第16話 ギルドも大変
馬車を走らせたサジはクロウに言われた通りに逃げた。クロウが飛び降りたのは知っている。でも、
「クロウさん・・・ごめんなさい・・・」
クロウに言われた通りに振り返らずにその場を離れた。雨は降っていないが、頬は濡れていた。
「ぐおおお・・・」
「おい!大丈夫か!?コイツ!」
仲間が刺されたのを見て、他の2人は逃げるサジを無視した様だ。サジに勇気があって助かった。人質にでもされたら面倒だしな。僕は盗賊Aの腹に突き刺したナイフを横なぎに抜くと、腹を掻っ切って血で汚れたナイフをすぐに構える。
「よくも!!クソガキがぁぁ!!」
2人目が剣で切り付けて来る。もう一人は弓で援護しようと構えているが、仲間が邪魔で打てないのか動かない。
「ちッ!ちょこまかと!止まれ!!」
いや、この状況で止まれは無いだろ!?そう簡単にやられるかよ。僕は盗賊を立てにしつつ、攻撃を躱す。あーなんて遅いんだろう。これもメーテルとの訓練のお陰か、体が軽いし攻撃が読みやすい。
「ふんッ・・・な、逃げるな!」
「無理無理、死にたくないんでね」
息を切らしながら僕を斬ろうと剣を振る盗賊Bさん。あ~そんな隙だらけの攻撃はいけません・・・
「よ!」ズサッ
「ガハ・・・」
大きく隙を見せた盗賊Bの首筋にナイフを突き立て倒すと、ヒュン!と飛んで来る矢を避ける。仲間が2人も遣られ気が立っているのか、勢いはあっても狙いが不安定だ。
「よくも仲間を!死ねえぇ!!」ヒュン!
「・・・シッ・・・」
体勢を低くしながら盗賊Cへ駆け寄る。流石に近くではブレが少ない様で、放たれた矢が頬を掠めたが、懐に勢いよく突っ込むと、
「ヒッ、やめ・・・」グサッ・・・
「・・・」
盗賊Cの胸を一刺しすると、その場に倒れ込んだ。
「ふ~、こいつで最後か。まあ、こっちの命が掛かってるんだしね。しかし、これ、どうしよう・・・」
いや~・・・うん、人、殺しちゃったな・・・。嫌悪感は無いが、これまで角ウサギすら倒せなかった僕が遂に人を殺してしまうとは。納得したような、やるせなさを感じつつも、倒した盗賊らの処理に困る僕であった。
取り合えず、このまま放置するとゴミが増えてしまう。仕方なく、マジックバックに3人の遺体を収納した。あとで森にでも埋めてあげよう。最後は誰かの役に立ってもらわねば。そう思っていると、
「クロウさーん!!」
「ん?サジ?!おーいここだ!」
「あ~良かった、無事でしたか!」
なんとサジが戻って来てくれたのだ。
「あいつらはどうしたんです?」
「ん?あー、あの後、通りかかりの冒険者が助けてくれて、逃げて行ったよ。いや~助かった」
「そうでしたか・・・クロウさん、ごめんなさい。でも、どうしても心配で・・・」
「サジも無事で良かったよ。さあ、悪いけど町まで乗せてくれるか?」
「もちろん!」
サジは暗い顔をにこやかに変えると快く引き受けてくれた。こうして僕たちは街道をゆっくりとひた走った。すでに日も落ちた頃、漸く僕の住む町まで帰って来た。
「サジ、このままギルドへ行って依頼を達成してくるから、ちょっと待ってて」
「うん、分かったよ」
サジを待たせ、ギルドカウンターに向かうと、
「あら、クロウくん。こんな時間にどうしたの?」
「サニーさんこんばんわ。僕の指名依頼を達成したので報告に。ハイこれ」
「あ、あの依頼ね。何ともなかった?」
「はい、何とか無事でした」
「そう、それなら良いけど・・・で、この割符って訳ね・・・」
「ん?その割符がどうかしました?」
「・・・これは今度お話しましょうか。はい、これが報酬よ。クロウくん、明日またギルドに来てね。絶対よ!」
「え、はい。分かりました」
え?何?なんかヤバい事しちゃった?!あの割符がヤバいのか?そんな疑問を抱きつつ、サジの待つ所にやってくると、
「お待たせ。ハイこれ報酬」
「え?こんなに貰って良いの?」
「ああ。サジは早く借金を返して薬草をバンバン持って来てくれ。そうしたら俺も助かるんだ」
「うん、そういう事なら、クロウさん、色々とありがとう」
「おう、じゃあ、ギルドに納品宜しくな」
サジは笑顔で自分の村へと帰って行った。意外な所で「魔草ダソナ」が手に入った。きっとドリー先生が魔素病の事を広めてくれるだろう。魔素病の予防薬は今の所ダソナしかない。これをブリオにお願いしておけば、
「かなり稼げるはず!」
最近はゴミ掃除と魔物討伐が忙しくなって、ダソナの採取も殆ど出来てなかった。サジとお兄さんには感謝だな。そう言えば、まぼろし茸の採取遠征はどうなったんだ?明日ギルドに行ったら聞いてみるか・・・
僕は、その足でシズに会いに行った。診療所はまだ明かりが灯っており、
「先生こんばんわ~」
「ん?おうクロウじゃないか。今日はいつもより遅いな。仕事帰りか?」
「そ。先生にお土産があるんだ。ハイこれ」
「おお!ダソナではないか?!有難い、在庫が無くて困っておったんじゃ」
「そうなんだ。研究は捗ってるの?」
「うむ。徐々にじゃがな。もっとダソナが手に入れば良いんじゃが・・・」
「そういう事なら、ダソナの確保が出来そうだから、先生に優先的に持ってくるよ。シズもお世話になっているしさ」
「何?本当か?いや~助かる。シズちゃんの事は儂に任せておけ。何としてでも治療して見せる」
「あははは、頼りにしてるよ。じゃあ、シズに会ってきます」
「またの~」
魔素病を治す、か。ラプラスの言う通りならシズは手遅れ。今は少しでも命を繋ぎとめてあげるしか・・・コンコンコン・・・
「はーい」
「シズ?入って良いか?」
「うん、いらっしゃいお兄ちゃん!随分遅いね?」
「ああ、今日は朝から仕事でな。元気そうだな」
「うん。今日はね、黒猫ちゃんがね・・・」
シズは今日の出来事を楽しそうに話してくれた。気になるワードもあったが、シズが寝るまで話を聞いてから、自分の家に帰った。
翌朝になると、一旦庭へ移動した。
「お、クロウ。今日はやけに早いな」
「うん。ブリオのマジックバックのお陰で助かったよ。あれが無かったら無事に帰れたかどうか・・・そうだ、今度「魔草ダソナ」を仕入れて来るから、買い取ってほしいんだ」
「ほ~う、魔素病の予防薬になるって最近噂が出回ってるから、良い値段で取引できそうだ。いいぜ、任せな」
「よろしく」
ブリオに仕事を依頼出来たし、朝のゴミ掃除がてら死体の処理をしてこよう。ウィッチヤードの森に入ると、適当な場所に穴を開け盗賊の死体を埋めた。武器なんかは回収したゴミ共々ブリオに買い取って貰った。
「じゃあ、ギルドに顔を出しますか」
「今日もあっちへこっちへと忙しそうだね?」
「ああ、でもメーテルのお陰で体は軽いんだ、まだまだ頑張れるよ!」
「それは良かった。けどあんまり無理は駄目だからね!」
「気を付けるよ・・・じゃあまたなラプラス」
「もー、本当に分かってるんだか・・・」
ラプラスの心配もなんのその。クロウは町中を走り抜けギルドへとやって来た。
「サニー、こんにちは!言われた通りちゃんと来ましたからね!」
「クロウくん、丁度良かったわ!ギルマスが話が有るからこっちに来て頂戴」
「えぇ、はい」
サイラスさんと?!本当に何の話だ?借金の事か、昨日の依頼の件か?サニーさんの案内で、サイラスさんの執務室まで来ると、
「おお、クロウ君か、よく来た」
「どうも、それでお話って言うのは?」
「ん?あぁ。実はな君の借金に関してだが、あの金貸しの男には随分と厄介な者が背後に居るらしい」
「もしかして、割符の?」
「ぁあ・・・多分此方への警告のつもりなんだろう。アイツのバックに居るのは貴族だ。理由は分からないが、あの金貸しに資金提供をして、金を稼いでいるのだろう。ギルドで調べただけでもかなりの被害者がいる様だ」
「でも何でわざわざ俺達に分かる様にしたんでしょうか?」
「簡単さ、要するに我々に邪魔をするなって言う事だよ。貴族を敵に回すなんて我々にしたら一大事だからね、ただ・・・」
「ただ?」
「私はそういう輩の事が大嫌いなんだ!」
あー。そうでしたね、前もそんな事を言ってましたね、はい。
「折角向こうがご丁寧に教えてくれたのだ。これを上手く利用してやろうじゃないか!何が貴族だ、貴族の風上にも置けん輩め」
「あ、ははは・・・そうですね・・・」
「ゴホン、まぁ、それは此方で対処する。クロウ君は今の調子でドンドン依頼をこなしてくれたまえ」
「はい!」
「そうだ!以前話したまぼろし茸の調査の事だが、有力な情報があった。以前まぼろし茸を見かけたという証言があったんだ!」
「見かけた?採取出来なかったんですか?」
「あぁ・・・実はウィッチヤードの森には、洞窟が有るんだがそこを探索している時に見たらしいのだが、正体不明の魔物に襲われたとかで。手に入らなかったそうだ」
「それじゃあ本物かどうか・・・ツキヨタケの可能性も有りますよ?」
「ああ。だが、これと言った情報が無いのも事実。ギルドとしては可能性を検討する必要が有るのだよ。妹さんの病気の事も有る。なるべく早く対処した方が良いだろう?」
「それはそうですが・・・それなら俺にやらせて下さい!」
「あぁ勿論そのつもりだ。人員は此方で用意するが、場所が場所だからな。なるべく腕の立つ冒険者を募集しておこう」
「分かりました」
うーん、有力な情報ね・・・ラプラスにも確認しておくか。彼女が知らない事があの森であるのだろうか?
執務室を出た僕はサニーさんの居る受付へと戻った。カウンターには相変わらず長い列が出来ていたが、暫くすると、
「ん?クロウくん、何か用?」
「ええ、実は依頼を出そうと思って」
「あら珍しいわね?どんな内容かしら?」
「はい。これなんですが・・・」
僕は事前に依頼内容を書いた紙をサニーさんに渡した。物が物だし、あまり他の人には知られたくない。そもそも掲示板に張り出す依頼でも無いしね。
「これをクロウくんが買い取るって事で良いのね・・・それにしても1束2000ゴールドって、あたなそんなお金あるの?!」
「まあ、最近魔物を倒せるようになりましたから、なんとか。あ、これ前金です」
僕は金貨袋をサニーさんに渡した。中身は10000ゴールド入っている。朝の内にブリオから受け取ったものだ。
「いつのまにこんな大金を?!」
「いや~、冒険者って頑張れば儲かるんですね」
あ、サニーさんがジト目に・・・う、嘘は言っていないよ!
「まあ、いいでしょう。この依頼は継続して受けていいのね?」
「はい。当面は買取続けて下さい。よろしくお願いします」
「・・・なんだか急に逞しくなっちゃって・・・」
「ん?何か言いました?」
「ん!?いいえ、何でもないわよ。分かったわ。依頼を受領しておくわ」
よし、これでダソナとサジは安泰だな。出来ればこの調子で金貸しから借金している人を助けたいけど、如何せんお金が足りない。そもそも自分の借金も全然減っていない訳だし・・・
「気合を入れて頑張るしかないか」
そう思いながらギルドを出ると、あいつが居た。
「よお、お兄ちゃん!無事に帰ってきたようだな。ちゃんと依頼も達成してくれたようで助かったぜ」
「毎度毎度、お暇なんですね?僕に用事です?今週の返済はしましたよね?」
「くくく、そう邪険にするなよ。俺とお前の仲じゃないか?ん?」
「別に僕は仲良くなりたいとは思っていませんがね・・・」
「これからも長い付き合いだ。仲良くしておいた方が身のためだぜ?」
「はあ・・・で?何です?」
「分かってるだろ?そろそろまぼろし茸の調査の話が進んだんじゃないかってな?早速ギルドから腕のたつ冒険者に打診が来たようだしな」
なんでそんな詳しい事をこいつが知っているんだ?あの場には僕とサイラスさんしか居なかったが・・・ギルド・・・職員の誰かがこいつに情報を?
「んん?どうした?思い当たるふしでもあるのか?」
「知ってたとしても貴方には教えられません!」
「くくく、強情だな。嫌いじゃねえぜ。お前のそういう一本筋が通ってるところ・・・ただ、餓鬼が大人に逆らうと痛い目に合うぜ?」
「な・・・」
「そこまでだ!!」
僕の後ろから金貸しを静止する声が響く。振り返ると、
「子供相手にそれ以上は容認出来んぞ!」
「ちッ・・・!うるせえのが出てきやがる・・・俺はこいつとちょっと借金の返済の件で話をしているんだよ。貸した金が返って来ねえと俺が困るんだが、ギルド長様が代わりに支払ってくれるのか?あぁ!?」
「到底そんな話には聞こえなかったがね。まあいい。お前が知りたがっている情報は掲示板に公表した。自分の目で確かめたらどうだ?」
「ちッ・・・じゃあな、クロウ。精々金を稼いで返済を頑張ってくれよ」
金貸しは僕の肩を叩いてそういうとギルド内に消えて行った。
「ふう・・・ギルドの目の前だというのに、ああも強気に出るとは、やはり後ろ盾に相当気に入られているのか・・・クロウ君、大丈夫かい?」
「あ、はい。助けて頂いてありがとうございます」
「いや、こんな事態になったのもギルド内の不穏な動きの所為もある。どこから情報が筒抜けの様だが、今回の事でかなり絞られた」
「え、それってつまり・・・」
「ああ、君には申し訳ないが、調査の情報を餌に、君を囮にしてしまった。すまない」
そう言って頭を下げるサイラスに、
「ギルドも大変なんですね」
「ははは、完璧な人間など居ないからな。どこかで弱みを握られたり、利用される事もあるのさ」
サイラスはそう言うと、ギルドへと戻って行った。




