第4話 覚悟はある
ゼィゼィ・・・
「大丈夫かクロウ?」
「はい、大丈夫です・・・」
狼の風とクロウは森の奥へとどんどん歩みを進めていた。各人自分の荷物はある程度自分で持っているが、野営の道具屋、食料などは全てクロウ一人で運んでいる。それなりの重さで足元の悪い森の中を、どんどん進むリーダーのサッドに置いて往かれない様にクロウも必死に歩く。
「おい、サッド、もう少しゆっくり歩いてやれないか?」
「ん?ああ、セトは優しいな。だが、そんなんじゃ日が暮れる前に目的地に着かねえ。頑張れるよなクロウ?」
「・・・はい、セトさん、俺は大丈夫ですから・・・」
「む・・・」
「ほらほらクロウくーん早くお姉さんの所まで来てくださ~い、きゃははは。サッド、これそこの木に成っていたの。瑞々しくて甘くて美味しかったわ、はい、あーん」
「お、いけるな。もっと持って行こうぜ」
先を行くサッドとマヤは赤い実を食べながら先を行く。セトはクロウの荷を少し肩代わりすると、先に進んだ。そのお陰でクロウは何とかパーティに遅れずに移動したが、
「よし、ここで良いだろう。ほら、設営するぞ。クロウは薪を集めてこい」
「・・・はい・・・」
町から歩き通しですでに足が棒の様だったが、休む間もなく指示に従った。これもお金の為・・・
「おい、少し休ませてやれ」
「ん?さっきからセトは甘いな。お前や俺らが戦えなかったらそいつの命も危なくなるんだぞ?戦わないサポート役は、戦闘以外で頑張るのがチームってもんだろ?」
「それで何人潰したんだ・・・」
「ああ~サッドがすぐに潰しちゃうから、カワイ子ちゃん達がすぐに居なくなっちゃって私寂しい・・・きゃははは」
「うるせえな。お前がつまみ食いしすぎなんだよ。カラカラになるまで搾り取りやがって、すぐに使い物にならなくなっちまうのはお前の所為だろうが!?」
「・・・」
サッドとマヤはいつもこの調子だ。早くこんなパーティから脱退したいが・・・
「おいセト。命の恩人の俺らをまさか裏切ろうとは考えてねえよな?」
「あら~、そんな事考えているの?折角助けてあげたのに。まあ私、貴方の事は興味ないからどうでも良いんだけど」
「・・・そんな事は無い。俺は恩を返すまで一緒にいると誓った」
「そうだよな。もう暫く頑張ってくれたまえ、じゃあ俺らは寝るから餓鬼が帰ってくるまで見張り番を宜しくな」
「ねえ~、早くぅ~」
「・・・チッ・・・」
はぁ、疲れた。これだけ薪があれば良いだろう。早く戻ろう。クロウは重い足取りで野営地に戻ろうとした。その時、視界の端を何かが動いた。
「な、何だ・・・?」
息を殺し、周囲に気配を探る。すでに日は落ちかけ、森の中は最早夜の様な暗さであった。頼れるのは耳だけ・・・葉が風でこすれる音、不気味な鳴き声が遠くから聞こえるだけで、今しがた近くを通った何かではなさそうだ・・・
折角集めた薪を落とさない様に、じりじりと野営地に向け下がって行く。未だに襲い掛かってこないそれは、疲れて何かを見間違えたのかもしれない。そう思い始めた矢先、再び動く影を視界に捉えた。
「・・・?!」
ミャーオ・・・
「???ねこ?」
クロウの目の前に、黒い、森の闇よりもさらに暗い黒猫がちょこんとお座りした。クロウの緊張もお構いなしに顔をんべんべと洗っている。その可愛らしい様子に、
「ははは・・・なんだ、野生の猫か」
ニャ?
クロウの呟きが聞こえたのだろうか、尻尾をぺしんとして地面を叩いている。なぜだろう怒っている気がする。ああ、絶対怒ってる。爪をシャッキっと伸ばしてべろべろしているじゃん。よく切れますって言っている様なもんだよ?!
「い、いや~、と、とてもきれいな猫さんだ、なあぁ~」
こ、これでどうだ?!
猫は爪をしまうと、毛繕いを再開した。クロウはどうしたものかと考えたが、
「もしよかったら一緒に来るかい?」
ニャ―オ♪
来るという事だろうか?クロウが歩き始めると後を付いてきた。食べ物にありつけると思っているのかもしれない。サッドさん達になんて説明しようかな・・・野営地に戻ると、
「戻りました・・・」
「お、遅かったな。早くこっちに来て休め」
「あ、はい・・・」
「ん・・・」
セトさんが食事の準備をしていた。
「あ、俺がやりますよ」
「いや、良い。お前は少し体を休めろ。そんな小さい体でよく頑張ったな」
「あ、いえ・・・」
会話が続かない・・・
「ところで、お前はどうしてそんなに金が必要なんだ?昨日だって1000ゴールドが何だと・・・」
「あ、はい。実は病気の妹が・・・」
クロウは、借金の事は伏せ、シズの事をセトに話した。
「病気の妹さんの為に大金が必要なのか・・・お前も大変だな」
「いえ、僕は大丈夫です。シズが、妹が元気になってくれれば・・・」
「ふむ・・・これは参考になるか分からないが、今回俺たちが依頼を受けている素材も、どうやら病気に関係しているらしい。貴族が病で倒れた、その治療にこのウィッチヤードに生える‟まぼろし茸”が必要らしい」
まぼろし茸・・・体力を回復し、生命力を高める特殊なキノコ。
「それは本当ですか!?もしそうなら妹にも・・・」
「3000ゴールド!一本3000ゴールドだ。お前の分はねえぞ」
セトさんとの話にリーダーのサッドの言葉が割り込んでくる。どうやら魔法使いとテントの中で仲良くしていたらしい。
「おい、飯は?」
「ここにあるぞ」
セトは器によそったスープとパンをサッドに手渡す。お礼も言わずそれをかき込む様に食べると、
「さっきも言ったが、例えまぼろし茸が採れてもお前には渡さない。これは俺らの依頼だ。たかがサポート役がお溢れに与れると思うなよ」
「はい・・・」
「おい、サッド!そのサポート役が居なければ俺らは今のように自由に出来ないはずだが?」
「はぁ、うるせえなぁ。じゃあお前がそいつの分を工面してやれよ。その分、契約は延長するがな」
「ぐっ・・・」
「ハハッ、そうだろ?お前は大人しく・・・」
「良いだろう、その約束忘れるなよ」
「ピュ〜、お前マジか?そんな知り合ったばかりの餓鬼に何でそこまで」
「男に二言は無い。俺分の報酬はクロウに渡せ、いいな!!」
「ふん、勝手にしろ。俺はまた休むぞ」
そう言うとサッドはテントへと戻って行った。
「ああん、ちょっと、また?ちょっと乱暴・・・んん・・・」
テントからはマヤに当たるように、彼女のいかがわしい声が溢れてくる。
「セトさん、俺なんかの為に・・・」
「良いんだ、これは俺が決めた事だ」
そう言うとセトは、クロウにも器を渡してニコリとした。どことなく暗い顔が印象的であった。
ミャーオ・・・
「ん?なんだその薄汚れた猫は?拾ってきたのか?」
シャー!!!!!
はわわわわッ?!
「せ、セトさん。言い方、言い方。この猫、人間の言葉が判るみたいで、怒ると何をするか・・・」
「む・・・すまん。ほらこれをやるから勘弁してくれ、な?」
にゃーー・・・
セトはカバンから干し肉を猫に差し出す。くんくん匂いを嗅ぐと、ハムハムと齧り始めた。尻尾は優しく左右に揺れている。
「おお~、セトさん凄い」
「ふふふ、昔を思い出すよ。うちの家にも猫が居たんだ。あいつも俺の部屋に忍び込んではおやつをくれとせがんで来たもんさ」
「そうなんですね・・・たまには家に帰るんですか?」
「ああ・・・もう何年も前にみんな死んだ。家族も使用人もみんな盗賊に殺されてな。俺は唯一見せしめのために捉えられた。家族が殺されるのを見せつけられた」
「え・・・」
「なんでそんな事になったのかは分からない。俺はそのあとも盗賊に捉えられ奴隷として監禁されていた所をあの二人に救われたのさ。今の事を考えれば、あの時に死んじまったほうが良かったのかも知れねえがな・・・」
「そんな事、無いと思います・・・」
「ん?」
「セトさんのお陰で、俺は少し希望が持てました。妹の病気は治らないかもしれないけど、僕は小さくても希望が持てた事に感謝しています。セトさんは僕の恩人です」
「あ~なんだな、そう面と向かって感謝されると、随分と恥ずかしいもんだな」
セトさん言葉に、力強く言った僕も何だかこっぱずかしくなった。
「ありがとな・・・」
「いえ・・・」
にゃーん
黒猫は僕ら2人の気もしらないで、お代わりを要求するのであった。
「ほら行くぞ」
「目的地はすぐそこよ」
十分に休んだであろうサッドとマヤは元気だった。野営を片付けた僕とセトさんは分担して荷物を持つと、二人の後を追った。
「クロウ、大丈夫か?」
「はい。セトさん、何かあればそっちの荷物は破棄して下さい。最低限は僕の荷物があれば何とかなりますから」
「分かった」
こうしてさらに闇が深くなった夜の森を松明の明かりを頼りに進む。まぼろし茸は闇の深まった深夜にしか採れない。しかもそこは魔物の潜むウィッチヤードの奥。これだけで1000ゴールドの価値があるのだと理解できる。
森は4人を飲み込む様にどこまでも続いているが、どうやらこの一帯が今回お目当てのまぼろし茸が採れるという場所らしい。
「問題なくやって来れたな。ラッキーだったぜ。これなら十分可能性があるぞ」
「うふふふ、じゃあここからは私の出番ね」
マヤはそう言うと、杖を取り出す。なにやら魔法を使う様だが、
「おい、まずは分かれて探索するのが先じゃなかったのか?」
「チッ・・・良いんだよ。こんな暗い森多少燃やしちまっても問題ねえだろ」
森を、燃やす?こいつら何を言っているんだ?そんなことしたら森だけじゃない、自分達も危険な事だと分からないのか?
「おい、どうしたんだ。話が違うぞ?!」
「へへへ、こんな森、燃やしちまう方が良いんだ・・・こんな森があるから・・・おいマヤ、やれ!」
「きゃははは、はーい。それ!燃えろ、フレイムバード!!」
豪ッという爆音が爆ぜると、杖から出された火の鳥が森へと突き進む。火の鳥が木々を焼き、次第に火の手が広がる。火の勢いはゆっくりだが、森を照らす。
「セトさん!」
「ああ、俺はあいつらを止める。クロウは荷物を捨てて離れろ」
「でも・・・」
「いいから行け!!」
クロウは言われるがままその場から遠ざかる。木々が燃える匂いが立ち込め、生き物たちが火の手から逃げるように移動しているのが判る。
「燃える森を見やると、先ほどまでいた場所はもう火の手に飲まれていた」
「セトさん」
クロウが心配そうにしていると、
「ねえ君?さっきの彼が心配?」
「え?」
何処からともなく少女の声が聞こえて来た。辺りを見回すがクロウ以外誰も見当たらない。ついに疲れで幻聴が聞こえて来たのかと、ふと下を見ると、
「お、聞こえた?成功かな?」
「え?!猫さん?」
「そうそう、やったね。やっと見つけた。そうだよ、私が君に語りかけているの」
やはり疲れているんだ・・・もしかしたら僕も悪い病気にかかっていて、もう死ぬのかもしれない・・・ああ、シズ、最後は君と一緒に居たかった・・・
「おーい、聞こえてるか~?もーしもーし?えい」シャキーン
「痛い!?!?!?はっ!?幻聴じゃない、痛いしなんだよもー!?!?」
「あ、現実逃避は終わった?夢でも幻でも無いよ。私の名前はラプラス。今はこの可愛らしい黒猫だけど、本当は魔女のラプラス様よ」
「はえ?黒猫の魔女で、ラプラス・・・?」
「そうそう、理解が早いね。早速なんだけど、さっきの彼が心配?助けて欲しい?」
はッ!そうだ、セトさんが火の海に・・・助け出さないと・・・でも僕なんかじゃ
「いいね。君。いいよ。君みたいな純粋な子を待ってたんだ。私のお願いを聞いてくれるなら手助けして上げても良い」
「本当?助けてくれるの?」
「もちろん!」
「なら・・・」
「なら、私に魂をくれるかな?」
「は?たましい・・・?」
「そう、魂♪君の根幹たる命の輝き、魂を渡しに捧げてくれるなら力をあげるよ」
この猫・・・もとい魔女は何を言っているのだろう・・・魂を捧げる?捧げた後はどうなるの?僕は僕で居られるの???妹を助けられるの????
クロウは急な魔女の要求に眩暈をする思いだった。セトさんは助けたい。でも、魂を渡す?
「どうした?君が魂を渡してくれたら、彼を助けてあげられるよ?」
「・・・す・・・」
「ん?なんだって?」
「僕の魂をあげますから・・・セトさんを助けて下さい!僕に力を貸して下さい!!お願いします!!!」
「いいよ、いいよ。すごくいい!その覚悟は本当だね?」
最後の質問とばかりに黒猫は僕に質問してくる
「覚悟はあります。僕の魂でも何でももってけ魔女!」
「あは♡合格♪」




