第2話 僕は妹を助けたい
「おい餓鬼!順番を守れよ!」
「サニーさん!依頼を、依頼を下さい!」
薄汚れた格好でギルドの受付に駆け込んできたクロウは、人を掻き分けサニーに訴えた。普段ならこんな夜に依頼を受けに来ることがないクロウの様子に異変を感じつつも、
「あらあらクロウくん、ダメよ。貴方の様な低ランクじゃ夜の危険な仕事は受けられないの。君も分かってるでしょ?」
「そんな事は分かっています。でも・・・時間が無いんです!!」
必死の形相でそう訴えて来る少年に
「いくら私でもそれは無理よ。一体どうしたの?」
「そんな・・・それじゃあシズが」
「シズちゃんに何かあったの?ねえクロウくん」
「ごめん、サニーさんには言えないんだ。僕がシズを守らないと・・・」
フルフルフル・・・
「このお馬鹿あぁぁぁーーーー!!!何が僕が守らないとよ!!!大人に相談できない事が子供の貴方に解決できるはずないでしょ!!!!いつまでも大人ぶって無いで少しは頼りなさい!」
「は、え?!」
いつもは温和なサニーさんのとびきり大きな怒号がギルド全体に響き渡った。あまりの驚きっぷりに暫く動けなかったが、
「クロウくん。これからちょっとお話しましょう。こっちにいらっしゃい」
「いや、でも・・・」
「つべこべ言わず、着いて来なさい」ゴゴゴゴゴ・・・・
「・・・はい・・・」ガクブル・・・・
サニーさんに凄まれて個室へと案内されたクロウは、暖かいお茶を勧められ一口飲んだ。ハーブの爽やかな香りが頭をスッキリさせる。
「落ち着いたかしら?」
「いや僕よりもサニーさんが・・・」
「んん???」
「いえ。はい。落ち着きました」
「宜しい。それで、シズちゃんに何があったの・・・ああ、君には申し訳ないんだけど、クロウくんが金貸しから相当多額の借金をしていることは知っているの」
突然の告白に僕は驚きを隠せなかった。まさかいつもお世話になっているサニーさんにそのことを知られているとは、
「そう、だったんですね。だからいつもこんな僕に優しくしてくれて・・・」
「それもあるけど、誤解しないでね。シズちゃんの為に頑張っている貴方を応援しているだけよ。それよりも、そのシズちゃんがどうしたのかしら?」
「実は・・・」
クロウはサニーにすべてを話した。
「はぁ!?1000ゴールドをたった3日後までに?あの金貸しは何を考えているの。これは犯罪行為よ。すぐにでも捕まえて貰わないと」
「駄目です。それじゃあシズが何処に居るか分からなくなります」
「でも、その男は医者に診せるって言ったのよね。町の医者を当たれば・・・」
「いやそれは無理だろう」
突然、クロウの後ろから男の声がした。そこには、
「ギルマス!?どうして此処にいらっしゃるんです?」
「おいおい、サニー、君の大声が私の執務室まで響いたんだぞ。何か一大事が起こったのかと急いで来たというのに」
「あはははは・・・」
「クロウといったな。私はこの町のギルド長でサイラスという。事の詳細は悪いが聞かせて貰った。君の言う通り、金貸しを捕まえても役人が妹さんを見つけることは難しいだう」
「ッ・・・」
分かっている。庶民で冒険者なんかやってる僕やその妹を貴族の役人が守ってくれる事なんか無いことなんて。
「だから・・・」
「だから、今回は私に任せてくれるか?」
「え、それはどうして?」
「なに、私は悪い奴が気にくわないのさ。ましてや君や妹さんみたいに健気に生きるに人たちを苦しめるような輩は大嫌いでね」
ニヤリと不敵な笑みを浮かべるサイラスはもう夜も遅いという事でクロウに休む様に促した。「そんなんじゃすぐに倒れてしまうぞ?」そう言うと、クロウをギルドの建物に案内させ暖かい食事とベッドを用意してくれた。
「何から何までありがとうございます」
「今日はゆっくり休むんだぞ」
ベッドに横になっては見たものの、シズが心配で、不安でたまらなかった・・・しかし、自分でも分からないくらい疲れていたのか、気が付けば外は明るくなっていた。
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~翌日~
「おはようクロウくん。よく眠れた様ね」
「おはようございます。サニーさん、昨日はご迷惑をお掛けしました」
「うふふ、私もついムキになっちゃって悪かったわ。はい、朝ごはんですよ。ゆっくり食べてね」
サンドイッチとホットミルクとヤマモモがのったプレートだ。クロウは貪欲にそれらを平らげた。ヤマモモは何だかしょっぱい気がした。
支度を終えた頃、再び来たサニーに案内されサイラスの執務室へと案内された。忙しそうなサイラスであったが、
「ふむ、変わり無さそうだな」
「はい。ありがとうございます」
「では、早速本題だが、まず君の借金は我々でもどうする事は出来ない」
「はい。俺の問題ですから」
「しかし、今回の1000ギルは看過出来ない。妹の誘拐と身代金要求という犯罪行為だ。それも君みたいな子供に対してな。しかし、金貸しを捕まえてもシズ君が無事に戻って来る保証はない。もし奴が言う様に研究対象として売られてしまっていたら役人でもどうする事も出来ないだろう」
「くッ・・・そうですよね」
そうだ!だから一刻でも早く助け出さないと!!!
「焦る気持ちも分かる。だから今回は1000ゴールドをギルドから貸し出す事にした」
「え?!ギルドから?」
「ああ、利子はつけない。今回は特別にな。君が正しく生きている限りギルド長として約束しよう」
サイラスはニカっと笑って僕を見つめて来た。僕はただただ、
「・・・ありがとございます・・・」
「泣くのはシズ君が無事に帰って来てからだ。さあ、金貸しの場所はこちらで調べてある。サニー君に連れて行って貰いなさい」
そう言うと金貨の入った袋をテーブルに置くと、サニーさんに何やら指示を出しながら、
「気を付けてな」
「はい!」
「さあ行きましょうクロウくん」
「はい!」
出ている二人の背を見届けるとサイラスは椅子に深々と座り直し息を吐く。死神に鎌を突きつけられた2人の兄妹に幸が在らんことを願って。
「クロウくん、ここよ」
二人は町の中でも治安の悪い場所にある酒場にやって来た。ここにあいつが居る。
「入るわよ」
「はい・・・」
ギーーーと取り付けの悪い重い扉を開けて店内に入ると、たばこの煙が鼻孔を刺す。それに加え、悪意のある視線が四方八方から突き刺さるのだ。
「ゴクリ・・・」
そんな空気を物ともせずサニーさんはどかどかと進んで行く。僕は置いて往かれまいと慌てて着いていく。店内の奥に着くと、
「ほほ~、随分と別嬪さんが来たじゃねえか。俺に抱かれにでも来たのか?大歓迎だぜ?」
「寒い冗談はやめて頂けます?あなたに要件があるのは確かだけど・・・趣味じゃないのよ」
「ほおー、いいねえ。そういう気の強え女を躾けるのも偶にはいいな」
などと煽って来る。たまらず、
「1000ゴールド持ってきた。だからシズを返して!」
「ん?ああ、お前も一緒だったのか、なんだギルドに告げ口したのか?全く、男らしくねえなぁ、ガハハハ」
金貸しの発言に周りも便乗してくる。耳障りな笑い声が沸き上がるが、
「いい加減にしなさい」
「あ?」
「今回の件は明らかに犯罪行為です。これ以上はこちらも見逃せませんよ?」
「ふー、怖い怖い。ならどうする、俺を役人に突き出すか?あぁん?」
「それでは妹さんを無事に助けられません。ですから、今回は見逃します。とっとと金を受け取って居場所を吐きなさい」
金貸しは金貨袋を確認し暫く黙り込むと、
「・・・けッ・・・そいつの妹はドリー先生の診療所さ。今頃詳しく検査されてるだろうよ」
「ドリー先生?普通のお医者様じゃない・・・」
「だから、俺は親切でそいつの妹を連れて行ってやったのさ。まあ、報酬は不親切だったかもな、ガハハハハ」
「くっ・・・いいですか、今回の様な法外な取り立ては今後一切やめて下さい」
「まあそうだな。だが、こんな美人のサニーに凄まれるなら・・・」
「いいですね!?」
金貸しは肩を竦めて不敵に笑いながら「ああ、分かったよ・・・」そう言うと酒をあおり、店のさらに奥へと消えて行った。
「サニーさん・・・」
「ええ、行きましょう」
僕とサニーさんは足早に店から出ると、金貸しの言ったドリー先生の診療所へと向かった。そこは、町でも良心的で有名な医師がいる場所だ。僕の両親も先生にお世話になっていたのだ。診療所に着くと、一人のお爺さんが掃除をしており、
「おやクロウ君に、サニーちゃんじゃないかい。どうしたこんな朝早くに。それにクロウ君は3日ほど遠征に行ったはずじゃ?」
「先生おはようございます。それよりもシズは?」
「???シズちゃんなら病室で寝ておるぞ?極度の栄養失調と病気の進行で大分弱っておったからな。もう少し連れて来るのが遅かったら命があったかどうか・・・」
「ドリー先生、中で詳しく聞いても?」
「???ああ、いいぞい」
「なんじゃ、そんな事が・・・まあ少し変じゃと思ったんだが、思いのほかシズちゃんの体調が悪くての・・・儂も耄碌したもんじゃわい」
「いえ、先生は悪くありません。全部僕が悪いんです・・・妹を診て頂き有難うございます」
スヤスヤと眠るシズの頭を優しく撫でながら僕は、お礼を言うしかなかった。まさか本当に危なかっただなんて、何がシズを守るだ・・・シズの変化にも気が付かずに。あいつに漬け込む隙を作っちゃうなんて。
「それで先生シズちゃんは・・・」
「ああ、今は安定しておる。今日は家に帰っても良いが暫く家で預かっても良いぞ?」
「本当ですか?でも、お金が・・・」
「何、今回は儂の不徳の致すところでもある。あんな金貸しにまんまと騙されお前さんに負担をかけてしまった様じゃし、暫くはお前さんも休憩が必要そうじゃしな」
「良かったわねクロウくん」
「・・・ありがとうございます・・・」
僕は2人に頭を下げると暫くシズの病室で休ませてもらった。暫く2人きりにと部屋から出た二人。少し離れた離れた所で、
「先生今回はありがとうございました」
「なんのなんの。儂も二人の事は心配じゃったからな、それよりも・・・」
「シズちゃんの容体が悪いんですか?」
「ああ、残念ながら二人の両親と同じでな、治療法が無いんじゃ。今の儂らにはどうすることも出来ない」
「そうですか・・・」
「風の噂では、この病が国中に拡がっている様じゃ。まだ患者数は少ない様じゃが、各地で似た症状が確認されている。しかも、どれも原因不明で治療法がない」
「ええ、ギルドでもその噂は・・・感染する可能性も有るのでしょうか?」
「いや、今の所、他人に感染するような病では無い様じゃ。現にクロウもずっと病気の両親の看病をしてきたが病には感染しておらん。何か別の原因があるようじゃが果して・・・」
シズの容体が良くない?!両親に、妹のシズまで失う訳には・・・!!僕は聞こえてきてしまった先生たちの会話を聞き絶望した。このままでは大切な物をまた失ってしまう。一体どうしたら・・・
コンコンコン・・・扉を叩く音を聞き慌てて椅子へ座ると、
「クロウくん、そろそろ一旦戻りましょう。ギルド長に報告もしないと」
「・・・はい」
ドリー先生に頭をさげると、サニーさんとギルドへと戻って来た。そんな彼らをサイラスは笑顔で迎え入れた。
「どうやらうまく行ったみたいだな。サニー?」
「はい。ギルマスの推測通り、シズちゃんは無事でした」
「???二人はこうなる事が分かっていたんですか?」
「ああ、申し訳ないが大方予想通りだったね。クロウ君にはいい経験になったと思うがね?」
「そ、そんな・・・」
「クロウくん、この世の中、誠実だけじゃ生きていけないわ。少しは自分の立場や身の振り方を考える必要があるわね。これからは少なくとも私やギルマスの事は信頼して相談して欲しいわね」
「はい・・・」
そのあと、色々と話をすると僕は自分の家に帰って来た。一人寂しく硬いベッドに体を横たわると、今日の事を振り返ってしまう。ギルドから借りた1000ゴールドに加え、元々の借金返済、これからの生活費に、シズの治療費も増えるだろう。どこに逃げてもどこまでも金の事が付きまとう。それに、
ショックだった。でもサニーさんやサイラスさんの言う通り、自分が甘いのは分かっていた。何もできない自分が嫌になる。ただ、それでも、
「シズが無事で良かった・・・」
誰に聞かせる訳でもないのに、言葉に出たそれは静まり返る部屋に反響し、いつまでもいつまでも心の中に響くのであった。
そして、やはり僕は決意する・・・
「僕は絶対に妹を助けたい!」




