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不憫な彼と魔女の庭  作者: アオネコ
第1章 魔女の庭

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24/27

第24話 番人を止めても良い

 土の中から現れたカエルの魔物は大きな体に、それ以上に右足だけが異常に発達していた。その足で地面を蹴ると、普通の大人の一回りも二回りもデカい体が跳躍し空から異形な右足が振り下ろされた。


ドゴーーーーンッ!!!!


 辛うじて『同一化』出来る周囲の木に潜伏すると、瞬時に他へ『渡り』攻撃の機会を見定める。標的を見失ったカエルはその場から飛び跳ね中心へと戻って行った。


「木から出たらあの足が降って来るし、この避け方は攻撃の機会がないか・・・」


 ゲロゲロ・・・と周囲を大きな目で警戒するカエル・・・番人の魔物リストではジャイアントトードという巨大カエルらしい。ただ、


「また、片足だけ巨大すぎない?この間のマッシュマンみたいじゃん」


 こいつも悪魔の残渣なのか?周囲が枯れちゃってるのもその所為?だとしたら・・・


 僕が危険を感じて『同一化』を解こうかと考えていると、またあの恐怖感、嫌悪感を感じた。体の中を何かが這いずりまわり蝕まれる様な感覚が『気配察知』からではなく直に感じた。


「ぐぁ?!」


 耐え切れず違和感から逃れるために急いで木から飛び出すが、左わき腹に違和感が残っている。服を捲り上げ確認してみれば、皮膚が茶色く痣の様に変色していた。


 感覚がない?痛みは無いが触った感触も何も感じない?!・・・そんな慌てている僕を狙ったように、ジャイアントトードが地面を蹴って真正面から突っ込んでくる。3度大きな足で加速しながら、馬鹿でかい足で蹴りつけて来たのだ。


「クソッ!」


 先ほどまで潜伏していた木は朽ちてしまっていた。近くに逃げ込める木が無くなった僕は大きく横へジャンプした。転がりながら体勢を整え短剣を抜く。剣一つでどうにかなる相手ではなさそうだが・・・。


 僕を捉え損ねたジャイアントトードは木々薙ぎ倒しながら向きを変えると、コチラへ向けて再び跳躍した。ジャイアントトードは空中から再び僕を踏み潰そうと落ちて来る。


「速いなッ!もーこれなら!!」『造園』!


 僕は奴が落ちて来る地面をカチコチに固めてみた。これで少しでも自傷してくれれば―。僕のそんな淡い期待を裏切るように、強靭な右足で地面をぶち破ったジャイアントトードは何事も無かったように構えている。こっちは地面の振動で足が竦んで動きが取れない!?


「うげ・・・マズい」


 ギョロッとした巨大な目で僕を睨むジャイアントトード。大きく頬袋を膨らませたかと思うと、大口を開けて醜悪な舌を伸ばして来た。至近距離から放たれた赤黒い舌が物凄い速さで腹部に直撃した。


「グハッ!!」


 ゲロゲロと笑う様に鳴くジャイアントトードは吹き飛ばされた僕を踏み潰すように右足を高く上げ、地面ごと踏み抜いた。窪んだ地面には粉々になった木々が散乱していた。


 ゲロ?


 潰される直前、運よく生きている木の近くに飛ばされた僕は、『同一化』して庭へ逃げた。体の違和感は増すばかりだが、逃げるにはこれしかない!嫌悪感から逃れる様にその場から離れた。


 獲物を逃がしたジャイアントトードは暫くすると地面を掘り返し土の中へと戻って行った。周囲の青々とした木々は、少しずつ茶色い影に覆われて朽木へと変貌していった。


 魔女の庭に無事に逃げ帰った僕は『同一化』を解いて地面に転がり落ちた。


「し、死ぬかと思った・・・」

「クロウ君大丈夫?酷いやられ様だね・・・ん?」

「ははは、命だけはね。どうかしたのラプラス?」

「クロウ君、もしかして異形のジャイアントトードと戦ったりした?」

「異形・・・うん、戦ったよ。右足が異常にデカいカエルだった。いつもみたいに見てなかったの?」

「やっぱり・・・あの辺にいった所までは見てたけど、あの周囲は私の眼でも見えないんだ。でも君の体を見て、ね」

「うん???僕の体?」

 

 不安になる様な言い方だったので何かと思ったが、ラプラスの視線が僕の脇腹を見ていて気が付いた。


「この痣の事?」

「そう。それはただの痣じゃない。呪いだよ」

「え?の、呪い?治るの?」

「方法はあるよ。でもその呪いは、木に対して効果がある呪いだから、人間でいる間は何も問題ないはず。ただ―」

「ただ?」

「クロウ君は番人で、木と『同一化』するでしょ?そうすると君も木と同じだから」

「呪いが効くって事?」

「そうだね。あの周辺の木々が枯れていたでしょ?あのカエルを倒さないと呪いは解けないんだ。じゃないと君もあの木みたいに」

「朽ちるって事?!そんな!?でもどうやってあんな奴を倒せば―」

「そうだね。方法は教えてあげられる。あとはクロウ君の頑張り次第だよ?」


 その後、ラプラスから番人のチカラの使い方を、メーテルと実戦形式で特訓を、ブリオから必要な物を購入する。


 うう、一人で倒さないといけないか・・・何とかアドバイスは貰ったけど、これで勝てるかどうか。


「やるしかない。なるべく徒歩で移動するか」


 準備を整えた僕は出来るだけ呪いを増悪させないように『同一化』は使用せずにフジャイアントトードの居場所を目指した。時間が掛かったが肩慣らしに魔物を倒しながら進む。


「うん、これ、なかなか使えるな。こういう事は最初に教えてくれれば効率が良いのに。出し渋り過ぎじゃないかな?」


 僕はラプラスに教えて貰った方法を試しながら徐々に朽木地帯へ近づいてきた。木の陰から覗く限りジャイアントトードは見当たらない。一瞬だけ木に『同一化』して『気配察知』を使用したので、ここ居る事は確かだ。


 また地中に潜っているのか。近づけば出て来るだろうけど、行くしかないか・・・


 木の陰から飛び出した僕は、荒れ地の中央に向かって走り出した。地面に伝わる振動か、僕の気配か。獲物が接近したことを察知したように地面が盛り上がり奴が姿を見せた。


 大きな目で僕を睨みつけると、迫り来る僕に対して舌を突き出してくる。


ゲロローーーッ!


 頬袋を膨らませた動作から攻撃を予測していたんだ。同じ攻撃は食らわないよ!


「お返しだッ!!」


 伸びた舌の軌道を避けて、短剣で斬りつける。ナイフよりも攻撃力が上がった短剣で、さらに魔力を纏わせて攻撃する。斬った!と確信したが、その舌は思ったよりも固く弾力があり中ほどで弾かれた。


「浅いか、ん?わぁ!?」


 ジャイアントトードは舌を収めると、地面を蹴り巨体ごと体当たりをしてくる。やっぱりあの足から発揮される跳躍力は半端じゃないな。瞬く間に間合いを詰めて来ると、大口で飲み込もうと迫って来た。


 『造園』!


 ゲゴッ?!


 口を開けたジャイアントトードと僕の間に地面から大きな岩を生やす。大きく頑丈そうな岩がカエルの口を穿った。突然現れた障害物によって勢いは削がれたが、多少のダメージは無視するかのように、口に刺さった岩を起点に左足で回し蹴りを放ってきた。


「その体勢から動くのかよ?!『造園』」


 強靭な右足で踏ん張った一撃がドゴーンッと岩を砕き左から襲い掛かる。足蹴りからはなんとか逃げるが、砕けた石礫が無数に襲い掛かった。もし右足の回し蹴りだったら今頃全身グチャグチャに砕けていたかもしれない・・・


 痛みに耐えながらも剣を振るい、ダメージを積み重ねる。纏わりつく羽虫を払う様に顔と体を振って舌と巨体で反撃してくる。それでも止めない僕に苛立ったのか、その場から逃げる様に空中へ大きく跳躍する。そしてお返しとばかりに異形の右足で踏みつけようと急降下して来た。


「待ってたよ!」『造園』!


 待ちに待った落下攻撃がついに来た。地面に手を向けると、僕を中心に地面に深い大穴を開ける。さらに、


『造園』!!


 穴の底に先端を尖らせた大岩をそそり立たせた。加えて、マジックバックからどかどかと穴の底を黒々とした木で満たしていく。そして仕上げに、


『造園』!!!「くッ・・・」


 これはゴッソリと魔力を奪われた。何せ生木を生やしたのだ。細くて小さいが、地面にしっかりと根を張った木だ。僕は覚悟を決めて空から降って来るジャイアントトードを見上げながら潰される瞬間に『同一化』し『渡った』


「焼きカエルって鶏肉みたいで美味いって言うけど、お前は不味そうだな」


 ゲゴ?


 巨体に合わせた大穴にすっぽりとジャイアントトードが飲み込まれていく。隙間なくすっぽりと穴を物凄い勢いで落ちていくジャイアントトード。ズブズブッと自重と落下によって鋭く尖った岩に巨大な足や体が突き刺さって行く。

 

 穴に底に詰めたのはハンティングスパイダーをも倒したボムツリーだ。落下の強い衝撃を受け大爆発を起こした。

 

 ボーーーーンッ!!!!!という爆音と衝撃が周囲の地面を吹き飛ばし広く土埃を巻き上げる。呪いによって全身を襲う嫌悪感を吹き飛ばす程の衝撃が、同一化を解除した僕にも伝わってくる。


「やったか!?どうだ?!」(お願い!フラグにならないで!!!)


 静まりかえる爆心地を見つめながら静かに近づく。肉の焼ける匂いと煙が段々と強く立ち込め、大きく拡がった穴を覗けば、中には動かなくなったジャイアントトードが居た。


 最早、元がカエルだったかも分からないほどバラバラに散らばっている。体は裂け四散していたが、岩に刺さった異常に大きな右足だけは原形を留め火に焼かれていた。


 その様子に安堵していると、右脇腹の違和感が無くなった事に気が付いた。痣も綺麗に無くなり、見渡せば周囲の木々からも広がっていた茶色い染みが消えていた。


「呪いが消えたんだ、良かった」


 僕は安心して地面に座り込んだ。呆然と穴を見つめていると、ふと異変に気が付いた。他のパーツはボロボロだが、右足だけは突き刺さったままそれ以外の損傷は無い様だ。余程頑丈なのかと焼かれるのを見ていると、


「え?」

 

 まるで別の生き物のように右足がグネグネと蠢き、岩からボトっと地面に転げ落ちたのだ。芋虫の様に関節を動かし、自立して動くそれは器用に体をくねらせると、地面深くへと潜って消えてしまった。


「何、あれ・・・」


 異様な光景に心底恐怖を覚えた僕は重い体を起こし、急いで魔女の庭へと移動した。ジャイアントトードには勝ったが、負けて逃げ帰った嫌な気分だった。


「お帰りクロウ君。ジャイアントトードは倒したんだね」

「ああ、でも、倒したはずのあいつの右足がまるで生きてるみたいに動いて―」

「うん、見てたよ。クロウ君があいつを倒してくれたからね。あれも悪魔の残渣だよ。クロウ君が倒したジャイアントトードは右足に悪魔の残渣が憑り付いていたんだ」

「見てたなら教えてよ。悪魔の残渣って、マッシュマンの他にも居るの?そもそも悪魔の残渣って何なんだよ?いい加減ちゃんと教えてくれても良いんじゃないか?」


 僕はラプラスに疑問をぶつけた。いくら番人のチカラを貰ったからと言って、秘密にされては快く協力は出来ない。そんな気持ちを察したように、ラプラスは重い口を開いた。 


「そうだね。クロウ君にも知る権利があるよね。君が戦った悪魔の残渣ってのは、名前の通り、悪魔の肉体の一部だよ。この森が出来る切っ掛けとなった太古の悪魔。その彼の魂はこのウィッチヤードの森の地下深くに封印されているんだけど、肉体は今もああやってこの森で動き回っているんだ」

「悪魔の肉体?じゃあ、マッシュマンも?」

「そう。君が見た通り、右腕に悪魔の残渣を宿している。森の魔素を吸収してその部位は巨大に、強力になる特性があるんだ。しかも、取り付いた魔物の意識を悪魔の肉体がコントロールする。寄生体みたいなものだね」


 悪魔の意思で動く存在か・・・もし完全に封印が解けて復活でもしたら?肉体だけでもあれだけ強力な魔物に変化するのに、今の僕なんかにどうにか出来るのだろうか?


「その封印は解ける事は無いんだよね?」

「そうだと願いたいね。そのためにクロウ君に頑張って森の機能を修復して貰っている訳だし。君の頑張りで少しずつ状況は良くなっているんだ。魔素の循環がこのまま正常に戻れば封印は完璧になるはずだよ」

「番人ってそういう事なのか。簡単な仕事じゃないんだね。責任重大じゃなか・・・」

「もし、クロウ君がそれを重荷と思うなら、今からでも番人を止めても良いよ?」


 ラプラスは僕を見上げ見つめて来る。


「そんな寂しい事言うなよ。ラプラスのお陰でシズの病気を完治出来るかもしれないんだ。僕に出来る事は何でもするよ。だから、これからもラプラスのチカラを僕に貸して欲しい」

「うん。もちろん!私もクロウ君の事を精一杯サポートするよ。これからもよろしくね」


 僕は拳を作り、ラプラスの前に突き出した。彼女もそれに応える様に黒い前足を上げ、ピンクの肉球をぴとっと合わせてくれた。

クロウとラプラスはこうして絆を深めるのであった。

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