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不憫な彼と魔女の庭  作者: アオネコ
第1章 魔女の庭

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第20話 良い取引

 静まりかえったシズの部屋。診療所に居るはずのドリー先生も居ない。みんなどこに行ったんだよ・・・ん!?どこかで何かが呻いている?僕は診療所の中を探し回って、音のする物置部屋の扉を開けた。


「んー、んー!」

「先生?!今、助けます!」

「ぷはッ、助かったわい」

「先生、シズは?妹は何処に行ったんです?」

「何?シズちゃんが居ないじゃと?!すまん、儂もいきなり捕まってこの有様で、どこに行ったかは・・・」

「そんな・・・」

「そう言えば、儂を縛った奴が誰か話しておったんじゃが、確か洞窟のキノコがどうのこうの言っておったが・・・」

「洞窟のキノコ・・・それはいつ頃?」

「う、うむ、昨日の診療が終わってすぐだったな。診療所を閉めようとした時に襲われたんじゃ・・・シズちゃんを攫ってどうする気なんじゃろうな・・・」

「・・・ドリー先生、ギルドに報告してくれる?俺はちょっとやる事が出来たから行くね!」

「おい、クロウ!待て!!」


 僕はドリー先生の静止を振り切って魔女の庭へと駆け込んだ。先生の記憶が確かなら犯人はホルムスの貴族か、金貸しのどちらかだろう。金貸しはギルドが目を付けているはずだから以前みたいに簡単に動けないはず。となれば・・・


「やあ、クロウ君。そんなに慌ててどうしたの?」

「ラプラス!シズが攫われたんだ、折角まぼろし茸が手に入ったのに!」

「シズちゃんが?!何でまた・・・またあの男?」

「いや、多分、ホルムスに居る貴族の差し金だと思う。まぼろし茸の依頼も貴族が冒険者を雇っていたみたいだし。なんならキノコだけじゃなく、俺も標的にされていたんだ」

「クロウ君、君、その貴族に恨みを買うような事したのかい?」

「いや、そんな覚えは無いけどさ」

「ふーん、じゃあその貴族はどうしてもまぼろし茸を手に入れたいみたいだね」

「まぼろし茸を?どうして?」

「だって、まぼろし茸の調査を知ったから冒険者を雇ったんでしょ。それに君が調査に行くと知ってたから、もしもの保険の為にシズちゃんを誘拐して」

「僕からまぼろし茸を手に入れる為にシズを!?」


 怒りでどうにかなりそうだった。僕に何かするなら兎も角、大切な妹に手を出すなんて・・・感情に呼応するように僕の頭の中で『造園』がチカチカと点滅している・・・今ならコイツで何でも出来そうな、そんな感覚だ。


 僕の体が無意識に『造園』を発動させようと動くが、


「ストッーーープッ!!!!」

「ぐへぇ?!痛いな!何するんだよラプラス!?」

「もー、それはコッチのセリフだよ!クロウ君、番人のチカラをそんな風に使うのは良くないと思うな?」

「へえ?チカラを?」

「怒るのは構わないけど、番人はこの森を守るチカラだよ?チカラに振り回されちゃ駄目だからね!?冷静になってよ」


 ラプラスからの一撃を貰ったお陰か、番人のチカラはいつもの調子に戻っていた。チカラが僕を動かした?何それ怖い・・・


「クロウ君、何度も言うけど番人のチカラはウィッチヤードでしか発揮出来ないからね?感情に任せてこの森をめちゃくちゃにすると、森だけじゃない君たちの住む町なんかにも影響が出ちゃうんだ。だから、君に出来る事は唯一つ」

「ただ一つ・・・?」

「まぼろし茸を上手く使ってシズちゃんを取り返してきなさい!」

「うう・・・出来るかな・・・」

「そういう事ならアッシがお手伝いしやしょう!」


 自信の無い僕を見兼ねたブリオが僕の背中を叩いてくれた。


「アッシに任せなさい!」

「ええ?!でもどうやって?」

「まあまあ、さあ、クロウ。アッシと一緒に来なせえ」

「よろしく~」


 呑気なラプラスに見送られ、ブリオの後を追う。庭にある彼の店に着くと、


「さあ、こっちだ。はぐれない様にしっかり後を付いて来るんですぜ」

「うん」


 店の中は相変わらず暗く、左右の棚には数多くの品物がうず高く積まれている。右へ左へ、真っすぐ進み、何度目か曲がり角をブリオの背中を追いかけると、次第に明るくなり、


「着きやした。ホルムスのアッシの店です」

「え?ブリオの店?ホルムスに着いたの?」

「かかか、アッシは商人。いつでも、どこででも商売が出来るのはこの店のお陰さ。さあさあ、まずは情報収集から始めましょうや」


 チリンチリンと手に持った鈴を鳴らすと、どこからともなくチューチューとネズミ達が現れた。


「なあ、お前達、今日は一大事だ、いつもより早く正確な情報が欲しい。クロウの妹、名前はシズちゃんだ。この子が誘拐された。さあ、探せ。目星は貴族の屋敷だが、町全体を探し回れ。褒美はそうだな・・・肉にしようか、それともチーズが良いか・・・」


 チューチューチューと大合唱が始まると、


「カカカ!分かった分かった。特別に両方にしてやろう。さあ、行け!」


 チュー!!!!と鳴くと四方へと散らばって行くネズミ達。呆気に取られていると、


「可愛いだろ?アッシの使い魔なんでさあ。すぐに居場所は分かると思うから、今のうちに作戦を立てましょうや」

「うん、ありがとうブリオ」

「カカカ、他でもないクロウの事だ。アッシも黙っちゃいられねぇさ」


 こうしてブリオとどうやって交渉するのが一番良いか、話し合っている内に、一匹のネズミがテーブルにちょこんと上がって来た。


 チューチューと何やら報告するような素振りで可愛い。それを真剣に聴くブリオもだ。


「クロウ、睨んだ通り、妹さんはこの町の貴族の屋敷に囚われているようだ。目立った怪我なんかは無い様だが、監禁されているらしい。あとはお前さんの腕次第だ。それに面白い情報もあった。打ち合わせ通り、上手く話を纏めてこい」

「こんな理由で?!・・・分かった。頑張ってみる!」


 ブリオと別れ、彼の店を出る。すでに日が落ち始め夕暮れの空が赤く染まり町の灯りがぽつぽつと点いていた。貴族の屋敷への続く石畳を進み、見覚えのある正門へと近づくと、


「ん?何者だ?ここはゲラディール家の屋敷だぞ?」

「そのゲラディールって奴に用があるんだけど?」

「な?!貴様、旦那様に向かってその口の利き方は何だ!小汚い庶民めが!」

「その偉そうな旦那様に伝えてくれます?お望みのキノコを配達しに来たってさ。ついでに俺の妹を返せってね」

「何?お前が旦那様の言っていた子供か?!くくく、そうか。よし、ついて来い」


 兵士はそう言うと、門を開け僕を中へと案内した。ガラの悪いのはこの兵士だけでは無い様で、兵士たちがニヤニヤとした嫌な笑顔をこちらへ向けて来る。悪趣味に飾られた玄関ホールを抜け、2階へと上がる。大きな扉の前まで来ると、


「ノベール様、失礼します」

「ああ、入れ。ん?その汚らしい子供は誰だ?」

「は、この子供が、件の冒険者の様で、キノコを態々届けに来たそうです」

「何?!まぼろし茸をか?連絡が途絶えたのでどうしたものかと思っていたが、そうかそうか」


 小太りのオークの様な如何にも悪い事しているよって感じの貴族様が、ニタニタと笑って僕を見ていた。


「さあ、まぼろし茸を寄越せ」

「その前に、俺の妹は無事何だろうな?」

「妹・・・ああ、あの小娘か。今はな・・・お前がちゃんとまぼろし茸を渡したら返してやろう」


 無事ね・・・監禁しておいてよく言うよ・・・


「さ、どうした。早く渡せ。さもなくば妹の命は、」

「ほら、これだろ?お前の欲しがっていた物は」


 僕は貴族にまぼろし茸を見せた。未だに淡く光を放つ神秘的なキノコをノベールは奪い取った。それを見て喜んだのも束の間、


「ほほ~ッ!これがまぼろし茸、何とも美しぃ・・・ん?何だこれは!半分?!おい、もう半分はどこだ?寄越せ!!」

「残念ですが、ここにはないよ。妹を無事に返すのが先だ」

「く~ッ、貴様!誰に向かってそんな口を、おい、今すぐ渡せば許してやる。さあ、もう半部を渡せ!」


 と、顔を赤くして威圧してくるが、


「耳が無いのか?妹を返せ。俺達が無事にここから帰ったらもう半分を届けれやるって言っただろ?それに、このまぼろし茸が今すぐに必要なのはそっちのはずだが?間に合わなくなっても知らないよ?」

「は?張ったりだろうが、別にこちらは急いている訳では・・・」

「ふーん、そうなんだ・・・でもあんた、以前王宮とまぼろし茸の取引をしたそうじゃないか、大見えを切ってすぐに手に入るとか言って、大金を王宮からせしめたんだろ?それが手に入らず相当困ってるみたいじゃないか。今回もやっと手に入ると思ったら、その冒険者達とも連絡が途絶えてこの有様・・・」

「な、何でお前如きがそんな事を・・・誰にも知られていないはず・・・」

「さあ、どうする?因みにその量じゃ魔素病には効果がない。本当はこの一本で妹が助かるはずだったんだ。それをお前たちの所為で・・・」

「く、糞餓鬼が・・・わ、私に・・・おい!コイツの妹を連れてこい」

「は、いや、でも・・・」

「さっさとしろ!!」

「はっ!」


 兵士は慌てて部屋を出て行った。目の前のノベールは未だに顔を赤く怒りを露わにしているが、半分のまぼろし茸を丁寧に箱へしまうと、


「貴様、あの金貸しに多額の借金をしている様だな・・・どうだ、私の仲間になればその借金は免除してやっても良いぞ?代わりに、これからもまぼろし茸を採って来て貰うがな、どうだ?」

「有難い提案ですが・・・遠慮します。借金は自分でちゃんと返済しますし、まぼろし茸を必要としているのは貴方達だけじゃ無いんです」

「ふ、そうか・・・今に後悔することになるぞ」

「・・・」


 暫くすると、先ほどの兵士が部屋に入って来る。傍らにはシズの姿があった。


「お兄ちゃん!?」

「シズ!良かった・・・無事で・・・」

「うん、怖かった・・・」

「もう大丈夫だ。帰ろうな?」

「うん・・・」

「ふん!さあ、さっさとご帰宅願おうか。だが忘れるなよ?もう半分を届けなければ今度は貴様らの命を貰うぞ!」


 貴族の言葉に怯えるシズを支えながら、僕たちは足早に屋敷を出た。誰かが付いてくる気配は無いが裏路地に入ると、待っていたネズミに案内されて町を進み、ブリオの店へと帰って来た。僕はネズミにお礼を言うと、


 チュー


「ブリオ戻ったよ」

「おお、お帰りなさい。あとはアッシに任せて、休んでくだせえ」


 暗がりでブリオの姿は見えないが、ボンヤリと明るい店内には暖かい食事などが用意されており、僕とシズはやっと生きた心地がした。


「お兄ちゃん、今の人は?」

「ん?ああ、僕の友人だよ。色々と手助けしてもらってさ。さあ、暖かい内にご飯を食べよう。兄ちゃんお腹ペコペコだよ」


 ぐぅ~ッとなるお腹の音を聞いたシズは笑って頷いた。今頃ノベールの屋敷にはもう半分のまぼろし茸が届いている頃だろう。本当にブリオはよくやってくれた。彼のネズミ達が、ノベールの取引の事などを調査してくれたお陰で、今の所上手く事が運んだのだ。まだ、心配事はあるが、


「シズが無事に帰って来てくれて良かったよ。明日には馬車で町に帰ろうな?」

「うん。早く帰ってシャルルに水をあげないと」


 彼女はそう呟くと、毛布に包まり寝てしまった。余程疲れていたのだろう。病弱な体で辛かったろうに・・・そんな心配をしていると、


「クロウ・・・妹さんは寝たか?」

「ああ、ブリオ。君のお陰で助かったよ。これから庭まで案内してもらっても良いかな?」

「もちろんだ。あとの事はアッシに任せておけ」

「ん?うん。よいしょ、っと」


 僕は眠ったシズを起こさない様に抱きかかえると、ブリオに案内されて店の中を通り、魔女の庭へと帰って来た。そして、直ぐに自分達の家の硬いベッドへとシズを寝かしつけた。


「お帰りクロウ君。無事に帰って来れて良かったよ。シズちゃんも大丈夫そう?」

「ああ、ブリオに助けられた。まぼろし茸は無くなったけど、シズが無事ならまた何とかなるさ」

「そうだね。シズちゃんの事は私に任せて、君に少し休みなよ。昼くらいにはシズちゃんを起こそうか」

「分かった。じゃあ、おやすみ」


 僕も漸く自分のベッドで体を休めた。目を閉じればすぐに睡魔が僕を闇の底へと導いてくれた。


 その頃、


「くくく、やっと手に入れたぞまぼろし茸。これでやっと王宮からの催促も終わる。これで王宮との繋がり私のメンツも保たれたのだ。大金を動かした甲斐があったというものだ。しかし、あの餓鬼め、この私を手玉に取ったつもりだろうが・・・私をコケにしよって、こうなれば今度は力ずくで、くくく」


 ノベールが机に座り悪だくみをしていると、ゴゴゴゴゴと低い地鳴りが聞こえて来る。次第に屋敷全体が揺れ始め、音を立てて建物が崩れ始めた。


「な?地震か?!く、うわあぁぁッ!?!?」


 幸いというべきか、建物は酷く崩壊したが死人は出なかった様だ。何事かと町の人々が集まる中を、小さなネズミ達が人の波を掻き分け走り抜ける。喧騒に湧く町の小さな店の中で、ネズミ達が持ってきた箱を受け取ったブリオは満足そうに笑う。箱の中には収められたまぼろし茸が青白い光を放っていた。


「良い取引でしたぜ」

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