第14話 マスター
「くくく、力が欲しいか?」
「え?何それ?そりゃ強くなりたいけどさ」
「も〜、クロウ君、そんな反応じゃ駄目だよ?ノリが悪いって言われない?」
ラプラスは呆れた様子だったが、
「も〜・・・はい、じゃあ改めて、番人のチカラを見てみなよ」
「ン?新しく何か増えたのか?どれどれ・・・ん、これかな?」
すぐに番人のチカラを見ると『販売所』から伸びる新しい項目を見つけた。そこには『畑』の文字が浮かび上がっていた。
「『畑』?これで良いの?」
「そうだよ。さあ、ポチッてみよう!」
「こんなので本当に強くなれるのかな?」
半信半疑で、『畑』を選択した。
※庭に畑を設置するよ。全部自動で楽ちん。消費貢献度3、現在保有貢献度4。
『畑を解放しました。設置しますか? はい/いいえ』
そして『はい』を選択した。すると、庭の一角に小さな畑がポンッと現れたのだ。カカシも置いてある。麦わら帽子を被った狼の頭が乗った厳ついカカシだ。
「ラプラス?畑は出来たけど、これで本当に強くなれるの?ただの畑みたいだよ?」
「もちろんだよ!この畑はとっても優秀なんだから。まずは適当な作物を育てようか?はいこれ」
ラプラスが取り出した種を受け取る。青い小さな種だった。
「これを蒔けば良いの?」
「そこに居るカカシに渡してみて」
「これ?」
「これでは無い。私はカカシのメーテル。ラプラス様お久しぶりです」
「カカシが喋った!?しかも女性なの!?」
「あははは、久しぶりメーテル。早速だけど仕事を頼める?」
「もちろん。これが今回の番人ですか?」
「そうそう、ほらクロウ君も挨拶する!」
「え?あぁクロウです。宜しく」
「こんなのが番人・・・大丈夫なんですか?」
「え?!」
「あははは・・・だからこそメーテルの力が必要なんだよ」
「そう言う事でしたら。クロウさん、私がしっかり鍛えてあげますからね」
「え?あ、はい。お願いします」
え?鍛えてくれるの?このカカシが?顔は怖いけど、カカシでしょ?
「ふむ、この種なら確かに今のクロウさんにはピッタリかもしれませんね」
「ん?それはどういう事?」
「まぁ、見てて下さい」
メーテルは僕から種を受け取ると、畑に種を蒔いた。何処からかジョウロを取り出すと水を蒔く。するとどうだろう、種を蒔いた土が盛り上がり、青々とした芽が出てきた。
「もう芽が出たの!?」
「驚くのはこれからですよ」
メーテルの言う通り、芽吹いた植物はどんどん大きくなると、僕の背丈を越えて葉が伸びた。土にはオレンジ色の人参のような太い根が見える。
「デッカイ人参みたいだな!?」
「ええ。よく育ちました。では早速訓練を始めましょうか」
「ん?訓練?」
「ラブラス様に頼まれましたし、何より私、弱いご主人は嫌いですから!」
そう言うと、ぴょんと飛び跳ねたメーテルは、勢い良く育った人参?に突き刺さった。そして、ボゴッ、ドゴッと畑から人型の人参が這い出てきたのである。
「お待たせしました。さぁクロウさん、私を倒して下さいね?」
「え?」
土から出てきたメーテルは、僕より大きな巨体で迫ってくる。ドスドスと土埃を上げて近づくと太い腕を振り上げてきた。
ドスッ!
「あら、意外と速いですね」
「ちょっ、危な!」
「ええ、訓練ですから」
ブンッ!
「ほわぉッ!?」
「うん、流石はラプラス様が選んだ番人です」
「ヒェッ!?」
「でも、逃げてばかりじゃ訓練になりませんよ?」
「そ、そんな事っ、うわぁ!?喰らえ、フンッ!」
何とかメーテルの重そうな攻撃を躱すと、拳で殴りつける。
「ふふ、良いですよ。でもそこでば全然駄目です」
「え!??うわぁ〜〜っ!!」
カウンターを受けて畑の外に吹き飛ばされてしまった。
「痛ててて・・・」
「あらら、負けちゃったね。どうメーテルは強いでしょ?彼女に勝てるとご褒美があるから頑張って倒してね」
「む、無理だよ〜」
「ふん。まだ弱音を吐く元気がありそうですね。では、もう1回!」
「えぇ〜」
その日はメーテルにしごかれた。お陰で攻撃を躱す事に関しては彼女から合格を貰えた。
「カカカ、大変そうだな?」
「お、ブリオ。うん、見ての通りだよ」
「メーテル相手にその怪我で済んでるんだ。クロウには素質が有るって事さ。そうだ、お前さんから買い取った商品は良く売れているんだが、ソロソロ品物が底を尽きそうでな。もう少し多く持ってきてくれないか?」
えぇ?そんなに沢山売れたの?
「今どれぐらいの金額?」
「そうだな、クロウに渡す分だけで15000ゴールド程だな。やっぱり魔物の素材がよく売れるんだ」
「15000?!凄いね。この調子なら借金返済もすぐに出来るぞ!」
僕は2000ゴールド貰うと、回復した体を動かしてシズの元へと面会に行った。
「カカカ、折角稼いでも借金に消えちまうとは、何とも儚いな」
「ブリオ。仕方ないよ。クロウ君は悪い人から良いようにされちゃったんだから」
「フン、そう言うなら。ラプラス様がチョチョイとヤッちまえば解決するじゃねえか?人間の一人や二人、簡単だろうに」
「勿論簡単だけどさ、それじゃクロウ君が成長しないよ?辛くても痛くても、自分の事は自分で解決出来ないとね?」
「その割に、随分と手助けしてるじゃねえか」
「適性があるとは言え、番人なんて面倒な仕事を押しつけちゃった罪滅し、かな?それに妹さんも気になるし・・・」
「魔素病が広がってるらしいからな」
「そうだね。食い止める為にもクロウ君には強くなって貰わないと」
ラプラスとブリオは月に照らされた庭から暗く広がるウィッチヤードを見つめるのであった。
翌日の朝、クロウは家の扉を叩く音で目が覚めた。それに加え、聞きたくない男の怒鳴り声が響いてくる。
ドンドンドン!ドンドンドン!
「居るんだろ?早く開けねえか!」
「朝っぱらから、ハイハイ、今開けますから」
開けた扉の前には金貸しの男が立っていた。扉を叩いていた手を擦る様子に、
「今度も治療費が必要です?」
「お。なんだよ。気が利くじゃねえか。今週分は合わせて1000で構わねえぞ?」
・・・どれだけボッタクるつもりなんだよ、
「はいどうぞ。これで足りますよね?」
「用意が良いな。餓鬼の癖に仕事もしっかり出来る様だな。流石にあの爆発で死んだかと思ったが・・・、くくく、そうだ。お前を見込んで仕事を依頼しておこう。じゃあ宜しく頼むぜ」
「はぁ?!ちょっと勝手に・・・」
男はそう言うとギルドの方へと歩いて行った。嫌な予感しかしない。そう思った僕は、朝の内にシズの面会を済ませるとすぐにギルドへと向かった。
「サニーさん、おはようございます」
「クロウくん!おはよう。それよりまた指名依頼よ。それもあの男から・・・また碌でも無い依頼じゃ無いと良いんだけど」
「どんな内容何ですか?」
サニーさんから受け取った依頼書には、
「荷物の護送、ですか?」
「ええ。荷物が何なのかは分からないわ。あの人の事だから人間とかじゃなきゃ良いけど」
「あり得そうで嫌です。もし荷物が危ない物の場合は拒否出来るんですか?」
「最悪拒否しても良いわ。寧ろギルドの方から圧力を掛けやすいわ。だから、揉めたらギルドに来るのよ?絶対にね!」
「は、はい。分かりました」
「よろしい」
サニーさんの圧が凄かった。まあ、色々と迷惑を掛けている僕は何も言えなかった。あいつの依頼は明日、何でも朝一番に町外れの街道で荷物の受け渡しがあり、それを隣町まで運べという。
「絶対に普通の依頼じゃないんだよな~」
「ギルドの依頼を受けたの?最近頑張ってるね」
「ん?ああ、そうなんだ、ただ・・・」
「はは~ん、あの金貸しの依頼という事は、この前みたいに裏がある依頼だね。それを分かってて受けたの?」
「そ。まあ、指名依頼だしさ。問題無ければ俺の評価が上がるだろ?最悪、拒否しても良いってサニーさんに言われたしね」
「ふむふむ。まあ、彼女がそう言うなら最低限の担保はあるね。まあ頑張りたまえ」
ラプラスも納得したようだ。僕は日課のゴミ拾いに出掛けると、ブリオに言われた様に、魔物を討伐する事にした。単純な戦闘はまだ一人では大変だが、今は一人、つまり、
「『同一化』『魔物探知』お、居る居る!」
魔物は至る所に居た。木々の間を『渡り』で移動すると、魔物の死角から同一化を解除して飛び出すと、ズサッ!!っと急所にナイフを突き立てる。
「よし。完璧!」
倒しては庭に移動してを繰り返し行う。少々手間だが『同一化』からの魔物限定に設定した『気配察知』を行う事で、効率的に魔物を討伐した。流石にハンティングスパイダーやホーンベアなどは一撃で仕留める事は出来ないが、小型の魔物なら可能な方法だ。
「クロウ!良いぞ。もっと持ってこい!かかかッ、かーかかかかか!」
朝から掃除と狩りを開始して、昼を過ぎる頃にはブリオの笑いが止まらなくなったのはご愛敬だ。
「いや~クロウのお陰で売り物がたんまり貯まったぜ。これはアッシからのお礼だ。受け取ってくれ」
「ありがとう。これはバック?」
「おおう。クロウがせっせと何度も素材を持って来てくれただろう?少しでも役に立てばと思ってよ。マジックバックだ。容量は小さいが、それでもボーンベア位は簡単に入っちまう優れもんさ」
「ま、マジックバック?!そんな凄い物貰えないよ。むしろコレを売れば借金返済なんてアッというう間に終わるんじゃない?」
「そうかもしれん!たがそれはクロウにしか使えんから、他の奴にはただの小さいバックだ。残念だったな、かかかか」
「ええ~。まあ、嬉しいよ、ありがとう」
「おうよ!」
凄い便利なものを貰ったけど・・・やっぱり売れる物に変えてほしい・・・え?そいつは無理?そっかぁ・・・稼ぐか・・・
「あら?クロウさん、手が空いたなら今日も訓練を始めましょうか?」
「うげ?メーテル・・・きょ、今日は明日の依頼の事もあってお休みしようかな・・・?」
「駄目ですよ?強くなるんですよね?さあ、つべこべ言わず」
「わ、わあぁぁぁぁ~」
喜んで居たのもつかの間、今日も今日とてメーテルとの地獄の特訓がスタートした。相変わらずデッカイ人参を巧みに操るメーテル。一撃一撃が重いが、徐々に慣れて来た。攻撃の隙を付いて僕も攻める。分かった事は、この人参ボディは防御力は高くない。素手で殴れば容易にダメージが入る。急所もあるようで、そこを叩くと大きくバランスを崩すのだ。
「ふふふ、いいですよ。しっかり見えてきましたね。ふんッ!」
「目だけは良いんでね。そこだ!」
「な?!」
大きく振りかぶり殴りつけた腕を躱すと、脇の下に一撃をお返しする。軽く入ったが特大の急所だったようで、人参ボディはひび割れ崩れ落ちた。
「や、やった?やったーッ!!」
「お見事。こんなに早く倒されてしまうとは、やはりラプラス様が見込んだ方ですね。じゃあご褒美を差し上げます」
「お、何をくれるの?」
メーテルは砕け落ちた人参をかき集めると、鍋を取り出し放り込んだ。空中でグツグツと湯気を出し始めた鍋。周囲には良い匂いが漂ってくる。人参しか入っていない鍋の蓋が開くと中には、
「え?!」
「さあ召し上がれ。お化け人参シチューです」
「流石メーテル!クロウ君、美味しそうだよ」
「い、いだきます・・・フー、フー、もぐもぐ、んん~~ッ。美味しいよ!メーテル!」
材料は鍋に入れたのは人参だけのはずが、出来上がったシチューは肉や野菜が入ったそれは美味しい出来だった。
「うふふ、良かったです。これもクロウさんが頑張った結果です。それにこのシチューは身体機能を高めてくれますから、しっかり食べて下さいね?」
「食べるだけで?」
「そうです。訓練で身体機能を強化、さらにご褒美の私の料理でも強くなる。一石二鳥です!」
「という事は、これからも?」
「もちろん、色々な訓練をしてあげますよマスター」
「ははは・・・お手柔らかに・・・」
なんてこった・・・強くなるのは嬉しいがこれからもメーテルに扱かれるのか・・・
「マスター。訓練をしたければ、私に申し付けて下さい。貢献度を払って頂けたらそれに見合う強化が可能ですよ」
「そうなんだね。じゃあもっと森の仕事も増やさないとな」
「ええ、頑張って下さい」
マスターか、メーテルが認めてくれたって事だよな?
僕は軽くなった体を実感しつつ帰宅した。硬いベッドに体を預けると、疲れていたのかいつの間にか眠りに落ちた。




