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不憫な彼と魔女の庭  作者: アオネコ
第1章 魔女の庭

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第1話 死ぬまで働け

連載開始しました。

妹を助けるため、奮闘するクロウ君を是非応援してあげて下さい!

ドンドンドンッ


ドンドンドンッ


「おい!いい加減出てこい。今日が何の日だか分かってるんだろうな!?」


 朝から家の扉を盛大に叩く音が響き渡る。きっと外にはガラの悪い男が僕が出て来るのを待っているはずだ。


「はぃ~、い、居ますよ。今開けますから」


 クロウはポーチから金の入った袋を急いで取り出すと、鳴りやまない扉が壊されない内に扉を開けた。やはりそこには屈強な体付きのスキンヘッドの男が立っていた。


「ッたく、手間取らせるな。お陰で俺の手がこんなに腫れ上がっちまったじゃねえか。こりゃ、治療費を貰わねえとな」

「えぇ?!それはあんたが勝手に・・・ぐへ」

「ああ?!誰の為にここまで来てやってると思ってるんだ?しかも俺を待たせたのはお前さんだろ?」


 男は痛めたという腕でクロウの襟を掴むと馬鹿力で軽々とクロウを持ち上げた。足をバタつかせてもビクともしない男にどうする事も出来ず、


「わ、わがりまじだ・・・治療費ももっていっでぐだしゃぃ・・・」

「お、話が速ええじゃないか、今週分は58ゴールドに治療費で100ゴールドでまけてやるか」

「ひゃ、100ゴールド?!それじゃ僕の生活費が・・・」

「ああん?安くしてやってるのにそんな言い方、まるで俺がぼったくってる様に聞こえるじゃねえか。なら、150ゴールドだ。早く出せ」

「そ、そんな・・・ありませんよ」

「なら、さっさと謝って貰おうじゃねえか。『ごめんなさい、100ゴールドしか払えません』ってな」


 男はそう言うとクロウを地面に投げ捨てその頭を足で地面に踏みしめた。


「ぐぎぎ・・・も、申し訳ありません、でした。100ゴールドでご勘弁いただけないでしょう、か・・・」

「ぐふ。がははははは・・・ああ、良いぜ。朝からいい気分だからな。あ~、俺はなんて優しいだろうな。がはははは」


 男はそう高笑いすると、金を持って帰って行った。周囲の家からは冷ややかな視線を感じるが、誰もクロウを助けようとも、声を掛けようともしない。みんな関わらないようにダンマリをきめているのだ。


 そんな見えない視線から逃げるようにクロウは家の中へと入って行った。この家にはいい思い出が無い。そもそも生まれた故郷はすでになく、両親は流行り病で数年前に死んでしまった。薬を買う金がなく、仕方なく金貸しに借りたのが最後、あいつらは金になりそうな物をすべて奪い去り、クロウ自身もあの狭い家に住まわせて、毎週のように借金の取り立てに来る。


「おにいちゃん、大丈夫?」


 家に入ると暗闇でも白さが目立つ少女が心配そうな目でこちらを見つめていた。


「ああ、シズ。起こしちゃった?ごめんね」


 彼女は妹のシズ。僕にいる唯一の肉親だ。生まれつき体の弱いシズと僕は何とか生きていた。両親が死んでから何度逃げようかと考えたが、僕にはシズが居る。彼女に長旅はおろか、この家から出ていく事は不可能なのだ。


「ううん、私は大丈夫だよ。それよりもまたあの人?」

「うん。僕はこれから仕事に行ってくるから、いい子で待っているんだよ。ご飯は・・・」

「そう、気を付けてね。ご飯は要らない。食欲ないの・・・」

「そ、そっかぁ・・・新鮮な水は汲んであるから。今日は森で食べ物を取って来れると思うから、待ってるんだよ」

「・・・うん。」


 シズはよろよろとベッドへと戻って行った。


「くッ・・・ごめん・・・」


 我慢させている。そんな事は分かっている。シズが元気になる為にも僕が頑張らなくちゃ。


 クロウはいつもそうやって自分を奮い立たせる。シズのため、シズの安全の為に金を稼ぐしかないのだ。「金が払えねえなら妹を売りさばく」金貸しの男はそうやって僕を脅すのだ。両親を失い、最愛の妹まで奪われたくはない。


「よし。まずはギルドに行こう。」



▽▼▽▼▽▼▽▼▽▼▽▼▽▼▽▼▽▼▽▼▽▼▽▼



「サニーさん、おはようございます。今日は良い依頼ありますか?」


 町にあるギルドへとやって来たクロウは、受付に声を掛ける。朝から賑わうギルドは活気に満ち溢れていた。


「あら、クロウくん。シズちゃんは元気?」

「はい、何とか。今日は森の方に行こうと思うんです。この時期なら新鮮な果物を多そうだし」

「あら、そうね。ヤマモモとかキイチゴとかが採れるわね。シズちゃんには早く元気になって欲しいもんね。森に行くなら角ウサギの依頼があったはず。角を5本手に入れてほしいわ。報酬は1本につき追加で5ゴールドね」


 差し出された依頼書には報酬15ゴールドと書かれている。足の速い角ウサギを倒せるか・・・迷っている時間は無い!


「受けます!」

「ありがとう。期限が夕方までだけど、最悪明日の朝でも良いわ。私が何とかしてあげるから、十分気を付けてね」


 太陽の様な笑顔で可愛らしくウインクするサニーさん。ギルドでも人気ナンバー1は伊達じゃない。朝の嫌な気分も吹き飛んだ。


「行ってきます!」


 ヒラヒラ~


 サニーはクロウの後姿を見送ると、やるせない気分に苛まれた。それは勿論、彼の境遇や現状を知って居るから。多額の借金の事もギルドの職員であれば十分知りえる事であるし、それをどうしてあげる事も出来ない。彼女が出来るのはクロウ程度でも出来る依頼を彼に斡旋する事や、多少の忖度をしてあげる程度。


「ふ~、シズちゃんの為にも無事に帰って来なさいよ・・・」

「サニー、こっちの手伝いお願い~」

「はいはい~」


 ギルドを飛び出したクロウは町を出ると早速角ウサギを探し始めた。奴らはこの草原で見かけることが多く、すばしっこいのだ。角は薬師が調合に使用することが多く、人気の素材だ。


 古びたナイフを取り出すと、姿勢を低くし地面を観察する。暫く周囲を探すと、小さな足跡が多い場所があった。


 お、この辺に居るかな?


 角ウサギは巣穴を中心に活動する習性がある。危険があればすぐに巣穴に逃げ込むためだ。地下深くに安全な家がある彼らは、食事時しか見つからない。


 音を立てない様に慎重に歩みを進めつつ、やっと巣穴らしきものを見つけたクロウは、風下まで移動すると巣穴から獲物が出て来るのをじっと待った。しばらくするとひょっこりと頭を出した角ウサギが、周囲を警戒しながら数匹出て来る。


「よし…」


 息を殺し、じりじりと近づくと群れから離れた小さい角ウサギに狙いを定め、跳びかかった。クロウの殺気を感じとったのか、捕まる直前でその場から逃げ出したウサギを追いかける。


「待てコラー」


キューキュー


 悲し気な鳴き声を上げながら逃げる角ウサギを、逃がすまいと必死に追いかける。運よく巣穴とは逆方向に逃げて行った角ウサギを徐々に追い詰めると、丁度窪んだ地形に追いやることが出来た。


キュキュー…


 つぶらな瞳で感情に訴えかける様に鳴くが、クロウにも生活がある。何より金が無いとシズの安全が脅かされる。クロウは意を決してナイフを掲げると勢いよく振り下ろした。


「・・・え?!」


 狙った獲物の前に、体の大きな角ウサギが飛び出して来たのだ。突き刺さる寸ででナイフを止めると、2匹の角ウサギと対峙するクロウ。まるで小さい方を庇う様に体を張る姿に、


「くッ・・・そ、そんな事しても、無駄なんだからな!!」


 クロウは再びナイフを振り下ろそうとするが、微動だにしない2匹。まるで妹を守る自分と重ねてしまい・・・


「ああ~、もう、止めだ止めだ・・・」


 クロウはナイフをしまうとその場を後にし森へと足早に去って行った。残された2匹はキョトンとした顔でクロウを見送ると、巣穴に一目散に帰って行ったのだった。


 はぁ・・・


 クソでかため息を吐くと気持ちを切り替える。森に入ればサニーさんの言っていた果樹をすぐに見つけることが出来た。瑞々しく実ったそれらをリュックへと放り込む。幸い、両親の教育もあって、食べられる野草や素材になる薬草を多少は知っている。それらを見つけてはリュックがぱんぱんになるまで詰め込んだ。


「ふ~、これを売ればいくらかにはなるだろう・・・はぁ折角サニーさんに良くして貰っているのに期待に応えられないのはなぁ・・・」


 木漏れ日に照らされた岩に座り、ヤマモモを齧りながら空腹を満たす。甘酸っぱい果汁が空っぽの体に染み渡る。旨い。うだうだ考えても仕方なか。


 重い腰を上げると、日が高い内に町に戻ろうと森を出た。草原に出ると先刻のウサギ塚が目に入るが、それを横目に通り過ぎていく。


 うぅ・・・金、金があぁぁ・・・


 歯を食いしばって町に向かって進み続ける。前を行く冒険者達は籠に獲物を摘めてギルドへと帰る様だ。クロウは、そそくさと彼らを追い抜くと、買取所の方へと移動した。


「おっちゃん、買い取りお願いしたいんだけど」

「うん?お前さん、随分と詰め込んで来たな・・・もうちっと丁寧に扱わねえと価値が落ちちまうぜ」

「う・・・今度は気を付ける」

「ふん、待ってろ。すぐに査定してやる。薬草に、毒消しに、気まぐれ茸っと・・・そっちのヤマモモはどうする?旬の物だから多少は良い値段が付くが?」

「あ、こっちは持って帰るよ」

「そうかい。ほら6ゴールドだ。次はもっと良いものが採れるといいな」

「6ゴールド・・・ありがとう、おっちゃん」

「ふーむ、ほらこいつを持ってけ。シズちゃんが腹空かせて待ってるんだろ?」


 そう言うと、おっちゃんは角ウサギの肉をくれた。


「え!?貰えないよ。」

「ウルセエ!シズちゃんへの見舞だ。今日は余ったから特別だ。さあさあ、商売の邪魔だ。早く帰れ」

「・・・ありがとう、おっちゃん・・・」


 クロウは深々と頭を下げると家に帰って行った。


「・・・これで良いか?サニー」

「ありがとう、助かったわ」

「・・・全く、自分で渡せばよい物を」

「ふふふ、男の子にはプライドってもんが大切でしょ?」

「プライドだけじゃ生きて行けんがなぁ・・・」

「それでやっぱり、依頼品は・・・」

「角は無かったぞ。はあ、これじゃあいつまでも変わらないというのにのぉ」

「・・・そうね・・・」


 クロウとシズを知る2人は何とも悲し気に笑うのであった。


 そんな2人の気持ちも知らないクロウは、


「シズ!ただいま。今日はお肉と果物があるぞ。腹いっぱい食べような!」


シーン・・・


「シズ・・・?」


 静まり帰った家にはクロウの声が虚しく響くだけであった。体の弱いシズが何処にもいない。隈なく家じゅうを探すが何処にもシズの姿は無かった


「・・・シズ?どこに行ったんだよ・・・」

「お!兄ちゃん、帰ったのか」


 へたり込むクロウの後ろから最悪な声が聞こえた。朝も聞いた金貸しの男の声が、冷たくクロウに突き刺さる。


「へへへ、どうした?あ、ああ!妹の姿が無いんだな・・・シズちゃんだっけか?へへへ」

「おい、シズをどこにやった!!!ヘブッ・・・」


 ナイフを掴み男へ突進するが、男の蹴りが腹部を直撃し蹴り飛ばされる。


「グッ・・・」

「おいおい、危ねえじゃねえか。人の話はよく聞けってパパやママに教わんなかったのか?あ~お前の両親はもう居ねえんだったな」

「糞野郎・・・シズをどこにやった・・・」

「ア?お前のせいで痛めた腕を医者に見せにいったのさ。そこで丁度お前の妹の病気の事を医者の野郎に話したら、なんでもそいつが診療してくれるって言う訳よ。心の優しい俺様はな、お前の妹をお医者様に診せてやろうと思ってな、連れて行ったという訳さ」

「そんな、勝手に・・・シズを返せ・・・」

「ふう・・・これもお前が金を早く返さない所為だぞ?それにこのままじゃあの妹は遅かれ早かれ死んじまうんだ。病気の原因も分からないそうじゃないか。今頃、原因究明の実験動物にされちまってるかもなぁ」


 男はニタニタと笑いながらとんでもない事を口走った。シズが実験動物?!そんなの一刻も早く助け出さないと


「お願いです、シズを、妹を返して下さい・・・」


 クロウは頭を地面に擦り付け歎願したが、


「いやいや、もう俺の手元には居ねえからな。だが、お前がそんなに頼むなら俺も鬼じゃない。」

「そ、それなら・・・」

「3日後まで待ってやる。1000ゴールド、1000ゴールド首を揃えて持ってこい。」

「1000?!無理です。今日やっと100ゴールド渡したんですよ・・・」

「あ?大切な妹の為じゃないか。1000なんて安いもんだろ?それとも無理ですって諦めるのか?」

「く・・・そんな・・・」

「まあ最悪お前の身を俺に売って貰っても良いんだがな。お前から金を巻き上げるのも大変なんだ。まあ、3日後また来てやる。それまで死ぬ気で働け」


 男はクロウをついでに蹴り飛ばすと帰って行った。クロウの体で圧し潰されたリュックは、甘い汁を地面に垂れ流し辺りを瑞々しい香りで満たすのであった。

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