第19話 シズ?
隣町ホルムスから来たという冒険者達がゴーレムと戦ってる脇を抜け、僕らは最深部の空間に辿り着いた。魔素が濃いのだろうか、ちょっと噎せ返るような息苦しさを感じる。しかし、それは魔素の所為だけでは無い様だ。目の前には、
「何だここは?キノコがこんなに?」
「この中にまぼろし茸があるのかしら?」
至る所に大小さまざまなキノコが生え、時折、胞子を吐き出すキノコの群生地が広がっていた。
「ギルドの話ではこんな情報は無かったわよ。それがどうして・・・」
「正体不明の魔物ってのも居ねえようだが、それもこのキノコの所為か?」
「どうだろうな、ん?おい、あの奥に光っているのは?」
「あれは、まぼろし茸!?」
暗い広場に青白い光を発するキノコがぼんやりと浮かび上がっていた。以前セトさんに貰ったツキヨタケに似ているが、番人の知識が本物だと証明してくれている。あれがまぼろし茸・・・あれさえあればシズが助かる!
逸る気持ちを抑えつつ、警戒して進もうとオルフ達に合図をした瞬間、僕らの体が鎖の様なもので絡め取られた。ギチギチに拘束され身動きが取れない。
「な、何だこれ?!」
「大人しくしろ!そのキノコは俺達の物だ!」
背後から図太い男の声が響き渡った。杖を持った魔法使いのような男、洞窟に入らなかったもう一人の男だろう。後ろには、ゴーレムと戦っていた3人も控えている。
「おい!この鎖を解け!」
「こんな事して許さないわよ!?」
「ふん、ギャアギャアと煩い連中だな。だが、お前達のお陰で煩わしい探索を省略出来たのだ、感謝するぞ」
「へへへ、俺達を出し抜いたつもりだったろうが残念だったな」
へらへらと笑う男達は、こちらに近づくと、
「おい餓鬼、お前は俺達と一緒に来てもらう」
「ぐへ・・・」
「おい!クロウを放しやがれ!」
「ふん、おい!さっさとまぼろし茸を取って来るんだ」
「ああ」
僕の首根っこを掴むと男に担がれる。魔法使いに言われ男たちが奥へと、まぼろし茸を採ろうと進む。
「へへへ、コイツが一本10000ゴールドか、これを持って帰ればあの方も喜b、ブフッ?!?!?」
キノコを踏み潰し、男の一人がまぼろし茸を掴んだその時、闇の中から何者かに殴られ男が吹き飛ばされたのだ。
「ぐ、あ・・・」
「何だ?!おい、大丈夫か?!」
まぼろし茸を握りしめた男は、意識を失った様だ。ズン、ズン、と彼を吹き飛ばした存在が薄明りに照らされる。そこに現れたのは巨大なキノコの化け物、巨大な赤い傘の下に凶悪な顔が付いた魔物であった。
「マッシュマン!?しかし、なんだあの馬鹿でかい腕は?」
左右非対称に右腕だけが異様な大きさで、地面を引き擦りながら移動している。そんな大きな腕を軽々と持ち上げ振り上げると、まぼろし茸を持った男を叩き潰した。
「お?!おい、よくも仲間を!?」
「おい待て!」
魔法使いが止めるのも聞かず、飛び出したもう一人が剣でマッシュマンを斬りつける。スキルを発動させた様な強力な一撃であったが、
・・・
「効かないだと?!」
剛腕はまるで何事も無かったように傷一つ無い。焦る男だが、足元に落ちたまぼろし茸を急いで拾い上げると、後方へ急いで戻って来た。マッシュマンはそんな彼を追うように視線をあげると、巨体を起こしゆっくり移動し始めた。
「く、ミドガルの冒険者よ。チャンスをやろう。このガキを無事に返してほしければあの化け物を倒せ」
「?!そんなのダメだ!」
「本当だな?」
「オルフ?」
「ああ、約束しよう」
男たちは広場の入口へと後ずさりしながら、オルフ達の拘束を解いた。オルフ達を囮に逃げる気なのだろう。
「オルフ!みんな!」
「クロウ、無事に帰ったらまた一緒に冒険しような」
彼の呟きが、聞こえた気がする。僕は小さくなる明かりを最後まで見届けた。男たちは急いで洞窟を脱出しようと走り続けた。時間は掛からなかったが、僕には長く感じた。
もっと速く、早く走れよ!!!
「ふぅふぅ・・・ああ糞、もう二度とこんな依頼は受けないからな!?」
「無駄口を叩くな、もうすぐ出口だぞ」
「ああ、やっとだ」
息を切らして洞窟を脱出した男達。手にはまぼろし茸を持ちニヤニヤと笑顔だ。糞腹が立つ。
「おい!何で俺を連れて来たんだ!?」
「あ?ああ、理由は知らねえがホルムスの冒険者の中にお前みたいな餓鬼が混ざってるって情報があってな。そいつを連れて帰ると追加で報酬が出るそうだ。お前さん、貴族に目を付けられてるみたいだな?」
「貴族が、俺を?どうしてだ!?」
「そんなの知るかよ?俺たちは報酬が増えればそれで構わねえ」
そんな理由で、それは兎も角、早くオルフ達を助けに行かないと!
「分かった・・・なあ、ここから帰る前に用を足させてよ・・・さっきから我慢してて、このままじゃ漏れそうで・・・」
「ああ?俺の肩で漏らすなよ?!ったく、そこの木の陰でさっさと済ませろ」
そう言って乱暴に僕を地面に卸すと、拘束したまま木陰に転がした。
「ありがと・・・」
「ん?」
僕はすぐに『同一化』を発動する。木に吸い込まれた際に、体を拘束していた鎖はその場に音を立てて落下した。一瞬、姿が消えた僕に違和感を感じたようだが、自分達の準備に気を取られていた様だ。
「おい、いつまで・・・ん?餓鬼が逃げたぞ!どこに行きやがった?!」
「なに?あの拘束を抜けられるはずが無ッぐはっ!?」
僕はすぐに魔法使いの背後の木に『渡る』と、魔力を纏わせたナイフを構えながら木から飛び出し背中を貫いた。相手が崩れ落ちると直ぐに木に溶け込み、残る男達を次々に排除した。地面にはまぼろし茸を拾い上げると、
「お、まぼろし茸はマジックバックに入れて、と。こうしちゃいられないすぐに戻らないと」
僕は、男達の死体をその場に埋めてしまうと急いで洞窟内に戻って行った。すでにスケルトンなどは復活していたが、戦闘は避けて奥へと急いだ。小さくだが戦闘音が木霊している。まだ、無事な事を祈りながら最奥の広場まで駆け抜けた。その頃、
「マルス、下がって!」『アイスロック』!
「うおおおッ!」『二連斬り』!
マルスは負傷した体を引きずり何とかマッシュマンから離れる。そこにソルトの氷魔法が命中するが、体を凍り付かせながらも剛腕を振り下ろすマッシュマン。異質な腕は体がダメージを負うのも気にせずに動き回っている様だ。
「こいつ正気か!?体が裂けちまうぞ?!ぐあぁッ!」
「オルフッ!?キャアア!」
マッシュマンは腕を強引に伸ばしオルフや距離のあったソルトへ攻撃を与えた。右腕が巨体を引きずりながら3人に迫る。その姿に動けないオルフ達の脳裏には絶望が過った。ただクロウの無事を願って振り下ろされる拳を受け入れたのだった。
・・・
・・
・
「させるかぁーーーーッ!」
振り下ろされた巨大な腕の前に小さな影が飛び出した。虫を潰すかの如く無慈悲に振り下ろされた腕は、バゴンッっと音を立てオルフ達の目の前で停まった。
「痛ってええ、みんな無事!?」
「クロウ?!お前どうやって・・・」
「それは、後で!今のうちに、動ける?ぐおおおお!」
腕を受けながら何とか耐えているクロウであったが、そろそろ限界だ。3人が少し離れると、腕を受けていたリュックを捨て攻撃を受け流した。
ズーン・・・と重い音を立てて腕が地面にめり込む。あれほどの一撃をあんなリュックでどうやって受けたのか。オルフ達は疑問に思ったが、
「はぁ、はぁ・・・なんとか、なった・・・」
「クロウ!?大丈夫か、無茶しやがって・・・」
「ホントよ!どうやって防いだのよ!?」
「いや、剣と同じようにリュックを強化してみた」
「はあ?!そんな馬鹿な事よく考え付くぜ・・・」
「だって手元に何もなかったし・・・でもお陰でほら」
僕が指を差すと、全員がマッシュマンを見た。地面から腕を振り抜こうとして藻掻いているが、一向に出来ないでいた。
「あのバカ、どうしたんだ?腕が抜けない様だが」
「ん、あのリュックにはハンティングスパイダーの糸腺が入っているからね。潰れて地面とくっ付いたんだよ!」
「じゃあ、今がチャンスだな・・・逃げるぞ?」
「え?倒さないの?」
「無理無理、こっちもボロボロだ。しかもよく見ろ。あの化け物、さっきまで俺たちが与えた傷がもう回復してやがる」
「そうね。分が悪いわ、早く逃げましょう」
「了解」
僕達は今にも地面を割って飛び出してきそうな右腕を警戒しながらその場から退避した。道中の魔物は主に僕が先陣を切って倒していく。幸い、ゴーレムは先ほど冒険者達が倒したのか、来るときも帰る時も姿を見なかったのが救いだった。洞窟の外に出る事には、すでに日も落ち、暗い夜が広がっていた。
「ふ~、助かったぜクロウ」
「ああ、よくやったな」
「みんなが無事で良かったよ。僕も洞窟から連れ出された後、あいつらの邪魔になったみたいで捨てられたんだ。何とか鎖を解いたんだけど、本当に間に合って良かったよ」
「あーもう、ほんとムカつくわ!あいつ等今度会ったらギッタンギッタンにしてやるから覚悟してなさい!」
「全くだぜ・・・まぼろし茸も手に入らなかったしよ」
「任務は失敗だな。ここの洞窟もあんな化け物が居たんじゃ簡単に入手は出来ないだろうしな」
「そう、だね・・・」
まぼろし茸・・・あるんだけどなぁ・・・取り返したんだって説明が付かないよ・・・ごめん、みんな。
罪悪感はあったが僕のチカラを説明することは出来ないし、これがあればシズの病気は完治するはず。オルフ達には申し訳ないが黙っておく事にした。
「まあ、命があればまた再戦出来る。今度こそアイツも倒してまぼろし茸をゲットしようぜ!」
「そうね、それにはもっともっと強くならないと。帰ったらもっと依頼をこなすわよ!」
「そうだな!俺ももっと鍛えねば!」
「はいはい、取り合えず、キャンプでしっかり休みましょう。帰るのは明日で良いですよね?」
「おう、そうだな」
こうして僕たちは野営に戻ると体を休めた。火を囲みながら食事を取り、傷を癒す。自然と話が僕のチカラについての話題になったが、
「きっとクロウは土属性の魔法を使えるんじゃないかしら?」
「土ですか?」
「ああ、剣を強化したり、リュックなんかを盾に出来るくらい強化していたもんな!マルスとは違う見たいだが?」
「ああ、俺は身体機能を強化出来るが、剣や盾までは無理だからな」
「そういうオルフは?」
「俺は火だな。凄腕の剣士には属性を纏った攻撃が出来る奴もいるらしいが、滅多に見た事無いぜ。はぁ~俺もいつか『爆炎斬り』を放ってみたいぜ」
「絶対駄目よ!あんたがそんな技使ったら、全部燃やしちゃうでしょ!?」
「あははは・・・」
「まあ、もしかしたらって話だ。クロウも自分のチカラをしっかりと鍛錬する事だな」
・・・『造園』は土属性かも・・・魔力を纏わせて強化するのも、土属性で強引に誤魔化せるか・・・うん、暫くはこれを上手く利用しよう
木に凭れながら『気配察知』で周囲を確認する。手強い魔物の反応は殆ど無い。今は洞窟を避ける様にこの一帯は安全地帯のようだ。以前僕が偵察に来た時はそうではなかったが、マッシュマンとの戦闘が影響しているのだろうか・・・
交代で見張りつつ、朝を無事に迎えた僕たちは荷物を纏めると洞窟から離れ、森を抜けた。ここでも魔物避けが効果を発揮してくれたので、戦闘こそ少なかったし、時折現れるハンティングスパイダーやホーンベアなどの強敵は、ソルトの魔法が火を噴いて殆ど一撃で仕留めていた。オルフ曰く、
「アイツ相当怒っていやがる。あの男たちに出し抜かれたのが相当悔しかったのみだいだぜ」
と、憂さ晴らしに利用されるのが魔物で良かったと思う僕らであった。そんなこんなでギルドまで無事に帰って来ると、早速サイラスに報告するために執務室に移動する。
「ご苦労だったな。取り合えず無事に帰って来てくれて良かった」
「まあ、結果は散々だったけどな」
「もう、ギルマスにそんな口の利き方をして、ゴホン、結果から申しますとまぼろし茸はありましたが手に入りませんでした。途中ホルムスの冒険者を名乗る者たちの邪魔が入り、さらに異形のマッシュマンが居たため失敗しました」
「全くなあ、最悪だったぜ?」
「ふむ、まぼろし茸は実際に有ったのは確かだな?それにしてもホルムスとは、ますます厄介だな」
「連中が雇われたと言っていたが、やはり貴族絡みですか?」
「そうだろうな。そして異形のマッシュマン。そんなに手強い相手だったのか?」
「ああ、俺やソルトの攻撃が何とか通るが、回復力が半端ない。それに、右腕が異常に発達していてうちのマルスが負傷した位だ」
「それほどか。ふむ、簡単にはまぼろし茸の採集は困難か」
「ああ、あいつを倒して帰って来るなら、少なくとも2パーティくらいは必要だな。まあ、まぼろし茸がまたあればの話だがな」
「残念だが、ギルドとしては推奨は出来き兼ねるな。危険すぎる」
「俺もそう思うぜ」
「クロウ君、残念だったな」
「あ、はい・・・」
僕は曖昧な返事をするので精一杯だった。早くシズにまぼろし茸を持って行きたい。逸る気持ちを抑えて冷静さを保つのだった。
そして、漸く話も終わり、皆と別れた僕は急ぎ、シズの居る診療所を訪れた。
「シズ!これで病気が治るぞ!」
・・・
「・・・シズ?」
薄暗いシズの病室は静まり返り、そこに居るはずの僕の妹は何処にもいなかった。




