第17話 負けるかぁ!
まぼろし茸の調査の話が出て暫くは特に大きな変化もなく、毎日ウィッチヤードの森の清掃に魔物退治に励んだ。そのお陰で貢献度も貯めることが出来たので、今はメーテルの訓練を受けている。
「マスター、もっと強く打ち込みましょう。そんな攻撃ではいつまでも倒せませんよ?ほらほら、頑張って下さい」
「ぐおおお!どりゃーーーッ!」
ボキッ・・・あ・・・
「踏み込みが甘いですね」
ぜぇぜぇ・・・全然攻撃が通らない。木の剣が何本折れた事か・・・
「ちょっと休憩しても良い?」
「まったく、しょうがないですね」
はあ~疲れた・・・
「あははは、今回のメーテルは防御力特化か。なかなか手強そうだね」
「うん、見た目はジャガイモみたいだけど、体は石の様に硬いんだ。木の剣がもう何本も折れたよ。ねえ、普通の剣じゃ駄目?」
「駄目です。どんな武器でも攻撃が出来るようにならないと、いざという時に困るのはマスターですよ?」
「ええ・・・そんな状況ある?木の剣なんて見た事無いよ?」
「木の剣でも使い方を覚えれば武器になるんです。どうやったら弱い木剣で、頑所な岩を砕けるのか、考えて下さい」
「ん~・・・無理・・・」
「ふふふ、難問だね?クロウ君に正解が見つけられるかな?」
「んんん・・・メーテル、もう一戦!」
「畏まりました」
ゴツゴツした大きなジャガイモにメーテルが突き刺さり、まるで座禅を組む様に防御の姿勢を取っている。正解が見つからないが、弱点になりそうな所へ、
「ここならどうだッ?!」 ボキッ・・・
「残念ながら、私の本体も同じように硬くなっております」
モフモフの狼ヘッドすらも傷一つ付けられず木の剣が折れたのだ。とほほ・・・
「いけると思ったんだけどなぁ」
「しょうがないね、ヒントはスキルを使う感覚だよ?」
「スキル?」
「そう、クロウ君が番人を使う時にどうしているかしっかり考えてごらん?」
「どうやって・・・」
木に手を当てて『同一化』を発動する。スルッと木の中に吸い込まれた。うーん、発動するときには、魔力を使って・・・ああ、そうか、魔力か!じゃあスキルを発動する要領で、
「これでどうだ?」
「うんうん。正解!あとはそれを維持したまま」
「め、メーテル、加減が分からないから、ね?」
「はい、いつでもどうぞ」
手から魔力が抜けてしまう感覚がある。手を伝い流れ出た魔力が剣を覆っている様だが、スキルは何も発動しないので、いつまでも魔力が外へと流れ出ている。
「メーテル、行くぞ!おおおーーーッ!」
ズバッ!!
「お見事!」
硬い体を袈裟懸けに切り裂くと、ジャガイモボティは真っ二つに崩れ落ちた。
「ははは、やったz・・・zzz・・・」
「あらら、魔力切れかな?」
「マスターはまだまだ幼いですからね。ラプラス様、私はご飯を作ってきますのでマスターをお願いします」
「了解したよ」
どれくらいたったのだろう・・・
「ふあ~ぁ、寝ちゃったんだ・・・」
「ああ、おはようクロウ君。体調はどうかな?魔力を使いすぎて倒れちゃったんだよ?」
「うへ・・・やっぱりか。これはもっと慣れないと使い物にならないな」
「そうだね。あとは魔力制御と魔力量をあげていく必要があるね、強くなる道のりは長いよ!」
「お、おう、頑張る・・・」
「マスター、お目覚めですか。丁度良かった。ご褒美が出来てますよ」
「メーテルもありがとう。早速貰おうかな」
鍋からスパイシーな食欲を誘う匂いがする。これは!
「カレーです。ライスと一緒にどうぞ」
「カレーライス!これ、香辛料が効いてて美味しいやつだ!頂きます!!」
美味し~!!昔一度だけ食べたけど、これはまた格別だ。それに今回のジャガイモの効果は、
「体力アップ、防御力アップですね。魔力を消費して攻撃力をあげる方法はもっと鍛錬が必要ですが、実戦で使えればナイフでも十分戦力になりますよ」
「鍛錬か・・・また指導お願いねメーテル」
「はい、マスター」
そうだ!
「ねえ、、このカレーをシズに持って行ってもいいかな?体力アップするんだろ?」
「ん?ああ、シズちゃんは番人じゃないから、クロウ君ほどの効果は無いかもしれないけど、良いんじゃないかな」
「ええ、美味しいご飯はそれだけで元気になると思いますよ」
「そっか、ありがとう。じゃあ、ちょっと行ってくる!」
器にカレーライスを盛ると、冷めないうちにシズの所へと運ぶのであった。
「本当にマスターは妹さん想いですね」
「そうだね。それがクロウ君の良い所だよ。大切なものがあるってさ。人として大事なんだと思うよ」
「ラプラス様・・・」
「心配しないでメーテル。私は大丈夫だからさ。今はクロウ君に託すしかないからね。さてさて、私達も出来る事を頑張らないと」
「・・・はい」
シズは僕の届けたカレーライスを食べてそれはそれは幸せそうだった。この所、顔色も良く、以前より動けているようだ。それに、
「シャルルが動いた?そ、そんな事・・・」(無いとは言えないぞ!!)
「も~、本当だよ。最近お水をあげると、嬉しそうに揺れるの~見てて!」
シズはプンスカ怒りながら、小さなジョウロで水をあげ始めた。何となくだが、シズの体内から魔素が移動しているのが判る。黒猫印の付いた黄色いジョウロで水を・・・ラプラス印のジョウロ?
「あれ~、全然動かない!?なんでかな~、お兄ちゃんが居るから??」
「な?きっと水の反動とか風でたまたま動いた様に見えたんだろ?」(頼む、じっとしていろよ!!)
「んん~???そうかな?」
「じゃ、じゃあ兄ちゃん。帰るからな。無理するなよ」
「はぁーい。シャルル~元気無いのかな・・・」
シャルルを心配しながら眠りに付いたシズの病室では、窓辺の植木鉢が月明かりを受けて気持ちよさそうに枝葉を動かすのであった。
シズの病室から帰った僕は、家に帰ると夜の庭に来た。いつもなら寝る時間であったが、
「ん?まだ起きてるの?珍しいね?」
「うん、ラプラスに聞きたいことがあってね。ウィッチヤードの森に洞窟があるらしいんだけど、どの辺りか分かる?」
「洞窟・・・?ああ、まぼろし茸の採れる洞窟の事?あるよ。山の反対側だよ。凄いね、どうしてそれが分かったの?」
「あるんだ・・・どうしてそれをすぐに教えてくれないのさ?あれがあればシズの病気だって・・・」
「んー、あの洞窟は危険なんだよ。強い魔物も出るしさ。想像してみて、洞窟ってどんな所だか知ってるよね?」
「洞窟だろ?ジメジメとした地面の下だろ、木の無い場所って事は・・・」
「ご明察!そう、クロウ君の番人のチカラは使えないの。あの洞窟に挑むには君自身が強くなる必要があるんだよ。それまでは教えても意味ないでしょ?それに、人の話を聞かないで有名なクロウ君の事だから、そんな事を教えたらなりふり構わず突っ走ったに決まってるじゃん。クロウ君に簡単に死んでほしくないからね」
「う、確かに・・・言い返せません」
「分かれば宜しい。それで?ギルドの依頼でその洞窟の調査に行くんだよね?」
「なんでそういう情報まで知っているのさ?魔女さん?」
「うふふ、魔女のひ・み・つだよ」
さいですか・・・
「今の俺で何とかなるかな?」
「探索する位なら大丈夫じゃないかな。でも、まぼろし茸は採取出来ないと思うよ。最奥にしか生えていないし、そこにはアイツが居るから・・・」
「アイツ?正体不明の化け物が居るって聞いたけど・・・」
「正体不明、ね。あれは、悪魔の残滓だよ」
突然、暗い闇の中から邪悪な顔が現れ、僕に襲い掛かって来た!跳び上がると、僕は硬いベットの上で目が覚めた。昨日の夜、ラプラスから話を聞いた時に感じた寒気を今でも思い出す。
「悪魔の残滓・・・か」
ラプラスの奴、それ以上は何も教えてくれなかったな。でも、あの森に何かしら関係しているんだろうけど。うーん気になるが、僕は僕のやるべき事をやらないと。
「サニーさん、おはようございます。サイラスさんに呼ばれてきました」
「はいはーい。クロウくんおはよう。今案内するわね。着いてきて」
サニーさんについて行った先はいつもの執務室ではなく、広めの部屋だった。扉を開けた先にはすでに他の冒険者達が居た。
「その子がサイラスさんが推薦してた少年か?聞いてはいたが、本当に大丈夫なのか?」
「こら、オルフ!人を見た目で判断しないの!貴方はいつもそうなんだから。この前だって・・・」
「またソルトのお説教だよ。オルフも懲りないな」
「俺は別に、ちょっと心配しただけだぞ?マルスだ、餓鬼だ何だって言ってたくせに〜」
「ハイハイ、皆さん。仲が良いのは結構ですが、先ずはクロウ君の紹介をしてもいいかしら?」
「初めましてクロウです。冒険者ランクはEですが宜しくお願いします」
「お、おう・・・やっぱり心配だぞ俺は。まだまだ駆け出しじゃねえか。本当に連れて行くのか?」
「そうね、流石の私も不安だわ。サニーさん、本当に彼を連れて行くの?」
「ええ、私も心配ではありますが、ギルマスの決定です」
「そうは言ってもね・・・そうだわ、クロウ君には悪いけどこれも経験と思って、そこのオルフと戦いなさい!」
「はぁ!?ソルト、お前何を勝手に!」
「どうかな?模擬戦、やってみない?」
模擬戦か、確かに僕なんかをそう簡単に受け入れてくれないよね。
「それで納得してくれるなら、やります!」
「へぇ、やる気は十分だな。おい、悪いが手加減はしないぜ?お前だけじゃない、俺らの命も掛かってるんだ。分かるな?」
「はい!宜しくお願いします」
「アハハハッ、いいぜ。サニーさん良いよな?」
「はあ~、ギルマスに怒られても知りませんよ?それなら外の演習場を使って下さい」
「了解だ。よし、いくぞクロウ!」
こうして僕達は演習場に移動すると、
「この木の剣を使うのも久しぶりだな」
「ああ、昔はよくここで打ち合いしてたな。懐かしいよ」
「はいはい、男どもの思い出は後で聞くから、今は模擬戦でしょ?」
「お、そうだった。クロウ、剣は使えるか?」
「はい、大丈夫です」
「よし、じゃあ、構えろ」
僕に木剣を投げ渡すとオルフは剣を構えた。僕も剣を構えると、
「いつでもいいぜ」
「いくわよ、始め!」
ソルトさんの掛け声と共に走り出した僕は、オルフさん目掛け剣を打ち込んだ。胴体を狙った攻撃は簡単に弾かれる。
「なかなかの太刀筋だ」
「どうも!」
馬鹿正直に正面からは無理か・・・なら!
足を動かし回り込もうとサイドステップを踏み込む。メーテルの訓練はしっかり体が覚えている。打ち込みつつオルフの攻撃を避け背後を取ると、がら空きの背中に切りかかった。
「何ッ?」
「もらったッ!」
「このッ!甘いぜ!」
「?!うわっ!」
オルフは剣を振った反動を利用して、その場で跳躍反転すると、下段から振り上げた剣で攻撃を弾いた。
そんな身のこなしするのか!?
「へへ、危ない危ない。良い攻撃だったぜ。マルスならやられてたかもな?」
「く〜」
「今度はこっちの攻撃を受けてみろ、『二連斬り』!」
そう言って素早い二度の斬撃を繰り出すオルフ。木剣で放ったとは言え、魔力の乗った斬撃は強力で、なんとか防いだが反動で後ろに押される。やっとこさ踏みとどまるが、追い込まれた。
「お〜!よく耐えたな。ただ次はどうだろうな?『丸太斬り』!」
オルフは両手持ちの上段に木剣を構え直すと、勢い良く斬り下ろしてきた。明らかに威力の高そうな攻撃に対して逃げ場のない僕に出来る事は、
「負けるかぁっ!」
メーテルとの訓練で何とか習得した強化方法。魔力を木剣に流し込みオルフの攻撃に打ち込んだ。
ガキッンッ!
まるで金属同士がぶつかる様な音を立て、お互いの攻撃を相殺した。
「はッ!?やるじゃん!お前どんなスキルを使ったんだ?見ろ、俺の木剣がボロボロになっちまった。どういう事だよ・・・」
「それが、無我夢中で・・・」
「はぁ、俺はそんな奴に負けたのか?面白え、なあ、合格で良いだろソルト?」
「ええ、ちょっとオルフが本気だったから心配したけど、オルフのアレを耐えたのなら大丈夫そうね。マルスも良いわよね?」
「あぁ、スキルも使わずにあれとはな」
「決まったようね。私も一安心です。皆さん、宜しくお願いしますね」
「宜しくお願いします」
合格判定にサニーも喜んでいた。皆さんにお礼を言うと、
「私はソルト。魔法使いよ。よろしくね」
「俺はマルス。主にタンクをしている。宜しく」
「そして、俺がこの蒼天の翼のリーダーてわオルフだ。俺達はBランクになったばかりだがウィッチヤードにはよく行っているんだ。宜しくな」
「Bランク、凄いですね!僕なんかまだまだですから・・・」
「クロウ君は1人なんでしょ?だったらこれから良い仲間とパーティを組めばいいのよ。私なんかこの2人とは腐れ縁で」
「おいおい、それはこっちのセリフだぜ。なあ、マルス?」
「どっちもどっちだ。まぁ仲の良さは保証する。噂では大変だったらしいな?」
「あ!私も聞いたわよ。全く一次的とは言え、パーティメンバーを蔑ろにするなんて考えられないわ」
噂?・・・ぁあ、この前の狼の風との任務の事か
「あははは・・・でも、そのお陰で良い人にも出会えたので」
「全く逞しいぜ。さて、じゃあ今日はこれから飯でも食いながら明日の準備をするか!行くぞクロウ」
オルフさん達の提案で、作戦会議をしながら明日の遠征準備をして一日を過ごした。




