第13話 噂は本当だった
昨日の帰り際にセトさんに狩りに誘われた。何でも低ランク冒険者の指導という試験があるのだという。まだ暗い早朝、支度を済ませた僕はギルドへとやって来た。流石にサニーさんは居ない様だが冒険者達の朝は早いようだ。そんな中に、
「おーいクロウ、こっちだ!」
「おはようございますセトさん。朝は冷え込みますね」
「おう。なかなか良い装備をしているじゃないか。武器はそのナイフだけか?」
「はい。今日は何を狩るんですか?」
「これだ。ブラックウルフ。お前、昨日はこれを狩ろうとしていたそうだな?さすがにお前のランクで一人で狩るのは大変だろうよ。改めて、森の歩き方と戦い方を指導してやろう」
「楽しみです。よろしくお願いします」
「よし、じゃあ行くぞ」
「はい」
うわ~、結構楽しみにしてたんだよね。こうして誰かに教わるのって殆どなかったし、ギルドも良い事を考えるよな。いずれは僕もセトさんみたいにランクを上げて、後輩指導をするんだろうか。
遥か彼方の空が明るくなってくる。ウィッチヤードの森が囲む山々が朝日を浴びて赤く染まり始めた頃、僕たちは森の中ほどまでやって来た。
「この先がウィッチヤードの森だ。ここからは魔物が増えるから注意しろ」
「はい(うんうん、丁度境目辺りだ)」
「ここの見極めは大切だ。ウィッチヤードの森から抜け出すことが出来れば、魔物の追跡は極端に減る。この木を見てみろ、樹皮が鱗状になっているだろ?この木はウィッチヤードの森にしか無い。こいつを目印にしろ、いいな?」
「はい。この木か・・・(言われてみれば、本当だ。よく見れば違うんだ)」
「よし、じゃあ今度は水の在処だな。水を補給できるポイントは多くない。だが分かりやす場所があるからそこは覚えておけ。水があれば生き残る可能性が高くなるぞ」
「勉強になります」
「そこで休憩しよう。しかし、前回よりも体力が付いたな」
「ははは・・・あの時はもっと荷物を持ってたしね」
「そうだったな。よし、ここだ。ここが一番安全な池だ。森の中でも見通しが良い。あの岩の辺りで休もう」
セトさんは池のほとりの植物を刈り取ると火で炙り始めた。なんでも魔物が嫌う煙が出るという。これが池の周囲に多い為、この辺りは比較的安全だと説明してくれた。
「ここは・・・(あ、シャナと古木さんの近くだな)」
「綺麗だろ?あの古木はもうかなり昔からあるそうだ。噂では精霊が住んでいるとか。俺は見た事無いがな」
「へえ・・・そうなんですね(居るよ、ドライアドだけどさ!)」
暫く休憩すると朝日が昇り、森の中が明るくなってきた。
「よし。じゃあブラックウルフを狩りに行こう。アイツ等は2、3匹で行動する事が多い。他の魔物も多いから気を付けていくぞ」
「分かりました」
池から離れるとすぐに魔物と接敵した。1人でゴミ拾いしている時も多く感じたが、いつもなら『渡り』ですぐに離れちゃうから気にしなかったが、
「面倒ですね、ッと」ザシュッ!
「あぁ、この森はいつもこんな感じだ、ふんッ」バシュッ!
倒しては移動しをくり返す。現れても1〜2匹だったし、ハンディングスパイダーが出てこないのが救いだな。アイツらはもっと庭に近い奥深くに籠もっていることが多い。
一息ついて移動を開始すると、
「お。ブラックウルフだ」
前の方から3体の黒い狼が現れた。何やら耳を立て、鼻で匂いを嗅いでいる。どうやら戦闘音を聞きつけて獲物を探しに来たようだ。
「アイツらは特に鼻が利くし、足も速い。もし戦闘を避けたければさっきの草を燃やずんだ。大方の魔物は近寄らなくなる」
静かに頷く僕を見たセトさんは、
「構えろ。まだコッチに気付いていない。出来れば一撃で仕留めろ」
「はい」
ナイフを握る手に力が入る。今日は多くの魔物を倒しているがまだ慣れない。頭では分かって居るが・・・
「今だ!」
「?!は、はい!」
ちょっとだけ、ほんの少しだけ反応が遅れた。余計な事を考えていたからかも。セトさんが剣で一匹を斬り伏せるが、僕の狙ったもう片方は警戒された事もあり、致命に至らなかった。
ガルルル・・・
残った2匹が牙を向け威嚇してくるが、セトさんは臆せず動くと負傷したブラックウルフの首を斬り落とした。
「ボサッとするな!」
気がつけば残りの1匹が僕目掛け噛み付こうと飛び掛ってきていた。すばしっこいがあの巨大ネズミに比べたら可愛いもんだ。向けられた殺意を何とか躱すと交差する後頭部にナイフを突き刺した。
「ふーぅ、良くやったな」
「すみません。俺が遅れたせいで・・・」
「ん?まあこればかりは場数を踏まないとな。最後な1匹は上手くやったじゃないか」
素直に嬉しかった。セトさんはガシガシ頭を撫でると、
「よく聞け、最初から全部上手く行くなんて有り得ない。何回も挑戦して良い結果になれば儲けもんさ。さぁ、まだ時間はあるぞ。次だ次!」
「え?あ、置いてかないで下さいよ~」
セトさんは更なる獲物を求め移動し始めた。お陰で帰る頃にはお互いのリュックは魔物でギュウギュウになっていた。
「ははは、いっぱい狩りましたね」
「そうだな、つい夢中になってしまった。ブラックウルフの討伐も十分だし、今日はこれで帰るとするか」
「はい、流石に疲れました」
すでに日が傾き始めウィッチヤードの森は不気味さを増していた。僕らは池のほとりを通って帰る道を急いだ。その時、声が聞こえ立ち止まった。
(助けて)
「え?」
「ん?どうした?」
僕の異変に気付いたセトさんも立ち止まり、心配そうに振り返った。
「今誰かが助けて、と」
「んん?俺には聞こえなかったが・・・」
(助けて!)
声のする方を見返すと、シャナが憑く古木が大きく揺れているのが見えた。何やら黒い影が古木の下で動いている。
「あれって」
「ぁあ、あれは熊の魔物でホーンベアだな。あの頭の1本角が特徴だが、あれがどうかしたのか?」
シャナの声が聞こえたんです!とは言えず、何か上手い言い訳を・・・、
「セトさん、最後にあれを倒したいです」
「ホーンベアをか?!この辺りでもそこそこ強い魔物だぞ?」
「あの、その、あのままじゃあの古木が危なそうで、精霊が住む木なら守ってあげたくて・・・」
セトさんはそんな僕を見つめると、
「良いだろう。俺もあの木は好きだ。折られてでもしたら美しい池の景観も台無しだしな!」
「じゃあ!」
「待て、アイツもかなり鼻が利く。風下から襲撃しよう。ついて来い」
そう言うと荷物を隠して移動し始めた。やや遠回りになったが魔物避けの効果も有り、何事も無く目的地に到着した。
「じゃあ準備良いか?まずは俺が一撃入れる。隙を見てお前も来い」
「分かりました」
頷き返すと、剣を構えるセトさん。立ち上がり背中を古木に押しつけマーキングしている様なホーンベアの所為で、古木は今にも折られそうだ。
ホーンベアが休憩とばかりに四つん這いになった瞬間、セトさんは木陰から飛び出した。鋭い斬撃が背部から襲うと、大きく怯み古木から遠ざかった。
グオォォォ
此方に向きを変えて牙をむくホーンベアは僕の身長程もある。そんな大物に果敢に攻め込むセトさん。入れ替わり立ち替わり立ち回る。
大きな爪で斬りつけようと立ち上がり腕を振るうホーンベアだが、セトさんは剣と盾受けで華麗に受け流している。
隙を見計らって居た僕に背を向けたホーンベアに、やはり背後から後ろ足の付け根にナイフを突き立てた。仁王立ちを保てず前足を地面に着けコチラを睨むが、その隙にナイフでもう一度、デカい尻を斬りつける。
死角への追撃で一瞬怯んだ熊をセトさんは見逃さず、ガラ空きになった首筋に大きな一撃を入れて首を落とした。
「凄い!セトさん、格好いいです!」
「フフフ。どうも。さてさて、いいタイミングだったな。ヤツも急所への攻撃は堪らなかったろうな」
「はい。それにこの木が無事で良かったです」
そう思い古木を見上げると、淡い緑色の光がボンヤリと古木の周囲を漂った。
(ありがとう)
シャナの声が聞こえ、光は儚く消えた。そのお礼はセトさんにも聞こえた様で
「今の声は、精霊か?噂は本当だったのだな!」
「そうみたいですね」
僕はそう言って嬉しそうな顔をするセトさんを見て笑うと、倒れたホーンベアを回収した。流石の大きさで全部は持っていけないが、角と討伐証明の丸い尻尾だけ持ち帰る事にした。
「残りはどうします?」
「他の魔物と同じで、そのままで良いぞ。森が処理してくれるからな」
「そうですね・・・(今は僕が掃除してますよ!まあスライムも居ますがね!)」
心の中でそう叫ぶ。これだから森がゴミで溢れるのか。嬉しい様な悲しい様な気分だ。
「じゃあ改めて帰るとするか」
「はい、色々と勉強になりました」
「ははは、それは無事に帰ってからにしよう」
2人は重い荷物を背負うと、足取り軽く町へと帰還するのであった。無事にギルドへの報告を済ませると、
「クロウ!見ろ!」
嬉しそうなセトさんはCランクになったと喜んでいた。僕は僕で、
「凄いわクロウくん、やれば出来るじゃない!これからもじゃんじゃん稼ぐのよ!」
と、サニーさんに発破をかけられた。悲しきかなもっと頑張ろう。
2人は買取の査定を待ちながら食堂で打ち上げをする事にした。今日もセトさんの奢りだ。
「今回の買い取りは期待出来るぞ。2人にしちゃかなりの数を討伐出来たし、ホーンベアまで居るからな」
「ホーンベアって珍しい魔物なんですか?」
「ああ、角は硬くて良い素材になるんだ。本当は肉や皮、内臓なんかも高価なんだがな。もっと人手が居れば良かったが、惜しい事をしたよ」
「へぇ〜(高価!?いい事聞けたぞ!)」
早く回収したい気持ちを抑えつつ、それぞれ査定分を受け取ると、2000ゴールド程になった。1日の冒険者稼業でこれだけ稼いだのは初めてだ。
「それじゃ、これを持っていけ。今日手伝ってくれたお礼だ。お前のお陰でランクも上がったし、良いものも観られたからな」
「え、いいんですか?」
「ああ、また一緒に依頼にでも行こう」
セトさんは金貨袋を押し付けてきた。
「え?こんなに?」
笑顔で頷くと手を振って別れた。疲れたが良い1日だった。そんな日の翌朝、朝早く森にやって来た僕は、
「ぐおおぉっ!重いぃぃ・・・」
昨日倒したて、森に仕方無しに置いてきた魔物の死骸を集めて回った。幸い多くがそのままだったが、一部はスライムや他の魔物に食い荒らされていた。
そんなゴミの後片付けもしつつ、最後の大物の所にやって来たのだ。
「ふぅ、やっと運び終えた」
ホーンベアを何とか木の側まで動かし休憩していると、
「クロウ様〜、おはようございます」
「あ!シャナ!元気そうだね?」
「はい!またまた助けて頂きまして、ありがとうございます。彼も助かったと言っていますわ!」
彼、古木も元気そうで良かった。しかし、
「昨日は急に声を掛けられてビックリしたよ」
「すみません・・・でも、前回あのホーンベアに彼を倒されたので仕方無く。本当に助かりましたわ」
「そうだったのか。派手に折られたもんね」
「ええ。あの、お連れの方は?」
「セトさん・・・昨日一緒に戦ってた人は、精霊の声を聞けたぞって喜んでいたよ」
「でしたら。コチラも配慮した甲斐が有りましたわ。流石にクロウ様だけに聞こえたら可笑しいですもんね」
「お気遣いありがとう」
「うふふふ、今日もお仕事ですか?頑張って下さいまし」
そう言うと古木の中へと戻っていくシャナを見送り、ホーンベアを庭へと運んだ。せっせとゴミや魔物を仕分けするブリオに追加をお願いすると、
「お〜、ホーンベアか。角は・・・持っていったのか?」
「ん?あぁ、小さくて高価らしかったから。必要だった?」
「あれは武器の素材として重宝されてな。高値で取引出来るんだ。もし今度狩ることが有ればアッシに任せな!」
なんと!確かにギルドでも良い値段が付いたしな〜。見かけたら倒してみよう・・・倒せるかな?セトさんみたいな剣と盾が扱えればイケるかな?
う〜ん・・・強くなるには、
「また考え事?」
「なんだラプラスか、そう色々とね。忙しいからまたね?」
「何だとは失礼だな〜。折角クロウ君の役に立とうと思っていたのに。まぁ、邪魔しちゃ悪いから私はお散歩にでも行ってくるよ」
聞き捨てならない黒猫の言葉に、踵を返して黒猫に縋り付いた。
「モー、仕方ないな〜」




