第十六話 それぞれの過ごし方
第十六話 それぞれの過ごし方
サイド 矢橋 孝太
レイナと稔を仲間に加えて一カ月が過ぎ、七月になった。今年は例年より気温は高いらしいが、なんでも魔石による発電技術によって地球温暖化に歯止めがかかるかもしれないとテレビで言っていた。といっても、今は暑いし湿気も凄い。あいも変わらず過ごしやすいとは言えない季節だ。
リア充なら海だプールだひと夏のアバンチュールだとなるのだろうが、自分には関係ない話である。
だが、この一カ月でいい変化もあった。
まず、紅蓮とフェリシアのステータスが上がった。紅蓮は筋力と特殊が、フェリシアはその二つと耐久に+が入った。そして、ダンジョンで茶色の勾玉。つまり器用を上げるアイテムを二つも見つけたのだ。
この勾玉は二つとも紅蓮に使い、Bにランクアップした。これにより紅蓮も総合Aランクになりまた強くなった。いつの日かステータスオールAもあるだろうが、ここからが大変だ。
勾玉はBまでは一つにつき一段回あがるが、それ以降は三個使って+がつく。つまり必要数が三倍になるのだ。速度と器用は世界樹の加護で上がらないから、地道に勾玉を集めていくしかない。
次に、使い魔たちの趣味が見つかった事だ。
「どぉりゃぁぁぁぁああ!」
稔が雄叫びとともにメイスを振り下ろす。それをボブゴブリンが盾で受け止めるが、徐々に押されていく。
このままでは押し負けると判断したのだろう。右手に持った棍棒を稔に対してふるう。しかし、それを稔は左手で掴んで受け止めた。最悪骨にひびが入ったかもしれないが、無視して稔は棍棒を引き寄せてボブゴブリンに頭突きを入れる。
「はははははは!」
稔は額から血を流しながら楽しそうに笑う。腕も額も世界樹の加護をかけているから瞬時に治るのだが、見ていて怖い。
これが稔の趣味だ。
稔がふらつくボブゴブリンの首を掴んで掲げると、ちょうどそこに二本の矢が突き刺さる。戦闘音につられて増援が来たのだ。
ボブゴブリンがうめき声をあげて暴れるが、おそらく『火事場の馬鹿力』のスキルを使っているのだろう。稔はそのまま増援に向かって突撃する。
増援は弓持ちが二体と盾剣が一体。稔に対するように盾持ちが前に出て弓持ちが矢を射る。捕まっている仲間もお構いなしだ。
一本は盾代わりにしているボブゴブリンにあたるが、もう一本が稔の右肩にあたる。しかし一切速度を緩めることなく走り、持っていたボブゴブリンを盾持ちに投げつけると、高く跳躍した。
盾持ちは怯み、弓持ち達は咄嗟に木の陰に隠れるが、稔は落下の勢いものせてメイスをふるい、木もろとも片方の頭をたたき割る。
しかし、メイスを振りぬいて動きが止まった一瞬の隙をついて、盾持ちが後ろから切りかかる。背中を袈裟懸けに切られる稔に、咄嗟に紅蓮を向かわせようとして、気づく。
笑っている。
切られて痛いはずなのに笑っているのだ。傷は瞬く間に癒え、稔がメイスを振り回す。たまらず盾持ちがひくと、今度は矢が飛んでくる。だが、未来視の共有で見えていたのだろう。メイスで矢を叩き落すと、そのまま弓持ちに向かっていく。
弓持ちは矢をつがえる暇がないとみるや弓を捨て、矢を直接握って突き刺しに来たが、リーチの差で先に頭をかちわられた。
稔がメイスを両手に構えて盾持ちに振り返る。盾持ちはこちらを一瞬見た後、剣を稔に投げつけた後一目散に逃げだした。
数と質で負けているのだから当然の判断だろうが、それは遅すぎた。
「がああああ!」
稔が雄叫びをあげてメイスを投げつける。声に振り返ったボブゴブリンは咄嗟に左に避けた。ちょうど、木が近くて盾を構えられない位置に。
稔はメイスを投げた直後に跳びかかっいる。木とボブゴブリンの頭を挟むように具足をはいた足で飛び蹴りを叩き込んだ。
「はぁはぁ……かったぁ~」
満足げな顔で稔が両手を掲げる。その幼さが残る顔とは裏腹な超残虐ファイトだった。
稔をはじめアマゾネスはネットで調べた感じだいたいこんな感じらしいので、この子だけおかしいわけではないらしい。
ひたすら暴れる稔だったが、一応不安なのでフルメンバーで少し離れた位置で見守っていた。ただしバフはかけるし未来視も使うが。
「これでとどめです」
レイナの趣味はテレビゲームだ。それもゾンビゲー。今も世界的有名なゾンビが蔓延る町から脱出するゲームをクリアしたところだ。ゲームキャラに合わせて体を揺らすから、そのたびに動く胸元をつい目で追ってしまう。
「ふう……やっぱり銃でゾンビを撃ち殺す。このジャンルは最高ですね」
森の中が似合いそうなエルフが部屋でテレビゲームして、その内容がゾンビものってキャラ濃すぎでは?
「ときにマスター。お願いがあります」
ゲーム機を置いてレイナがこちらに向き直る。
「私に、脱出系ゾンビゲームをやらせてください」
今やったばっかりでは?
壁にはひびが入り、床には壊れた家具の破片が転がっている。廃屋のような中を、うめき声をあげながら歩く人影があった。
しかし、それを人と呼ぶことはできない。所々腐り落ちた皮膚。定まらず白濁した瞳孔。吐き出す息は死臭にまみれ、全身から腐敗臭をはなつ。
そう、この存在は、
「そんな、こんな所まで感染が……!」
グールです。ゾンビじゃありません。
やってきたのはとあるDランクダンジョン。普通Dランクのダンジョンとなればそれなりに会社から依頼を受けた冒険者が来ていたりするものだが、このダンジョンに入っているのはおそらく現在自分達だけだ。
というのも、このダンジョンで出てくるモンスターは『グール』のみである。こういったダンジョンは臭いし汚いし給金(報酬)が少ない三Kダンジョンと呼ばれている。
ではなぜそんなダンジョンにわざわざ来ているかと言えば、目の前にいるゲーマーエルフが原因だ。
いつもサイドテールにしている髪は頭の後ろでお団子にし、手には武骨なマグナムが握られている。
当然、このマグナムはモデルガンだ。銃刀法もあるがそもそもダンジョンには銃器の類は持ち込んではならないとされている。このモデルガンもきちんと受付で確認してもらった後持ち込んだのだ。かなり不審そうな目でみられたが。
「ウィンドランス」
レイナが物陰から銃を構え、スキルを放つ。不可視の槍は正確にグールの頭を射抜き、鼻から上を吹き飛ばす。冒険者になって多少耐性がついたと思ったが、人間に似た見た目のモンスターが死ぬところは結構精神的にくるものがある。
素早くクリアリングしながらレイナが進む。魔力感知で周囲のモンスターの居場所はわかっているだろうし、そもそも素人目に見ても雑なクリアリングだからどう考えてもかっこいいという理由以外ない。
まさかゲームに飽き足らず実際にゾンビゲーみたいな事をしたいと言い出すとは予想外だった。ゲームのように振舞っているとはいえレイナは真剣なようだし、念のためバフをかけてある。ちなみにいつも通り紅蓮を傍に配置しているが、レイナの邪魔をしないためだろう。抜き足差し足と慎重に歩いて音を出さないようにしている。全身鎧なのに無音なのは本当に何故だろうか。
レイナはこちらを見えていないかのように動き、こまめにクリアリングしながら進む。次々とグールたちを倒していくが、適当な部屋で立ち止まって懐を探った後、舌打ちする。
「く、弾切れ……武器屋があれば」
チラッチラッとこちらを見るレイナ。もれそうになるため息をこらえて、さも今現れた風を装う。
「よお、お困りのようだなお巡りさん」
「お前は、K!」
現在、大会の時もらった特殊部隊みたいな服装で謎の武器商人役をやっている。部屋に適当に置いてあったのをレイナに見つけてきたのだ。
「宝石三個とマグナムの弾を交換でどうだい」
「くっ、足元を見て」
そういいながら道中倒したグールの魔石をこちらによこすレイナ。数をわざとらしく確認した後、背負ったリュックからティッシュの空箱をわたす。
「確かに受け取ったわ。ここをでたら逮捕してやるから覚えてなさい」
「ひひ、こわやこわや……生きて出られたら、の話だがね」
レイナがティッシュ箱を受け取って中を探った後、こちらに返してくる。それをリュックに戻して、紅蓮の横まで戻る。
「必ずここから生き残ってみせる。『結社』の野望は、この私がとめてやる……!」
そうどこかに呟いた後、レイナがまた移動する。それをできるだけ音を消してついていく。
次の部屋には三体のグールがたむろしていた。レイナは一番奥のグールに銃口を向け、魔法で射殺する。
うなり声をあげて残りのグールがレイナに気づき、襲い掛かってくる。
「はっ!」
その隙間を前転回避で潜り抜けた後、一体の頭を撃ち抜く。残り一体。しかし、そいつは距離が近すぎて魔法を唱える暇がない。ついでに銃を構える隙が無い。
「そこっ!」
レイナが腰の後ろに挿したダガーを引き抜き、グールの突き出してきた腕を跳ね上げるように切りつけ、わずかにあいたスペースに足をいれ、蹴り飛ばす。
壁に追いやられたグールが態勢を立て直すのと同時に、不可視の槍が頭を撃ち抜く。
「眠りなさい。仇はとるわ」
仇は君だが?
それからもレイナはなんか意味深な事を言いながらグールを倒していき、その間たまにこちらへやってくるグールを紅蓮がウェルダンにしながら見守っていく。
やがて、上の階層に上がる階段までやってくる。
「もしもし、ようやく通じた」
レイナが懐から(僕の)スマホを取り出してどこかしらと通話するふりをしだす。
「ええ。迎えのヘリがくるのね。わかった。恩に着るわ」
そういってスマホから耳を離すと、こちらに手渡してきた。スマホを操作して適当にダウンロードしておいたものをながす。
『バラバラバラバラバラ』
「ヘリがきた……この街から生き残れたのね……」
ゾンビもののヘリって基本落ちるやつでは?
フェリシアの趣味はゲーム全般だ。
レイナのようにゾンビゲームもやるが、配管工がお姫様を救ったり勇者が冒険したりするものもやるし、オンラインで殺人鬼から逃げるやつやレースなんかもやっている。
本人曰くオンラインの方は心理戦の勉強にもなるとのこと。正直自分にはわからないが、そういうものなのだろう。
最近だが、饅頭みたいなキャラを使ってゲーム実況をやるようになった。普段の無口な様子とは裏腹にゲームやアニメネタをまじえて軽快なトークを入力する様子に驚いた。
普段も本当はそれぐらい喋りたいのに我慢しているのだろうかと聞いてみたら、
「いえ、元々無口な方ですし、実況のトークは八割ほど捏造や偽りの設定なので喋れているだけです」
とのことだ。とりあえずもし言いたいことがあるなら言ってねとは伝えた。
実はフェリシアのゲーム実況にはまってしまったのだ。軽快なトークにプロ並みの腕前。そして二日置きに一定のペースで投稿される安定感がうりだ。
紅蓮だが、将棋だけでなくチェスや囲碁にまで手を広げていた。
それぞれで上位に入るほどの腕前は本当にすごいと思う。横で見ていて自分にはちんぷんかんぷんだが。とにかく凄いのだろう。
色々頭がいいのだなと思う紅蓮だが、実はかなり助けられている。
ダンジョンで助けられているのはもちろんだが、日常面の話だ。
「あんた、学校の勉強は大丈夫なの?」
ある日、母にそう聞かれた。
「最近よくダンジョンに行っているし、お父さんの会社から色々言われているかもしれないけど、無理すんじゃないわよ?」
心配そうな母に、ちょっと待ってもらって部屋からこの前の小テストの用紙をもってくる。
「はい、これがこの前の小テスト」
「ん?あら、あんた……」
母が驚いた顔でこちらを見てくるので、ドヤ顔でかえす。
「ヤマがあたったのねぇ」
「ひどくない?息子の頑張りにひどくない?」
あんまりにあんまりな評価に思わずツッコんでしまう。息子がいい点をとった=ヤマ勘の結果は酷くないだろうか?
「で、からくりはなに」
「……紅蓮に勉強みてもらいました」
そう、たまに紅蓮が自分の教科書や参考書をペラペラと流し読みしているのを見て、もしかしてわかるのかと聞いてみたら、あっさりと頷かれたのだ。
それから何度か躓いたところについて質問していくと、ノートに直接書き込んだり、ボードに書いて説明してくれた。
図や式をその都度書いてくれたり、覚えやすいようアニメや漫画で例えてくれることもあった。なにより、わからない所は根気よく付き合ってくれるのだ。学校の先生よりわかりやすい。
紅蓮に勉強を教わりだしてから授業が理解しやすくなったし、小テストの点数もよくなった。流石紅蓮としか言いようがない。
「あんた、ただでさえダンジョンで紅蓮さん頼りなんだから勉強ぐらい自分でなんとかしなさい」
「はい……」
その日のうちに紅蓮に勉強を教えるのはもういいと伝えると、ひどくショックをうけたようにボードを取り落とし、震えた字で理由を聞いてきた。
「いや、ダンジョンで頼り切りなのにそれ以外でもってのは悪いかなと……」
紅蓮がぶんぶんと顔を横にふる。風圧が凄い。
『そんなことはありません。この程度なんら苦ではありませんし、自分も楽しんでいます。人にものを教えるという事は、自分もまた学ぶということなのです』
二秒ほどでボードに書き込んだ紅蓮がこちらにしめしてくる。
「え、えっと、じゃあお言葉に甘えて……」
ボードを持ったままじりじりと近づいてくる紅蓮に根負けしてそう言うと、紅蓮が縦に何度も頷く。頭の炎が目の前を通り過ぎてヒヤッとした。
サイド レイナ
夜、やっていたゲーム機を置いて、マスターがリビングでご両親とテレビを見ているあいだに、詰将棋をしていた紅蓮殿とお話しする。
「紅蓮殿、少々お聞きしたいことが」
突然の問いに、紅蓮殿が首を傾げる。
「気づいておいでですよね?」
一瞬考えた後、紅蓮殿が頷く。やはりか。
「私が契約された時から、いえ、きっとその前から家の前に四人、交代でついています」
そう、マスターは監視されている。おそらくこの国の秘密警察のようなもの、公安だったか?
「マスターにお伝えしなくてよろしいのですか?最近数が増える日がありますが」
この前、紅蓮殿のランクが上がったことを市役所に登録しに行ってから、四人だった見張りが九人ほどに増えたのだ。彼らの使い魔も含めれば更に多いかもしれない。
しかし、紅蓮殿は家の中に仕掛けられた隠しカメラや盗聴器と思しき物を破壊しても、マスターやそのご家族に伝えていない。
少し考えた後、紅蓮殿がボードに書き込んでいく。
『教えても不安がらせるだけでどうにもならない。なら、教えない方がいい。害はないはずだから』
確かに、紅蓮殿の言う通りではある。紅蓮殿がいる段階で、国からの監視は決して解けることはないだろう。あくまでネットで調べた情報からの推測であるが、紅蓮殿の火力なら東京を一晩で火の海にできる。国が使い魔を用いずに従来の兵器で戦えば撃退すら不可能だろうし、使い魔を出してきても戦闘の余波で大惨事だ。
紅蓮殿は人間大のナパーム弾といっても過言ではない。これを放置する国はいまい。
そんな強力な使い魔である紅蓮殿でさえ、おそらく最強ではないのだ。もっと強力な、それこそ戦術核にすら匹敵する使い魔もいるかもしれない。考えれば考えるほど政府の重鎮たちが頭を抱えている姿が目に浮かぶ。
それでも、国もそういった強い使い魔による部隊を組織しているのだろう。でなければ監視にとどめるなどという中途半端な措置はすまい。
「紅蓮殿の言う通りだが、我らのマスターは孝太様だ。その意見を聞きもしないとはいかがなものか」
本来なら、紅蓮殿を無視してマスターに報告すべき案件だ。それほど使い魔にとって契約者は重い。
何故そこまで契約者に絶対の忠誠を誓っているのか、使い魔側もわからない。ただ『そうしなければならない』『それを望まれて作られた』。使い魔にとってこれらは必ず持っている感情だ。たとえ死ねと命令されても従う。だが、使い魔を使役することの否定だけは決して容認できない。契約の解除はよくても、使い魔を使役するという『行為』は絶対だ。それが契約者の死を招くことになっても。
そして、そういう感情は後天的に契約した使い魔よりも、先天的に契約した使い魔の方が重い。
先天的使い魔は、少なからず契約者の素質と願望が影響している。この素質とはべつにその者の強さや器には関係しない。サッカーや歌の才能と同じだ。召喚の才があるかないか。召喚にのみ影響する才能である。
願望については、例えば、ゴブリンを呼び出した者は『自分に付き従う者』を求めたのだろう。エルフを呼び出したのはおそらく『美しいパートナー』を欲したのだ。
そして、予想だが紅蓮殿に込められた願望は『自分だけのスーパーヒーロー』。マスター専用のヒーローであるこの使い魔は、いかなる状況でもマスターを優先し、自分の身を粉にして守り抜く。そのためだけに産まれた存在なのだから。
それほどの存在だからこそ、マスターに報告する前に意見を聞く必要があった。
「紅蓮殿が言うのなら、私も従いましょう。しかし、もし必要と判断したら迷わずマスターにお伝えします。今度は紅蓮殿を通さずに、です」
『構わない。私は君の契約者でない以上、命令をする権利はない。相談してくれたことに感謝する』
それだけ書き込んで、紅蓮殿はまた詰将棋をしはじめた。
マスターも変わった星の下に産まれたものである。
紅蓮殿もそうだが、マスター自身のスキルも反則じみた力を持っている。世界樹。それは神話にさえでてくる文字通り『世界そのもの』である大樹、その枝を名乗るスキルなのだ。限定的な未来視でも十分だというのに、このスキルは反則的だ。
アマゾネスである稔が同ランクのモンスターを相手に多対一ができたのも、このスキルによる恩恵が大きい。なんせ、一時的に即死以外では死なない使い魔を作れるのだ。しかも、強力なバフと共に。
もし紅蓮殿がいなくても、マスターは監視されていたかもしれない。いや、紅蓮殿という万が一にも暴れられてはならない存在がいなければ、とっくに権力者に確保されていただろう。
マスターを貶すつもりはないが、彼はスキルと使い魔以外まぎれもない凡人だ。これは使い魔全員の共通認識である。凡庸な頭脳に、秀でているわけでもない容姿。身体能力も同年代の域をでず、偉人や超越者の器をもつわけでもない。色欲に弱いがそれのみに振りきれるほどでもない。
あれだけのスキルと紅蓮殿を持っていて、それほど増長せずにいるのは美点ではあるが、それは自己分析ができているというよりただ小心者なだけだ。戦場では生き残るタイプだが、英雄にはなれまい。
契約してから一カ月程度でわかってしまうほど、マスターは凡人だ。そんな彼がこれだけの『力』を持ってしまった。それが今後どのように人生を捻じ曲げるのかわからない。
もしかしたら平凡で平和な人生を送れるかもしれないが、高確率で事件の方からやってくるだろう。
だが、関係ない。マスターが戦場に赴くならついていくし、地獄におちるなら一緒におちる。それが使い魔というものなのだから。
「あっ」
操作を再開したゲームで、物陰から突然出てきたゾンビに一般市民のNPCが殺された。
それでもゲームは多少のペナルティを受けながらも進んでいく。主人公やメインキャラが死なない限り、物語は問題なく続くのだ。
サイド 矢橋 孝太
その日、夢をみた。
二人だけでダンジョンに潜っていた佐藤と滝沢が、リザードマンに切り殺される姿が鮮明に脳裏に焼き付いていた。




