第12話 寝るまで
今日も今日とてウィッチヤードの掃除に余念が無い。この森は広大で、毎日どこかで冒険者が活動している。しかも、僕が番人になる以前からだ。探せば至る所にゴミや死体が転がっている。
「溜まる~貢献度~、森を~綺麗に~」
そう言えば、ブリオの商売はどうなったろう。回収したら聞きに行ってみるか。死体を埋めて処理すると荷物を纏めて庭へと戻る。ブリオに今日の回収品をお願いすると、
「ところでブリオ、商品の売れ行きはどんな感じなの?」
「おう、クロウの集めた品物は殆ど売れているぞ?」
「ほとんど?」
「もちろんだ。アッシが世界中に赴いて商売しているからな。ゴミが金になるんだよ。そうだな、これまでの売り上げは8612ゴールドだ。そこからクロウが購入した金額なんかを差し引くと6298ゴールドの利益だな」
「6000ゴールドも稼いだの?!信じられない・・・」
「こんなの序の口さ。まあ、クロウがどれだけ頑張れるかに掛かっているがな。魔物なんかの素材もあればどんどん持ってこい」
「魔物か・・・討伐って苦手なんだよな」
「カカカッ、まあ無理にとは言わん。クロウのやりたいようにやれば良いさ」
「うん。ありがとうブリオ」
討伐か・・・生き物を殺すのって抵抗があるんだよね。この前のネズミは、まあしょうがないとして、うーん・・・
「悩んでるね?」
「うん、聞いてくれる?」
ラプラスはコクンっと頷くと、僕の上に載ってきて毛繕いをし始めた。んべんべ器用に舌で毛並みを整えている。
「それで?魔物を倒せそう?」
「なんでも知ってるじゃん?そうだよ、それで困ってるの」
「クロウ君て優しいっていうか、へなちょこというか、ヘタレというか、使えな・・・」
「その辺にしてくれます?そこまで言わなくてもいいじゃんか。俺は一生懸命生きている生き物を倒すことに納得がいってないだけだから。必要があればネズミみたいに倒せるよ!」
「ふーん、角ウサギはダメだったよね?」
「角ウサギって、なんでそんな事まで知ってるのさ?まだ出会う前の事だよね?そもそも森から離れて・・・見えてたの?」
「うーん、風の噂かな?変な冒険者が居た、とか。ヘタレだね、とか。この世界には目に見えないけど、存在しているモノが居るんだよ?」
うげ・・・目に見えない存在?世界中に?
「特に、クロウ君みたいな純粋な子は特に見られてるかもね?」
「ええ~、僕のプライバシーは?知りたくない事を知ってしまったような」
「あははは、その内に分かっちゃう事だからさ。早めに教えてあげたんだよ?まあ、風の噂なんて、すぐに忘れちゃう程度のものだからさ、気にしない気にしない」
そうは言ってもさ。番人さんのチカラで何とかなりませんか?え、ならない?そうですか・・・
「で、魔物を倒す理由があれば、納得するんだよね?あるよ、理由」
「あるの?」
「うん、そもそも魔物ってなんだと思う?そこいらの魔獣との違いは?」
「え?ええっと・・・邪悪な魔獣?」
「うーん、半分正解。魔物は邪悪な存在だよ。この森や魔素が特別濃い場所に自然発生するのが魔物。魔獣は、普通の生物が魔素を取り込んで凶暴になった生き物の事だよ」
「じゃあ、魔物は魔素の塊みたいなもの?」
「そうだね。生き物の形をした、邪悪な意思を持った実体だね。理由はいくつかあるけど、君がもっと成長したら話をしてあげる」
「なにそれ。まあ、そういう理由なら魔物も魔獣も倒せるかな」
「そうそう。どっちも人間に危害を加える奴らだし。じゃんじゃん倒してね。まあっどれだけ倒しても居なくなる事は無いだろうけどさ・・・」
ふーん、そういうものなのか・・・これは秘密がありそうだけど、それは今後話してくれるんだろうな。森で魔物を倒せば貢献度に繋がるかもしれないし、
「よし!じゃあ、魔物退治も頑張ってみるよ」
「お、やる気になった?良いね、良いね。きっとギルドにも依頼があると思うからそっちも見てみなよ。サニーさんも喜ぶんじゃないかな?」
「そっか、ギルドへの貢献にもなるのか、一石二鳥じゃん。じゃあ、ちょっと見て来るよ」
「相変わらず金の匂いに敏感だね。行ってらっしゃい」
借金返済の為です。ブリオから1000ゴールドほど受け取ると、僕はギルドへと向かった。昼前のギルドは冒険者が多く居たが、サニーさんの列は特に多かった。掲示板を眺めつつ空くのを待っていると、
~採集依頼~
・・・
『ハンティングスパイダーの糸 糸玉小300ゴールド』
・・・
~討伐依頼~
『角ウサギの討伐 10匹 200ゴールド』
『ハンティングスパイダーの討伐 1匹400ゴールド』
『ブラックウルフ 1匹200ゴールド』
など、色々な依頼が目に入って来る。うーん、ハンティングスパイダーは無理。この前は運が良かっただけだ。まだ倒せるビジョンが見えない。じゃあブラックウルフは?そう思っていると、「クロウくん、お待たせ~」と声が掛かる。
「サニーさん、こんにちわ。これ借りた1000ゴールドです」
「あら。この前の報酬ね?全額いっぺんに返さなくていいのよ?」
「いや、ギルドの借金は早めに返したくて・・・」
「まあそういう事なら。はい、確かに1000ゴールドあるわ。それでこれだけ?」
「いや、今日は討伐依頼を受けようかと」
「え?!も、もちろん良いけど。因みに受けるのは角ウサギ?」
「あ、いえ、森の魔獣とかから始めようかと。どうも角ウサギは倒せそうになくてですね・・・掲示板のブラックウルフなんてどうでしょう?」
(う~ん、魔獣や魔物の方が難易度が高いんだけどなぁ)
「そ、そうなのね。でもブラックウルフは群れで居る事が多いから、少なくても2,3体を相手にする必要があるの。クロウくんには早いんじゃないかな?」
「え?ダメですか?うーん・・・じゃあどうしようかな」
「それなら、こっちはどう?」
サニーさんはそう言うと一枚の依頼書を渡して来た。なになに、え?
「スライムですか?また下水道の?」
「よく見て、これはウィッチヤード付近に出て来る魔物に分類されるわ。動き自体は下水道のスライムと大きく変わらないはずよ。まずはこれを10匹討伐して来なさい」
「スライムか。うん。わかったよ」
確かに、下水道でもスライムを自分では倒して無いんだっけ。あのネズミには大変お世話になりました。南無~成仏しておくれ。
「と、言う訳でスライム退治に行ってくるね」
「スライム、ね。うん。頑張って」
ラプラスがジト目であったが気にせず森の木々を渡って行く。しかし、スライムってウィッチヤードで見た事が無かったけど、どこに居るのかな?やっぱり水辺?そう思いながらゴミを回収しつつ、注意深く見てみるが、
「スライムが見当たらないの?」
「うん、他の魔物はちらほら見るんだけど、スライムは全然だったよ。もう少し簡単に見つける方法ってないの?」
「あるよ?それこそ、番人のチカラの見せどころじゃないかな?貢献度も少しは貯まって来た頃でしょ?」
「お、という事は・・・」
僕は集中して頭の中の番人を覗き込んだ。そこには、『同一化』から伸びる『気配察知』の文字があった。これか!
『気配察知』※木々の感覚を共有して周囲を探ることが出来るよ。必要貢献度2。現在保有貢献度3。
僕はポチッた。『解放しますか?はい/いいえ』
もちろん『はい』だ!こうしてスキル『気配察知』を獲得した。よし、早速!
「うんうん。まずは設定をs」
「それじゃあ・・・『同一化』からの『気配察知』!!」
「あ、また人の話を・・・」
ラプラスが何か言っていたが、あとあと~♪木に触れて『同一化』した僕は周囲の気配を感じ取ろうとして・・・
ぐおおおおおおおおおおおおおおお・・・激しい頭痛に耐え切れずその場で気を失った。
「く、ん・・・クロウ・・・君」
「ほえ?ラプラス?」
「いや~やっと起きたよ、大丈夫?」
「僕は、ぐわぁ、頭が割れそうに痛いんだけど?!?!?!」
「そうだよね、そうだよね。君らしいよ。まったく何回目?人の話を聞かない罰が当たったんじゃないかな?」
「うぐぐぐ・・・すみません・・・」
「ふー、『気配察知』はね。木が感じ取る色んな情報から何が知りたいかをちゃんと設定しないと今みたいな事になるからね?分かった?」
「はい・・・」
「もう、はい。じゃあもう一度」
「はい」
今度はちゃんと「魔物」に限定して『気配察知』を発動した。この木の周囲には何も居ないか。次はここら辺で、ん?「ハンティングスパイダー」、「キーモンキー」か次、「スモールパイソン(死)」「スライム」・・・スライム!
木の中から「スライム」の気配がする方を見ると、死んだスモールパイソンというヘビ型の魔物にスライムが群がっていた。
流石スライム。この森でもごみ処理をしてくれているのか。でも、魔物ならしょうがない。ひいてはこの森の為だ。僕は『同一化』を解除すると、ナイフを構えた。狙うはスライムの中でふよふよ浮いている核。よく狙いを定め、
「ここだ!」
暗い下水道とは違い明るい森の中であれば、核を狙うのは容易かった。コツンとした手応えを感じつつナイフを抜けば、中心が砕け魔石の欠片が残った。
よし、次!
確実に一匹ずつ仕留めていく。残ったのはスモールパイソンの亡骸だけ。目標の10匹は確保した様だ。ついでにスモールパイソンを庭へ持って帰ると他のゴミともどもブリオに押し付けた。
「お帰り。上手くいったかな?」
「もちろん。じゃあ、ギルドに報告に行ってくる」
色々あったが時間的には夕方で、丁度いい時間であった。森へ行って帰って来たんだからあんまり早くてもな。次からは、朝一番に依頼を受けよう。
「サニーさん。帰りました」
「クロウくん。お帰りなさい。その様子は、無事に討伐して来たようね。買取所に魔石を持って行って頂戴ね」
「はい。またお願いします」
「うふふ、待ってるわね」
受付をあとに、買取所へと向かう途中、見知った人物に出会った。
「ん?クロウじゃないか?元気にしていたか?」
「セトさん。お久しぶりです。何とかやってますよ」
「そうか。これから買取所に行くのか?俺も一緒に行こう」
そう言うとセトさんは自分の荷物を持って買取所に向かった。セトさんのリュックには素材が多く入っている様だった。
「今日は依頼を受けたのか?」
「はい。やっとEランクになったので、森でスライム狩りをして来ました」
「E?そうか・・・うん。そうだ、今度一緒に狩りにでも行かないか?Cランクの試験で低ランクの指導って言うのがあるんだが、一緒にどうだ?」
「へえ~、指導ですか?僕で良ければお願いします」
「おお、有難い。実はな、前のパーティの評判が影響してなかなか受けてくれる低ランクの冒険者が居なくて困ってたんだ」
「あははは・・・セトさんも大変ですね。いつにします?」
「出来れば早い方が良いんだが、急で悪いが明日なんかどうだ?」
明日も特に何も無いし。今日中にシズに会いに行けば問題ないよな
「大丈夫ですよ。明日の朝、ギルドに来ればいいです?」
「本当か?!じゃあ、日が昇る前に集合でもいいか?俺がしっかり指導してやるぞ」
「はい。お手柔らかに」
買取所でそれぞれ納品すると、一緒に食事をしようとセトさんに誘われ、ギルド内の食堂へと向かった。まだ時間があるので折角のお誘いだしね。なんせ今日はセトさんの奢りらしい。
「ジャンジャン食えよ。そんなに細いとやっていけないからな」
「ふがふが・・・うぐッ・・・はい!」
タダより美味い飯は無いよね。僕はセトさんの注文した料理をかき込んだ。
「ところで、あの二人は元気になったんですか?もう診療所には居ないようですが」
「ああ、あいつら元気になった後、別の町に移動したようだ。ここら辺では色々悪評が付いてしまったからな。どこかで真っ当にやって居れば良いんだがな」
「その煽りをセトさんが追うのは違う気がしますけどね」
「ふふふ、事実は変えられんのだ。私は私の力で何とかしていくしかない。その第一歩がクロウ。お前だ」
「そういうもんですかね?」
「そういうもんだ。さて、明日は早いぞ。遅れるなよ?」
「はーい」
セトさんはそう言って帰って行った。腹ごしらえもしたし、お土産も貰った僕は、シズに会いに急いだ。ちょっと遅くなったから寝ちゃってるかな?
コンコンコン・・・静かに扉を叩くと、
「はい?」
「お、シズ?入ってもいいか?」
「お兄ちゃん?うん、どうぞ」
「お邪魔します。遅くにごめん。もう寝る所だった?」
「ううん。今日はまだ眠く無くて。ん?何だか良い匂いがする?」
「あ、そうそう。お土産。食べる?」
「うん!最近お腹が空くんだよね。頂きまーす・・・あむあむ、うん。美味しい~。ありがとうお兄ちゃん」
「良かった。明日は一日依頼に出掛けるから、来れないと思ってさ。会えて良かったよ」
「最近頑張ってるね。体、壊さないようにね」
ぺろりと差し入れを完食すると、シズの様子が・・・
「ふあ~ぁ、お腹がいっぱいになったら眠くなっちゃった・・・」
「そっか、じゃあ、兄ちゃん帰るよ。またk」
「嫌・・・一緒に居て!」
「ん?寂しいのか?」
「もーそう言う事は分かっても言わないのがマナーだと思うな・・・だめ?」
「・・・ッたく・・・寝るまでだぞ?」
「うん♪」
狭いベッドに座ると、シズは嬉しそうに毛布に包まった。暫くすると、寝息が聞こえて来る。頭をそっと撫でてやり、起きないのを確認すると、僕は自分の家に帰るのであった。




