため息をつく。なんかできる男感がすごくて緊張する。
だが、相手もこちら、というか自分に対してやたら緊張した様子だった。
まあ、理由は察しがつく。使い魔達を警戒していたのだろう。特に紅蓮は本気をだせばこの辺一帯秒で火の海になりかねない火力を持っている。
そんなのを連れているのが一介の高校生とか、いつ爆発するかわからなくて自分なら近づきたくない。
その後、父と共に一階のレストランで食事をした。その美味しさに二人で真剣にタッパーでお持ち帰りできないか検討した。
翌日、こんな高級そうなベッドで眠れるのかと父と話していたが、布団をかぶってすぐに眠ってしまった。これは新幹線で疲れたとかが原因ではない。ベッドの性能が良すぎた。気持ちのいい眠り、すっきりとした目覚め。布団への誘惑を普段の朝なら感じるところ、このベッドならそれすらもない。
去る者は追わず来る者は拒まず。これほどのベッドを経験したことは一度もない。横を見れば父も似たような感じだ。やっぱそうなるよね。
朝食もとり身支度を済ませて一階のホールで井沢さんを待っていると、十一時十五分前に彼はやってきた。
「お待たせしました、申し訳ございません」
「いえ、まだ時間前ですし」
「ありがとうございます。昨夜はよく休めましたか?」
「はい、それはもう」
父の回答に合わせて首を縦に振る。まだこのホテルの中だ。もう空気だけで高級な気がしてきた。
ホテルのチェックアウトを済ませて、井沢さんの用意した車に乗る。この車も明らかに高い奴だ。
そうしてついたのはどこかの武家屋敷ぽい所だった。立派な正門の表札には『金崎』と書いてある。
なんかテレビで聞いたような気がする。父と二人冷や汗をつたわせる。なんだろ、この東京で昔の様に父と過ごせている気がする。
嬉しいけど今じゃない。このやばそうな緊張感できれば関わりたくなかった。
なんか初老のおばあさんが出迎えてくれたが、別にここの住人というわけではなくお手伝いさんらしい。
今時人間のお手伝いさんがいるのは珍しい。ベビーシッターをはじめ家の中の事を手伝う系の職業は今軒並み不況だ。いや、多くの職種が崖っぷちに立たされているとテレビで聞いた気がする。どこも使い魔にとってかわられそうだとか。ただし、ダンジョン業界だけがその分甘い蜜をすっているかのように潤っている。
いや、今はそれを考えている余裕はない。別に冒険者やめたら将来が不安かもとか思っていない。
奥の座敷に井沢さんも含めた三人とも通されて、待っていたのは着物姿の老人だった。
「やあ、よく来たね矢橋孝太君。お父君も休日だというのに申し訳ない」
こちらの方に向き直り、軽く頭を下げる老人に慌てたのはお手伝いさん以外の全員だ。
「い、いえこちらこそすみません!」
「こ、このようなところにこれてきょうえつしごくです」
親子そろって頓珍漢なことを口走りながら腰を直角に曲げて頭を下げ返す。何故かわからないが、この人に頭を少しでも下げられるとこちらが悪い気がしてくる。なんというか、格が違う。
「先生!?貴方ほど方が頭を下げるのは!?」
「なにを言うのかね井沢君。長旅をさせてまでここに呼び出したのだ。客人に礼をするのは当然だろう」
老人が眉を八の字にして唇を尖らせた。野郎がそんな顔をしても殺意を覚えるだけが普段だが、何故かこの老人がすると様になる。
「君もここまでご苦労だったね。だが、もう少しだけ付き合ってくれるかい?」
「そ、それは勿論です。お任せください」
井沢さんも腰を九十度にした。三人そろって直角である。
「まあ、三人ともそんな所に立っていないでこっちに座りなさい」
老人が手で示す先には座布団が三つ並べられている。
「し、失礼します」
それぞれ緊張した様子で座布団に座る。奥に自分、父、井沢さんの順だ。座って姿勢を正した直後にお手伝いさんがお茶を出してくれたので会釈する。
「さて、とりあえず自己紹介といこう。私は金崎蓮司だ。一応大臣の一人をやらせてもらっているよ」
思い出した。どこかで見た気がすると思っていたが、テレビや新聞でだ。
金崎蓮司。次期総理とすら目されていた大物だが、使い魔の出現からダンジョン特別大臣という意味不明な大臣になった人だ。
冒険者になるときちらっと調べただけで詳しくは知らない。だが、やはり現職の大臣ともなるとテレビ越しにはなにも感じなくても生で見ると違う。
「わ、私は矢橋孝太の父で正樹と申します。会社員兼冒険者をしています」
父の挨拶に慌てて続く。
「息子の矢橋孝太です。高校一年です。冒険者をやっていますが、引退を考えています」
「「えっ?」」
直後、井沢さんと金崎さんが驚きの声を上げる。
緊張して咄嗟に今後の進退まで言ってしまった。やはり初対面の相手にそれはぶっちゃけ過ぎた。それにしても驚きすぎな気がするが。
「それは冒険者をやめるという事かい?」
「あ、ライセンスを返還するわけではありませんが、冒険者活動は今後控えて勉学に専念したいと思います」
まあ勉学に専念と言っても普通にゲームやアニメにがっつり時間を使うつもりだが。
なんか金崎さんが凄く渋い顔をしている。困惑しながら父の方を見るとそちらも状況が分かっていない様子だ。ならばと井沢さんの方を見ると、こちらはこちらで青い顔で表情を固めていた。
「……まあ、そこは置いておいて、今回来てもらった理由である契約したBランク使い魔と、念のため先天型使い魔をそこの庭に召喚してくれるかな」
「あ、はい」
さっきの渋面から打って変わって最初に見た好々爺然とした笑みを浮かべている。
部屋を出てすぐの縁側に立つ。鹿威しなんて個人宅で初めて見た。
「紅蓮、金剛。来てくれ」
中庭に二人の騎士が召喚される。二体とも珍しく武器を手に持っており、金剛は金崎さんを、紅蓮は屋根の上を見ている。
「紅蓮?金剛?」
呼びかけると二人はすぐに武器を消し、その場に片膝をつく。
なんか今日は二人とも変だ。普段は最初っから武器を持って出てこないし、ここまで畏まった動きをしない。
「なるほど、彼らが噂のエレメントナイトかね」
いつの間にか後ろに来ていた金崎さんがそうつぶやくと、彼も使い魔を召喚した。
「ゲイル」
現れたのは男性のエルフだった。彼は鋭い眼光で紅蓮と金剛を上から見下ろす。なんとなく感じが悪い。
「鑑定が終了しました。申請に合った通りの性能です」
「そうか……」
金崎さんがため息をはく。何かまずい事でもあるのだろうか。
「なるほど、素晴らしい使い魔だ。Bランク冒険者というのも納得の戦力だ」
「あ、ありがとうございます」
なんとなく空気が重い。失礼なことをしてしまったのではないかと心配になってくる。
「それで、改めて聞くが本当に冒険者活動は控えるのかね」
「は、はい」
「理由をきいても?」
「え、いや、勉強に専念するためです」
先ほども言ったはずなのだが、それがどうしたのだろうか。
「いいや、それだけではないはずだ」
「えっ」
「実際に会えばおおよそわかる。君はそれだけの理由で冒険者から身をひくとは思えない」
ジッと見据えられて、何故か背筋がぞっとした。ダンジョンでモンスターを見ていなければ足がさがっていただろう。
「それは……あの、友達と遊ぶ時間がほしくて」
「正直に、話してほしい」
咄嗟に父を見やる。だめだ、うろたえているのが一目でわかる。助け舟は期待できない。
「なるほど……」
なんか金崎さんは金崎さんで勝手に納得しているし。
「ご両親に止められたか。まあ年齢を考えれば当然か」
金崎さんが部屋に戻って座布団に座る。なんとなくこちらも流れで元の位置に座る。
「たしか、ご両親とも冒険者になったとか。理由をお聞きしても」
視線が父に集まり、その表情が固まった。
父よ、頼むからかっこいいところを見せてくれとまでは言わないけど、せめて変な対応だけはしないでくれ。自分はなんかやっちゃたのでフォロー求む。
「わ、私が冒険者登録をした理由は、会社の理由がありまして」
「………なるほど、そういうことにしておきましょう」
金崎さんの返しに父の肩がびくりとはねる。
前に渡辺さんとの会話で明らかに含みがあったが、そこのとこどうなんだろう。まあ深くは聞かないし、あまり大人の黒い話とか聞きたくないけど。
「それで、奥方の方はどういった理由で」
「本人からは、経済的に自立したいと……」
父の目線が流れる。その反応から、やはりそれが本来の理由ではないのだろうか。自分と話した時もなんとなく様子がおかしかった。
「そう、ですか……」
金崎さんも何かを考え込む。ああもあからさまに目をそらされては、そう思っていませんと言っているようなものだ。
「わかりました。では、重ねて質問させて頂きますか、孝太君が心配ならばいっそ三人、あるいはご両親のどちらかとパーティーを組むのではダメなのでしょうか?」
金崎さんの問いかけ、というか提案をするが、それは無理な話だろう。
「いえ……私は会社の業務でダンジョンに潜るので、時間帯が息子とはあいませんので」
「では、奥方の方はどうでしょうか?」
「妻も、おそらく昼間のうちに潜ると思うので……」
「そうですか……」
なんかやけに金崎さんが自分をダンジョンに行かせようとしているのだが、別にダンジョンに行きたいとは言っていないのだが?なぜ自分がダンジョンに行きたいけど、両親の為に行かないでいるという感じになっているのだろうか。
「あの、別に僕はそこまでダンジョンに行きたいわけではないので、別に両親と一緒にとかは……」
「しかしね、孝太君。君としてもご両親が心配なのではないかな?」
その言葉に、咄嗟に息をのむ。
確かに両親の冒険者活動に不安がある。なんせ、二人には紅蓮がいない。かといって貸し出すこともできない。
だが、今更金剛をわたすこともできない。契約を解除するには情がわきすぎた。
「だから、二人とパーティーは組めなくても、何かあった時バックアップできるよう準備は必要なんじゃないかい?」
「それは、たしかに……」
「無償でカードをプレゼントしてあげなさいとは言わない。お互いの為にならないからね」
そこで金崎さんがお茶を一口飲んで口を湿らせた後、話を続ける。
「だから、ご両親が使い魔をロストした時用にカードを集めておくのはどうだろう。そして、適切な料金で売ってあげるといい」
「売る、ですか?」
「ああ。それだけでもかなりの助けになるはずだ。君は今まで使い魔をロストさせたことは?」
「いえ、一度も」
「そうか、優秀だね。では、使い魔をロストさせてしまった場合の苦労も知らないかな」
そう言われて浮かぶのは、高橋と戦った後の西園寺だ。使い魔を全ロストさせひどく落ち込んでいた姿は今でも印象に強く残っている。
「使い魔をロストするということは、精神的にかなりの喪失感があるだろうが、同時に収入源を失うということでもる。そして、カードは高い。貯金で足りればいいが、足りなければどこかから借りなければいけない。だが、冒険者はその職業柄借金をしづらい」
そこまで言われれば、何が言いたいのかもわかる。
「適正価格で売りはするけど、ローンを組める形でってことでしょうか……?」
「ああ。そうしてあげるとご両親も助かるだろう。それに、都合よく欲しいカードが売られているとも限らない。そういう点でも君の存在は心強いはずさ」
「なるほど……」
金崎さんの言う通りだ。一緒には潜れないから不安は残るが、二人の冒険者活動のサポートはできるだろう。
「そういう理由もありますし、孝太君の冒険者活動を認めてあげてはいただけませんか。ご両親思いのいいお子さんだ。信じて応援してあげることはできませんか」
「そ、そうですね。まあ、息子には紅蓮さんもいますし……」
父も折れたようだ。まあ、最近両親は冒険者をやめろとはいってきていないし、どちらかといえば『自分もやめるから母さんもなるな』とこちらから言っている状態だ。
というか、うちの人間は長い物には巻かれるたちなので、大臣にこう言われたらYES以外言えない。
「孝太君、後は君自身の意思だ。冒険者を続けるかどうか、ゆっくり考えなさい」
いやこんだけおぜん立てして誘導しておいてそれはないだろう。
なんか、この人のカリスマというかオーラ的なものがはがれてきた気がする。会話するほど実はこの人普通の爺さんだと気付き始めた。まあ、紅蓮が傍にいるからちょっと気が大きくなっているのもあるのだろうが。
それと、紅蓮と金剛が若干とはいえ、金崎さんや周囲に対して敵意を向けているきがするのだが、大丈夫だろうか。
だが、もう自分としても冒険者をやめるより続けた方がいいと思い始めているのも事実だ。
「……最終的には母とも相談して決めるつもりですが、冒険者を続ける方向で考えてみます」
「そうかね!」
金崎さんが妙に嬉しそうに頷き、さっきからずっと空気に徹していた井沢さんが小さくため息をついている。
おかしい。少なくともこの二人は自分に冒険者を続けていてもらわないと困る事情があるのか?
その理由は気になるし、もしも今後自分や周りに火の粉がふりかかるなら事前に避けたいのだが、探りをいれることはできない。
こちらはただの高校生とサラリーマンの父。相手は見るからにエリート公務員な井沢さんと現職大臣の金崎さん。どう考えても腹芸で勝てる気はしないし、むしろ墓穴を掘る気がする。
もう帰ろう。これ以上ここにいても得る物はない。
「すいません、帰りの新幹線を考えると、そろそろ……」
東京の地形とか駅までここからどれくらいとかわからないが、とりあえずそう言って帰りたい旨を口にする。というか察してくれ。
「ああ、すまないね。つい世間話に夢中になってしまった」
金崎さんが笑いながら軽く頭を下げてくる。
「い、いえ!こちらこそ家の事で相談に乗ってもらって」
「すみません」
父が慌てて頭を下げ、自分もそれに続く。
「いやいや、そもそも呼び出したのはこちら側だ。君の使い魔の事はわかった。問題はなさそうだね。それで、最後にこれを話しておかないと」
金崎さんがそう言って脇に置いていたファイルをこちらに差し出してくる。座布団からちょっと膝を出して受け取ると、そこには『Bランク冒険者様へ』と書かれていた。
「Bランク冒険者になったからと言ってこれといってなにかが変わるわけじゃないが、それでもほんの少しだけ特典があってね」
「はあ」
「まあ詳しくはそれを読んでもらった方がいいが、おおざっぱに言えばクエストの受注やカードの売り買いについて少し優先されやすくなるのさ」
「なるほど」
「それと、こちらとしても将来有望な若者とは縁を結んでおきたくてね」
井沢さんが居住まいを正し、金崎さんがそちらへ目を向ける。
「既に連絡先を交換している小沢君でも、ここにいる井沢君でも構わないから、もし何か困った事があったら連絡してくれたまえ」
「こちらが私の連絡先です」
そう言って井沢さんが名刺を差し出してくる。名前の下に携帯の電話番号が書かれており、ここに連絡しろということなのだろう。
「室長の小沢は電話に出れない場合がありますので、そういった時は私にかけてくれると助かります」
「わかりました。なにかあったら相談させていただきます」
名刺を受け取って財布の中にしまう。そのうち名刺入れとか買った方がいいのだろうか。
「一応、こちらの要件は以上だよ。なにか質問はあるかい?」
金崎さんが優しい先生のように話しかけてくるが、もう帰りたいし紅蓮と相談したい。
「いえ、今のところは大丈夫です」
そう言って父に目を向ける。というか父は父でいつまでプレッシャーにのまれているのか。紅蓮がそこにいるんだからそこまで委縮しなくてもいいのではないか。
そう考えて、ハッとする。だめだ、紅蓮がいるからといって調子に乗り過ぎてはいけない。自分はあくまで凡人だ。父の様に委縮した様子を見せておいた方が警戒されづらい分生き延びやすいかもしれない。
「私も大丈夫です。本日は色々とありがとうございました」
父と一緒に金崎さん、井沢さんの順に頭を下げる。
「いやいや、こちらこそ呼び出してしまい申し訳ありませんでした。それじゃあ孝太君、これからも頑張ってくれたまえ」
「……はい」
そうして、金崎さんの家を後にして、新幹線に乗って家へと帰っていった。
サイド 金崎 蓮司
「お客様たちはお帰りになられました」
「そうか、ご苦労様」
自分がまだ二十歳そこそこの頃から使えてくれている花山の言葉に、肩の力をようやく抜くことができた。
そこへ、花山がショートケーキと緑茶を出してくれる。いいタイミングだ。気を張って腹が減っていた。
こういうところがエルフやキキーモラといった使い魔が現れても彼女を雇い続けている理由である。まあ、美しい女性型の使い魔と契約するとマスコミがうるさいというのもあるが。
「ゲイル、カザミ、影沼」
「「「はっ」」」
傍に控えていたゲイルが片膝をつき、その横に天井から降りてきたもう一人のエルフ『カザミ』が並び、その横に自分の陰に潜んでいた小柄な老人、スプリガンの『影沼』が現れる。
「カザミと影沼、もしや、気づかれていたか?」
「おそらく、矢橋孝太の使い魔達には気づかれていたでしょう」
「奴らは精霊。妖精種のスプリガンやエルフの気配に敏感かと」
「なるほど」
無意識に顎を撫でる。考えをまとめる時やってしまう癖だ。
「まあいい。あの様子なら敵意は持っても害意まではいかないだろう」
おそらく、あの使い魔達は自分の使い魔達と護衛として屋敷に控えさせているハンドラーに包囲されていたことを察していたのだろう。
でなければあそこまで臨戦態勢で現れることに説明がつかない。
どうにか顔にこそ出さなかったが、久々に死ぬかと思った。
自分の使い魔はCランクのエルフ二体にBランクのスプリガン。そして護衛達もCランク使い魔を所持している。
だというのに、勝てる気がしなかった。あの紅蓮とかいう使い魔、危険すぎる。単体ならまだハンドラーを狙うという策が効いただろうが、金剛とかいうのもいたので、あの場で暴れられたら屋敷もろとも消し飛んでいただろう。
矢橋孝太自身も危険だ。いや、この言い方には語弊がある。彼自身については別に危険はない。これといった思想はなく、その精神面は凡人そのもの。攻撃系のスキルは有しておらず、取り押さえることはスキルを持たない者でも格闘技の有段者が複数で挑めば容易なはずだ。
だが、問題は彼が使い魔を呼び出しているときである。ただでさえ強い使い魔達に彼のスキルが加われば鬼に金棒どころではない。
もし彼とその使い魔を相手にするとなれば、現在ダンジョン攻略と海外の工作員相手に奮闘してもらっている精鋭部隊を差し向けるほかない。
彼らの中には矢橋孝太並みの規格外も所属している。場数の差もあってまず間違いなく制圧できるだろう。
「矢橋孝太の鑑定結果はどうだった」
「報告にあった通りです。申請に間違いはないかと」
「そうか」
公安からの報告通り、根は真面目な小心者か。組むのは容易い相手だ。だが、使い魔の紅蓮、奴は侮れない。元々精霊種は高い知能を有している事は報告で分かっているが、おそらく奴はその中でも頭一つ抜き出ている。
「皆ご苦労。影沼以外戻っていてくれ」
「「「はっ」」」
エルフ二人が消え、影沼だけが残る。
彼は使い魔が出現した時からの付き合いだ。世間でいうところの先天型使い魔というやつだ。
「影沼、勝てるか?」
「申し訳ありませんが、不可能かと」
「だろうな」
自分の中で出していた結論を肯定され、小さく頷く。元々こいつは隠密が専門だ。他国からの暗殺者や洗脳目的で近づいてくる間者からよく守ってくれている。
最近、野党議員からの刺客も増えた。これからもいっそう影沼には頑張ってもらわなければ。
「矢橋孝太とその父親、どう見る」
「どちらも典型的な小市民ですな。息子の方は紅蓮が現れてから少し気が大きくなりましたが、それでも生来の器は変わりません。父親の方は、瞳の奥に僅かですが野心が見えましたな」
「ほお、お前もそう思ったが」
父親が冒険者になった理由は既に調べがついている。結論から言えば、出世したいのだ。
息子の契約により見返りとして出世コースに乗ることができた。しかし、その契約が解かれればそれもおじゃんだ。
そこで、彼は自分が冒険者となり息子の代わりとして会社に貢献し、出世をつかみ取ろうとしている。
元々はそれほど出世欲のない男だったのだろうが、一度『もしかしたらなれるかもしれない』と希望を持ってしまったが故だろう。そこにちょうど常務が派閥争いのために声をかけてきたのも影響しているだろうが。
女エルフと契約したことで男としての自信がついたことも理由の一つかもしれない。ダンジョン帰りによくホテルに言っていることが監視から報告されている。
母親の方はまだ不明な点はあるが、十中八九男エルフだろう。
エルフたちの芸能業界デビューは最近多いが、彼女は男エルフのグループにかなりはまっている。結構な数のグッズを集めているのを家族はまだ知らないのだろうか。
そのグッズに要した金額の補充が冒険者になることへの主な理由だろうが、おそらくエルフの購入もあわよくばと考えているだろう。
アイドルは買う事はそうそうできないが、使い魔は別だ。金さえあればカードを購入することはできる。
流石に現在アイドル活動中のエルフは買えないだろうが、それでも顔のいい男エルフを侍らすことはできる。
おそらく父親はその思惑を察しているのだろう。だが、自分もエルフとやましい間柄だから強くは言えないし、むしろ罪悪感が薄れてちょうどいいとすら思っているかもしれない。
「大変だな、あの少年も」
父親に向ける視線や母親の話題がでた時の様子から、家族想いな息子なのだろう。だが、その家族が前の様になることはあるまい。
「しかし、こちらとしては好都合だ」
自然と口角があがる。
彼が冒険者をやめると言い出した時は慌てたものだが、これでしばらくは大丈夫だろう。時間さえあれば続けざるえない理由を作ることは容易い。
彼の両親が冒険者になる。大いに結構。冒険者は現在足りていない。今の倍は最低でも欲しいぐらいだ。
何より矢橋孝太の最大の弱点は家族。それを利用しない手はない。
これが女の使い魔を侍らせていないならハニートラップの一つでもかましてやるのだが、今は難しいだろう。
「影沼、お前も食っていけ」
「は、ありがとうございます」
こちらがそう言うのをわかっていたかのように、花山がケーキとお茶を持ってくる。影沼には紅茶だが。
「彼には頑張ってダンジョンに潜ってもらうとしよう。日本の為にな」
サイド 矢橋 孝太
疲れた。
帰ってきて、手洗いうがいして、着替えて、ベッドにダイブした。
東京に行って帰って来るだけでも疲れるのに現役の大臣とよくわからない話をするはめになるし、明日も学校なのでどこにもよれず帰宅である。
だが、ホテルの部屋と食事に関しては凄い得をした気分だ。また行ってみたい気持ちもあるが、それ以上にああいう場所は自分には場違いな気がして気後れする。
「紅蓮」
上半身を起こしてベッドに座り、紅蓮を召喚する。今度はいつも通り武器を持たず、膝から下は顕現させずにふわふわと浮いている。
使い魔は召喚される際、わずかだがハンドラーの状況がわかるらしい。だからダンジョンの入口なら戦闘態勢で現れるし、家の中なら丸腰でくる。
「金崎さんの家で召喚した時、金剛もだけど武器を持ってでてきたよね。それってさ、もしかしてなんだけど……わりとやばい状態だった?」
新幹線の中で、紅蓮達がなぜああしたのか理由を考えていた。金崎さんの家にいるときは緊張でそこまで考えが至っていなかったが、後で考えれば基本的に礼儀正しい紅蓮達があの反応をするという事は、そういう事だろう。
『すぐに襲い掛かって来るという感じではありませんでしたが、使い魔とハンドラーに包囲されていました』
「マジか」
それなら紅蓮と金剛があらぬ方向を見ていたのも納得がいく。警戒か牽制をしていたのだろう。
自分も父も気づかなかったが、もしかして金崎さんは殺す気で呼んだのだろうか。いや、それならもっと紅蓮が反応するはずだし、使い魔を召喚する前に殺そうとしてくるはずだ。
一応、予知の魔眼なら相手がこちらを攻撃してくる瞬間を視ることができるし、なんならそれを察知したことを向こうが察知した瞬間を予知することができる。ようは、絶対に先制できる。
だが、紅蓮クラスだったら自分が気づいて召喚しようとしてもそれ以上の速さで殺される可能性もあるから、正直めっちゃ怖い。
『金剛と二人がかりならたとえ先手を譲っても、主とお父上をつれて脱出可能かつ、社会的にこちらから攻撃するのは今後いらぬ諍いをまねくと考え、あの場では膝をつくことを選択しました』
あれ、もしかして紅蓮怒っている?なんとなく気配がぴりついているのだが。
「ま、まあとにかく、無事に帰ってこれてよかった。紅蓮としては、金崎さんの話どう思った?」
『明らかに口で言っていた事とは別の目的があります。主をダンジョンに送りたいと考えてああいった発言をしたのは明白ですが。その理由までは確信をもてません』
それは自分でも思っていた。あからさますぎるのだ。海千山千な政治家が自分のような若造に見抜かれるほど露骨におしてきた。
「なんでだろ。というかやたら露骨だったけど、もしかしてこっちが気づけるようわざと露骨にやった?」
『その可能性は捨てきれませんが、おそらく違うでしょう。あれはどちらかといえば、焦りのあまりボロがでたと考える方が自然かと』
「焦り?」
焦ったからと言って大臣がそんなボロをだすものなのか?相手はガチのエリートだぞ。しかも腹の探り合いでは経験豊富な古だぬきだ。
『はい。普段のニュースやテレビ、SNSの発言を見るに、本来ならそんなミスをする方ではありません。しかし、ダンジョンができた日の前と後で変化がありました』
こちらが訝しんでいたのを察したのだろう。紅蓮がボードに書き込んでいく。
『この変化は国会議員のほとんどに起きています。国内だけではなく、海外の主要な政治家にもです』
「変化ってどんな?」
『焦り、諦観、興奮、種類は様々ですが、共通するのは何か危険が迫っているのを察知した時にする反応です』
「き、危険って」
世界中の政治家が一斉に危険を感じるなんてありえるのか?どこかの国が戦争を始めようとしているとか?巨大隕石が降ってくるとか?
『その危険が何かまではわかりません。ですが、それはダンジョンに関係があるのでしょう。どこの国も官民問わずダンジョンに人を送り込むことに必死になっています。そして、ある程度数を送れるようになると、今度はその国のマスコミや野党を使って妨害合戦を始めました』
自分もおかしいとは思っていたのだ。普段喧嘩ばかりの野党と与党がダンジョンの事に関してはろくに争わずやたらスムーズに進んでいた時期があった。しかし、それが最近になって足並みが崩れた。
そこに名前は忘れたが国会中継で流れて一時期ワイドショーの中心になった議員の発言があった。『この売国奴め』と。
ダンジョンに関する法律を邪魔することが国を売るということに直結するのか?そうであったとして、周りの議員たちが一丸となってその議員の発言を止めていた。
「ダンジョン……もしかして思っていた以上にやばいところだったり……?」
『しかし、今日の一件で冒険者をやめるという選択肢が取りづらくなりました』
「やっぱり?」
『はい。仮にも現職大臣に直接言われたことを無視するというのは、この国で生きていくうえで危険です。あちらは裏から手を回すことも、適当に罪を作って法的に罰することもできるのです』
「え、いや、ここ法治国家なんだけど……」
『できるかできないかで言えば、できるでしょう。しかも、今彼は焦っています。リスクを無視してでも行動に移す可能性が無視できない程度には』
マジか。いやマジか。
思わず頭を抱える。なんなんだ。こちらはただの高校生だぞ。なんでそんなわけわからんことに巻き込まれなければいけないんだ。
「ど、どうしよう紅蓮、どうすればいい?」
『ひとまず、彼の思惑にのるしかないかと。今まで通りダンジョンに潜り、いざという時の為に軍資金の確保と戦力の拡充に努めましょう。いかなる場合になっても対応できるよう、可能な限り備えるのです』
「わ、わかった」
やることは今までと変わらない。ダンジョンに潜り金を稼ぎ、使い魔を増やすか持っている使い魔の強化をするのだ。
「そういえば、紅蓮はダンジョンがらみのやばいネタってなんだと思う?」
興味半分、知っておいて対策したい半分で聞いてみると、紅蓮は一瞬考えた後ペンを動かす。
『可能性を上げだしたらキリがありませんが、私としては、モンスターの増えすぎが問題なのではないかと愚考します』
「モンスターが?」
『はい。冒険者はこれだけいて狩っているというのに、ダンジョンのモンスターが枯渇したという情報は聞いたことがありません。現状、ダンジョンではモンスターは無限わきしている状態です』
「じゃ、じゃあ、倒す数と出現する数が合わなくなったら」
『あふれだす。その可能性があります』
「いや、けどそれはありえないだろ。たしか、モンスターはダンジョンの外には出られないはずだ」
前に世界中の研究機関がモンスターをサンプルとして捕獲し、研究所に持っていこうとしたらしいのだ。
スキルで眠らせてつれだそうとしたら、見えない壁に阻まれて運んでいた人は出られたのにモンスターは入口に取り残されたのだ。
モンスターは檻の中に入れていたのに、出ようとしたらモンスターだけ壁にぶつかった後、檻を通り抜けて地面に転がったそうだ。何度繰り返しても同じ結果になり、結果理由はわからないがモンスターはダンジョンから出られないとわかったはずだ。
『はい。現状モンスターがダンジョンから出ることはできません。しかし、その理由がわからない。では、もしもその見えない壁が消えてしまったら?』
「そ、それは」
ダンジョンや使い魔にも言えることだが、突然なんの前触れもなく現れたのだ。逆に突然消える可能性だってある。
なら、その壁だって突然消えるかもしれないんじゃないか?
『政治家たちの思惑が、ダンジョンが消える前に稼げるだけ稼ぎたい。というものであれば構いません。しかし、ここは最悪を想定すべきです』
「も、もしもダンジョンからモンスターがあふれ出したら、どうなるかな」
喉が渇く。気づけば背中が冷たい。いつのまにが汗をかいていたようだ。
『世界中の確認されているダンジョンの数とそのランクを考えますと、国家としての機能を保つことは不可能かと』
あたまいたくなってきた。




