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第十四話 第二回全国ハンドラー大会

第十四話 第二回全国ハンドラー大会


サイド 矢橋 孝太


 結論から言って、大会に出ることになった。

 全国ハンドラー大会。その名の通り全国からハンドラーが集まり、トーナメント形式で戦って最強を決める戦いだ。第一回大会の時は受験で見ることはできなかったが、日本中が興奮したらしい。

 本来なら、絶対に出たくない。なんせ全国放送だ。クラスメートにばれたら何故今まで冒険者である事を隠していたのか追及され、最悪いじめの標的にされる。

 しかし、今回の依頼を断らなかった理由は三つある。

 一つ目は、その前にエルフなどの依頼を断っていたため。流石に連続でいくつも依頼を拒否するのはまずい。特にこれといったペナルティは決まっていないが、よくはないのは確かだ。

 二つ目は、渡される装備の見た目だ。灰色のツナギにごつい軍用ブーツ、会社の名前がはいった黒の防弾チョッキとヘルメット。そして、ドラマでよく見る特殊部隊がつけている黒いピッチリとした口布とゴーグル。ガタイがいいのでぱっと見特殊部隊に見える。これなら自分とはわからないはずだ。大会のルールにも芸名やニックネームでの参加を認められている。

 三つ目は、現金な話だが、賞品だ。ベストフォーに入れば十六枚のDランクカードの中から一枚。優勝すれば女エルフを一体もらう事ができる。金山さんに聞いたところ、賞品は当然自分の物にしていいそうだ。それなら、優勝できればかなりの戦力アップになる。

 以上の理由から、大会に参加することにした。それと、その為にというわけではないが、出場者は三人まで関係者を呼べるので、両親にチケットを渡すことにした。

 というのも、父の上司にあった日からうちの中の空気が悪い。母としては自分に冒険者をやめてほしかったし、父は負い目がある。喧嘩まではいっていないが、その一歩手前まできている。なので、母も大会に優勝すれば少しは安心するだろうと思ったのだ。

 という旨を昼休み友人二人に話してみた。


「いや待って情報量多すぎてよくわかんない」

「大会でるから応援して」

「チケットは?」

「テレビ越しにお願いします」

「声援届かなくね……?」

「思いは届くから」

「「きめえ」」

「久々に切れちまったぜ」


 拳を握るがあっさりスルーされる。やろう。


「そんなことよりさ、この前の『異世界に行ったら最強無敵の超チート美少女手に入れました』見た?」


 そんなことって言われた。つうか話変わり過ぎだろう。


「見たけど、珍しいな美少女ハーレムものの話を佐藤がするなんて」

「いやネット話題になってたから気になってな。やたらエロばっかりおしてきて切っちゃったけど」

「あー、たしかに、僕はなんか主人公がうざくなって読むのやめちゃったけなぁ」

「まじか。矢橋そういうの好きだったじゃん」

「あれだ、チートもの読み過ぎて飽きたり逆に嫌悪感抱いちゃうやつ」

「あー、それかも」


 そんな馬鹿な話をしながら、大会の作戦を考える。作戦と言っても大層なものではない。ただあるスキルカードを購入しようと考えているのだ。

 大会は来週。それまでにカードの購入とならし運用をしなければ。


『さあ、ついに始まりました第二回全国ハンドラー大会!実況はわたくし、大林幸之助が!解説は元自衛官で冒険者でもある本田信三さんがやっていきます!』

『本田です。よろしくお願いします』


 ついに大会当日になった。緊張で息がしづらい気がする。いやこれそれ以前に口元が息しづらい。かといってマスクをおろすと顔ばれしてしまうのでできない。困った。

 実況と解説の人が色々会場を盛り上げた後、第一試合が始まる。自分の試合は第六試合。控室でスマホから第一試合の様子を見返す。

 第一試合は早速前回の優勝者である西園寺公彦サイオンジ キミヒコが出場する。会場からの声援が凄い。とくに黄色い悲鳴が多い。やはり顔か。

 対戦相手の人は青い顔で立っている。それはそうだろう。一回戦の相手が優勝候補筆頭とか自分なら泣く。

 使い魔のランクは西園寺がCランク三体、対戦相手はCが一体にDが二体。この大会のルールは一度の戦闘に出せる使い魔は三体までなのだ。ちなみにハンドラーはスキルを使い放題だが、直径三メートルの円からでるか敵使い魔に一撃でももらったらその時点で敗北となる。

 試合内容は終始西園寺が圧倒。質の高さと巧みな指揮で使い魔たちを使いこなしていた。この試合を見ただけで、ハンドラーとしての実力は完敗だという事がわかる。自分にはあんな指揮はできない。

 だが、負ける気はしない。なぜなら、自分には紅蓮が付いているのだから。


「Kさん。スタンバイお願いします」

「あ、はい」


 スタッフさんに呼ばれて入場口へ向かう。緊張するが、思ったほどではない。いつも通りやれるはずだ。


『さあ、では六回戦の時間です!まず入場するのはEランクの現役冒険者、伊藤雄太君です!』


 ………は?


『彼は高校に通いながら冒険者をしているそうだね。二足のわらじだが、さて、実力のほどはどれほどかな』


 くぇrちゅいおpp@!?


 入場してきたのはどう見てもクラスのAグループにいる伊藤君である。いやお前なんでいるねん。

 いや、そういえば何か最近教室で騒いでいた気がする。だがAグループの会話内容なんて知らないし、万一話題振られても『そうっすねー』と卑屈な笑みをうかべて返す以外こちらに選択肢なんてないぞ。


『続いて入場するのはなんとCランク冒険者!経歴不明!容姿不明!年齢不明!わかっているのは企業と契約していることのみ!謎の男Kの登場だ!』


 そうこう考えているうちに時間になってしまった。

 今の自分はKだ。ばれるわけがない。なら、別に相手に花をもたせる必要はないはずだ。なにより、『この程度』の相手に紅蓮をわざと負けさせるなどありえない。紅蓮は強いのだ。


『こんだけ謎の設定だと負けた時気まずいってもんじゃないですね』


 たしかに。年齢ぐらいあかしてもよかった気がする。いややっぱだめだ。会社に迷惑がかかる可能性がある。


『では、お互い位置について使い魔を召喚してください!』


 言われた通り赤い円の中に入り、紅蓮とフェリシアを召喚する。


『おっと、K選手の使い魔は二体だけですね』

『二体しか契約してないか、それとも何かの作戦か。なんにせよ数の差がどう戦いに影響するかですね』


 対する伊藤の使い魔はリザードマンとケットシー、フェアリーだ。というか前衛二体はCランクだろうになぜEランクにいるのか。そういえば伊藤の父親IT企業だかの社長だった気がするがそれが関係するのだろうか?


『さあ、カウントが始まります!泣いても笑って一回勝負!』


 スタジアムの大型画面にカウントがされていく。


「紅蓮、できるだけ使い魔を殺さないように。けどやばそうなら派手にやっていい」


 紅蓮がこくりと頷く。向こうはケットシーを先頭にリザードマン、フェアリーと構えている。


『2、1、0!試合開始です!』


 試合開始と同時に、ケットシーが宙を舞った。むろん、本人の意思ではない。次の瞬間リザードマンが横に吹っ飛んでいく。気が付けば紅蓮が左手を横に突き出しているので、殴ったのだと分かった。


「え、な」


 伊藤とフェアリーが動揺しているうちに紅蓮はフェアリーをつかみ取り、適当にぶん投げる。


「きゃぁぁぁぁああ!?」


 遠くなっていく悲鳴を無視して、紅蓮が伊藤の頬をビンタした。


「ぶへ!?」


 イケメンが出しちゃいけない声を出しながら吹っ飛んでいく。ダメージは使い魔が肩代わりしてくれるが、衝撃までは消えない。そのまま伊藤が動かなくなってしまった。


『しゅ、しゅうりょぉぉ!勝者、謎の男K!』

『なんですかあの使い魔。強すぎでしょ』


 慌てて会場の端から医療スタッフが出てきて伊藤を診た後、無線で何か言った後担架に乗せて運んでいった。


『えー、今連絡がきました。伊藤選手は無事なようです。使い魔も全員戦闘不能ですがロストはしていません』

『あれでも手加減したんでしょうか。とんでもない使い魔ですね』


 やはり紅蓮は強い。観客に一礼して会場を後にする。というか観客が静かすぎる気がするのだが、もっとこう声援はないのだろうか。できれば黄色い。


 その後も特筆することもなく二回戦、三回戦と順当に勝ち進んだ。紅蓮が開幕相手の使い魔を吹き飛ばして対戦者にビンタしていくだけだ。観客がドン引きしているし、何故かこちらへの声援でなく、相手への応援やねぎらいが多い。解せぬ。称賛されるべきは紅蓮では?

 そんなこんなでベスト4だ。スタジアムの一室に選手たちが集められ、インタビューが始まる。その後準決勝だ。どうでもいいが、朝開始して夜終わるとか一日に詰め込みすぎではないだろうか?


「それでは、まず西園寺選手、意気込みを教えてもらっていいですか」


 スタッフに促され西園寺が前にでる。


「そうですね。私事ではありますが、この大会に優勝したら、ある女性に告白したいと考えています」


 ざわりと、室内がわいた。まさかの宣言である。というか彼女いないのか西園寺。その顔面でか。どんだけ選好みしてきたんだ西園寺。やっぱイケメンにはイケメンの苦労があるのか西園寺。


「その女性とは、いったい!?」

「相手は一般の方なので、名前をだすわけにはいきません。ですが」


 そう区切って、西園寺が控えている出場者の一人を見る。


「東条君。僕は君に勝つ。勝って彼女と添い遂げる」


 名指しされた選手。東条というらしい少年が西園寺を睨み返す。


「えーでは、続きまして名指しされた東条選手。お願いします」


 東条が西園寺と入れ替わりで前に出る。


「西園寺選手の告白する相手とはお知合いなんですか?どういったご関係で?」


 スタッフの興味は完全に西園寺の恋路に向かっている。それでいいのか。まあお茶の間が求めている情報だしいいのか。


「それに答えるつもりはありません。ただ、勝つのは俺と、俺の使い魔です。必ず優勝します」


 そういって東条は西園寺を一睨みして下がっていった。


「えー、ではK選手お願いします」


 え、この空気でいくの?いじめ?


「精一杯、努力させていただきます」

「ちなみに、K選手が連れているあの鎧の使い魔はいったい」

「詳しくは試合前なので語れませんが、先天型の使い魔です。よろしくお願いします」


 自分でも何言っているかわからない。ただでさえ緊張しているのにこの空気とかどうすればいいのだ。


「ありがとうございました。では南条選手、お願いします」


 唯一の女性選手と場所を変わる。かなりの美少女だ。まるで人形のような表情で立っている。

「意気込みをお願いします」

「関係ない。ただ私の価値を見せる」


 南条はそれだけ言って下がってしまった。シャイなのだろうか。


「えっと、ありがとうございました!こちらからは以上です!」


 スタッフの人がカメラに向かって無理やりまとめた。自分以外キャラが濃すぎないだろうかこのベスト4。影薄くなってないだろうか。


「それでは、ベスト4の商品であるDランクカードを選んでもらいたいと思います」


 そういってスタッフの人が机の上にカタログを並べる。そこにカードの種類や特徴が色々書いてあるが、何を選ぶかはすでに決まっている。


「あ、自分はアマゾネスでお願いします」


 大会に出場すると決めた時点で、大会のホームページに載せられていた賞品一覧は見ていた。

 アマゾネスはDランクにしては高い筋力と耐久をもった使い魔で前衛に向いている。ただし、人気は微妙だ。

 アマゾネスの容姿は基本的にオーガのような顔に筋骨隆々の巨体。そして全身からただよう獣臭。これが不人気の理由である。ただし、これは基本的なアマゾネスの話。

 ネットの有志により集められた情報では約三割。それがアマゾネスの美女、または美少女の姿の確率だ。それは契約してみるまで分からないが、正直用意されたカードの中にこれといって欲しいカードはない。だったら可能性に懸けてみてもいいと思った。タダだし。

 他の選手たちがこちらを警戒した目で見てくる。自分が今まで出してきた使い魔は二体。残り一体がこのアマゾネスのカードではと考えたのかもしれない。

 しかし、このカードを大会中使う気はない。ぶっつけ本番では『用意』が使えない可能性がある。

 それにしても、よかった。忘れられているわけではないらしい。イケメンに美少女によく見たら中世的なイケメンと、顔面偏差値が高い奴らばかり残った。正直顔を隠した謎の男程度ではキャラ負けが凄い。


『ついに始まります準決勝!まず現れるのはこの男!的確な指示と使い魔に対する豊富な知識で勝ち進み、優勝した暁には惚れた相手に告白するとまさかの宣言!西園寺公彦選手だぁぁぁ!』

『彼はまさしく勝つべくして勝ったと言っていい、上手い戦い方をする選手ですね』


 西園寺の登場に、会場全体が沸き立つ。本人の容姿もあるだろうが、先のインタビューでの宣言。そして今までの王道ともいえる戦い方が観客の心を掴んだのだ。


『対するはこの男!すべての素性を隠した謎の冒険者。彼のつれる鎧の使い魔は強力無比!今まで一合すら結ばせない圧倒的力!謎の男、Kぇぇぇぇ!』

『K選手は逆に戦術も何もなくひたすら圧倒的な使い魔で叩きつぶすスタイルですね。先天型との話ですが、本当にいい使い魔を引き当てたとしか言えません』


 実況の人が言うとおりだ。紅蓮がいなければ、もし冒険者になっていてもこんな所までこれなかっただろう。

 西園寺に比べてこちらの声援はかなり少ない。当たり前といえば当たり前だ。謎の男のなにを応援しろというのか。あと紅蓮頼みの戦い方と、相手の使い魔をロストさせない方針があまり受けが良くないらしい。まあ、自分には関係のない話だが。会社の人にはちょっと申し訳ない。


『さあ両者位置について!』


 円の中に入って紅蓮とフェリシアを召喚する。西園寺の方は青いワイバーンに左利きのリザードマン、異様な火力のフェアリーだ。どれもおそらく勾玉やカードで強化されている個体だ。今までの様に瞬殺とはいかないだろう。


『2、1、0!始め!』


 まず、ワイバーンが高く飛び上がって上を取りに来る。それに対して紅蓮がハルバートを投げつけた。


「ブーステッドツリー」


 戦いの様子を無視してスキルを発動する。おそらくワイバーンはハルバートをスキルでそらそうとしたが、直前で爆発したのだろう。上の方で激しい音と爆炎が広がっている。

 その爆炎を無視して紅蓮は突き進む。既に新しいハルバートがその手には握られていた。

 迎撃するためにリザードマンが前に出る。先に攻撃が届いたのは紅蓮。ハルバートがリザードマンの盾を砕き、その下の右腕を傷つける。しかし、それでもリザードマンは止まらずに剣をふるい、この戦いで初めて、いや、自分が見てきた全てで初の被弾を紅蓮に与えた。

 だが、その偉業も無意味だ。ただでさえA+の耐久に、世界樹の加護でバフがのっている。へこみすら付けられずに、剣の方が折れた。


「なっ」


 西園寺が驚愕の声を上げるが、状況は止まらない。

 紅蓮がリザードマンの顎を掴み、背中から炎を噴射して西園寺に迫る。


「このっ!」

「だめだ、撃つな!」


 このまま魔法を撃てばリザードマンにあたる。あのやたら火力の高いフェアリーの魔法では死にかねないと判断したのだろう。

 迎撃もできず、ルール的にも速さ的にも回避は不能。一気に接近した紅蓮が暴れるリザードマンを放り捨て、ハルバートを突き出す。それは西園寺の顔の前で止められる。後からフェアリーが間に割って入ったが、もしも間に合っても無意味だっただろう。


「……僕の負けだ」

「そんな、マスター!?」

「いいんだ。ここから戦況をひっくり返す術はない」


 西園寺の降伏にフェアリーが反対するが、それは却下される。


『試合しゅうりょぉぉ!勝ったのは謎の男K!今の戦いどうみますか本田さん!』

『あのハルバートって爆発するんですね。それにしても、ついに作戦めいた動きをしましたね。冒険者らしい使えるものは何でも使う戦い方でした』


 使い魔達を戻すと、西園寺が歩み寄ってくる。


「対戦ありがとうございました」

「あ、はい。こちらこそありがとうございました」


 西園寺が驚いた顔でこちらを見てくる。


「意外と、お若いんですね。もしかして同世代ですか?」

「あ、すみませんその辺は秘密で」

「わかりました。何か事情があるんですね」


 何か意味ありげに頷く西園寺。すみませんただクラスメートに知られたくないだけです。


「それと、使い魔達をロストさせないでいてくれてありがとうございました」

「いえ、それは、まあ」


 使い魔をロストさせるという事は、大抵の冒険者にとって引退を意味する。復活させるには同じ種類のカードを消費する必要があるのだが、カード自体高い。それができずに諦めるしかない人は多いと聞く。

 観客は全力のぶつかり合いを見に来ているので不満だろうが、使い魔を失うのはかなり辛い事だろうし、不要な恨みを向けられたくない。


「ですが、次はあなたの全力を出させます。そして、勝って見せます」

「あ、はい」


 宣戦布告して西園寺が帰っていくが、自分は次の大会にはでるつもりはない。

 よく考えたら会場に鑑定のスキル持ちがいたら顔を隠していてもステータスで名前がばれる。そこからSNSで拡散されて、それが学校の人間に知られるかもしれない。鑑定スキルはレアだし、Kを名乗り出る人はそこそこ出るだろうから自分の名前がその中にあってもクラスメートはスルーするだろうから、大丈夫だと信じたい。が、リスクは少ないに越したことはない。次の大会には出ない。絶対。


『遂に。遂にこの時がやってきました。皆さん、これが最後の戦いです。多くのハンドラーがしのぎを削りあったかこの大会、その決勝戦!』


 小休止を挟んで、決勝の時間がやってきた。


『詳細不明の謎の男。わかっているのはその強さだけ!圧倒的強さで相手の使い魔をロストさせずに勝ち進むほどの余裕を見せる、Cランク冒険者、Kぇぇぇぇぇええ!』


 会場に入ると、珍しく声援がたくさんかけられた。そのほとんどがやけに野太い気がする。紅蓮の人気だろうか?でかくて強い鎧は男のロマンだ。


『対するは、数々の戦いを絆の力で乗り越えてきたこの少年。友人から、時には戦った相手からのエールをうけて立つ君は一人じゃない。多くの思いを背負って、今出陣!東条選手の入場だぁ!』


 そうして入ってきた東条の方は黄色い声援が多い。


「東条君、絶対に勝ちなさい!」

「お兄ちゃん!がんばってー!」

「坊ちゃん、どうかお怪我をなさらずに……!」

「私の未来の夫が負けるわけがありませんわ!」

「私の、私だけの価値を見つけてくれた人。どうか、勝利を」


 なんか向こうの観客席の最前列がやたら華やかだ。美女や美少女が東条を応援している。というか最後の南条選手では?

 なるほど、何故男連中が自分を応援するのかわかった。ハーレム主人公だあいつ。


『では、位置について!』


 円に入って紅蓮とフェリシアを召喚する。


「連戦で疲れていると思うけど、これで最後だ。頼んだ、紅蓮、フェリシア」

「かしこまりました」


 フェリシアが頷き、紅蓮がグッと親指を立ててくれる。

 相手も使い魔と何かを話している。雪女に呪いの人形、ワーウルフ。どの使い魔もCランク。そして何故か見た目が全員ロリだ。ロリコンかな?


『さあ、いよいよ始まります!5、4、3、2、1、0!試合開始!』


 開幕と同時に、紅蓮がハルバートを振って炎を放つ。


「ブーステッドツリー」

「氷壁!」


 それを相手の雪女が氷の壁で防ぎ、その脇からワーウルフが飛び出してくる。


「フェリシア」

「はい」


 フェリシアが明後日の方向に手を向けてる。

 ワーウルフは紅蓮を避けるように迂回して向かってくるが、かなり速い。速さだけなら紅蓮と同等だろう。そして紅蓮は炎の放出で一瞬動きが遅れる。ルールー上ハンドラーに一撃入れれば勝ちなので、自分を狙うのは正しい。そしてフェリシアではワーウルフを止めるのは難しい『はずだった』。この戦い、東条の勝ちかと思われた。


「アクアハンマー」

「なっ」


 フェリシアが水の魔法を放つ。バスケットボール大の水の塊がワーウルフに飛来する。本来フェリシアではワーウルフの軌道を捉えられない。しかし、その魔法は絶対にかわせないタイミングで放たれた。いわゆる置き撃ちだ。


「ちぃ!」


 ワーウルフが咄嗟に手を交差させて魔法を受ける。大したダメージではないだろうが、それでも足は止まった。

 紅蓮がその隙を見逃すはずもなく、ワーウルフに接近。石突きで鳩尾をつき、吹っ飛ばす。


「氷牙!」


 射線上から使い魔がいなくなった瞬間、雪女が鋭く尖った氷柱を大量にこちらに放ってくる。その後ろを呪いの人形も槍のような形にした髪を伸ばしてくる。

 しかし、その全てを振り向きざまに放った炎が焼き落とす。


「うそ!?」

「あっつ!?」


 雪女が驚き、呪いの人形が慌てて燃えた髪を途中から切り離す。その隙に紅蓮がハルバートを投げつける。


「氷壁!」

「旦那ぁ!」


 氷壁を張る雪女と、その後ろで髪の盾を作り東条と雪女を覆う呪いの人形。

 ハルバートが炸裂して氷壁を破壊し、衝撃で呪いの人形を後ろに吹き飛ばす。


「のわぁああ!」


 ふっとんでいく呪いの人形に雪女の横を、紅蓮が駆け抜ける。


「しまっ!?」


 雪女が反応するよりも早く、紅蓮が東条にビンタを決める。


「ぐうっ!」

「いった……!」


 東条が吹き飛び、雪女がダメージの肩代わりで頬を押さえてうずくまる。


『しゅ、しゅーりょー!試合終了です!本田さん!?今の戦いの解説をお願いします!』

『ワーウルフの速攻で決まったと思ったんですが、まさかキキーモラが反応できるとは。何かのスキルでしょうか。あのタイミングは偶然ではないでしょう』


 そう、スキルだ。

 大会に出場が決まって購入したスキルカード『視覚共有』。このスキルは文字通り使い魔とハンドラーの視界を共有するスキルだ。

 本当にただ視界を共有するだけな上に、その間視界が一つの画面に二つの映像を横並びに見せるようなものなので、かなり見づらい。それに使い魔は動体視力も視野も人間とはけた違いなため、ハンドラー側は使うと吐くというデメリットがある。なので、自分も使い魔に自分の視界を見せるだけで、こちら側は使い魔の視点を受信しないようにしている。

 普通ならハンドラーの視界を使い魔が共有してもなんの意味もない。だからこのカードはかなり不人気なのだが、自分が、というか未来予知の魔眼持ちが使えば変わる。

 フェリシアはワーウルフの軌道を魔眼で完全に予測し、置き撃ちしたのだ。これの練習めっちゃして僕はめっちゃ吐いた。


『なんにせよ、決着です!第二回全国ハンドラー大会を優勝したのはこの男!謎の冒険者Kぇぇぇぇぇええ!』


 会場全体から歓声が響く。おもに野太い声が。


 その後、閉会式もつつがなく終わり、私服に着替えてから両親に合流する。装備一式は貰っていいという話だが、次着るのはいつになるだろうか。

 父の車に乗って家に向かう。両親の雰囲気は、相変わらず重い。


「えっと、優勝しました」

「ああ、おめでとう。よく頑張ったな」

「ええ、あんなに強いなんて思わなかったわ。速すぎて何をしていたのかよくわからなかったけど」


 空気を換えようと思って口を開くと、両親も慌てたように話し出す。

 その後、色々話しているうちに少しだが、両親の空気が柔らかくなった。母もまだ納得はしていないが、それでも少しは安心してくれたらしい。

 家に帰ってから、母に紅蓮を出すよう頼まれた。


「紅蓮」


 いつも通り膝から下以外を顕現させ、紅蓮が両親と相対する。


「紅蓮、さん。息子の事をよろしくお願いします」

「私からも、よろしくお願いします。時々抜けている息子ですので、色々注意してやってください」


 頭を下げる両親に、こっちが慌てる。


「ちょ、母さん、父さんも!」


 どうしたものかと困惑する自分の横で、紅蓮がどこからかだしたボードに書き込んでいく。


『我が身、我が魂の全てをかけてお守りします。ご安心ください。必ずお二人より孝太殿を長生きさせて見せます』


 紅蓮、そんなに文字書けたのか。涙を流しながら礼を言う両親と、そんな場違いな事を考える自分をまとめて紅蓮が抱きしめる。

 ごつごつして痛いし、この年で両親と密着するのが少し恥ずかしい。

 ただ、不思議と離れようとは思わなくて、少しだけ、居心地がよかった。




読んでいただきありがとうございます。

稔の種族をアマゾネスに変更させていただきました。

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― 新着の感想 ―
[一言] ちなみに、主人公が実は軽度の知的障害であるとかいう裏設定あったりします? 思考がまさにそれっぽいんですよね。 知能が若干低いことや、意思が弱く、他者の意見に従いやすいことなど。
[一言] ハンドラー大会の出場を決めた理由の3つの内2つは、自分はどうにも納得できないなぁ… 一つ目は心情的な事は一先ずおいて言うと契約もしてないのだから相手に配慮する云われも義理も必要もない事だし、…
[気になる点] ロストもあり得る大会に、報酬も補償もないのを全ての人間が何も言わないのは何故? 身を守るために、弁護士なり何なりを雇うように勧める人が居ないのも不思議。 父親が率先して息子を差し出して…
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