第二十四話 理由
第二十四話 理由
サイド 矢橋 孝太
とりあえず母の冒険者になりたいどうこうは父に任せ、電話に出ることにした。
「もしもし、矢橋です。お世話になります」
『ああ、矢橋君。すまないね休みの日だというのに』
電話口の小沢さんはなんか疲れた感じだが、正直間が悪すぎてそれどころではない。
「えっと、ご用件は……?」
『先先週にCランクダンジョンのボスモンスターを倒したそうじゃないか。おめでとう』
「ありがとうございます」
『それで、カードをドロップしたというけど、本当かい?』
「はい。事実です」
市役所にも登録を済ませてある。まさか、よこせとかそういう話だろうか。それだったら困る。金剛にはもうかなり愛着があるし、紅蓮も兄弟ができたみたいで喜んでいるのだ。その時は周囲にKであることがばれたとしても抗議しなければ。それこそネットに拡散とかして。
『それについても、おめでとう。ああ、言っておくけどわたしてくれとか頼むつもりはないよ。B以上のカードを取引するのはまずいし、申し訳ないしね』
その言葉にほっとする。だが、そうだとしたら一体何の用だろうか。
『ただ、その使い魔について質問したいことがあってね、来週にでも東京に来てほしいんだ』
「東京、ですか?」
『うん。Bランクの使い魔を新たに得たとあってはね。一応確認とかしなきゃいけないから。これはBランクにあがった冒険者全員にやっていることだから、安心してくれ』
何をどう安心すればいいのかわからないが、とりあえず頷いておこう。長い物には巻かれておいた方がいい。
「わかりました。えっと親も一緒の方がいいでしょうか」
『そうだねぇ……未成年だし、一応どちらかついてきてもらっていいかな?親御さんの都合がつかない場合とか、連絡してくれ。こちらで調整しよう』
「はい、ありがとうございます。それで、場所と日時のほうなんですど……」
それから五分ほど話して、電話をきる。
なんとなく肩書が多い人と話すのは緊張する。ほっと息を吐いてから、はっとした。
母の件がどうなったのか、頭からすっぽ抜けていた。
急いでリビングに戻ると、両親が難しい顔で向かい合っていた。
「えっと、どうしたの、二人とも」
状況がわからないので、とりあえず母に声をかけてみる。
「それが、中々賛成してくれないのよ。別にいいじゃない、冒険者になるぐらい」
「いや、ぐらいって……」
冒険者なめすぎだろう。自分のことを心配して冒険者をやめるよう言ってきた母はどこに行ってしまったのか。
「冒険者って、危ないよ?死人も行方不明者も出ているし、事件だって起きている」
「けど、二人とも冒険者やっているじゃない。孝太なんてまだ子供でしょうに」
そういわれると言い返しづらいが、父はむっとした顔で反論する。
「私のは仕事でやっているんだ。遊びでやっているんじゃない」
いやそれだと自分は遊びでやっていると聞こえるんですが?
だが、よく考えたら自分が冒険者を続ける理由もない気がしてきた。会社との契約はもう切れたし、戦力の強化も金剛が加わったことでほぼ解決した。これを機に今度こそ冒険者を引退するのもいいかもしれない。
「父さんの言う通り、会社との契約とかあったから続けていただけで、この前契約も終わったから僕はもう引退するつもりだよ」
「え?」
なんか父が驚いてこっちを見ているが、今は無視である。
「というか、母さんはなんで冒険者になりたいの?前に危険だからやめろっていっていたじゃん」
「経済的に自立したいのよ。家で家事しているだけじゃなくて、昔みたいに働きたいの」
そういえば、自分が生まれるまでは母も仕事をしていたらしい。今は自分も大きくなったし、家事に関してはほぼドロシー達がしてくれているから、時間はあるだろう。
「けど、別に冒険者じゃなくてもいいじゃん」
「この歳で働ける場所なんて限られているし、資格とかもこれといってないから、しょうがないじゃない」
「だからって冒険者はやめておいたら?もっと別のとことか」
「別って、例えば?」
具体的にどこときかれると、全然浮かばない。それこそスーパーのパートとかだろうが、最近使い魔購入のためにバイトを掛け持ちしている若者が多いらしく、どこも人では余っているとテレビで聞いた気がする。
「……いいんじゃないか、冒険者をやっても」
父が突然賛成派にまわってしまった。
驚いて振り返ると、何かを察したような、悲しそうだけどすこし清々した顔をしていた。いやどういう感情してたらそういう顔になるんだよ。
「父さん?なんで急に……」
「別に、よほど危険なランクに挑むならともかく、そこまでの無茶はしないんだろう」
母に目を向けると、こっちも似たような表情をしていた。だからどういう感情?口にだして説明してくんない?
「もちろんそのつもりだけど……」
「なら、いいじゃないか。子供じゃないんだ、大丈夫だろう」
そういって父は自室へ戻ろうとする。
「いや、ちょっと待ってよ。おかしいでしょ、自立したいから命かけるって。というか二人ともなに悲しそうな顔しながら話し進めてんのさ」
父が振り返り、苦笑をうかべる。なんかイラっときた。
「まあ、大人には色々あるんだ。気にしなくていい」
「いや、そんなこと言われても」
話は終わりとばかりに、父は自室へと言ってしまった。
「母さん、僕はまだ賛成してないし、それでも冒険者になるっていうならメルは返してもらうけど」
ドロシーと右近についてはもうあげたものなので返せとは言わないが、それでもメルに関しては預けているだけという事になっている。返却を要求するのは筋が通っているはずだ。
「『あれ』は、あんたがいざって時まで預かっているって話でしょ」
「かと言って、ロストの可能性があるダンジョン探索につれていっていいわけではないと思うけど」
「いやよ、そしたら家の事はどうするの?」
一瞬なにを言っているのかわからなかったが、すぐに持ち直す。
「ドロシーがいるし、母さんも。僕やフェリシアも手伝うから」
「女は家事だけしていればいいっていうの!?」
突然大声をだされてしまいびっくりした。母のこんな声、最後に聞いたのはいつだっただろうか。
「そうじゃない、そうじゃなくて」
「私は今まで散々家の事やあんたたちの世話で苦労してきたんだから、これぐらいいいじゃない!」
そう言われると、どう返していいかわからない。なんだかんだマザコンの気がある自分は母に甘えたことは何度もあるので、強くは言えない。
母が、そんなふうに思っているなんて考えたこともなかったから。
「っ……とにかく、この話はここで終わり。無理な探索とかはしないから、それでいいでしょう」
「あ、ちょっ」
それだけ言って母は家を出てしまった。
また帰ってくるのはわかる。けど、そのままどこかに行ってしまうような気がして手を伸ばすが、結局、何も掴むことはできなかった。
「ぐれ~ん」
自室に戻り、頼みの綱である紅蓮にすがりつく。
「今度は母さんが冒険者になるとか言い出したんだけど、どうすればいいかなぁ……」
正直精神的にかなりきている。両親が必要もないのに危険地帯につっこもうとして気が気ではない。
自分が冒険者になった時二人もこんな心境だったんだろうか。だとしたら申し訳ない。だが言い訳をさせてもらえるなら、自分の時は他に選択肢がなかったような気もする。
『とりあえず、事情をうかがってもいいでしょうか?』
紅蓮がボードにそう書いてきた。そういえばそうだ。紅蓮はリビングでの出来事を知らない。
とりあえず自分からの視点になるが、状況を説明していく。
『ご両親の表情から読み取れたものを、もう一度お願いします』
「え、いや僕もよくわからなかったんだけど……何かを察したような、悲しいような、けどなんとなく清々しくもあるような……自分でも何を言っているのかわからないけど、そんな感じ?」
紅蓮にそういうと、心なしか焦っているような気配を感じた。
あの紅蓮が、どういうわけかかなり困っている。自分よりはるかに頭がいいはずの紅蓮でも、今回の一件は難しいらしい。
『申し訳ありません。私では、この一件を解決することはできません』
「いや、こっちこそごめん。突然無茶ぶりして、けど、ちょっとだけでもアドバイスが浮かんだなら教えてほしい。なにか思いついたりしない?」
数秒程考え込んだ後、紅蓮がボードに何かを書いて、すぐに消した。そして、もう一度書き直す。
『ご両親ともっと話す時間を増やしてみるぐらいしか浮かびません。当たり障りのない話で構いません。冒険者関連にはふれず、天気でもご友人との話でも、なにか話してみてください』
「そ、そんなんでいいの?」
『とりあえず会話が必要です。まず行動にでなければこの状況、好転することはありえません』
そこまでなのか。そこまでまずい状況なのか。
ちょっと眩暈がしてきて、ベッドに腰かける。まさか父の件が済んだと思ったらこんな爆弾があるとは思わなかった。
「あー、そういえば」
小沢さんに東京に来るよう言われていたのだ。たぶん権利とか法律とかのめんどくさい話になるだろうから父に一緒に来てもらいたいのだが、今の感じだと言い出しづらい。
『小沢氏の件ですか?』
「うん。金剛の件で東京に来いって話なんだけど、親にも来てもらった方がいいって話でさ。なんかBランクに昇格した冒険者には全員やっているらしいけど」
紅蓮が何かを考え込み始める。何かまずい点でもあったのだろうか。
「紅蓮?もしかしてこれってやばい案件?」
『いえ、危険はないかと。ただ、少ししがらみが増えるかもしれません』
しがらみ?どういう事だろうか。
『おそらく、相手としては主を戦力として取り込みたいと考えています』
「戦力って……冒険者としては強い部類だろうけど、政府なんだからもっと強い人たちをかこっているんじゃないの?特殊部隊とか」
『間違いなくそうでしょう。しかし、戦う力は常に高めなければいずれ役に立たなくなります。新しい戦力はあった方がいい。直接的に戦力に加えてくることはなくても、首輪をゆるくつけたり、他にいかれないように粉をかけるぐらいはするでしょう』
「他?他って、国外とか?」
『それもありますし、国内にも様々な思惑をもった組織があります。その牽制ぐらいはするかと。おそらく、小沢氏からの連絡が遅れたのも、何らかの調整や妨害があったからでしょう』
「そ、そんな大げさな」
紅蓮がボードに何かを書こうとして止まる。どうしたのだろうか。
少しの間こちらをじっと見た後、サラサラと書いていく。
『主は、それだけの舞台に上がったのです。貴方は、もう日陰でくすぶっているだけの人間ではない』
そう言われて思ったことは、疑問だった。
明るい場所に行きたいと思ったことはある。今だって、クラスのAグループを見て羨んでいる。
皆にちやほやされたいし、彼女だって欲しい。フェリシア達がいるが、それはそれとして街中を一緒にデートとかしたいのだ。
だが、それに紅蓮達を使ってなるとういうのは、なんとなく違う気がした。自分が凄くなったんじゃない。スキルと使い魔が凄いだけだ。きっと、ここで心から喜んでしまったら、踏み外してしまう。
散々父にも言った言葉だ。調子に乗ってはいけない。高橋のような格上は存在する。ハンドラーとしても、スキルをぬけば自分は平凡だ。
「ありがとう、紅蓮。けど、僕はたいした人間じゃないんだ。凄いのは、紅蓮達だよ」
紅蓮のペンが、ピクリと震える。
これは、悲しんでいる?困っている?けど、少し嬉しそうな気もする。紅蓮とのつながりからほんのり読み取れる感情はそんな感じだ。
何故そう思っているのかわからない。自分は何か変なことを言っただろうか。
『主、私は貴方の力です。フェリシアも、レイナも、稔も、金剛も全員貴方の力です。好きに使ってもよい存在なのです。スキルとて、貴方が手に入れた貴方のもの。己の力として振る舞うことに迷う必要などありません』
珍しく筆圧が強い。ペンとボードから少しミシって音がした。
確かに、そう考えてしまう自分もいる。調子にのらないでいられる自信はない。
昔は、自分を上のステージに連れて行ってくれる都合のいい『力』が欲しかった。けど、今はちょっと違う。自分自身が努力して手に入れた力でなければ、ただの道化ではないかと思うのだ。
別に、人生観が変わるような出会いがあったとか、凄い恩師がいたとかはない。この変化は色んなアニメとか小説を読んで感じただけの、どこにでもあるような考えの変化だ。反面教師な主人公を色々見てきたというのもある。
「えっと、けどそれって偶然とか、貰い物的なものじゃない?スキルや紅蓮を手に入れるためになんの努力もしていないし、それから先に得たものは紅蓮とスキルが優秀だったからだ。僕自身が頑張ったって胸を張れるのは高校受験ぐらいだよ」
あれは本当に頑張った。今通っている高校は地元では頭のいい進学校なのだ。頭の出来も平凡な自分ではわりとギリギリだった。あの頃は紅蓮に勉強を教わることもできなかったし、塾の先生や支えてくれた両親、あとついでに学校の先生にも感謝である。
『しかし、それは才能ともいえます。誰も、才能を得るために努力したと言える者はいません。才能とは、授かるものです』
「あー、ごめん。この話はここまでにしよう。めっちゃ脱線してる」
このまま紅蓮と話していると、調子にのる自信がある。天狗も真っ青なぐらい鼻をのばすだろ。
小沢さんの話が危険なものだったりこれといって不利益になるものじゃないなら、今の問題はどうやってこの気まずいなか父に東京へ一緒に来てもらうかだ。
紅蓮が頭をポリポリとかく。なんか生暖かい目で見られている気がするが、理由がわからないしスルーだ。
「で、父さんと東京に行きたいんだけど、どう誘えばいいと思う?気まずいんだけど」
『失礼しました。お父上の件は、普通に誘えばいいかと。ただ、お母上の前ではよろしくない。今ダンジョンに関する話題は刺激してしまう結果になります』
「だよねぇ……」
まあ、予想通りの回答だ。それしかないだろう。あと、母とダンジョンの話題は今したくない。何故かもう冒険者になるの前提みたいな事になっている。
少し心配だがちょうど母が家を出ているので、今のうちに父にお願いすることにした。
「ありがとう紅蓮。突然無理なお願いしてごめん」
『いいえ。こちらこそお力になれず申し訳ございません』
自室を出て、父の部屋に向かう。その足取りは重いが、それでもさっきよりは幾分かマシになっていた。
「経済的に自立、なあ」
学校の昼休み、いつものように中庭の隅に集まって昼食をとる。最近、というか母にメルをわたした次の日から母の作った弁当を食べていない。
味は正直今の方が明らかに上だ。金取れるレベルだと思う。だが、なんとなく寂しい。
「そうなんだよ。危ないからやめとけって言ったんだけどさぁ」
「まあ、俺らからしたら激しく同意だが、お前でもそんな危ないって感じるの」
「当たり前だろ?世の中には紅蓮より強い奴がいるってわかっているんだ。そういうのに突然襲われたら危ないだろ」
ダンジョンそのものというより、ダンジョンで行われる犯罪の方が怖い。ダンジョンの危険度は自分で選べるが、襲撃者の強さは選べないのだ。万一高橋クラスが思いつきで襲ってきたら前に予知した通りの結果になるだろう。
「そういうもんか……。にしても両親とも冒険者ねぇ」
「いっそお前がパーティー組んじゃえば?それなら近くで守れるだろ?」
「それは考えたんだけどさぁ」
あの後、自分が二人とパーティーを組んで活動すればいいのではないかと考えた。そして、すぐにそれは無理だと悟った。
「父さんは会社の仕事で行くから平日の昼間。母さんも行くとしたら同じ時間帯。どっちもついていけないんだよなぁ」
「「あー……」」
学生の本分は勉学である。とまでは言わないが、現代社会で生きていくには学歴は大事だ。大卒が基本の現代において、高校で中退になんてなったら就職とかどうすればいいのだ。
冒険者一本で食っていく事はできるだろうが、なんとなく大学は卒業したいしいざという時のために選択肢は多い方がいい。
「じゃあ、その二人で組んでもらったら」
「あー……」
たしかに、それはいい案かもしれない。だが、あれ以来両親の空気がすごい冷たい。
場を盛り上げようと紅蓮のアドバイス通り天気の事とかテレビの芸能人の事とか、佐藤と滝沢が特殊な性癖を持っているとか話しているのだが、なしの礫とはこのことかと身に染みている。
「……もしかして、お前の両親」
「ふんっ!」
滝沢が気まずそうに何かを言おうとして、佐藤が裏拳を鼻の下に叩き込む。
「え、ちょ」
「な、なにすんだよ!?」
「おう、とりあえず黙っとけ」
「あ、すまん」
なんか二人が目と目で通じ合っている。キモイ。
「それはそうと、お前も冒険者やめるってマジ?」
「正式にライセンスを返上するつもりはまだないよ。稔の事もあるし。ただ、ダンジョンに行く回数は減らそうと思う」
正直、稔の趣味以外でダンジョンに行く理由が思いつかない。せいぜいレイナがリアルゾンビ退治に乗り出すぐらいだろう。
戦力も現状揃えられる範囲でかなりのものが用意できた。お金も高校生どころか社会人基準でもかなり稼いだ。あとは母が冒険者になるのだとしたら、最初ぐらい一緒に潜るぐらいだろう。
使い魔達との時間を増やしたいし、友人二人とも最近遊べてない。
「あ、じゃあさ、帰りにゲームやよろうぜ」
「なんかでたっけ?」
「それを確かめに行くんだよ。案外掘り出し物が見つかるかもしれないし」
「俺はモンスター成分多めな子がでるゲーム探すわ」
「じゃあ俺は熟女もの探すわ」
「なら僕はおっぱいものを探す。ちっぱいもいい。けどおっぱいはもっといい」
「「この変態め」」
「お前らが言うな」




