第27話 親バカなんです
ふぅー、何とか間に合ったみたいだね。でもまさか、エグゼクレスがあんなに弱体化してるなんて、全く彼も何やってるたんだか・・・
クロウ救出のため単身セクレスに乗り込んだラプラスは、建物の上から様子を見ていた。大昔に来たことのあるエグゼクレスの広間に来てみたら、何やら騒ぎが起きていた。よく見れば、悪魔のジャックは捉えられた籠の中から『守護者』の少女を狙っていたのだ。何があったのかは知らないが、慌てるジャックの邪魔をしようと、触手を狙い撃った。その甲斐あってか、クロウを無事に逃がすことが出来た様だ。
「さてと、バイバイ、ジャック。これで少しは懲りてくれると助かるんだどな。また来るよエグゼクレス。それまで元気で居てね」
黒猫は闇夜に紛れる様に音も鳴く姿を消した。広場には恨めしそうにクロウとサフィの逃げた先を見つめるジャックが取り残されていた。
薄暗い水路を少女を抱えて走るクロウ。さっきまで騒がしく抵抗していた少女は静かに担がれている。下に下にと下る水路を抜けると、まだ暗い森のほとりに出た。
「ここまで来ればあとはウィッチヤードへ行くだけだ・・・大丈夫?」
「うん。エグゼクレス様が私を逃がしてくれた事は判りました。でもやっぱり私は―」
「今戻っても、ジャックの影響を受けた教皇たちに捕まってしまうだけだ。それじゃあ折角チャンスを作ってくれたエグゼクレスの努力が水の泡だよ?しばらくは猶予があって言っていたから、まずはここから離れよう?」
サフィは十分に納得したとは言い難いが、同意はしてくれたようで、トボトボと僕に着いて来てくれた。
「さて、ここから魔女の庭はと・・・ああ、そっちのほうだね」
エグゼクレスの言う通り、森の木々達が色々と教えてくれる。『気配察知』を使わなくても魔物が居るよ!とか、こっちの方が歩きやすいよ!とか囁いてくれる。僕たちはそれに従って魔女の庭を目指した。
「クロウさんはエグゼクレス様とお話していたんですよね?その。お元気でしたか?怒っておられませんでしたか?」
「うん、元気そうだったし、怒ってる様な事も無かったし何、よりサフィの事を凄く心配していたよ」
おどおどと不安そうに質問してくるサフィに、なるべく落ち着いた声で僕は答えた。
「エグゼクレス様が、私を・・・」
「サフィ、もうすぐ目的地に着く。そしたらゆっくり話をしよう。エグゼクレス様からの言伝もある。頑張れるか?」
「ハイ!大丈夫です」
「うん」
少しばかりだが元気を取り戻したサフィを連れ、暗い森を歩く。空が明るくなり朝日がウィッチヤードの険しい山を赤く染める頃、僕らは漸く魔女の庭に帰り着いた。
「あ!クロウ君、遅かったね?」
「ただいま〜、ラプラス大変だったんだよ?知ってるでしょ?」
「うふふふ〜、勿論だよ。サフィちゃんもよく来たね。いらっしゃい」
「ひゃ、ひゃい!」
初対面だと思ったがどうやら面識があったようで、
「ん?ラプラスはサフィの事を知ってるの?」
「うん。クロウ君が無様に囚われた時にね。あの時は助けてあがられなかったけど、無事に帰ってきてくれて嬉しいよ」
「あの時か・・・アレには参ったよ。番人のチカラが全然使えなかったんだよ」
「そうだろうね。ジャックが君の事を利用していたからね」
「僕を?」
「そう、厳密にはクロウ君のチカラだね。ジャックは人の能力を一次的に奪い使用するチカラが有るんだ。だからクロウ君もサフィちゃんも、何ならエグゼクレスも利用されていたんだよ」
チカラを奪う・・・なんで悪質なチカラなんだ。だからエグゼクレスも普段はチカラを抑えられて。
「そんな、あのジャックがですか?!彼はエグゼクレス様に仕える精霊だと・・・」
「ああ、あれは精霊なんかじゃ無いんだよ。私が大昔にネズミに変えた悪魔だったんだけど、いつの間にか随分とチカラを取り戻したみたいだね」
「悪魔・・・じゃあ私が今までやってきた事って・・・」
サフィはその場に泣き崩れてしまった。無理もないか、今までエグゼクレスの為と思って行っていた事が実は悪魔の為だったなんて、余程ショックだろう。
「サフィ、もう過ぎちゃった事はどうしようも出来ない。だけど、これからの事は君次第じゃないかな。僕らも協力するからさ、今度は僕らでエグゼクレスを助け出してあげないか?」
「私達で、ですか?」
「ああ、君はエグゼクレスの『守護者』だろ?大切な物は自分で取り戻さなくちゃ!!ね?」
僕は未だに座り込むサフィに、そう言って手を差し伸べた。その手と僕を見返しながら彼女は強くその手を握ると、
「分かりました!私やってみます。ジャックをあのまま放っては置けません!私達を利用した事を後悔させて見せます!クロウさん、ラプラスさん、宜しくお願いします!」
「ああ、その意気だ!」
「おー、良いよ良いよ!こっちまで熱くなるくらいの覚悟だね。それでこそ彼の『守護者』だよ」
サフィは元気よく立ち上がると僕らにペコリとお辞儀をして、
「改めましてサフィ・セクレーンと申します。まだまだ未熟ですが宜しくお願いします」
へぇー、家名が有るのか・・・お嬢様じゃん、ん?セクレーン?
「何だかソフィの家名って君の国に似た名前なんだね。セクレスでは多いの?」
「うん?クロウ君、君まさかこの娘が誰なのか知って連れて来たんじゃ無いの?」
「???ん?知らないよ?エグゼクレスが逃せって頼んで来たから・・・え?」
サフィもラプラスも目を皿にしてこちらを見ている。え?何なんだよ?
「私、こう見えてもセクレス国の王女なんです。継承権が無いのとエグゼクレスの『守護者』に選ばれた事で王女らしい事は今はしてないですけど。あの広場に居たルドルフが私の父親なんです」
「お、おう、王女?!君が?あ、いや、貴方が?」
「うふふ、今まで通りで良いです。堅苦しいのは嫌いだし、エグゼクレス様の為とは言え、国も民も捨てて逃げちゃったし、私に王女を名乗る資格は無いですから」
とは言え、王女の一人を連れ出してしまった僕って・・・
「セクレスからしたら王女誘拐、拉致監禁、王家侮辱・・・うん、クロウ君は大罪人だね!もしかしたら指名手配になっているかもね」
「ええ?!ちょっと、そんな・・・」
「ごめんなさいクロウさん、私の為に・・・でも、多分大丈夫だと思いますよ?クロウさんが居た事を知っているのは私とジャックだけですから。ジャックも大っぴらにそんな事を言うとは思いませんし」
「うう・・・ほんと?いや、もう暫くはここで様子を見よう。ああ、でもシズの事が心配だ・・・大丈夫かな」
町に置いてきたシズの事を思うと居たたまれないが、今帰るのは避けたい。そもそも僕は今、北の方に依頼で出ている事になっているし。どうしたら・・・
「ふふん、しょうがないね。私がちょっと様子を見てきてあげるから安心しなよ。そうだ。クロウ君はサフィちゃんにここの案内とか必要な物を用意して上げてよ。部屋は自由に使って良いからね。じゃ!」
「頼んだよラプラス。いってらっしゃい」
黒猫は僕の代わりに町へと出かけて行った。ラプラスに任せるしかないが、早くシズに会いたいよ。
「クロウさん、シズちゃんって?」
「ん?ああ、僕の妹なんだ。たった一人の大切な家族なんだよ。今は病気で町に居るんだけどさ。僕の夢は、妹の病気を治して一緒に暮らす事なんだ」
「妹さんでしたか・・・病気が早く治ると良いですね!」
「ああ・・・」
早く、か。そうだ。僕にはやらなきゃいけない事がまだまだあるんだ。それに、エグゼクレスみたいに長く生きている彼なら魔素病の事ももっと分かるかもしれない。情報は多いに越した事はないはず。
「よし。取り合えず、ここを案内するよ。付いてきて」
「はい」
僕はサフィに、魔女の庭を案内して回った。狼案山子のメーテルや黒オーガのセタヌを見て驚いて居た様だが、じきに慣れるだろう。あとは、
「おーい。ブリオ居る~?」
「ああ、クロウか。ん?そっちのお嬢さんは?」
僕の呼びかけに、店の奥から出て来たゴブリンの商人はサフィを繁々としていた。
「紹介するね。セクレスの王女でエグゼクレスの『守護者』のサフィだよ。暫くここに居るから宜しくね」
「ほ~エグゼクレス殿の!」
「はい。宜しくお願いします」
ふーん、ブリオも『守護者』の事は知っているんだ。
「ブリオはエグゼクレスの事、知ってたんだ?」
「ああ、アッシはセクレスにも店を持っているからよく知っているでさ。そうだ、何か必要な物はあるか?ここで暮らすんならアッシに任せな」
ブリオはそう言うと、サフィの希望する服やら日用品やらを聞き出すと、忙しなく店の中に入っては出てを繰り返していた。
「あ!でも私お金が無いんですが・・・」
「ああ大丈夫。そこに居るクロウにツケとくから安心しな。その分、サフィもしっかり稼げるようにしっかりな」
「ええっ?!良いんですかクロウさん?」
「んー、良いよ。他にも必要な物はブリオに言えば揃えてくれるから。それよりも疲れてないか?昨日から休んで無いだろ?そこの家なら空いている部屋が有るから、使って良いってさ」
僕はラプラスの家を指差しながら説明した。もうすぐ明るくなるが、流石に徹夜で移動して来たんだ。少し休まないと、そう提案すると、
「何から何までありがとうございます。ではお言葉に甘えて」
「うん。おやすみ」
サフィはクロウ達にペコリとお辞儀すると、木戸を開けて家の中に入って行った。暗いが所々にランプの淡い光で照らされた魔女の家。暖炉にはチロチロと火が燻り暖かい。
興味を唆られる品物が目に入るが、疲労がそれを妨げる。フカフカのベッドに倒れ込むと、重い瞼がゆっくりと閉じた。
今日は色々とあったな。エグゼクレス様の『守護者』である私は、あろうことか悪魔に唆されていた。ジャックは時々可笑しな事をする精霊だとばかり思っていたが、私はまんまと騙されていたのだ。悔やんでも悔やんでも悔やみきれないが、
「覚えてなさい、今度会ったら今までの分、しっかりお返しして見せるから」
サフィは、改めて決意するとようやく眠りに付いた。
「さて、僕も少し休もうかな」
「ぁあ、それが良い。お!そうだ、寝る前に一つだけ報告しておこう。お前さんが卸してくれている魔草ダソナなんだがな。随分と売れ行きが良くて、他の素材何かと合わせて軽く10万ゴールドは稼いでいるぜ。この調子で頑張ってくれ」
「じゅじゅじゅ10万?!そんな金額になってるの?!驚き過ぎて眠気が吹っ飛んだんだけど!?」
「カカカ!そいつは悪いことをした。まあ、布団に入れば問題ないどろうよ。さぁ、ゆっくり休むんだ」
ブリオは高笑いすると、店の奥へと引っ込んで行った。残された僕は、高ぶる気持ちを飲み込んで、部屋へと入って行った。
10万ゴールドなんて大金、そうそうお目に掛かれるものじゃ無いぞ!?でもこの調子でいけば・・・
ベッドに倒れ込むと、金返済が少しだけ現実味を帯びて来た事を実感していた。光明を見出した僕であったが眠気には勝てず、薄暗い部屋に入り込む朝日を避けるように布団に潜ると、泥のように眠った。
次に目を覚ましたのは明るい時間だった。可笑しいな寝たのは確か朝早い時間だったけど、そんな事を思いながら外へ出ると、
「あ、クロウ君もやっと起きたんだ。おはよう」
「おはようございます」
「おはようラプラス。サフィ。今何時頃?随分寝た気がするんだけと、まだそんなに時間が経ってないのかな?」
そんな事を言っていると、2人のジト目が突き刺さる。
「はぁ、クロウ君は幸せだね。クロウ君もサフィちゃんも丸々1日グッスリ寝てたんだよ?やっと起きたと思ったらそんな事言うんだもん。私ビックリしちゃうよ」
「ええ?!1日?!」
「そうだよ、余っ程疲れてたんじゃ無い?さあさあ、メーテルが美味しいご飯を作って待ってるから食べに行こう?」
困惑する僕を置いて、黒猫と早めに起きていたサフィは、朝ごはんの匂いに釣られて家を出て行った。僕も食いっぱぐれない様に、急いで支度すると外のテーブルへと急いで移動したのだった。
朝からガッツリとした朝食を平らげると矢継ぎ早に、
「ラプラス、町の様子はどうだった?シズは大丈夫だった?」
「シズは大丈夫そうだったよ。お隣さん、カレラさんだっけ?、随分と仲良くなったみたいだし。あそこにはシャルルも居るから何かあればすぐに判るよ」
ん?シャルルってあの植木だよね?居るから大丈夫なの?逆に心配何だけど?
「それに。町も大きな変わりは無さそうだったよ。強いて言えば、そろそろ君の依頼が打ち切られるって事かな?」
「え?討伐依頼が?何で?」
「さぁね。君が言っていたように、魔物を全滅させるなんて無理な事だと気付いたか、そこの王女様の捜索に切り替えたか、まあ後者だろうね」
ラプラスがサフィを見つめて語ってきた。確かにそれはそうか。サフィを見る教皇の表情は優しいものだった。彼女の事を余程大事にしてきたのだろう。そんな優しさにジャックはつけ込んだのかもしれない。
「お父様って、末っ子の私の事を日頃から可愛がってくれましたからね。エグゼクレス様の『守護者』に選ばれた時もそれはそれは喜んで、嫁に行かせなくて済むぞ、って言うんですよ?」
「え、へえ〜・・・」
「私が言うのも何ですが親バカなんですよ!以前もあんな事やこんな事があってですね・・・」
これまで溜まっていたものを吐き出すかの様にまくし立てるサフィを見て、王女様の苦労を垣間見たクロウであった。




