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不憫な彼と魔女の庭  作者: アオネコ
第1章 魔女の庭

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第7話 言わんこっちゃない

ここまで一気に投稿しました。

 フガ・・・フガ・・・うぅ・・・


「ぷはぁーーーーーッ、はぁはぁ・・・・ぐ、苦しかった・・・・」


 ニャーーーッという音と共にラプラスは跳び起きたクロウの顔からベッドの外に投げ出された。


「うう・・・酷い扱いを受けたわ。折角気持ちよく寝てたのに」


 のびーっと体を伸ばし、毛繕うラプラスが不満を漏らす。


「・・・僕なんてスライムに顔を張り付かれ、藻掻き苦しんで水中から出られないような嫌な夢だったよ・・・」

「そいつは最悪な夢だね。目覚めて良かったじゃん」


 ・・・だれの所為だ・・・誰の・・・


「もう!くう~~もう朝?はあ、良し。今日は早速仕事に取り掛かろう!うん、そうしよう!!」


 気分を切り替えて支度を始める。動きやすい服装に、リュックを背負って森への扉を開けると、朝のひんやりとした空気が飛び込んでくる。早朝の森はまだ眠りについているかのように静かだった。


「私はやることがあるから気を付けて行ってらっしゃい。くれぐれも死なないようにね?」

「・・・うん、いってきます」


 不安だがやるしかない。シズを助けるために一日でも早くラプラスの仕事を終わらせるんだ。


 クロウは、魔女の庭を一歩外へ踏み出した。朝日を受けて輝き出した山を背に暗い森、ウィッチヤードへと進み出す。暫く歩いて分かった事がある。ラプラスの家がある魔女の庭はウィッチヤードの奥なのだ。奥って事はつまり・・・


「危険なエリアの一番危険な場所だよね?!?!?!?うわぁあ~~~」


 そう、危険な魔物や魔獣は奥に行けば行くほど多いのだ。もちろん庭の周りが一番危険だという事実を僕は身をもって体験している!!!


グルルル

シャー

ギャース


 何が気に障ったのか、狼にヘビに烏の魔物が木々の合間を駆ける僕を追いかけて来る。足元の悪い中、安全地帯の庭へと急いで戻るが、


 死ぬ・・・死ぬーーーー!!!


「ぜぇぜぇ・・・ははッ・・・むり・・・」

「あれ?もう帰って来たの?」

「ラプラス!あれ、あれ・・・!!」

「あ~ぁ、早速見つかっちゃったのか。良く逃げて帰って来れたね」


 ラプラスは庭の外で僕を見失った魔物達をみてそう呟いた。僕が突然消えた所為か、庭と森との境目を不思議そうに確認している。しかし、僕が居ないと分かったのか散りぢりに帰って行った。


「良かった・・・あんなのが居るのか。え、僕なんかじゃ何にも出来ないんじゃない?」

「うん。今の君じゃ逃げて帰って来れただけでも凄い事だよ。まあ、次も上手く逃げれるかは分からないけどね」


 お前、それを分かってて黙ってただろう?


「・・・仕事にならないじゃん」

「頑張って番人さん。それを考えるのも君の仕事だから」

「そ、そんな・・・この森の事なんて何にも知らないんだよ?せめてヒントを」

「もう、しょうがないな・・・じゃあ、木を隠すなら?」

「ん?木を隠す?・・・森の中?」

「正解。なら気を隠すなら?」

「気?!気配を消すなら・・・???気のなか?」

「ブブー、木の中でした~。君はこの森の番人になったのだよ。森と共存することが出来るように契約したんだからね。試しにこうやって木に手を当ててみると・・・」


 ???訳も分からぬまま、見様見真似で大木に手を当ててみると、『同一化』。


 ズニューンっと吸い込まれる感覚に襲われ、「え?」気が付けば、巨木の中に取り込まれていた。身動きは・・・出来る。外も・・・見える。あ、ラプラスが居た。


「どんな気分?」

「え?何とも無いよ」

「君はこの森の中であればこうやって木や草や地面にも溶け込める。それが番人の特権だよ。しかも、それ!」


『渡り』


 急に視界が飛ばされると、どうやら木の天辺辺りだろうか、広く続く森を見渡していた。朝日を受けた緑の森が海のように広がっている。


「綺麗・・・」

「次は、よいしょ!」


 次に見たのは見覚えのある焼け焦げた場所。セトさん達、狼の風がツキヨタケを採った付近だろう。意識を他へ向けると、『渡り』


「あ、この前に野営した場所。ここはウィッチヤードの境目だったはず」

「分かった?君はこうやって自由に移動することが出来るんだ。凄いでしょ?」


 確かに凄いけど、それは初めに教えておくもんじゃないの?ねえ?魔物に追いかけられる必要あった?ん?危険性を理解してもらう為?この番人の力を実感してもらう為?・・・絶対今こじつけただろう?まあそれだとしても、


「最高じゃん!これなら掃除も捗るよ」

「そうでしょそうでしょ。じゃあ私は戻るから頑張ってね」


 ラプラスは帰って行ったので、僕は周囲を警戒しつつ木から体を出す。


「知らない人が見らた驚くよね?気を付けないと。さてさて、ざっと見た感じこの辺は結構色々落ちていたけど・・・あ、あそこにも」


 足元の道具袋を拾い上げる。中には薬品や腐った食べ物が数点あった。靴の片割れに兜だろうか酷く潰れている。その近くには・・・


「うげ・・・人、だよね・・・」


 そこには白骨した遺体もあった。冒険者だろうか鋭いナイフが今も鈍く光っていた。もうどれくらい前に無くなったか定かでは無いが、


「装備は回収して・・・骨は・・・うーん、埋めるか」


 僕は手ごろな木の棒を見つけると、地面をせっせと掘り返した。しかし、


「痛って~・・・マメが潰れたけど、もう少し大きく掘らないとかぁ」


 はぁ~穴が大きくならないかな・・・『造園』


 そう思った瞬間、ボコッっと穴が広がった。


「え?穴が広がったよね?」


 もう一度念じてみると、『造園』さらにボコッと大きくなる穴。骨や腐ったものを埋めるのに丁度いい感じに広がった穴に、それらを優しく置くと、


 穴よ。埋まれ『造園』


 やっぱり、思ったように自然と地面が均され草が覆い隠す。


「穴があったとは思わない位に綺麗になった。これが番人の力か?・・・よし。この調子なら!」


 初めは大変だと思った掃除もちょっとずつ楽しくなった。途中魔物に遭遇することはあっても身を隠す僕には気が付かない。その場を離れて次々に遺品やゴミを回収する。


「リュックが一杯だ。一回戻ろうかな」


 昼過ぎ位だろうか。時間の感覚が分からないほど働いた。移動するのに時間は掛からなかったが、魔女の庭に戻ったのはもうかなり日が高くなっているのが分かった。


「ただいま」

「お帰り~、おぉ大漁だね。少しは番人らしくなったみたいだね」

「うん。少し慣れたかな」


 僕は重い荷物を下し休憩する。疲れたが収穫もあった。一生懸命動き回って僅かではあるがこのウィッチヤード知識が増えたのだ。新しい知識が増えるのが何とも言えない多幸感を与えてくれた。頭の中に浮かぶのは食べられる実に、生息する魔物、うぇ・・・爆発する木?!こわ・・・そんな事を考えていると、


「楽しそうで何よりだよ。でも力の使い過ぎには気を付けるんだよ?まだまだ始めて間もないんだからね?そもそも力は魔りょ・・・」

「うんうん。分かってるよ。さて、休憩も終わり。中身は一旦置いて往くね?じゃあ!」

「おい!?・・・クロウ君、私の話をちゃんと聞いてたかな?」


 ラプラスの心配をよそに、クロウは食事を取ると話半分に出掛けてしまった。


「次は~?、この辺を見てみるか~」


 初めとは打って変わってご機嫌に掃除を開始するクロウ。様々な冒険者達が探索した痕跡を後片付けする。


「死体が多いな・・・やっぱりいい素材が採れるから沢山の冒険者が訪れるのか。ん?あそこにも」


 僕は多くが白骨化した遺体を数体見つけては埋めて処理をしていた。これといった装備品は殆ど無くどれもこれもボロボロのゴミであったが、


「うわぁ・・・こいつは酷いな」


 そこには腐乱して間もない遺体が転がっていた。まだ数日だろうか、肉は腐り始め、蛆が集っている。悪臭を放つそれは、男の様だった。


「装備はうげぇ・・・ネチャって・・・あ、グロ・・・」


 吐き気を我慢しつつも、遺体から服や装備を剥ぎ取る。腹の傷が酷くこれが致命傷だったのだろうか。近くには真新しい剣と盾が落ちていた。戦士だったのか・・・仲間は居たのかな?


 クロウが遺体の真下に穴を空ける。さすがに移動させると崩れてしまいそうだったからだ。穴を閉じようと念じたが、


「・・・」


「あれ?閉じないぞ?えい、えい!」


 ずぞぞぞぞ・・・とゆっくりであるが土が盛り返り何とか埋まった。


「ふう・・・なんだろ?凄く疲れたぞ?」


 ちょっと張り切りすぎたかな?と休憩をしようと木の根元に座る。風が強くなったのかガサガサと葉の擦れる音が良く聞こえる。風は無いが音が大きくなる。不思議に思い、ふと視線を空に向けると目が合った。8つの赤い目が自分を見ている様だった。


キシャーーーー!!!

 

「蜘蛛ッ?!?!?!」


 巨大な蜘蛛の魔物が鋭い爪をクロウ目掛け振り下ろす。ズドッっという鈍い音と共に地面が深く抉れた。間一髪掠めた攻撃を躱すと、木に手を置いて中へ避難しようとしたのだが、


「早く早くッ・・・くそ、なんで逃げられないの?!」


 なぜか木の中に逃げ込むことが出来ない。頭上からは動かない僕を目掛け追撃が振って来た。


「ぐああっ?!・・・痛ってえぇぇ・・・」


 ズバッと肩口を切り裂かれ鮮血が流れる。剣の様に鋭く尖った爪がいとも簡単に服の上から皮膚を裂いた。そもそも防具力なんて無いに等しい軽装だ。攻撃を食らえば一溜まりもない。


「に、逃げなきゃ?!」


 僕は集めた物を手に取ると庭に向けて走り出した。大きな蜘蛛の魔物は枝を伝い徐々に距離を詰めて来る。


キシャー―!!!


 息を吸うのが苦しっ、さっきまで快適だったウィッチヤードが怖くて堪らない。まだ庭から離れているんだ。もっと移動しないと!


「くそ!!!何で、また駄目だ・・・」


 逃げながら何度も何度も木の中に身を隠そうと手を当ててみるがうんともすんとも言わず焦る。そんな僕をあざ笑う様に蜘蛛の攻撃が襲い掛かる。


「危なっ?!」


 行く手を阻む様に回り込んでは逃げる僕はいつしか追い込まれていた。


「これは蜘蛛の巣?」


 徐々に追い詰められた先は、周囲を糸で囲まれた奴の巣であった。転がる人骨が自分の最後の姿であるかのように思え、絶望を隠せない。


 巨大な蜘蛛はズンッと地上に降り立つと、前足を器用に振り上げで爪を僕へと向けて来た。じりじりと迫る蜘蛛からじりじりと後ろへ逃げる。ドンッ背中に硬く黒い木がぶつかるともうダメなのだと悟った。


「ごめん、シズ・・・」


 帰れそうにないや。守ってやれなくてごめんな・・・。そう覚悟してせめて殺される恐怖から逃げるように木の方を向く。黒く脂ぎった樹液が染み出たこの木が墓標になるのか・・・脂?・・・油!!


 森を走り回り獲得した知識の中で偶然見つけたそれは、


『ボムツリー』※注意:強い衝撃や木を傷つけるのは大変危険。衝撃で爆発する恐れあり。火にくべると引火し大爆発を起こす。食用×同一化△


 キシャーー!!


 一か八か、ただ殺られるよりは!!


 僕は父の古びたナイフを取り出すと握りしめた。少し回復した力を振り絞り、攻撃を引き付けボムツリーにナイフを突き立てる。


 それを足場に、蜘蛛の方へと木を蹴り飛ばし襲い来る蜘蛛とスイッチする。次の瞬間、ボォーーーーン・・・という爆発音と共にボムツリーが爆発を起こす。木に突き刺さったナイフ共々、蜘蛛の鋭い爪は爆ぜ、巨体も炎と鋭い破片を受けてズタボロだ。


「はぁ・・・はぁ、やった・・・」


 ズズズ・・・と崩れ落ちた蜘蛛の体を眺め動かない事を確認した僕は、その場で動けず体を休めるしか出来なかった。そして、日も落ちかけた頃、やっと、ズニューンと木に入り込むと、ラプラスの待つ庭の中へと帰ったのだった。


「あらら、やっと帰って来たと思ったらそんなボロボロで。やっぱり私の言った事、全然聞いていなかったでしょ?当然の報いだよ」

「は、ははは・・・ごめんなさい」

「ほら、こっちにおいで」


 引き摺る体で何とか移動するクロウを見兼ねて、ラプラスは魔法で傷を癒す。ボロボロだった体は徐々に元に戻る。


「怪我はこれで良し!はい、これを飲みなさい」

「ありがとうラプラス・・・ごくごく、うっ?!?!?!うげぇ・・・なにこれ・・・?」

「魔力回復のスペシャルブレンドティーだよ。味の保証はしないけど、回復力は保証するよ」

「次は味も考えて・・・ほしい・・・な・・・」


 そう言い残すと、力尽きたように眠ってしまった。


「ほら言わんこっちゃない。無理しすぎ。まあ、これだけ力を使えるならちょっとは安心かな。それにハンティングスパイダーを偶然とはいえ倒しちゃうなんて。クロウ君には期待しちゃうな~」


 昨日に引き続き、寝てしまったクロウの体を運び上げると、木戸を通って家に連れて帰る。ラプラスは上機嫌でベッドへクロウを寝かしつけると自分もそのまま休むのであった。

次回から水曜日、土曜日の18時に更新予定です。

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