第十五話 新戦力
第十五話 新戦力
大会終了から一夜明け、朝のニュースを見る。きっと世間は謎の男Kの話題で持ちきりだろう。本当にばれたら困るからあまり話題にしないでほしいが、第一回の影響で西園寺はその年の流行語大賞にも選ばれたらしいのだ。これは世間の話題かっさらっちゃうだろう。
『中継の吉田さん、現場はどうなっていますか?』
『はい。いまだ行方不明者の捜索が続いており、現場は混乱しています』
何故かテレビに映ったのはあっちこっち壊れたオフィス街だった。え、どこ?
『ここニューヨークのオフィス街でおきた謎の連続怪事件。その戦いの跡は大きく残っています』
にゅーよーく?なんでアメリカ?というか怪事件ってなに?
「孝太、早くしたくしなさい」
「あ、うん」
母に促されて学校へ行く準備を進める。
ニューヨークの怪事件てなんぞ?
学校でも、クラスの話題はニューヨークの一件で持ち切りだった。
というか大会に出場していたはずの伊藤のグループが率先して話を盛り上げていた。
「なあ、ニューヨークの怪事件ってなに?」
「は?お前マジか?」
「あー、そういえばここ最近大会の準備で忙しそうだったしな」
昼休み友人二人に聞いたかぎり、次の事が分かった。
●ニューヨークの六カ所で謎の集団自殺が一日ごとに発生した。ホームレスから会社の役員まで地位や人間関係は様々だったが、共通していたのは有色人種だということ。
●この事件で友人を亡くした黒人でニューハーフの探偵と捜査に乗り出したニューヨーク市警の女刑事がタッグを組んで調べ始める。
●なんと犯人は女刑事の学生時代の恋人で実は白人至上主義者だったIT会社の社長だった。
●彼は儀式を完遂させればアメリカを白人だけの国にできると信じていた。実際にできるかは不明だが、かなり強力な使い魔を連れていたらしく、集団自殺はその使い魔のスキルらしい。
●犯行に気づいた探偵と刑事。それを察知した社長とその部下たち。最後の儀式を済ませるためニューヨークの真ん中で集団自殺を操った人々にさせようとする社長と、止めようとする探偵と刑事。
●街中で始まる激しい戦い。主義者でもある社長の部下たちが使い魔を召喚し用意していた爆弾や小銃で暴れ始めた。それに探偵が使い魔とともに八面六臂の大活躍。ちぎっては投げちぎっては投げを繰り返す。
●遂に社長との最終決戦。満身創痍の探偵は苦戦を強いられるが、物陰から飛び出した女刑事が社長に至近距離でショットガンを連射。ダメージの肩代わりで使い魔がひるんだ所を、探偵の使い魔が倒して社長を逮捕。事件は解決し、自殺しそうだった人達は無事救助された。
これが探偵と女刑事を取材するためくっついていたカメラマンが生で流した映像の内容である。
そりゃそんな映画一本分の出来事がアメリカの大都市で起きていたら誰だってそっち見るわ。大会とか気にしないよ。
ちなみに街への被害はほぼ犯人たちが使った爆弾だ。銃といいどっから用意したのかも調査を進めているらしい。
「あ、そういえば大会ってどうしたの?」
「ゆうしょうしました」
「おー、すげぇ」
「おめでとう。やったな」
「ありがとう」
凄い雑に祝福された。当然ながら友人二人は大会ではなくニューヨークの中継を見ていたらしい。クソが。
眠る前に、部屋で大会の商品を並べる。
そう、自分はアマゾネスのカードと女エルフのカードを手に入れたのだ。気にしてなんかない。むしろ好都合だ。これなら誰もKの存在を暴こうとはしない。というか興味がない。くすん。
早速カッターで指を切り、エルフとアマゾネスのカードに血をつけて契約をする。
カードを光が包み、現れたのは。
「えっど、アマゾネスです。不器用ですけど、よろしくお願いします」
「エルフ。特技は風魔法です。よろしくお願いします」
勝った。賭けに勝った。
エルフの方は白金の髪を腰まで伸ばし、すらりと伸びた脚はまさにこれぞ美脚。エルフなのにかなり大きく柔らかそうな胸。黄金比を体現したかのような美貌の女性が立っていた。服装は緑色のシャツに茶色の短パン。髪型は高めの位置でサイドテールにしている。
そして、アマゾネスの方。素朴な顔立ちはしかし、確実に美人と呼べるほど整っている。スタイルもよく、ボンキュッボンというより、バン!キュッババン!といった驚きのダイナマイトボディだ。髪型は肩に届くくらいの黒髪に紅い瞳。ちょっとなまっているのもチャームポイントだ。
あと、驚いたのは身長だ。なんと自分より大きい。紅蓮と同じぐらいあるかもしれない。それはそうと、身に着けているのがビキニアーマーってやばくない?
「えっと、二人とも初めまして。契約した矢橋孝太だ。まず、二人の名前は……」
候補はすでにいくつか考えてある。その中から、見た目に合ったものを選ぶ。
「エルフの方は『レイナ』。アマゾネスの方は『稔』だ」
「了解」
「わかりました!」
それにしても二人とも美人だしスタイルがいい。これは完全に使い魔ハーレム状態だ。フェリシアにレイナ、稔。正直顔が緩む。ちなみに稔の由来はその豊か過ぎる胸部を見て咄嗟に出てきた単語だった。
「なんでも言ってください。どんな命令でも実行してみせます」
「わ、私もなんでもします。任せてください!」
とりあえず美女が健全な男子に『なんでもします』はだめだと思う。
このあと、フェリシアに防音魔法を使ってもらった。すごかったです。
次の日、両親に新しく使い魔になったレイナと稔を紹介した。
両親はまず稔の身長に驚いた後、レイナの美貌に驚いて、最後に僕の顔を見て心配していた。
「この子、また女の子の使い魔増やして……」
「孫の顔は見れないんだろうか……」
ほっといてほしい。というか今更人間の女性と付き合うのは無理な気がしてきた。モテないという悲しい事実は置いとくにしても、美形の使い魔を手にして人間の異性への興味が減った人は多い。
離婚率と未婚率が男女ともに使い魔が現れてから跳ね上がった。テレビでたまに学者がこのままだと人類は滅亡すると言っていたが、笑えなくなってきたかもしれない。
ダンジョンに行く前に、レイナと稔のステータスを確認しておく。
エルフ 個体名:レイナ
筋力:D 耐久:E 敏捷:B
器用:B 特殊:B
スキル パッシブ
・魔力感知
スキル アクティブ
・風魔法(中)
アマゾネス 個体名:稔
筋力:B 耐久:B 敏捷:D
器用:E 特殊:F
スキル アクティブ
・火事場の馬鹿力(小)
二人ともその種族の平均的なステータスだ。探索兼砲台のレイナに前衛を張れる稔。メンバーのバランスも良くなってきた。それぞれ武装は稔がメイス、レイナが短剣だ。自分のレベルも二十をこえるので、魔力的にも問題ない。
今日挑むのはCランクのゴーレムがでるダンジョンだ。会社からの依頼でやってきた。どうも、最近ゴーレムの需要が高くなっているらしい。
個人的には人権団体に目をつけられているダンジョンには近づきたくないのだが、周りを見ても特にそれらしい人影はなかったし、ダンジョンストアの店員さんや受付の人に聞くとあの団体は恐喝や暴行、公務執行妨害などの罪で中核メンバーが捕まって解散したらしい。なんか、陰謀論的な話が頭に浮かぶが、無視する。最近この国おかしくないか?
ダンジョンに入り使い魔を出して進んでいく。ゴーレムが一方向だけの時は紅蓮単騎で突っ込んでもらう。もちろん世界樹の加護はかけるし、レイナとフェリシアで魔法により援護射撃は行う。
ただ、そうしていると稔がうずうずと落ち着かない様子でメイスを揺らしている。
「どうした?何か体調が悪いとか違和感があるとか……」
「あ、いえ!そだなことはないんですが、その……」
もじもじと指を合わせる稔。可愛い。
「早く戦いたいなって。殴るのも殴られるのもいいから。とにかく戦いたいなって」
はにかんでそう言う稔。こわい。
そうこうしながら進んでいく。レイナの魔力感知のおかげでゴーレムに挟まれるという状態はないので、サクサク探索を進められる。途中、一体だけのゴーレムを発見したので、紅蓮は控えてもらって稔主体で戦う事にした。これは稔の戦闘力や戦い方を見るためであって、決して目が血走っていた稔が怖かったわけではない。
ゴーレムがこちらに走り寄りながら拳を振りかぶり、それに対して稔も駆け出しながら大きくメイスを振りかぶった。念のためスキル発動させておこう。
「ブーステッドツリー」
「どぉりゃぁぁぁぁああ!」
ゴーレムの拳とメイスがぶつかり、大事故でも起きたかのような轟音が響く。見た目で言えば、いくら大柄とはいえ人間大の稔と巨人と見まごうゴーレムでは相手にならない。しかし、稔は足元を踏み砕きながらメイスで拳をかちあげた。
「エアハンマー」
「アクアハンマー」
レイナとフェリシアの魔法がよろめいたゴーレムの顔面に直撃する。バランスを崩したゴーレムの足に、稔がメイスでフルスイングする。
バランスを崩したところを強烈な足払いを受けたゴーレムはたまらず転倒した。立ち上がろうと手をついたところを、手首に援護組が魔法を撃って妨害する。
「だらっしゃぁぁぁ!」
稔が殴りやすい位置になったゴーレムの頭にフルスイングする。ゴーレムも手で頭をかばおうとするが、その隙間に強引に体をねじ込んで稔は殴り続ける。当然そんなことをすればゴーレムも手をてを握りしめて稔をつぶそうとした。
「邪魔すんなぁ!」
しかし稔は振り向きざまにその手を殴り飛ばした。その隙にゴーレムは立ち上がるが、未来視で予測していた魔法組が関節に魔法を撃ちこんで再度転倒させ、また稔が殴り飛ばす。遂にゴーレムの耐久力も限界を超え、崩れ落ちた。
「いやぁ、すっきりしまずた。やはり何かを殴るのはいいですね!」
「そ、ソウダネ」
すっきりした顔の稔に、今後の陣形を考える。やはり無難に遊撃兼突撃隊長が紅蓮、前衛が稔、後衛にフェリシアとレイナという形がいいんだろうか。そうなると稔のストレスが不安だ。鬼系統の使い魔は異様に好戦的な場合があるというのを忘れていた。
それはそうと、今の戦闘音ですごい数のゴーレムが向かってきているのだが、大丈夫だろうか。
色々省くが、この日は魔石三十二個とカード四枚とかなりの大量だった。
サイド 渡辺 正義
「まったく……」
スマホをテーブルに置き、ベッドに腰かける。
急な出張でそちらに意識が向いている間に矢橋君の息子さんが大会に出ているなんて思わなかった。しかも、会社の契約冒険者として。
当然ながら未だ正式に契約を結んだわけではない。だというのに、何故こんな事態になったのか。
「まさか、常務が動いていたとは……」
彼は何故か私を目の敵にしてくるのだが、まさかこういった手をとってくるとは。
矢橋……たしか孝太君はまだ学生で未成年だ。そんな彼をテレビの前に契約冒険者としてだすのは会社のイメージ的によくないと会議で決まっていたはずなのに。
もしや、あえて世間からバッシングを会社にあびせてその責任を私にとらせるつもりなのだろうか。
「いや……」
いくら常務でも会社にダメージを与えるのは躊躇するはず。それに今はダンジョンバブルと言われている時代。小さな傷が致命傷になりかねない。
幸い、というには犠牲者に申し訳ないが、ニューヨークの一件で大会への注目度は低い。これに対して常務がどういうリアクションをとるのか注視しなければ。
「私は平穏な生活が送れればそれでいいのだがね」
我ながら出世欲というのは薄いというのに、なぜこんな事を考えなければならないのか。会社内の派閥争いとかよそでやってほしい。
今回の件で常務が落ち着いてくれたらよし。そうではなく積極的に動くのだとしたら……。
「まあ、最低でも矢橋君親子には火の粉が飛ばないようにしないとなぁ……」
まさか思い付きでいった矢橋孝太君の囲い込みが(いつの間にか組み込まれていた)自分の派閥内で本気にされ、後に引けなくなっていたとは。人生とは、ままならないものだ。




