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不憫な彼と魔女の庭  作者: アオネコ
第1章 魔女の庭

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第26話 また会おう

 あれからどれだけ時間が経ったのか、暗闇に閉じ込められ時間の感覚が全くない。喉の渇きもお腹も空いてないし、なんなら排泄すらも気にならない。僕は本当に木になっていた。


 激しく揺れるような感覚が時折体を襲うだけで、ここが何処かも分からない。そんな状態が一体どれだけ経ったのだろう。ぼんやりとする意識を必死に保っていると、視界が急に白く明るんだ。


 目に飛び込んできたのは見たことも無い都市だ。石畳の広い道を通り、多くの人がこちらを見ている。彼らは白を基調にしたローブを纏っており、神聖な物を崇める様にほとんどが地に平伏している。


 ここは、セクレスか?じゃあ、サフィやジャックはセクレスの関係者か?!御神木のために精霊木を集めているってラプラスが言っていたけど、なんで僕を?


 周りの景色は移ろい替わり、白い宮殿の様な建物に入って行った。荘厳な造りで、緑に溢れている様だ。奥へ奥へと進むと、中庭のような明るい空間に到着した。中央には細く枯れかかった木が、一本だけポツンと寂しく植わっていた。


 木の傍には煌びやかな装飾を身に纏った人物が居り、サフィや周囲の人々も膝をついていた。サフィとジャックは恭しく頭を下げ、何やら話をしている・・・聞こえないのは不便だな。状況から察するに、一番偉い人物の様だが・・・


 ジャックは促されるように、僕と一体化している木を中央の木の横に空いた大穴に据えた。抜いた時とは違って丁寧に埋められた木は大地から久しぶりに魔素を吸い上げた。


 薄い・・・ウィッチヤードの森とは比較にならない程、魔素の量が少なく感じた。普通の木ならまだしも、これが精霊付きの木であれば、魔素不足で精霊も木も長くは持たないのだろう。


 そんな事を考えていると、隣に立っていた人物が細い木の、まだ青々と元気な枝を魔法で包み込むと元の木から切り離した。そのままこちらに近づいてくると、切り離した木を僕に向かって植え付けて来た。


 暖かな光が木と木を融合させる。これまで普通の木であったが、御神木らしきその木から違う意識が流れ込んでくる。目の前に光が現れると、


(ほう・・・また精霊木を持ってきた思ったが、これは・・・)

 

 誰?精霊?!


(儂か?儂はこのセクレスの御神木で、名をエグゼクレスと言う。儂の声を聴いた人物がこのセクレスを作り繁栄させたのじゃ。それ以降、儂はこの国の信仰の対象となったのじゃが・・・)


 エグゼクレス様・・・僕はウィッチヤードの番人でクロウと言います。


(やはり『番人』か!どおりで普通の精霊木とは違って魔力が多いはずじゃ。しかし、なぜ番人のお前さんがこんな所に?)


 それは、そこに居るサフィとジャックに捕まってしまって、なんでもエグゼクレス様を助ける為に僕が必要だったみたいですが?


(何?儂を助ける為じゃと?あの悪魔め、儂からサフィを奪った挙句、そんな世迷言を抜かしておるのか!)


 悪魔?あのジャックがですか?


(ああ、そうじゃ。まあ、それもこれも老いぼれた儂が悪いんじゃがの。折角巫女の素質があるサフィを儂の『守護者』にしたんじゃが、あのジャックに儂との繋がりを奪われてしまったんじゃ。今では儂の声は届かず、あの悪魔の囁きに良い様に使われている様じゃ)


 サフィは利用されているのか・・・あのジャックさえ居なければ何とかなるか?しかし、


 でも、何でエグゼクレス様を延命させることが、自由に繋がるのでしょうか?


(自由か・・・あの悪魔は儂に取って代わる気なんじゃろう。儂が死んでは意味が無い。それでいて儂を縛る枷が必要だったんじゃな)


 僕が、枷?


(ああ、番人は木を縛るチカラじゃ。思うがままに木々を操り我がチカラとすることが可能なのだ。お前さんがそれを一番分かっているんじゃないか?)


 木を縛るチカラ・・・そんな風には思った事無かったけど・・・


 僕とエグゼクレスが話をしていると、外ではなにやら話をしている様だ。『見える』が聞こえない僕はもどかしい気持ちだ。


(ん?お前さん、見えてはいるが聞こえないのか?まだまだじゃのう、どれ)


 エグゼクレスは僕に近づくと暖かな光で包み込んだ。僕の頭の中の番人がそれに共鳴して新しい項目が出現した。『同一化』から伸びた先、『気配察知』に分岐が生まれ、『木々の囁き』なるスキルだ。


 『木々の囁きを解放しますか? はい/いいえ』


 僕は迷わず『はい』を選んだ。すると、木の声らしきものと、外から聞こえて来る声が僕の頭に流れ込んで来た。


 うぐぐぐぐ・・・だめだ、木の方は遮断しないと、頭が割れそう・・・


 酷い頭痛に頭がパンクしそうになった。この木だけではなく、周囲の木から様々な声を拾っている様で、木の声は極端に小さくして漸く人の声が聞こえる様になった。


「さあ、バルバト教皇。これで御神木は安泰だ」

「ふむ、ジャックよ。そなたとサフィのお陰だ。まさか、これほど強力な魔力を宿した精霊木が手に入るとは。これならエグゼクレス様も復活なさるだろう。あぁ、エグゼクレス様。どうか再び我らセクレスにその御声を聴かせて頂きたい」

「ええ、ええ。いずれは可能だろう」


 ジャックは恭しくお辞儀をしながら、教皇には見えない様にほくそ笑んでいた。


(はぁ~なんとも情けない奴め。あんな悪魔に簡単に騙されおって。サフィさえサフィさえ儂の元に近づいてくれればのう・・・)


 どうにか出来るの?


(ああ、取り合えず、お前さんをここから逃がすくらいは出来るじゃろう。その替わりお頼みたいことがある)


 頼み?


(ああ、もし無事にこの木から抜け出せたら、サフィを連れて逃げてくれんか?あの子は儂の希望じゃ。このままではあの悪魔の思うがままじゃ。彼女を助けてやってくれんか?)


 でもどうやって?僕は番人のチカラが使えないし、エグゼクレス様だってチカラが出せないんでしょ?


(そう、今はな。だが、お前さんのお陰でなんとかなりそうじゃ。回復するまでの間、暫くこの老いぼれの話相手になってくれるか?)


 勿論です!


 僕は閉じ込められている間、エグゼクレスの貴重な話を聞けた。彼が生まれた頃は、このセクレスも魔物で溢れ、人々が寄り添い合って暮らしていたそうだ。彼のチカラが魔物を避ける事を知った人間達は、ここを中心に町を大きくしていったそうだ。


 魔素の源流が近かった事も奏して、エグゼクレスはチカラを得て、このセクレスを作った初代『守護者』と契約を結んだそうだ。


 じゃあ、最初は今のような宗教国家じゃなかったんだね?


(ああ、今でこそ御神木として国民に崇められておるが、元々儂にはそんなものに興味は無い。ただ、ここに住む者たちが安全な暮らせる場所を守りたいだけじゃ)


 それからも、昔話を色々としてくれた。興味深かったのは、


 ラプラスもここに来たことがあるの?


(ああ、あの魔女がまだ人間だった頃じゃ。もう遥か昔じゃな。魔物退治や今でこそ封印された悪魔を退治するために、このセクレスに協力を求めてな。ただ・・・)


 ただ?


(当時の『守護者』はそれを拒んだのじゃ。儂も助力するように助言はしたが、奴はこの国を守る事を優先した。もしかするとその当時から、何らかの接触があったやも知れん)


 接触?まさか悪魔の?


(ああ、当時の儂はまだ若く、自惚れておったのだ。自分が張る結界を絶対の自信があったし、悪魔程度にこの国の守りをどうこうされるはずがないと自負しておった所もある)


 光が小さく弱くなる。過去の自分を後悔ようなエグゼクレスは続けて、


(いつの間にか足元を掬われ、大樹になった儂は徐々に弱らされ、今では接ぎ木され何とか命を繋がれておると言う訳じゃ。クロウもチカラに溺れる事が無い様に気を付けるんじゃぞ?)


 うん。エグゼクレスも大変だったんだね。


 長く一緒に居るうちにお互いに名前で呼ぶくらいには気を許せる様になった。しかし、何度も朝と夜を繰り返し、もう1週間ほどになる。その間も、外では色々な人がこの木を一目見ようと礼拝しに来ている。余程、愛されているのだろう。


 サフィも一日に何度もここへ足を運んでいるが、常にジャックが傍らに居て木に近づこうとしても止められている。ジャックはもしもを考えて、絶対にこの木に近づけさせない気だ。


(ふん、今に見ておれ)


 エグゼクレスの話では、今夜には何とかチカラが使えそうだとの事。しかも今夜は重要な儀式があり、教皇を始め、多くの信者達が集まるのだとか。


 そんなに人が集まる時に逃げ出せるのかな?


(安心せい。そこはしっかり考えがある。クロウ、この広場の下に水路がある。今は誰も知らないが床にあるマンホールから下に降りられる。そこを使ってウィッチヤードへ逃げるのじゃ。道は木々が教えてくれるじゃろう)


 うん。分かった。サフィは任せて。出来ればエグゼクレスも助けてあげたいけど・・・


(儂は命さえあれば何とでもなる。暫くはまた休眠でもして魔力を蓄えるとしよう。クロウの魔力が宿った木のお陰で暫くは猶予がある。儂の事は気にせんでいい。サフィを頼む)


 僕はしっかりと頷き、エグゼクレスに応えた。


(さて、時間じゃ。人々も集まっておる。作戦開始と行こうぞ!・・・ん?)


 ん?どうかした?


(いや・・・これは楽しい夜になりそうじゃ・・・さあ、始めるぞ!)


 ???うん


 僕には感じない何かをエグゼクレスは感じ取った様だが、彼が問題無いと言うのなら大丈夫なのだろう。目の前では、教皇らと並んでサフィも正装で着飾っている。やはりサフィの頭にはジャックが居るが・・・


 「皆の者、よく集まってくれた。今宵は建国の式典だ。御神木であるエグゼクレス様も新しいお体を手に入れ、健やかにお過ごしであろう。いずれ再び我らを導き、この国を、臣民を豊かにしてくれるだろう。皆、日ごろからの感謝と信仰を!」


 おお~!と歓声が沸き、地面に平伏している。多くの信仰が集まって教皇の持つ杖が光を集めていた。


 ジャックはその様子をみて可笑しくて堪らなかった。なぜなら、教皇の持つ杖に集まった信仰が魔力へ変換されジャックに流れ込んでいる。あの杖はジャックが用意した特別な物だ。枯れた御神木を再利用した悪魔の杖。エグゼクレスのお告げと言えば簡単に騙される現教皇は良い鴨であった。純粋で信仰心が高く、騙しやすい彼を使い、弱体化された体を再生する目論見だ。


(くくく、良いぞ。良いぞ!どんどんチカラが回復している。ラプラスにこんな体させられちまったが、この調子でこいつ等を利用すれば・・・ああ、楽しみだなぁ)


「ちょっと、ジャック。式典中だよ。笑ってないでシャッキっとしてて!」

「あ?ああ、悪い悪い―ん?」


 愉悦していたジャックであったが、予想外の事が起きた。チカラを封じ込めたと思っていた御神木からチカラの奔流を感じ取った。なぜだ?自分の魔法で縛り上げ、さらに、番人のチカラを利用してエグゼクレスは動けないはず!なのに、これは?!


 ジャックの目論見とは裏腹に、どんどんチカラを増すエグゼクレス。木が光り輝き、緑色の魔力は木を覆うと、


『サフィ、サフィ・・・こっちに追いで・・・』

「???エグゼクレス、様?」

「ん?どうしたのだサフィ?」

「え?あ、はい。バルバト教皇様。エグゼクレス様が私を呼んでおいでです」

「何だと!?では、復活の兆しが?サフィ、『守護者』としての責務を果たせ」

「はい!」

「ちょ!おい、サフィ!行くな!行っちゃだめだぜ!」

「ん?ジャック?エグゼクレス様が私を呼んでいるのよ?これで私もあなたも自由になるんでしょ?私行かなくちゃ」

 

 そんな事はさせないと、頭の上で妨害しようと騒ぐが、


「もう!大人しくして!」『ガーディアン』『ガードシェルター』


 ズドンっと木の囲いが空から降り、ジャックを閉じ込める。さらに木の騎士がサフィを御神木まで運び上げた。籠の中からチュウチュウと騒ぐジャックなど構わず、サフィはエグゼクレスに触れようとした。


 く、くそ~、ここまで順調だったのに何で・・・こうなったら『バインド』!


 地面から黒い触手を伸ばしたジャックはサフィとエグゼクレスの接触をさせまいと触手を走らせた。広場に居た信者たちは、突然現れた触手に驚いて居た。さらに、


 ドコ-ンッとその触手が爆発し燃え上がったのだ。その時点で、流石に人々は逃げまどい広場は大混乱に陥った。


 逃げ惑う人々の喧騒の中で、木の騎士に守られたサフィは御神木に触れることが出来た。


『サフィ・・・心配を掛けた』

「エグゼクレス様。お声が聴けて良かった。元気になったのですね」

『ああ、だが、これも少しの間だけじゃ。時間が無い。すべてを話してやれないが、儂はお前を自由にしたい。あとは、この者に託す。無事に生き延びておくれ』

「え?それはどういう事ですか?」

『さあ、クロウと一緒に逃げるんじゃ。頼んだぞクロウ!』

「ああ、任せろ!」

「え?!クロウさん?」


 再会を喜ぶ2人であったが、エグゼクレスの言う通り時間が無い。僕は御神木となった木と『同一化』を解除すると、慌てるサフィを抱きかかえ、火の手の上がる広場をマンホールへと走った。


『また会おうサフィ・・・』

「エグゼクレス様!!!ちょっと放して下さい!!!私はここから離れる訳には!」

 

 暴れるサフィを何とか抑えながらマンホールから地下水路へと逃げ込むと、薄暗い地下を掛けてセクレスから脱出を果たした。

夜襲に来たのは?

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