第十七話 死の運命
第十七話 死の運命
サイド 矢橋 孝太
スキルが発現した後、悪夢を見なかった日がないわけではない。学校を何故か全裸でスニーキングするはめになる夢や、自分が宇宙人にビームで殺される夢だって見たことがある。
だが、今回の夢は違う気がする。あまりにも普段ダンジョンで発動する未来視と感覚が同じなのだ。つまり、スキルが就寝中発動し夢として見た可能性がある。
学校についてすぐ二人の姿を確認して安堵した後、昼休みになって打ち明けることにした。
「俺らが死ぬ夢を見た?」
「ああ。ただの夢じゃない。魔眼でみた夢の可能性がある」
そう伝えると、二人は顔を見合わせて考え込む。
「そう言われると無視はできないよなぁ……」
「なあ、場所や死因はわかるのか?」
夢の内容を思い出す。今でも鮮明にその光景が目に浮かぶ。
「場所は多分ダンジョンのなかだ。死因はリザードマンの雄かな?それに切り殺されていた」
「う~ん……」
「俺らが行くダンジョンはEランクのダンジョンだし、リザードマンはでないはずなんだが……」
二人とも迷っているのだろう。当然だ。いきなり自分が死ぬ夢を見たから気をつけろと言われて、本気にする奴はそうはいない。
「じゃあ、とりあえず今日ダンジョンに行くのはやめとくか」
「そうだな。万が一もあるし」
そう結論がでて昼食を再開する。とりあえず信じてもらえてよかった。自分でも確証があったわけではないが、妙に胸騒ぎがしたのだ。
こうして一日を無事終えた。今日は自分もダンジョンへは行かず、フェリシアとゲームしたり紅蓮に勉強をみてもらっていた。
その日の夜も、友人たちが死ぬ夢を見た。今度はオークにひき殺される姿だった。
翌日二人に話すが、その顔は半信半疑といった感じだ。
「またCランクのモンスターなぁ……」
「さすがにただの夢じゃないか?」
二人がそう思うのも頷ける。自分とて信じられないのだ。これではまるで二人が死ぬのは避けられない未来かのようではないか。
「二人とも、またダンジョンだった。だから……」
「かといって今日も行かないってのもなぁ」
「もう少しで、Dランクのカードが買えそうなんだ。だから、できれば今日も休むってのは避けたい」
暗に今日は譲る気はないという事だろう。冒険者がどのダンジョンに行くか、ダンジョンに行かないかは、本人の意思が尊重される。
「俺たちも早くお前とまたパーティー組みたいんだよ」
「ああ、絶対に追いつくって決めているからな」
そう言われてしまうと反論しづらい。自分だってまた三人でダンジョンに行きたいのだ。
「じゃ、じゃあ、今日だけ、僕もついていく。本当にただついていくだけで攻略には手を出さない。それならいいだろう?」
だからといって引き下がるわけにはいかない。二人が死ぬ可能性がある以上、動かずにはいられない。
「まあ、そういうことなら……」
「そこまでしなくても、いやいいけどさぁ」
不承不承ではあるが、二人とも納得してくれた。本当は警察に相談したいぐらいなのだが、なんと説明すればいいのかわからない。
以前も来た事のあるEランクダンジョンにやってきた。といってもこの辺でEランクはここ含めて二つだけなのだが。
問題なくダンジョンの攻略は進んでいく。前衛のリザが前で主に戦い、マリー先生がアルミラージの不意打ちを首から上を狼にすることで察知している。
Cランクの使い魔であるリザならモンスターハウスや不意打ちで滝沢をやられない限り、このダンジョンでどうにかなることはないだろう。そして、モンスターの索敵はある程度近づけばマリー先生の鼻でわかるし、万が一負傷しても治癒魔法もある。
思っていた三倍はいいチームワークだ。ちょっと寂しい。
二人と二体の様子を、少し下がったところから見ている。今回は紅蓮を出していない。もしも自分の想像が正しかったなら、あまり目立つわけにはいかない。だが、それでも不安なのでレイナと稔を出しておく。レイナはかなり目立つかもしれないが、紅蓮よりはましのはずだ。
レイナに魔力感知で周囲を索敵してもらい、たまにこちらへやって来るモンスターを稔につぶしてもらう。
「何か違和感とかある?こう、オークとかリザードマンとか」
「不明です。ただ前に一つ、後ろに一つ二人組の冒険者がいます。使い魔を出しているようですが、種類までは判別できていません」
挟まれている。数は向こうが四でこちらが三。二人に伝えるべきだろうか。いや、自分の勘違いの可能性もある。
そうこう考えているうちに、二人と離れてしまった。まあ、少し走ればすぐに追いつける。
「っ、マスター、前の冒険者から何かがご友人に近づいています!」
レイナの焦った声に、咄嗟に判断を迷う。どうすべきだ?とにかく二人に知らせた方がいいのか?だが少し距離が開いてしまっている。
「紅蓮!」
とにかく困ったら紅蓮だ。それは最初から決めていた。Aランクの速さは伊達ではない。
直後、滝沢が見えない何かに切りつけられる姿を予知した。だが視覚の共有化は済ませている。ならば、紅蓮にも当然その光景が見えている。
紅蓮が次の瞬間には滝沢の傍に移動しており、襟首を掴んで強引に場所を入れ替える。それとほぼ同時に、金属音と火花が紅蓮の鎧から発生する。
「おわぁ!?」
悲鳴をあげる滝沢をよそに、紅蓮が虚空を掴んだ。そのまま全力で握りしめると、何か硬い物が折れたような音が響く。
紅蓮の手の中に、前足の折れた二足歩行の猫が現れる。ケットシー。猫型のモンスターで素早さが売りの接近戦と魔法の扱いにたけたモンスターだ。
だが、ケットシーのランクはC。何より冒険者の方からやってきた。それはつまり、
「敵だ!挟まれてる!」
咄嗟に叫んで、後ろに振り向く。前は紅蓮がいるので問題ない。問題は後ろの二人だ。
物陰からモンスター、いや使い魔が飛び出してくる。ゴブリンより更に小柄な緑色の小鬼、グレムリン。Eランクではあるが、このダンジョンにはいないはずだ。その能力は電撃魔法。つまり、機械の破壊だ。
「のぉ!?」
グレムリンが放った電撃を、稔が前に出て受けてくれる。電撃はその特性上防ぎ辛い。
「誰ですか!?こちらは人間です。どういう意図で攻撃しているんですか!?」
一応声をかけるが、応答はない。ただ、かわりに使い魔がさし向けられてきた。
ライカンスロープとオーク。どちらもCランクの使い魔だ。ライカンスロープはワーウルフより獣よりの見た目をしており、器用さの代わりに速さと筋力が高い。何が言いたいかといえば、稔だけでは抑えきれない。
「ブーステッドツリー!」
スキルを使いながら前の方をみれば、首を折られたケットシーが地面に転がり、切りかかったリザードマンが真っ二つにされているところだった。
「紅蓮!」
向こうを片付けられたのならちょうどいい。紅蓮を呼び戻す。だが、それより先にライカンスロープが突撃してくる。
「そこぉ!」
速さで大差がつけられていても、稔のメイスはライカンスロープの進路上に振るわれた。未来視で見えていたのだろう。下がらせることに成功する。
しかし、その脇をオークが走り抜ける。だが、レイナが魔法を発動させる方がわずかに速い。
「ウィンドカーテン」
風の障壁が突進を受け止める。拮抗は一瞬。次の瞬間には到着した紅蓮がオークの首を刎ねていた。
「おらぁ!」
稔がライカンスロープを殴りとばした。速さが補えるなら、それ以外はスキルの分稔が勝っている。勝利は時間の問題だろう。
「レイナ、犯人は」
問いかけるが、首を横に振られる。逃げられたらしい。
「だぁ、逃げんな!」
ライカンスロープも撤退しようとしている。追いかけても犯人にはたどり着けないだろうから、追いはしない。だが、わざわざ見逃す理由もない。
「紅蓮」
炎を噴き出して加速するハルバートがライカンスロープの背に突き刺さり、爆発する。
「はぁ……」
思わずため息をつく。すると、緊張の糸が切れて腰が抜けてしまった。
「マスター」
すぐにレイナが支えてくれる。未来視の結果から、いるはずのない使い魔がいることが分かっていた。その理由として、人為的なものだと予測をたてていたから動けたが、そうでなければあそこで固まっている二人の様に自分も呆然としていたかもしれない。
「ありがとう、レイナ」
「いえ。このまま移動します」
レイナの肩を借りながら二人と合流する。
「大丈夫か?けがは?」
「だ、大丈夫だ。問題ない」
「それよりお前こそ大丈夫かよ!?」
「いや、これ腰が抜けただけだから」
どうやら全員無事に生き延びれたらしい。だが、まだ油断はできない。ダンジョンを出るまでいつまた襲撃があるかわからないのだ。
「とにかく、ダンジョンを出よう。そんで警察と組合に今回の事を伝えないと」
「あ、ああ。そうだな」
「なんで俺たちが狙われたんだ?おかしいだろ……」
佐藤はともかく、滝沢の方は混乱している。使い魔たちは襲撃に対して警戒を強めているので落ち着かせる余裕はないし、自分や佐藤も混乱しているし。
「わからない。けど、とにかく移動しよう。警察に任せれば大丈夫だ」
自分にも言い聞かせるように言って、移動を開始した。まだレイナに肩を借りながらだが。
道中、何故狙われたのか、犯人は何者なのか、もしまた襲われたらと三人で話していたが、結局結論は出なかった。
出口に近づいて、ようやく救難信号をライセンスからだせばよかったと気付く。どうやら思った以上に自分も冷静さを欠いていたらしい。
ダンジョンを出ようとして、滝沢が待ったをかける。
「待ってくれ。ダンジョンを出るってことは、使い魔を消すってことだよな?」
「そらそうだろ。早く警察に行こうぜ」
佐藤が焦れたようにいうが、滝沢の言いたいことが分かった。
「つまりさ、また見えないやつが襲ってきたらどうするんだ?その時どうすればいいんだ?」
その言葉に、佐藤も固まる。確かにその通りだ。相手はこちらを殺しに来ていたのだから、ダンジョン外で使い魔を放ってくる可能性もある。ダメージの肩代わりもない状態では、自分はスキルの分死ぬ前に紅蓮を呼び出して間に合うかもしれないが、二人の場合、自分が予知してそれを伝えるか紅蓮を送るしかない。それでは間に合わないかもしれないのだ。
「ここから通報してお巡りさんに来てもらった方がいいんじゃないか?」
「確かに、電話で事情を伝えるなり、来てもらってカメラを渡した方がいいかもな」
二人の言う通りだ。早速スマホからここのダンジョンの受付に電話する。
『はい。いつもお世話になっております。こちらは―――』
受付の人に事情を伝えると、ダンジョンストアに併設されている交番から警察官を派遣してくれるとのことだ。
お礼を言って警察の人が来てくれるまで、三人で背中合わせになり使い魔の影に隠れながら、じっと待った。実際はほんの五分もかからなかったのだが、とても長く感じられた。
それから警察の人と一緒にダンジョンを出て、着替えた後警察署に行った。最初話を聞いてくれていた刑事さんだったが、何か連絡があった後別の人に代わってしまった。
その人に詳しく事情を話した後、犯人逮捕の為今回の件を口外しないよう『お願い』された。
未成年なのに親もよばず、それどころか親しい相手にも話さないよう誓約書まで書かせてきたのはどういうことなのかと聞いたが、守秘義務だとか、事件解決のためだとかで教えてはくれなかった。
警察署を出て家につく頃には日が暮れていて、母に叱られた。それがどこか嬉しくて涙がでそうになったが、なんとか堪えて部屋に向かった。
着替えもせずベッドに寝転がる。
「紅蓮、今日のことなんだけど」
紅蓮を呼び出して話そうとするが、遮るように電話がかかってきた。
「佐藤?」
通知画面に映った友人の名前に疑問符を浮かべる。さっきまで一緒にいたのにどうしたのだろうか。
一抹の不安を抱えながら電話にでる。
「もしもし、どうした?」
『あー、いや、なんていうか……』
歯切れのわるいかえしに、とりあえず緊急事態という事ではないのだろうか?
「何かあったのか。まさか犯人が」
『いや、そういうんじゃないんだ。ただ……』
それから五分ぐらい無言が続く。話の続きを促そうにも妙に悩んでいる様子で言い出せない。
『俺、冒険者やめようと、思うんだ……』
「えっ」
予想外の言葉に、スマホを取り落としかけた。




