第22話 クソ野郎
ラプラスに魔導コアを渡した報酬で、魔女の庭に『鍛冶屋』が配置された。そこの主であるセタヌは、厳つい顔をした黒いオーガであった。鍛冶師らしい彼は大きな金槌を担ぎながら、
「ブリオに、メーテルも懐かしいな。元気そうで何よりだ。それでこの子が?」
「カカカ、そうさ今代の番人さぁ」
「私達のマスター、クロウですよ」
「どうも。クロウだよ。宜しくね」
挨拶をする僕をセタヌはまじまじと見つめて来る。何だろう、怒らせちゃった?!暫く考え込む様な難しい顔を見ていると、
「うーむ・・・足りないな・・・」
「え?」
「足りないぞ!この森の番人のくせに、何だその安っぽい武器は!」
「ええ??」
「番人らしく俺がもっと強い武器を鍛えてやる!」
「ありがとう?」
「あははは、相変わらずだなあセタヌは。その調子でクロウ君にカッコいい武器を頼んだよ」
「任せておけ」
力こぶを作った太い腕をかかげて応えたセタヌは僕を見ると、意外と優しい手つきで体付きを確かめた。
「ふむ、お前に似合う武器か、クロウは小柄だが案外鍛えているんだな!」
「そ、そうかな、森で魔物も倒してるし、メーテルにも訓練付けて貰っているからかな。前よりも体が軽く感じるんだ」
「なるほど、まだまだ成長する余地があるな。となれば、今は使い慣れたナイフが一番か。よし!」
セタヌは工房になっている建物に入って行くと、武器を作ろうと準備を始めたようだ。ガチャガチャ、ドンドンと騒がしく動き回っていたが、慌てた様子で出てくると、
「無い!武器を作る素材が全然無い!おい、ラプラス様、俺が集めた素材は何処に消えたんだ!?」
「ん?あ~、前に君が集めた素材はもう無いよ?みんなゼロからやり直しだから!」
「な、な、ゼロ・・・貴重な素材だぞ?また手に入るかどうか分からない物もあったのにか?」
「カカカ、流石のセタヌも男泣きか、まあ、気持ちも分からなくねえが・・・」
「女々しいですね・・・まあ、そういう貴方の感性が良い武器を作るんでしょうけど」
「お前らなぁ。クソッ!おいブリオ!お前何か良い素材を俺に寄越せ!お前ならある程度の素材はすぐに用意出来るだろう?」
「カカカ、そんなセタヌにとっておきの素材が丁度あるぜ。なあクロウ?」
「???あ~、アイアンゴーレムの?」
「アイアンゴーレムの鉄があるのか?!それだ!頑丈で魔力の通りも良い素材だぞ。クロウが倒したのか?」
「そう、さっきね。採れたて新鮮?な黒鉄だよ」
「おお~、良いじゃねえか。それでお前のナイフを作ってやる。ほらブリオ、早く持って来てくれ」
ブリオをせっついて急がせるセタヌは、待ちきれず自分も一緒に素材を抱えて帰って来た。それらを轟轟と炎の噴き出す炉に全てをくべると、
「ちいっとばかし時間が掛かる。俺は工房に篭るから、邪魔しないでくれ」
そう言って、工房の扉を閉めた。
「うーん、いつものセタヌだね。出来たら勝手に出て来るからそれまではどんどん仕事をしてきなよ」
「そうだね。しかし、どんなナイフが出来上がるのか今から楽しみだな~」
「新しいオモチャってワクワクするよね!」
ゴロゴロと魔導コアを器用に追いかけまわしながら黒猫は楽しそうにそう言った。楽しみな事に間違いは無いのだが・・・それと一緒にする?あ、魔導コアさんが困惑した様に点滅している・・・強く生きてね
玉遊びをするラプラスを尻目に、僕は仕事に戻った。ゴミを拾い集めながら、魔物を倒していると、シャナの居る池に来た。この辺りは魔物が近寄らないせいか、冒険者が残すゴミも少なくて綺麗なエリアだ。
久しぶりにシャナの様子を見に行こうと、僕は池の辺にある古木を目指した。以前より青々とした葉を付ける古木を見上げ声を掛ける。
「シャナ〜、こんにちわ〜」
「あ!クロウ様!ナイスタイミングですわ!相談に乗ってくださいまし〜!!!」
「ど、どうしたの!?またホーンベアに襲われた?!」
見たところ無事なようだが、
「違うんです!最近妙な人間達が彼の周りを彷徨いておりまして、彼を神木だ何だと喚いて国に持って帰ると騒いでいたんです!」
「持って帰る?!無理でしょ?こんな大きな木をそう簡単に運べやしないよ?」
「そうでしょうか?それなら良いのですが、わたくし心配で心配で・・・」
ヨヨヨとなくシャナ。まぁ、確かに大切な彼に危害が及ぶと考えたら、僕だって妹の事と考えたら、大人しくしていられないよな。悲しむシャナを見てはいられず、
「よし、僕に任せてよ!」
「グスン、本当ですか?!やっぱり頼りになるのはクロウ様ですわ!」
「あははは・・・因みに、その人達って他に何か言っていたかな?特徴とか」
「んん?そうですね、精霊の宿る木とか、これでで安心だとか・・・あとは白いローブを着ていたとしか」
「精霊、安心、白いローブ?そいつら何が目的なんだ?」
シャナの要領を得ない言葉だけでは判断出来ないが、
「何だがヤバい奴らが関わってるみたいだな」
「誰であれ、彼をわたくしから奪う権利などありませんわ彼を利用するのでしょ?そんなの絶対に認めませんわ!」
「そうだね。しかし冒険者でも無さそうな人達がこのウィッチヤードの森まで簡単に来れちゃうのかな?」
古木に手を置きながらそんな事を考えていた時、
「おい!その木から離れろ、それはお前の様な下賤の者が触れて良いものでは無いぞ!!」
「そうだ。我らのご神木になる大切な木だ。冒険者の様な汚らわしい手で触るな!」
怒号とともに現れた集団がシャナ達を困らせている元凶の様だ。シャナは直ぐに古木に戻ったので姿を見られては居ないはず。
「おい!他にも仲間が居なかったか?女が居たように見えたが、隠し立てすると唯では済まんぞ?」
白いローブを羽織った男達が脂ぎった顔で迫ってくる。生憎、シャナは古木の中で静かに・・・ん?どうやら怒ってる様だ。古木からシャナと彼の感情が『気配察知』を介して伝わってくる。余計な情報は遮断している筈なのに、これだけ僕に伝わるって・・・
「ええい、その手をさっさと退けよ!なるほど、報告の通りなんと見事な霊樹だ。この木ならば・・・我らセクレスの信徒をどうかお導き下さい」
男はナイフを取り出し、鋭い刃で小さな枝を切ろうとした。ご神木とか崇めてる割に傷を付けるってどういう事だよ?!
「待て!そのナイフを収めろ」
「む、何だ貴様?!その手を離さぬか!この木は精霊が住むと噂の霊樹だ。我々教会で管理してやるのだから、寧ろ感謝されるのは我々だぞ?」
「お前達に何の権利があるって言うんだ。そもそもこの森は誰のものでも無いはずだ」
「何を言っている。この森の西側にあるセクレスを知らんのか?冒険者の質も落ちたものだ。いいか?このウィッチヤードはセクレスとアドルの両国に跨っている。その二国間で管理しているのだ。我々にも権利はあるんだぞ!」
管理?それが本当だとしても、古木を渡す訳にはいかないよ!
男の手を掴んで止めるが、此方の言う事などお構いなしの様だ。
「えぇい、煩い餓鬼め!我らが見つけたのだ。この木を持ち帰る事こそ我が使命。御神木に捧げ、我らセクレスの民の信仰を確かなものにするのだ!」
僕に構わず大層な御高説を唱えると、周りな連中も男に加勢しようと武器を構えている。
「多勢な無勢だぞ?死にたくなければそこを退け!」
「無理だね。それを許すと悲しむ子が居るんだから!」
「ふん!そんな奴居たら見てみたいもんだ。お前らこの餓鬼をさっと始末してしまえ!」
男達が剣で切りかかって来る。ここまで来るだけあって、太刀筋に迷いがない。むしろ人を斬るのに慣れている様だ。お前らどんな聖職者だよ!そう悪態を付きたくなるが向こうはお構いなしに攻撃してくる。
「速いぞ!囲め囲め!!」
「逃がすか!」
単調な攻撃を難なく交わし、こちらもナイフで応戦する。殺しても良さそうだが、面倒な事になりそうなので、武器を落とし拳をお見舞いする。魔力を込めた一撃で大の大人が吹き飛ばされて行く。
「グハッ」
「餓鬼一人に何を手こずっているのだ。情けない」
仲間が次々に倒されるのを見て、小太りの男は握っていたナイフを僕に向けて来た。体格の割に素早く重い斬撃がナイフに伝わるが、オルフの比ではない。
「くっ、小癪な!『ウッドバインド』!」
「うわぁ!?」
男は植物の蔦を地面から伸ばし僕を拘束してきた。ギチギチと体を締め付ける蔦を振り解こうと藻掻くが、
「お前の様な者にこの神聖な魔法は解けまい!これが我らセクレス、緑の信徒のチカラよ!!」
「ぐぅッ・・・」
締め付けられて苦しいのだが、頭の中では番人が『同一化』使えと提案してくる。
(ん?『同一化』?この蔦は生きているのか・・・という事は)
「そこで大人しくしていろ。用事が済んだらじっくりと甚振ってやろう」
男はそう言うと古木の方を向いて僕に背を向けた。他の奴等は意識を失って倒れている。今なら!
『同一化』!『渡り』!
「ん?何?何処へ消えt・・・グハッ?!」
僕の動きを察したように、再び拘束した僕が居る方を向くが既にそこには誰も居らず、蔦から古木へと移動した僕は、ガラ空きになった背後へとナイフを突き立てた。
「・・・」
「まあ、古木を守れたし良いか。他の奴等はどうしようかな」
血溜まりの中に倒れる男を見ながら、少しばかり後悔した。殺した男とその仲間達をどうしようかと悩んでいると、
「クロウ様!大丈夫ですか?」
「ああ、僕は大丈夫。シャナ達が無事で良かったよ。それよら凄く怒ってたね?」
「ええ、それはそうです。随分と勝手な事をクロウ様に言っておりましたから、わたくしも彼もつい頭に血が昇ってしまいましたわ!」
噴火しなくて良かったです。
「それはそうと、この者達をどうします?いっそ埋めて森の肥料にしましょうか?」
「ウ~ン、それが1番なんだけどさ。わざわざ殺すのも・・・そうだ!」
失神して居る男達の身包みを剥がすと、裸一貫で森との境目に運び出した。
ゼェゼェ、疲れた・・・
「お疲れさまでした。でもクロウ様がそんな事する必要があったんですか?」
「リーダーっぽい奴の服は血で汚れたまま置いて来たから、姿が無い事を考えれば何かあったんだと思うんだよね。それで諦めてくれれば・・・」
「もし諦めなかったら?」
「その時は、ウィッチヤードの肥やしになってもらうさ」
クロウは少しだけ悲しそうな顔をして、シャナと古木に別れを告げ魔女の庭へと戻った。クロウの気を知ってか知らずか、黒猫は遊び疲れたようでぐでっと伸びて寝ていた。
「クロウ君お帰り〜。今回も大変だったみたいだね?」
「また見てたんだ。全部知ってるならセクレスの、緑の信徒の事を教えてよ」
ラプラスは欠伸を一つすると、起き上がり顔を洗いながら、
「セクレスはウィッチヤードの西側にある宗教国家だよ。君の住むアドル王国とはこの森を巡ってお互いに権利を主張しているみたい」
「じゃあ、仲が悪いんだ?」
「そうだね。でも昔みたいにドンパチ戦争をする気は無いのかな。今は人間も少なくなっちゃったし。魔物の居るこの森を間に、戦争をする気は無いみたい」
「ふ〜ん。そう言えば樹木を操る魔法を使ってたけど、それと緑の信徒って名前が関係してるの?」
「そうだよ。司祭が来てたみたいだね。神木を崇める彼らは、樹木系の魔法を使える事が1番偉いと考えて居るんだ。だからしょっちゅうこの森から、精霊付きの木を奪って行くんだよ」
「随分と勝手なんだね。それで古木が狙われたのか。精霊が出るって噂が有るみたいだし」
「そう、だから残念だけど、クロウ君の思い通りにはならないかもね。彼らの国の御神木に問題があるんだ。だから絶対にまた来るよ」
ラプラスの話では、御神木のためにこの森から精霊付きの木々を奪っているらしい。精霊の豊富な魔力が必要らしく、セクレスの御神木を維持するために昔から略奪行為を行っているのだとか。
「クロウ君にはそういう人間からもこの森を守ってほしいんだ」
僕は町に帰りながらラプラスの言葉を思い出していた。セクレスから森を守る。つまり、人を排除するって事だよな。そう思うと余り気が乗らない。
木戸を開けてカビ臭さの漂う家に帰り着くと、ドンドンと扉を壊さんばかりに叩音が響いていた。そっか、集金か。僕は急いで扉を開けた。
「おう帰ってたか!金を回収しに来てやったぜ。しかし、今週は町では余り見かけなかったが忙しかったのか?ん?」
コイツ、誰の所為で余計な仕事が増えたか知ってるだろうに。お前の所為でシズが危険な目に遭っただぞ!
僕は金貸しに怒りを覚えつつも、全て身から出た錆。こんな奴に金を借りてしまった僕が悪いんだと、それを飲み込んだ。
「いくらです?俺も忙しいんで!」
「お、そうだな。生意気な餓鬼には大金かもしれねえが3000で良いぜ。さあ、有るのか無いのか?」
3000ゴールドなんて昔の僕なら到底無理な金額だぞ?こんな額引っ掛けて来るなんて・・・
「はぁ、ハイ」
「おお!最近随分と羽振りが良いじゃねえか!この調子でガンガン返済してくれると助かるぜ」
「もう良いですか?忙しいんです。じゃあ・・・」
僕が扉を閉めようとすると、男は扉を抑えて、
「お前さんにまた指名依頼を出しておいたから宜しく頼むぜ。俺の大事な顧客からの依頼だ。もし失敗したらお前の可愛いシズちゃんが危険な目に遭うかもな。まあ頑張れよ」
「な?!何でそんな事をしなきゃいかないんだ!シズを巻き込むな!!」
「がははは。その方が楽しいじゃねえか。まあ、依頼を受けないなら受けないで構わねえぞ。その分は、シズちゃんにツケておくからよ!」
「クソ野郎・・・」
「がははは!随分生意気になったじゃねえか。まあ、せいぜい頑張れよ。じゃあな」
男はそう言い残し夜の闇に消えていった。僕は握り締めた拳を暫くそのままに、消えた男の後ろ姿を見続けた。




