わたしの家族
*
そんな風にして、リオンは帝都に滞在していた。アケボノ村に帰る前に、兄である帝にもう一度会うべきだと密かに思っていた。
「あなたなんて兄じゃない」と叫んだあの言葉を、撤回するべきだと思ったのだ。だが城に入ったらまた留まってほしいという話をされるだろうという懸念と――素直になれないせいで、城に近づくことはできなかった。
ただ代わりに、城下町での噂を聞いていた。
人に紛れて過ごしていると、そう言った噂は耳にするものだ。
くだらないことから、大層なことまで。人によってその価値は様々だろうけれど。
『スオウ』という人物の存在が、リオンの心に引っかかっていた。噂では帝のいとこで、玉座を狙っているとの話だった。
聞いて回るのは危険かもしれないと思いながらも、リオンはスオウについて、食材を買いながら、それとなく尋ねてみた。
「スオウ様? ああ余計な首を突っ込まない方がいいよ、お嬢ちゃん」
大抵の人はそう言った。彼らも詳しくは知らないらしい。
考え事をしながら歩いていると、誰かから声をかけられた。
「スオウのことを調べているの?」
ハッとして振り向けば、赤毛の青年が立っていた。カガリだった。槍を手持ち無沙汰に持っている。
「あまり大っぴらに調べ物しない方がいいよ。城下町にはスオウの部下だっているんだから」
よく考えればその通りだ。わずかに青くなったリオンに、彼が言う。
「茶屋に行かない? 甘い物が食べられるよ」
何か言いたげな目だ。きっと大切な話があるのだろうと、そんな気がして、リオンは彼と共に茶屋へ入った。
縁側の席に案内される。どうも常連のようだ。
他の人とは離れた席だった。お茶と一緒に和菓子が出てくる。
カガリが微笑んだ。
「ここの和菓子好きなんだよね。こんぺいとうもここで買ってるんだ、本来海の向こうから伝来したものらしいよ」
などと言いながら和菓子をおいしそうに食べた。リオンも食べる。
「……おいしい」
「そりゃ良かった。で、本題だけど」
彼は足をぶらぶらさせながら言った。
「あんたが姫になる気がないならそれでいいんだ。帝の兄弟は俺だもの」
「え?」
「乳兄弟だったんだ。つまりね、俺は低い身分の出だし、血も繋がってないけど、同じ乳母に育てられたんだ。そして武士として彼の元で、一緒に育った。そこへのこのことあんたがやってきた」
「なっ」
「正直癪なんだよねえ。帝の一番の理解者がカラタチだとしたら――俺は兄弟だと思ってた。なのにあんたが現れるし、当のあんたはその立場を分かってないし」
「わ、わたしは――」
「トキワ様を兄と認める気がないなら帰りなよ。そのうちスオウが何か仕掛けてくる。その時トキワ様をお守りするのは俺だ。ここはお嬢ちゃんの来るところじゃないよ」
「っ……!」
「それじゃあね」
カガリはさっさと行ってしまった。
リオンが食べ終わり、急いで後を追うともう彼は消えてしまっていて、会計も二人分済まされていた。あんな人に払わせてしまうなんて――と思いながらもリオンは妙な焦りと、嫉妬に蝕まれていた。
おかしなことだ。トキワのことを兄とまだ認めてはいないのに――彼と共に長いこと過ごし、これからも守ると言い放ったカガリに、嫉妬を覚えたのだ。
宿に帰るとチカゲの機嫌が悪かった。
「なあにチカゲさん、今わたし考え事してるの」
「そうですか。その事ですが――アナタが赤毛の男と茶屋に入るのを見たと、クロサギが言っています」
「そう、それで?」
「何の話をしていたのですか?」
「別に。あなたには関係ないでしょ」
リオンもそれなりに機嫌が良くなかった。カガリのせいだ。チカゲの声が低くなる。
「赤毛の男――カガリという名前だと、この前言ってましたね。彼と仲が良いのですか?」
リオンはふと顔を上げた。
「もしかして――妬いてる?」
「…………」
リオンはわざとらしくにっこり笑った。
「なあんだそっか! チカゲさんでもやきもち妬いてくれることがあるんだね!」
チッと舌打ちされる。
「ねえ、そんな顔しないでよ」
リオンはそっと彼の頬に手を当てた。ぴくりと彼の肩が揺れる。じっとこちらを見つめられた。
「あのね、チカゲさんの考えるような話は何もしてないよ。ただ帝の妹を自覚する気がないなら、帰れって、そう言われただけ」
チカゲが目を細めた。
「また随分と直球なことを言われましたね」
「うん。だから悩んでるの」
ぐいと引き寄せられて、リオンは「わっ」と声を上げた。
彼が真剣な目で尋ねてくる。
「それでアナタの答えは?」
「明日もう一度お城に行ってくる。でも安心して。あなたのことは絶対諦めないから」
背を伸ばして、額にちゅ、と口づけをした。
「……! 前からなんなんですか! アナタのモノになった覚えは……!」
「いつかなるかもしれないじゃん」
チカゲは思い切りこちらを睨んできたけど、リオンは笑い返しておいた。
最近の彼は文句を言いながらもやっぱりやさしくて、それが愛おしくて。
この人がただただ、好きだと思ったのだった。
*
次の日、リオンは城へと向かった。
橋を越え、門に入り、広い中庭を越えようとした時だった。
現れたカラタチに声をかけられた。
「そろそろ来る頃だと思っていましたよ。城に留まる気になったのですか?」
「違います。ただ、」
「ただ、なんですか? トキワ様を兄とお認めになったのでは?」
「いいえ……ただこの前酷いことを言ったから、謝りたくて……」
トキワを兄と認められたら良かった。やさしい人格者だ。だがリオンの秩序がそれを赦さなかった。
母を助けなかったトキワ。権力のある立場にいながら、手を差し伸べなかった彼を、家族と認めるのは到底難しいことだった。
「ふむ、姫君、私は陰陽師。術の使い手でして」
「そ、それがどうかしたの?」
不意に振られた話題にリオンは少し警戒する。
「そんな顔をなさらず。五行説を知っていますか?」
しらない、と答えれば、彼は丁寧に説明してくれた。地面に木の棒で五芒星を描き、それぞれに漢字を付け足した。
「上から右回りに木、火、土、金、水。これは人の持つ属性のようなものです。簡単に言えばそれぞれ相性があるのですよ。例えば水は火を消し止める。これを相剋と呼びます。一方木は火を生み出しますね、それを相生と呼びます。それぞれに相剋と相生の相手がいます。そしてその『気』を時折強く持つ者がいる。私や――あなたです」
「わ、わたし?」
「帝もそうですが、あの方の持つ力はまた別物と言わざるを得ません。先祖からもたらされた強い力、それをうまく受け止めきれず、あのように病弱でいらっしゃるのです」
「な、何が言いたいのですか?」
「あなたは竜神の子どもです。もう信仰をする者がいなくなった相手ですから、神とは呼べませんが、その血が体に流れている。あなたの五行は水。強い『気』があなたには流れている。銀竜村で幻覚を見せたでしょう。私は術を使って手伝いましたが、そもそもの力はあなたが流した涙に由来するものです」
リオンは後ずさる。彼が何を言いたいのか分からなかった。
「そんな顔をしなくともよろしい。あなたは術を使う気はないようですから。ただ帝と父親は違えど、それぞれ特別な『気』を持っていると知っておいて欲しいだけです。何かの折に、役に立つかもしれませんから」
「……兄上も水なの?」
「いいえ、あの方は木です。残念ながら私が支えるには相性が悪いですが、あなたは丁度相生の関係であり、支えるには良い立場です」
「よく分からないけど風水とかそういうのわたしは知りません!」
「風水とはまた別物ですが……」
「とにかく、兄上に謝りに来たの、それだけ! 難しい話はいいんです。通して下さい」
カラタチが目を細めた。
「兄上と呼ぶのですね」
「べ、便宜上はね――よくないなら控えます」
「謝って――それであなたは――アケボノ村に帰るのですか?」
あのちらちらと揺れる燭台のような目で彼は問うた。
「宮中に留まれなどとは言ってません。ただトキワ様を再び置き去りになさるのですか?」
「再び?」
「カガリから聞いたことがあるのではないですか? ほら」
ふっと景色が変わる。幻術だ。
アケボノ村より北である帝都では、桜が咲き始めだった頃だった。にも関わらず、庭の花は突然満開になり、中庭で2人の少年が遊んでいた。まだ五歳くらいに見えた。
「トキワ様! いきますよ!」
赤毛の少年――おそらくカガリが鞠を蹴る。トキワが楽しそうにそれを蹴り返していた。ぽーんぽーんと、鞠が飛ぶ。
けれども不意にトキワが胸を抑えた。
「う、ううっ」
膝をついたトキワに幼いカガリが駆け寄った。
「トキワ様――!」
鞠は転がり、トキワは苦しそうにこぼした。
「ごめん僕、体がどうも弱いみたいで」
リオンは声をかけようとしたが、意味はなかった。すべては幻だ。
カガリが懸命にトキワを慰めている。
「何事だ」
廊下の向こうから現れたのは前帝のタイザンだった。
「またお前かトキワ。生まれつき病弱で、お前は本当に情けのない」
「申し訳ありません父上」
「私は自らの神力を使い、民に有事を知らせている。災害を未然に防いだり、伝えたりすることが出来るのだ。それなのにお前ときたら、」
怒鳴り続けるタイザンを、やってきた美しい女が止めた。リオンはハッとした。紫の美しい着物を纏っていたのは、母だった。
「帝、まだ幼いながらにこの子は苦しんでいるのです。どうかおやめくださいませ」
「黙れ!!」
アヤメをタイザンが殴り飛ばした。リオンはあまりのことに煮えたぎるような怒りが湧いて、反射的に刀を引き抜いた。その腕を止めるものがあった。振り向けばカラタチだった。彼は首を横に振った。
「おやめなさい。銀竜村でも似た経験をしたはずです。これは過去です。ただの幻であり、触れることも、触れられることもできないのです」
リオンは歯痒い思いをしたが、かろうじてとどまっていた。彼らには自分が見えていないのだ。
タイザンはさんざんアヤメを罵った。
「神話の限りであれば、私の第一子に神力が受け継がれるはずだ! だというのにお前はただの病弱を産んだ!」
「どうかおやめ下さいませ。帝は民の偶像です。そのような振る舞いを誰も望みません」
「まだ言うか!!」
乱暴を振るわれたアヤメがうっと声を上げる。
リオンは今にも飛び出したくなったが、それよりも先によろよろと、幼いトキワが動いた。
開けた廊下へと続く階段を登り、タイザンに声を上げた。
「母上に乱暴はやめてください!! 母上は悪くありません! 僕がいけないのです。殴るなら僕を――」
「たわけが!! お前が弱々しいせいで、弟のカズラが玉座を狙っているのだ! よくもぬけぬけと――!」
タイザンが恐ろしい形相をして、トキワを蹴飛ばそうとする。
それをアヤメが庇った。トキワを抱きしめ、背中で痛みを受け止めた。
「っ、ははうえ……」
「アヤメ貴様……いいだろう、トキワは曲がりなりにも跡継ぎだ。私も子どもに手を出す趣味はない。代わりにお前だ。今夜は酷くしてやるぞ」
リオンは呆然とそれを見ていた。タイザンは恐ろしい男だった。
あんな帝に誰が逆らえただろう。幼いトキワの目に涙の膜が張った。けれども彼は必死にそれを耐えているのだった。
気がつけば花びらは散り、いつの間にか辺りは紅葉に染まっていた。色づいた木々が揺れている。
日がいつの間にか沈んで、闇夜の最中、夜明けが訪れようとしていた。
「母上」
かろうじて聞こえた声に、リオンは思わず走っていた。もう幻術を見せているカラタチの存在も忘れて。
たどり着いた先は、廊下の裏手だった。外へと続く裏口で、アヤメが傘をかぶり、幼いトキワに話しかけているのだった。まるでどこかへ行こうという風体だった。
「トキワ、どうか元気でね」
「ははうえ、本当に行ってしまわれるのですか?」
「ええ、母はもうこれ以上ここにはいられません。帝のことです、仮に私が逃げたと知れば、即刻追手を出すでしょう。見つかったら今までのようにはいきません。恐らく殺されてしまいます」
リオンは呆然と近づき、二人を見ていた。
幼いトキワはまっすぐな、悲しみを湛えた目で母を見つめているのだった。
「僕のことが嫌いになった?」
「いいえ。愛しています、かわいい私のトキワ。でもきっと、もう二度と会うことはないでしょう」
「手紙を出します、どこに行くのか教えてください」
「それはできないの。どうか私を許さないで。愛しいいとしい、私のぼうや」
母はトキワをしっかりと抱きしめた。そうして額に口づけをすると、傘を被り直し、軒先へと出て行った。
「いかないで、お願い、母上」
「ごめんなさい、愛しているわ――さようなら」
ぽとりと幼子の目から涙がこぼれた。
「母上――ははうえっ僕も行くっ」
「いけません」
止めたのは他でもないカラタチだった。今の時代の彼ではなく、過去の青年だった。
「このことは誰にも話してはなりません。話したいなら私がいくらでも聞きます。ですからどうか」
「母上を連れ戻せ! 命令だ!」
「私には出来ません。どうかお赦しを」
「では首を斬ってやる!」
熱い涙を流す幼子の前に、カラタチは頭を垂れた。
「構いません、あなたのためなら、この首差し出しましょう」
はらはらとトキワの目から涙が落ちた。
「みんな嫌いだ――みんなみんな大嫌いだ!!」
「トキワ様」
真摯に告げるカラタチに、トキワが唇をわななかせ、とうとう抱きついた。
「助けて、助けて――母上がいなくなっちゃった」
「私でよければ――頭を撫でて差し上げましょう、子守唄も歌って差し上げましょう。お望みなら母君の代わりを努めましょう」
長い黒髪のカラタチは、確かに女のようにも見えた。けれどもトキワは声を荒げた。
「お前は――お前は何様だ! お前なんか母上じゃない!!」
「……ええそうでしたね、でもどうか、泣き止んでください」
「どうやって? 僕は、僕は……母上に捨てられたんだ」
「ああ、トキワ様――あなたは何も分かっていらっしゃらない。愛していると母君は仰られたのでしょう?」
「でも僕は捨てられた……いらない子だったんだ……」
やがて時は曖昧になり、空間が歪んだ。
カラタチは消え、何もかもが歪んでなくなった後、背を向けたトキワと、それを見つめるリオンだけが残った。
幼いトキワは少しずつ成長した。
「憎い……母上はきっと今頃新しい家族と仲良くしているんだ」
振り返った彼はさらに成長して、リオンを見た。
「憎い憎い僕の妹! 母上を奪った。憎い憎いああ赦せない!!」
「っ」
リオンは後ずさる。
いつの間にか自分よりも大きくなったトキワが、燃えるような目でリオンを見た。
「君が憎かった、君が妬ましかった、僕から母を奪ったリオン。――でも僕は気づいたんだ。何もできなかった僕にとって――君はたった一人残された妹……」
彼は不意に微笑んだ。何かに目覚めたように。けれどその目からほろほろと、蓮の花びらのように涙が落ちていくのだった。
「許してね、ただの八つ当たりだった。僕は青かった。幼かった。君が生きていると知った時、憎しみと喜びがないまぜになった。けれどカラタチから、君の報告を受けるたびに……慈しんだ。会いたいと願うようになった。血を分けたたった一人の妹だもの。僕のリオン。お願い――帰ってきて」
ハッと、リオンは我に帰った。気づけば幻影はすべて消え、元の場所に立っていた。中庭だ。
そばにカラタチが立っていた。
「いかがでした?」
リオンは呆然としながら、どうにか言葉を紡いだ。
「……いかがも何も、過去の再現だと思っていたら――途中から兄上の本心のようでした。あれは一体……」
「きっと彼はお怒りになるでしょうけれど。今お休みになっているでしょうから、途中から彼の夢と繋げたのです。何が見えましたか?」
済まして言うカラタチは、食えない男だった。わざとこんなものを見せたのだ。
そう――あれはトキワの本心だった。
彼がやさしい人間であることに違いはない。
ただ血を分けた兄妹を、憎くて愛おしいと思う気持ちは、あの茹だるような怒りと、慈しみたいという本心は、紛れもなく自分と似ていた。
リオンは駆け出した。
「ああお待ちなさい、今お呼びしますから」
カラタチが動いた。
少し待たされた後、トキワの所へと案内された。彼は恐らく寝起きであろうに、何事もなかったかのように座っていた。少しだけやつれて見えた。
「ああ君か……嫌な夢を見たよ」
トキワは静かに告げた。罰の悪そうな顔をしていたが、それよりもリオンには込み上げるものがあった。
「あの、わたしは知らなくて、」
「君も同じ夢を見たの? 幻滅しただろう? リオン……僕は君が憎かったんだ」
「ええ、見ました」
いつしか熱い涙がリオンの頬を伝った。
「あなたもわたしが憎かったのですね。憎くて憎くて――それでも愛したかったのですね」
彼が泣きそうに笑った。困ったようなやさしい微笑み。それが答え。
「兄上!!」
リオンは立ち上がり、彼のそばへ行った。もう地位も建前も音もなく崩れ落ちていった。
抱きついた途端、彼は笑おうとして――うまくいかず、その頬に涙が落ちた。
「リオン、君はやさしいんだね」
「やさしくなんかない。わたし酷いことを言った。ごめんなさい、ごめんなさい兄上。認めるのが怖かったの。怖かったんです」
「うん、うん」
「あなたはわたしの……家族です」
不意に抱きしめ返された。いつぶりだろう。他の人とはまた違う、家族としての抱擁。それは最後に母がくれたものから、何年も経っていた。
リオンは残された本当の家族を、やっと受け入れることができたのだった。
*
カガリは城の廊下で、一人で槍の手入れをしていた。
今日はやけにトキワの機嫌が良かった。それもそのはず、妹のリオンに、兄と認められたというのだ。
リオンは宴会を断り、仲間のいる宿へ戻ったという。
よくもまあ自由にさせているものだとカガリは思いながらも、そのことになんとなくほっとしていた。
リオンに敵意なぞ最初から持っていない。あの娘が素直になるのが難しいと気づいて――それは昔の帝と似ていて――兄妹で仲良くしてほしい一心で、はっぱをかけただけだった。
本当は少し寂しいのは事実だ。トキワは実の兄弟のような存在だった。けれど自分は従者で、所詮相手は主人である。本物の妹には敵わない。それでもあの兄妹が幸せであればいいと、そんな風に思えた。
やりきれない気持ちはこんぺいとうと一緒に噛み砕いて飲み込んだ。
そこへカラタチがやってきた。
「おやカガリ、またこんぺいとうですか。酒の方が気が紛れますよ」
彼は少しだけ酔っているようだった。
「また飲んだのかカラタチ」
「ええ、今日は良い日でした。なにせあの姫君がトキワ様と抱擁を交わしたのですから――あなたにとっては複雑でしょうけど」
「別に。リオンも――トキワ様も、仲良くできたらそれでいいと、俺は思ってるよ」
「彼女に発破をかけましたね、あなたらしい」
「そっちこそ。俺よりわざとらしいやり方をしただろ」
「……寂しくはないのですか? 私は今まで通りトキワ様を見守りお支えします。でもあなたは――兄弟同然だった」
「べっつに」
カガリはこんぺいとうをばりぼりと食べた。ちょっとしたヤケ食いだった。
「リオンがいいやつだって俺知ってるもん。あの兄妹は苦労しすぎたんだ……幸せになればそれでいいんだ」
「問題はこれからですよ」
カラタチの言葉に、カガリは奥歯でこんぺいとうを噛み砕いた。
「分かってる、スオウの奴、おかしな動きをしてる」
「ええ――いずれ戦になるでしょう、その折、姫君が危険に晒されたらどうするおつもりです?」
「勿論守るさ」
カガリは空を見上げた。こんぺいとうのように星がまたたいている。
「あいつは帝の妹だ。――嫌な性格だったら割り切れたのに」
悲しそうに笑って告げた。
「怒るところもやさしいところも、帝によく似ている」




