第9話 運命
「で?ゴミは売れた?」
「うん・・・売れたよ」
「???」
目の前にあるガラクタの山、キラキラ輝くハンティングスパイダーの糸玉と亡骸。これらはいったいどれほどの価値になるのだろう・・・頭の中で算盤を弾いて惚けていると、
「言っておくけど、君がそれを全部町で売ろうと考えているなら辞めておくことをお勧めするよ?」
「なんでだよ?これを売れば俺の借金返済が捗るんだぞ?」
「はぁ~、さっきも言ったけど、根掘り葉掘り聞かれて、クロウ君は嘘を突き通せるのかな?」
「うぐ・・・ちなみに誰かに番人の事を話すのは?」
「駄目~、そもそも私との契約で他人には話せない様に制約してあるの。だから、話したくても話せないんだけどね」
「ええ?!聞いてないよ?」
「うん、言ってないよ。言った所で君には拒否権ないからね」
「うう、悪魔め・・・」
こんな契約無効だぁーーーーとは言えない。僕がシズを助けるにはラプラスの言う通り、今以上の選択枝は無い。しかし、
「じゃあ、どうすれば良いんだよ。何か別の方法でもあればいいけど、このままじゃゴミは貯まる一方だぞ?」
「慌てないの。そんなクロウ君の為に準備してあるからさ」
ラプラスは座り込んで抗議する僕の目の前にやって来ると、小さい肉球をおでこにペタっと張り付けた。あれ?この光景どこかで・・・そうだセトさんの記憶を消した時だ?!
「待ってラプラスさん?!?!?」
「待たないよ?それ~」
「あ~やめてーーー・・・・ん?何もない?」
「変なクロウ君だね?記憶は消えてないでしょ?そうじゃなくて、ほら、意識を頭の中に集中して」
「???意識を集中?え?何これ?」
頭の中に浮かび上がる文字列。普段使って居る文字では無いが、すらすらと読めてしまう。ん?『販売所』???そこに意識を向けると、
※貢献度を消費して魔女の庭に売買できる販売所をオープンさせることが出来るよ。消費貢献度5。現在保有貢献度5。ナニコレ???
「理解した?」
「見えたけど理解はしてない。何なのコレ?」
「そのままなんだけどな・・・それは番人の能力『拡張』だよ。森への貢献度を使って魔女の庭や森にクロウ君に有益な施設なんかを増やせるんだよ」
「『拡張』?『同一化』や『造園』みたいな?」
「そう。スキルって呼んでいるけど、君ははそんな事も知らないんだね?これだから魔素病が増えちゃうんだよ」
「ん?魔素病が増えた原因もスキルと関係するの?」
「そうだよ。そもそも魔素はそこいらに普通に存在しているんだよ。空気にも水や食べ物の中にもね。その多くは自然と排出されちゃうけど、シズちゃんみたいに魔素を溜め込む生物も居るんだ。魔素は体内で魔力に変換出来るんだけど、それをエネルギーに魔法やスキルを使うんだよ」
魔素ってそんな身近にあったのか。じゃあシズも魔法を放てれば、
「残念ながら今のシズちゃんが魔法を放っても病気は良くならないよ?一旦体を正常な状態に戻さない限り、魔法はおろか魔素の排出も自然には困難だろうね」
「そんな・・・」
「まあ、その話はまた今度しようか。で、魔素は魔力に変換しているんだけど、クロウ君の番人も魔力を消費するんだ。この前、突然使えなくなったのは・・・」
「魔力切れ?」
「正解。ちゃんと休憩したり、魔力を回復する物を摂取しないとこの前みたいになっちゃうんだよ?せっかく私が忠告してあげようと思っていたのに、急に飛び出して行っちゃうんだもん」
「うう・・・ごめんなさい・・・」
「分かれば宜しい」
スキルか・・・これまで全然聞いたことが無かったけど、ドリー先生は『鑑定』を使えるし、ヒーラーもやっていたんだ。回復スキルとかも持っているのかも。
「ん、大体分かったよ。それじゃあ、この『販売所設置』を・・・どうやるんだ?」
「もーじれったいな!押すように意識してみて!」
「は、はい・・・押す・・・」
ポチッとな・・・『販売所が解放されました。設置しますか?はい/いいえ』
え?『はい』?
頭の中で文字とやり取りしていると、魔女の庭にドロンっと小さな小屋が現れた。街で見かけるお店のような佇まいで、薬品や薬草、装備品など雑貨が並んでいる。カウンターにはゴブリンみたいな小鬼が座っていた。
「いらっしゃい。今回のご主人はこれまた随分幼いね。ラプラス様の趣味も変わっちまったな」
「久しぶり~、ブリオは元気にしてた?この子はクロウ君、今の番人だよ」
「へへへ、相変わらずでさぁ。アッシはブリオ。この販売所を担当している。クロウか御贔屓にな」
「よ、宜しく、ブリオさん」
「ははは、ブリオと呼んでくれ。一応は、お前さんがアッシの主だからな。まあ口の利き方はこれで勘弁してくれよ?」
店主のブリオはカカカッと笑っていた。
「悪い子じゃないからね。元々の性格がこんな子だったのよ」
「まあまあ昔の事は良いじゃねえか。それよりもアッシを呼び出したって事は?」
「そうそう。クロウ君が集めて来たものをさ、買い取っていつものようにお願いね」
「おう、任せておけ。俺がいくらでも捌いてくるからよ」
「???捌いてくる?」
「そうさ、お前さんから買い取った物は、アッシが他所へ売って来る。この広い世界、色んなものが色んな所で必要になる。世界の需要に応じてアッシが売り歩くのさ。さあ、早速仕事を始めようじゃないか」
そういうとブリオは積まれたゴミの山に突っ込んで行った。生き生きと品定めしては一つずつメモを取る。すらすらと品分けされていくゴミや装備品はあっという間に小さな店へと消えて行った。
「ほほ~ハンティングスパイダーの亡骸に、糸玉が6個。こりゃ良い値で売れるぞ。楽しみにしておけ。く~商売人の血が騒ぐぜ~」
「相変わらず楽しそうだ。じゃあ、ゴミの処理はブリオに任せようか」
「うん。ブリオ。頼んだ」
「おうよ!」
そうだ。このボロボロの服もそうだけど、ナイフが壊れてたんだ。拾った装備品に良い奴あったかな?僕は、ブリオに適当に見繕って貰おうと、
「ブリオ?その中に僕にあう装備品があれば欲しいんだけど?」
「ん?クロウのサイズでか・・・ちょっと待っとけ」
そういうと店の奥に消えて行くブリオ。店の奥はどうなっているのか外から覗くが暗くて奥が見えない。そんな暗がりからテテテッと走って来るブリオは、
「ふー、待たせたな。武器はこのナイフが良いだろう。刃渡りも長すぎないし切れ味は良さそうだ。ほれ」
「お、扱いやすそう。ありがとう」
「おう。しかし、服はな・・・どれも大きすぎてサイズが合わないようだ。もしよかったらウチの商品を買って行くか?」
「売り物もあるの?」
「へへへ、もちろんさ。ここは販売所だからな。ざっと見ると、ここいらが良さそうだが・・・」
ペラペラとカタログを見せてくるブリオに促され、丁寧に絵付きの商品を見る。500ゴールド!?え、高いよ・・・
「500ゴールド?無理無理、そんな大金持ってないよ」
「ん?お前さん金の心配してんのか?心配すんなって。この程度すぐに稼いでやるよ」
「稼ぐ?ブリオが?」
「そうさ。クロウが持ってきた商品を俺が売って来る。その代金で支払って貰うから今は金の心配はいらねえよ。お前は安心して自分の仕事をして来い」
それって借金してるのと変わらない気がするが・・・まあ、ブリオを信じるしかないか。
「じゃ、じゃあ、この服と装備を買おうかな?」
「ふむふむ、良いじゃねか。軽くて丈夫。魔力回復も多少付く。いいと思うぜ。持ってけ」
そういうとブリオは装備一式を渡してくる。真新しい服に装備を着込むと、「コイツも付けてけ」と首飾りを渡して来た。
「凄いや。体が軽く動くよ」
「初回サービスだ。その首飾りは体力UPが付いてる。アッシからのプレゼントだ。体を壊さないようにな」
「ありがとうブリオ」
「へぇ~、見違えたね。カッコイイじゃん」
「そうかな?じゃあ、今日も森を見て来るね」
「うん、気を付けてね?」
ラプラスにそう告げると、新しい装備の動きを確かめたくなりウィッチヤードの森へと出かけて行った。
ウィッチヤードの森は広い。人を寄せ付けない切り立った山を中心に危険な森がその周囲をグルッと囲んでいる。山の裾野はさらに広い森で覆われた自然のダンジョンの様な場所だ。
僕の住む町の他、森の周囲には大小さまざまな村や町、さらには大きな街や王都もあるというが庶民で貧乏な僕にはこれっぽっちも関係ない世界だ。
どこまでも続く緑の海を、森の高い木から見渡す。改めてこの森の広さを実感しつつ、まだ見ぬゴミを求め『渡り』を発動させた。
「ここにもゴミ~、あそこにもゴミ~」
ついついゴミを見つけると嬉しくなってしまう。誰かに聞かれない様に気を付けなければ・・・。気を引き締めてゴミ回収を続ける。落ちているのは野営の道具や壊れた装備が殆どだ。今日は死体を見かけないが、戦闘の跡だろうか地面が抉れたり、木が折れたりと激しい戦闘があったようだ。
「うーん、地面は『造園』でもとに戻るけど、折れた木はどうするか」
そこには古く太い木が大きく曲がり折れかけていた。こんな太い木が折れ曲がるほどの衝撃を誰が引き起こしたのだろうか。何だか悲し気にそよぐ木の葉の音が耳に残る。
そのままにして森の養分にしちゃっても良いんだろうけど、まだ折れて間もないのか、葉は青々としており、手で触れてみると『同一化△』と出る。完全に折れた木は『同一化×』なのだ。つまり、
「この木はまだ生きてるって事だよね」
折れた幹を擦るようにどうするか考える。うーん、ドリー先生みたいに回復させる事が出来ないかな?そう思った瞬間『造園』
「え?」
スキル『造園』が発動したのを感じると、魔力がゴッソリ減った。多少ふらつきながらも木を支えに何とか堪えると、曲がった状態ではあるが幹が見る見る再生したのだ。折れた個所が無事に繋がると『造園』が解除され、
「ぐえ・・・死ぬかと思った。意識しちゃうと勝手に発動するのを何とかしないと。こんなことが続くといつか死ぬ」
そう思いながら一休みする。新しく繋がった幹は、折れていたのが噓のように大地から水を吸い上げているようだ。ふと見上げた木の枝には先ほどよりも緑が深い葉が煌めいて見えた。
「良かったね。元気になったみたいだ」
「ええ、助かりましたわ」
「は?」
僕の呟きに応える様に澄んだ声が辺りに響いた。驚いて見渡すが人影も魔物も居ない。一瞬ラプラスかと思ったが、声質は似ていないし、そう思っていると、
「私ですわ」
「うわあぁ?!木?!」
「ええ、助けて頂き有難うございました。私はこの木に精霊ドライアド。貴方のお陰で命を繋ぎとめる事が出来ましたわ」
古木の幹からニョッキと現れた姿は、木で出来た人形の様であったが、次第に柔らかさを持った緑色の髪をした少女へと変貌した。
「ど、ドライアド?木の精霊?」
「ええ、初めまして番人さん。私はこの古木のドライアドでシャナと申します」
「シャナさん?初めまして俺はクロウです」
「ふふ、シャナで良いですわ。クロウ様。今回は助かりました。貴方様が来てくださらなかったら私はこの木と一緒に命を終えていた事でしょう。何たる偶然、これも運命ですわ~」
う・・・何だ?ちょっとここから離れた方が良い気がする・・・
「そ、そっか。シャナ良かった。じゃあ僕はこれで失礼するよ」
「ええ?もう行ってしまわれるのですか?もっとわたくしとお話して下さいまし」
「うぐッ?!し、仕事があるから、ごめんね」
少女とは思えぬ力強い抱擁を何とか抜け出すと、シャナを説得し何とか庭へ変える事が出来た。魔力切れもあったがそれ以上にシャナの扱いは大変だった。
「お帰り。どうしたの?何かあった?話聞こうか?」
「うぜええ・・・」
「え?!心配してるのに酷い扱いじゃないかな?そんな事言う子はしりませーん。ドライアドにでも囲われちゃえば良いんだ」
知ってる・・・絶対何があったのか知ってて遊んでやがる・・・
「ラプラス、見てたの?」
「うふふ、さあどうだろうね?」
「じゃあ、昨日蜘蛛に追われた事も全部?」
「ええ?なんのことかな?」
絶対全部知ってやがる・・・
「知ってたなら助けてくれたって良かったんじゃない?死ぬところだったんだけど」
「すぐに助けたらクロウ君、成長しなかったでしょ?それにいつも私が居るとは限らないんだから、自分の事は自分でケリをつけないと、ね?」
仰る通りです・・・反論できない僕はラプラスに頭が上がらなかった。




