第21話 任せとけ
昨日シズを取り戻した僕は、硬く寝慣れたベッドで目を覚ました。ラプラスのお陰で、シズはあれからずっと眠り続けている。そんな彼女を優しく抱きかかえ、ドリー先生の診療所へと向かった。
「先生ー!お願いします!!」
「おおクロウに、シズちゃん!?良かった無事じゃったか!早く入ってくれ」
先生は朝早くだというのに快く僕達を受け入れてくれた。シズを元の病室に寝かせると。
「どれ、診察しても良いか?」
「うん、お願いします。疲れたのかずっと眠っちゃってて」
「ふむ、うーん、よし。体力は落ちているが大きな変わりは無い様じゃ。魔素病の影響も大きな変化なしか。ふー、安心しろクロウ。いつも通りじゃよ」
・・・いつも通り、か・・・あのまぼろし茸さえあればすぐに元気にさせてあげられたのに・・・
「・・・良かった。また、シズの事、先生にお願いしてもいいかな?」
「ああ、その事なんじゃが、ここでは診れんのじゃ」
「え!?そんな、シズを見捨てるんですか?!」
「ん?いや、すまんすまん。勘違いさせたな。昨日ギルドに相談しに行ったじゃろ?そこでサニーとサイラスに話を通したんじゃ。シズちゃんの安全のためにここではなくギルドの施設に入れて欲しいと頼んでおいたのじゃよ!」
「ギルドの?」
「ああ、ここよりも人の目もあるから安全だ。儂一人では守ってやれんかったからの・・・」
「僕たちの為に・・・先生、ありがとうございます」
「うむ。今日はここでシズちゃんを診ておくから、ギルドに報告がてらサニーに手続きをしてもらうと良い」
「分かった。行ってくる!」
その話を聞いて僕は急いでギルドへと足を運んだ。朝の活気のあるギルドでは、すでに多くの冒険者が活動していた。サニーさんのカウンターで並んで待っていると。
「おはようございます。サニーさん!サイラスさんと話せますか?」
「?!おはようクロウくん。シズちゃんは無事なの?」
「ええ、何とか。今はドリー先生の所で預かって貰っています」
「そう・・・大変だったわね。ギルマスなら上に居るわ。ちょっと今忙しいから、一人で行けるわよね?」
「はい。また後で!」
カウンターを抜け、階段を上がりサイラスの執務室の扉を叩く。
「クロウです。入っても良いですか?」
「ああ、クロウか、良く帰って来た。その様子なら妹さんは無事な様だな?」
「はい。お騒がせしました」
「いや、お前の所為ではないだろうに。やはりホルムスの貴族絡みだったか?」
「ええ、詳細は省きますが、何とか妹は取り返しました」
「そうか。そう言えば昨夜遅く、その貴族の屋敷が崩落したとの情報が入ってな。お前、何か知っているか?」
「崩落?!僕たちが帰った時は何ともなかったですけど・・・そのノベールは?」
「そうか。ノベール・ゲラディールの屋敷は崩れたが死人は出ていないそうだ。老朽化でもしていたのか、一瞬にして崩れたそうだぞ」
・・・崩れた?ブリオが意味深な事を言っていたけど、彼の仕業か?・・・
「まあ暫くはあちらも後処理で忙しいだろう。お前達に構っている暇は無いかもしれんな」
「そうだ。ドリー先生から聞きましたが、妹の件ですが・・・」
「ああ、ギルドに併設する居住区への一時的な入居を認める。君も望むなら入居出来るがどうする?」
「あ、いえ、妹だけお願いします」
「そうか?気が変わったらいつでも申し出でくれ」
サイラスの執務室を後にすると、サニーさんが待っていた。
そう、それはそれは般若の様に恐ろしい顔で・・・絶対怒ってる。ここは慎重に話を・・・そう思っていた矢先、
「クロウくん!私が以前に言った事を覚えているかしら?」
「ひゃいッ!すみませんでした」
「全く、無事に帰って来たから良いものを。貴族を相手に1人で行動するなんて危険なんですよ!!」
「でも、シズが攫われたんです!ジッとはしていられなくて、つい・・・」
「そんな時こそ頼って欲しいですけどね。まぁ、クロウくんの事ですから無理でしょうけど!」
「あははは・・・気を付けます」
「まあ、良いわ。さあ、お説教はこれくらいにしてシズちゃんの手続きをしちゃいましょうか?」
「ハイ、お願いします!」
手続きと言っても注意事項等を説明されただけで簡単なものだった。費用は多少かかるが食事も安全も確保されている。ドリー先生も往診に来てくれるのだから体調面も安心だ。
「これで終わりね。明日から使えるから、シズちゃんと来てちょうだいね」
「良かった。これで今まで以上に安心して依頼を受けられますよ」
「そうね、まだまだ借金があるんでしょ?頑張ってね・・・」
ギルドを出ると診療所に戻ってきた。シズの部屋をノックすると、
「はーい」
「お。シズ、起きたか。あれからずっと寝てたから心配したんだぞ?」
「うん、お陰様で大丈夫そう。でも起きたらドリー先生が居たからビックリしちゃった。いつの間にコッチに戻ったの?私、全然気が付かなかった!」
「今日の朝だよ?本当に覚えて無いんだな。まぁ心配になるくらいグッスリと眠って居たから当然か」
よしよし、上手く誤魔化せた様だ・・・
「そうだ、明日からギルドの施設で暮らす事になったから、明日は引っ越しだぞ?」
「え、引っ越し?!ここに居られないの?」
「ああ、でも安心しろ、ドリー先生が何時でも来てくれるし、もっと安全だ」
「私、ここが良い・・・ダメ?」
「うぐ・・・、ワガママ言うな。また誘拐でもされたらそれこそドリー先生が困るだろ?」
「・・・そっか、うん、分かった・・・あ、シャルルも一緒だよね?」
「偉い偉い。勿論シャルルも一緒だ。これからも世話を頼むよ」
「分かった。じゃあ今日は先生にお礼する!」
「無理するなよ?」
「うん!」
シズはそう言うと、ベットから起き上がり元気そうに出て行った。そんなシズを見送ると、僕は魔女の庭に移動して来た。
「ラプラス、ただいま」
「お帰りなさい。早速だけど、仕事にする?鍛錬にする?それとも♡♡♡」
「え?仕事するに決まってるじゃん?」
「ぶー、はぁまだまだクロウ君みたいな子供には私の魅力が伝わらないよね」
「魅力?ラプラスは(モフモフしてて)可愛いよ!(猫らしくって)ギュって抱きしめたくなる!」
「うぐッ・・・君ってそんなにストレートなんだね、お姉さんビックリしちゃったわ・・・」
「???まあ、いいや。じゃあゴミ掃除に行ってくるね」
「あ、はーい。気を付けてね~」
なぜか上機嫌に尻尾を揺らすラプラスに挨拶をすると、久しぶりの掃除に出掛けた。目的は先日までオルフ達と通った北のエリアだ。魔物を倒したのに依頼の所為でほとんどをそのままに残して来たのだ。比較的高価な部位は持ち帰ったが、それでもまだまだ売れる物が残っている。
「お!あった。ハンティングスパイダーにホーンベアだ。回収回収~♪」
魔物の遺体を数体マジックバックに収納してはブリオの元へと持って行く。数回の往復で粗方片付けた僕は、
「洞窟も覗いてみるか・・・」
件の洞窟の中も慎重に探索してみた。あの時は急ぎ足で最奥まで駆け抜けたこともあり、入口付近からゴーレムの居る場所までスケルトンやオオコウモリ、土トカゲなどの死体がゴロゴロと転がっていた。
「全部回収しちゃおう。『渡り』が使えないのが面倒だよな・・・木があれば一気にに移動出来るのに」
そう思いながら辺りを探すが、分かっていたが木なんてものは何処にもなかった。マジックバックが一杯になるまで地道に回収しては外へ戻って移動する。そうやってゴーレムの居た分かれ道のある空間までやって来ると、
「あれ、ゴーレムの死骸は無いのかな、あれも良い素材に成りそうだったのに」
誰に聞かせる訳でもないが、自然と言葉が零れた。その時、
ゴゴーンッ!!っと地面から黒い塊が勢いよく現れたのだ。
「ゴーレム!?」
ゴシャーンッ!!っと僕目掛け、ゴーレムの腕が振り下ろされる。青く光る眼は、腕を避けた僕をすぐに捉えると、地面に突き刺した腕から地面を沿って黒光りする鋭い棘を発生させた。
ズズズズ―ンッ!!
「速ッ!グワッ!!」
避けきれなかった鋭い棘が左足を削り斬る。転がって追撃を避けて何とか岩陰に隠れた。痛ってええええぇ!!!この前の冒険者達、こんなのと戦ってたの?!
僕を見失ったゴーレムは青い目を左右に動かし僕を探している様だ。息を整えながら回復薬を足にぶっ掛ける。痛みが引くのを待ちタイミングよく岩陰から飛び出すと、
「うおおおおッ!」
魔力を纏わせたナイフで死角から胴体へと攻撃を突き出した。吸い込まれる様にナイフが深く刺さったが、それを気にする事無く、ゴーレムは体を回転させ僕を吹き飛ばした。
「くそッ!」
飛ばされた先にゴーレムの生み出した棘の波が迫り来る。大きく後退しながら、直線から避けゴーレムとの間合いを詰める。ナイフで斬りつけようとするが、両腕を突き出しカウンターを仕掛けて来た。大質量の腕がナイフとぶつかり、僕は大きく弾き跳ばされた。そのお陰で、岩陰に落ちた様だ。
「ゲフゲフッ!うー、あちこち痛い。まずはここから逃げないと・・・ん?」
そんな負傷した僕をゴーレムは追撃してこない。再び目玉をきょろきょろと動かして僕を探している。ん?これはもしかして・・・
再びゴーレムが隙を見せたのを確認すると、ナイフを胴体に突き刺した。そんな僕を再び吹き飛ばしてくるゴーレム。
「よ、っと!」
地面に何とか着地すると、再び岩陰に身を潜める。あのゴーレム、視野から僕が居なくなると攻撃してこないぞ、これなら!
なるべく音も立てない様に、ヒット&アウェイで攻撃を繰り返す。何度も何度も胴体への攻撃を繰り返す内に、ボロボロになった胴体から青く光る部位が露出していた。あれは、
「これがコアか!?死ねーーッ!」
弱点と思わしきコアに向かってナイフを突き刺し、抉り斬る。青白い光が力を失い光が消えると、暴れていたゴーレムはガシャガシャーンっと音を立てて崩れた。
「終わったーーーーッ!」
ばたんと、大の字に倒れた僕は、息をあげながら喜んだ。そうして息を整えると、重いゴーレムの部品を回収する。その中にはコアの残骸もあった。丸い水晶玉が大きく割れたそれは、不思議な温かみがあった。
「これで全部かな。今日はもう帰ろう。魔力もそろそろ無くなりそうだ」
こうして日が暮れる頃には庭へと帰り着いた。最後の戦利品をブリオに届けると、
「ん?クロウよ。アイアンゴーレムを倒したのか?」
「アイアン?普通のゴーレムじゃ無いの?」
「何を言ってやがる?この黒鉄は石よりも硬えんだぞ?普通のゴーレムより体力も攻撃力も防御力も高えはずだ」
あ~、それで強く感じたのか・・・あんなのを倒せるような冒険者だったら僕の奇襲程度で動じたりしないもんね・・・じゃあ、あの時のが普通のゴーレムで、今回のは強い個体だった、と・・・うーん、運が良いのか悪いのか・・・
「あははは・・・なんとか倒せた。あ、そうそう、あとこれも」
「ん?これは魔導コアか?!なかなかレアなもんを手に入れたな!」
「魔導?コア???」
「ああ、ゴーレムみたいな無機物に知識を与える部位だ。大体が、崩れちまって魔石程度の価値しかねえが、こいつは綺麗に割れてるから、こうやって・・・」
ブリオが二つに割れたコアの残骸をぴったりと合たせると、失われた光が再び小さく灯った。
「クロウ、コイツに魔力を纏わせてみろ!さあ、早く!」
「ん?うん?!」
言われるがまま剣に纏わせる様に、コアに手を置き魔力を流す。僕の魔力がゆっくりとコアへ浸透していく様だ。
「カカカッ!成功だ!これで魔導コアの修復が完了したぜ」
「直ったってこと?」
「ああ、多分な」
「あ~、魔導コアじゃん、すごーい。クロウ君が取って来たの?えー、これ頂戴~」
「な、なんだよラプラス!?これが欲しいの?」
「うんうん!そのキラキラとした丸っこいのを見てると、体がウズウズするの!お願い、クロウ君!」
「お、おう、いいよ。ラプラスにあげるよ・・・」
「ホント~!?ありがとう。じゃあ、お礼に」
ラプラスはそう言うと、僕のおでこに可愛らしい肉球をピタンっとした。
『鍛冶屋が解放されました』
『庭に設置しますか?はい/いいえ』
「え?貢献度を消費してないのにスキルが解放されたんだけど?」
「だから、お礼だって言ったじゃん。さあさあ、遠慮なく」
「う、うん・・・『はい』」
ブリオの店の隣にドコ-ンっともう一軒建物が増えた。中から出て来たのはオーガの様な厳つい鬼だった。
「ふーむ、久しぶりの外の空気は美味いな~。んラプラス様に、他のメンツも居るのか。久しぶりだな」
「やっほーセタヌ。今回も君の腕が必要になったんだよ、宜しくね」
「任せとけ!」
セタヌという黒いオーガはニカっと笑って応えてくれた。




