第18話 見直した!
調査当日、朝日が昇る前には僕と蒼天の翼のメンバーの4人は町の外に集まっていた。それぞれ自分の荷物を持つが、それでも嵩張る物は僕が引き受けた。
「おい、クロウ。本当に大丈夫なのか?俺ならもう少し運べるぜ?」
「大丈夫だよ。そんな事より、オルフはしっかり魔物を倒してくれよな!」
「あらあら、すっかりヤンチャな弟分が板についてるわね」
「ああ、その所為かいつもに増してオルフが張り切っている気がする」
「おい、煩いぞ!良いだろう、俺らは先輩冒険者だぜ?格好いい所を見せてこそだ」
「ハイハイ。みんな準備は良さそうね。じゃあ出発しましょう」
「「「おー」」」
町を出た僕らは馬車に乗り草原を北に抜けウィッチヤードを目指した。町から西に進めばラプラスの庭がある山の南の側へ行くが、今回は普段はあまり行かない方面へと進む。
番人の仕事も南側が中心で北側の仕事は少ない。これまで何度がゴミ掃除に行ったが、強そうな魔物が多いのだがゴミが少ないのだ。
「しかし、北側なんて冒険者でもなかなか行かないエリアだぞ。よくそんな所にある洞窟を見つけたもんだ」
確かに、
「偶然らしいわよ?盗賊退治の帰りに発見したらしいわ。ギルマスの話ちゃんと聞いてた?」
「そういうのはソルトの役目だろ?しかし、盗賊退治とはご苦労なこった。俺ならパスだな」
「どうしてです?」
「ん?盗賊なんて倒しても旨味も無いしな、魔物を狩ってた方がよっぽどいい稼ぎになるだろ?」
「なるほど・・・」
北側はこの前、サジと依頼に向かった隣町がある方向だ。あの町からはウィッチヤードの北側は比較的近い。確かに盗賊っぽいのも居た。アイツらを有効活用するとしたら僕くらいだろうな。念のため『気配察知』に人間も追加しておこう。
そんな事を話しながら日が地平線から頭を出す頃には南北を隔てる切り立った山の北側に回り込む事が出来た。
此方はまだ暗くただの森ですら不気味さを増している。ここからは徒歩で目的の洞窟までウィッチヤードを進むのだ。
僕は事前にラプラスに場所を教えて貰い、洞窟の周囲を見て回った。鬱蒼とした森の中に、大口を空いた洞窟があるのだが、やはりその周囲には強い魔物が多く生息している。なるべく戦闘を避けたい僕は、セトさんに教えて貰った魔物避けの植物を乾燥させ持ち込んでいた。これで少しは危険が減るだろう。
「よし!準備は良いな。みんな気を付けろよ」
「クロウの用意した魔物避けも有るし、強い魔物に注意すれば良いから少しは気が楽よ」
「そうだな、じゃあ行くぞ」
暫く裾野に広がる森を進むとウィッチヤードへと辿り着く。魔物避けを燻しながら進んだお陰でほとんど魔物には会わずに済んだ。ただ、
「チッ、ここらはハンディングスパイダーの縄張りか」
「厄介ね、この煙も効果が無いわ」
残念ながら蜘蛛の魔物には燻された魔物避けが意味をなさない。時折、木に触れては『気配察知』で魔物を見ていたが、ハンディングスパイダーだけは僕らの動きを察知して襲いかかって来たのだ。
キシャーーーッ!
2本の鋭い前足を振り上げ僕らを威嚇する。巣へと追い込む作戦の様だが、生憎こちらは4人。それに遠距離から攻撃出来るソルトが居るのだ。
『ウィンドスピア』!
ソルトの風の槍を皮切りに、前に出るマルス。大盾と剣を構えハンディングスパイダーの攻撃を凌ぐ。マルスに守られながらソルトがさらに魔法で体力を削る。それに合わせて、左右から僕とオルフが追撃を入れる。1人では難しい魔物を、難なく倒した僕らは、
「糸だけでも回収するか?」
「そうね。色々と使い道もあって便利だしね。マルスお願い」
頷いたマルスはナイフで手際よく尻部分から糸腺を取り出すと荷物に仕舞った。
その後もハンディングスパイダーやホーンベア等を危なげ無く倒して進む。やはりBランクのオルフ達。攻守のバランスが良く安定して戦っている。
「これだけでも良い稼ぎになるな。この先で、キャンプを張ろうぜ。そこからなら目的の洞窟はすぐのはずだ」
僕は開けた場所で野営する準備を始めた。荷物を降ろし各々準備をしていると、僕の『気配察知』に人間の反応があった。完全に『同一化』している訳では無いので、正確な様子は分からないが3、4人程が纏まって居る様だ。盗賊かな?気になった僕は、近くに居たマルスに、
「マルス、ちょっと用を足してきてもいい?」
「分かった。離れすぎるなよ?」
「うん」
そう、返事をすると少し半れた木の陰へと素早く移動し木と『同一化』した。そこから反応があった場所を『見た』。そこに居たのは冒険者風のパーティだった。男が4人、荷物は少ないが森を洞窟の方へと進んでいる様だった。もっと近くで確認しようとしたその時、マルスの声がした。
「おーい、クロウ大丈夫か?」
「う、うん。大丈夫だよ。今行くよ」
慌ててスキルを解除して急いで野営へと戻った。
「俺もついでに用を足してくる。先に休んでくれ」
「分かった」
僕は木に凭れながら休みつつ、感覚だけで彼らの動向を探った。洞窟を挟んでお互い反対側に居る所為もあり、僕以外はお互いの存在に気付いて居ない。もっと『見れ』ないかと、目を閉じて意識を集中する。あちらも休憩中で、何やら紙を見ながらニタニタと笑っていた。流石に『聞く』事は出来ないので、せめてその紙を盗み見るとどうやらまぼろし茸の様な絵と、似顔絵が、
「げぇ?!」
「ん?どうした気分でも悪いのか?」
「あ、嫌、何でも無いよ。1人でこんな所に来ることを想像したらさ、大変だなって、あははは・・・」
「そうだな、今日はまだ魔物との戦闘が少ない方だが、俺達でも苦労する様な場所だ。無理せず休めよ」
「うん」
オルフはそう言うと気を遣って食事の準備を率先してくれた。僕は疲れていた訳では無いが、お言葉に甘えさせてもらった。しかし、
何で僕の顔が彼らの紙に描かれているんだ?!手配書って訳でも無いし。
そう思った僕は貰った休憩を使い、再度彼らの事を『見る』事にしたが、彼らはすでに休憩を終え洞窟方面に向かっていた。
何者なのだろう、目的はまぼろし茸らしいが。
これ以上は情報も無かったので、僕も休憩を止めてみんなと一緒に仕事に戻った。以外と美味しいオルフのご飯を食べ終えると、
「ではでは、荷物はここに置いて洞窟探索に行きましょうか!みんな準備しなさい」
「ヘイヘイ、珍しくソルトが張り切ってやがるぜ」
「当然でしょ?この依頼を達成してもっともっと上を目指すのよ!」
「金の為だろ?いつもの事だな。俺とオルフはいつもソルトに引っ張り回されて大変なんだ」
「あははは・・・大変ですね」
「そこ!無駄口叩いてないで準備なさい!」
「「「ハイ!」」」
ソルトに急がされながら最低限の荷物をまとめ終えると、僕達も洞窟を目指した。移動しながら、木に手を置いては彼らの気配を探る。彼らは洞窟から一定の場所で止まっている様だ。理由はすぐに分かった。
僕らが順調に目的の洞窟前までやってくると、洞窟の前を塞ぐように巨大な木が生えていた。しかも、
「ちッ、トレントか。厄介だな」
「トレント、あれが?」
「ああ、普通の木は地面の上にあんなゴツゴツした根っこを這わせない。トレントはあの強靭な根っこで地上を移動するんだ」
「面倒ね。燃やしても良いかしら?」
「ああ、幸い森から離れて岩しかねぇ。余程派手にやらなければだろう」
「ふふん、任せない!」
ソルトは杖を構えて攻撃の準備を始めた。僕達も剣や盾を構える。
「行くわよ!『フレイムランス』!」
ゴオォッと言うと熱を放つ炎の槍がソルトから打ち出される。一点集中の火力がトレントの太い幹にぶっ刺さると、
キーーーッ!と甲高い叫び声をあげ枝を振るい暴れ始めた。やはり魔物であった木は、こちらを目掛け、蔦を鞭のようにして反撃してくる。
オルフの剣が伸びる蔦を斬りつけると、反撃とばかりに体を燃やされダメージを受けていたトレントが迫ってきていた。大きな体の割に速い。勢いが乗った枝での攻撃をマルスが盾で受ける。
『アイススピア』
今度は氷で動きを止めようと氷の槍がトレントに突き刺さる。体か凍りつき身動きの鈍くなったトレントだが根っこを地面に突き刺すと、地面の下から槍のように伸ばした根っこで攻撃してきた。
「ぐおぉっ!?」
「マルスっ!?大人しくしくてよね『アイスロック』!」
カッチーンッ!!と氷漬けにされたトレントは再び蔦で追撃を狙ってきた。マルスを狙った攻撃をナイフで捌く。徐々に枝や蔦まで白く凍り動きを止めた。その隙に、あまりの猛撃に吹き飛ばされてしまったマルスに駆け寄るが、
「ゴホゴホ、俺は大丈夫だ。クロウ、オルフと攻撃に行け、奴が凍ってる今がチャンスだぞ」
「分かった」
そう言われ、僕は急いで前線に戻った。力を溜めて丸太斬りを放とうとしているオルフに合図すると、
「クロウ、タイミング合わせろよ?」
「うん!」
ナイフに魔力を纏わせて、オルフと同時に斬りつけた。2つの斬撃がトレントの太い幹を破壊する。ズズズンっと大きな音を立てて崩れ落ちたのを確認してやっと一息ついた。
「やったな」
「ああ、大丈夫だったかマルス?」
「何とかな。クロウが居てくれて助かった」
「皆が無事で良かったよ・・・!?」
僕らが手当など行って居ると、ガサゴソと茂みの方から音を立てて何が近づいてくる。僕は何となく分かっていたが、他のメンバーは魔物が接近していると思ったのだろう。武器を握りしめ警戒していた。だが、
「おい、待ってくれ!魔物じゃ無いぞ!ほら、この通りだ!」
ゾロゾロと茂みから手を上げて無抵抗をアピールしながらあの冒険者のパーティが姿を現したが、3人・・・もう1人は?
「いや〜俺たちも洞窟に来たんだが、どうにもトレントが邪魔で立ち往生していたんだ。あんたらが倒してくれて助かったよ」
「貴方達、町では見ない顔ね、どこの冒険者かしら?」
「ぁあ、そうだろうな。俺達はここから北にあるホルムスの冒険者だ」
「ホルムスって?」
「クロウ、お前そんな事も知らないのか?俺らの町、ミドガルの隣町だぞ?」
「へぇー」
隣町ね・・・、金貸しと繋がってる貴族の居る所か。それならコイツらが持っていたあの紙は・・・
「ホルムスにギルドは無いよな?どこからの依頼だ?」
「それは言えないが、目的はこの洞窟にある物だ。トレントを倒してくれて有り難いが、悪いが俺らが先に入らせて貰うぜ」
「そんな!僕らが先な先だろ!?」
「ふん!まだ出発には時間が掛かりそうじゃないか、俺らは先を急ぐんでな」
そう言うと男達はズカズカと洞窟内へ進んで行った。もしかしたらまぼろし茸が手に入るチャンスが有るかもしれないと焦る僕だったが、
「クロウ、落ち着け。アイツ等に先に行って貰おうぜ」
「でも!」
「そうそう、トレント程度でまごつく連中じゃまず無理よ。せめて露払い位は役に立ってもらいましょう?」
「う、うん」
「よし!準備出来たら俺等も行くぞ」
「ああ」
こうして先行する冒険者達を追いかけて僕らも洞窟へと入って行った。気になるのはあの場に現れなかったもう一人だが、木の無い洞窟の中では探りようが無い。
ランプの明かりで照らされた道にはスケルトンや小型の魔物の亡骸が転がっている。遠くからは戦闘音が木霊して聞こえてくる。オルフやソルトの考え通り、彼らが洞窟に潜む魔物を退治してくれたお陰で楽に進めた。
徐々に音が大きくなり、彼らの姿も確認出来る程に近づくと、道が四方に分かれている広間に出た。そこでは、これまでの小型の魔物よりも大きな岩の魔物が彼らを阻んでいた。
「くそッ!ゴーレムなんていやがったのかよ!」
「おい!危ないぞ、下がれ!」
無機質な石の腕が地面を抉る。重い地響きが足に伝わる程の一撃を男達はなんとか避けていた。防戦一方な戦闘を離れて見れいると、
「ん?!おい、あんたらも見ていないで手伝ってくれ!」
リーダーらしき男が僕らに向かって叫ぶが、
「いやいや。あんた達の獲物だろ?任せるぜ」
オルフは迷いなく行くべき道を進み始めた。ギルドからの情報で魔物の存在や目的地へのルートを事前に把握していたからだ。その場から足早に離れながら、
「ね?あんな男達でも役に立ったでしょ?」
「情報も立派な武器になる。冷静に判断する事が大切だぜ」
「オルフ・・・カッコいい!ちょっと見直した」
「おいおい・・・止せよ。さあ、お目当ての奥はこの先だ!」
ソルトやマルスがジト目で見つめてくるがオルフは気にせず上機嫌に暗い洞窟を進む。魔物との戦闘の末、やっと僕らは目的の場所、まぼろし茸の発見場所へと到達した。




