銀竜村の記憶
*
やがて一行はまた森で寝泊まりをして、歩き続けた挙句、とうとうリオンの故郷に辿り着いた。当時のリオンの記憶では、母から聞いた話を元に、ひたすら海のある方角を目指して走ったのだ。それは月や太陽の位置からして北東だった。逆を辿れば南西である。森を歩き続け、やがて開けた場所に出た。
銀竜村。
そこは――廃屋だらけの場所だった。倒木やら何やらで辺りは閑散としている。
リオンは淡々と歩いていた。自分の家は荒屋となっていた。逃げる途中に、母は崩れた廃屋の下敷きになった。それがどこか分からなかった。分からなくて良かった。
骨があるかもしれない。ないかもしれない。
拾えたら良かったのだろうか。逃げてと言われ、あの場所から逃げ去った自分が、そんなことをする資格があるとは思えなかった。対峙する勇気もなかった。
「わたしは弱い人間です」
ぽつりとリオンはこぼした。かつて藤の咲き乱れた美しい村はそこにはなかった。
「見たくなかった」
「リオン、平気か?」
隊長が声をかけてくる。
「見ろ、アルジェントの鎧だ。お前の記憶は確かに立証されたんだ」
銀の鎧がそこにはあった。おそらく村人に反抗されて死んだ者だ。中には亡骸が見えた。醜かった。
隊長は手帳を取り出して何か書き込んでいる。
「調査はそれだけ?」
リオンは早く帰りたかった。
「まだだ。数日かけてここに来たんだから。見ろこの武器を。刀と槍、我がアルジェントでは使わないものだ」
リオンは眉を顰めた。
「わたしが幼かった頃、前代の国王陛下――アーノルド様のお父上は言ったのです。あの城ではもう使われていない、盗まれたものだと。けれど恐らくアルジェントの賊がやったのだろうと。根本が間違っていたということですか?」
「まあそうなるだろうな」
隊長は生真面目に言った。
「武器からして、この国の者だ。つまり鎧は実際盗まれたものだが、犯人の男達はアルジェントを装った東雲大陸の人間ということになる」
「そんな――そんな、」
リオンは隊長ブレッドの胸ぐらを掴んだ。
「そんなことあっていいはずが――! それじゃわたしがやろうとしたことはなんだったんですか! 幼い頃、わたしはアルジェントの人間を全員殺すつもりでした。本気でわたしは――!!」
「相手が違ったということだ」
リオンは膝をついた。
「そんな、そんな、そんな――」
視界が歪んだ。かつての絶望が蘇るようだった。憎しみだけで生きていたあの日々。アルジェントの人間を、みなごろしにしてやるのだと、子どもだったリオンは隠れて船に乗り込んだ。
そのすべての敵意が――激情が間違っていたのだとしたら。幼い自分はなんのために生きていたのか?
「わた、し、わた、しは」
背後に白い着物の男が立った。カラタチだった。
「落ち着きなさい。まだ調べねばならないことがあります」
そこへ別の男が割って入った。チカゲだった。
「これ以上何をしろと!? 彼女苦しんでいるではありませんか。もう充分です!」
「なんのためにここへ来たと? 彼女とは約束をしたのです。あの娘が何者であるか私は知らねばなりません。あなたも目星をつけたことがあるのでしょう。それで近づいたと聞いています」
「しかし、」
「もう、もういいんですチカゲさん」
馬鹿げたあの話だと分かった。竜の娘だと彼が解釈した話だ。あまりにも馬鹿げていて、どうでも良かった。それよりもかつて復讐を遂げようとした相手が、アルジェントではなく東雲大陸の人間達だったという事実が、リオンを打ちのめしていた。
自分が向けた殺意の矛先は、間違っていた。これほど愚かで悲しいことはあるだろうか。
チカゲが珍しく心配するような目で言った。
「リオンさん、自暴自棄にならないで下さい。彼は危険です、何を考えているのやら分かりません」
カラタチは顔色ひとつ変えなかった。
「まあ多少は、彼女の心に負荷がかかるかもしれませんが――知らねばならないことです。……リオンさん、自分が何者か気になるでしょう?」
リオンの目から涙がこぼれた。
「……勝手にしてください」
「では、」
カラタチが意味ありげにこちらを見る。彼が何かを唱え始めた。どうでもいい。もう、何もかもどうでもいい。
ぽとりと地面に涙が落ちた。その瞬間だった。波紋が広がるように、ぶわりと風が巻き起こった。
途端に辺りは火の海に包まれた戦場へと化した。いや、戦場ではなく、それは襲われた村だった。
「探せー! 竜を探せ!!」
鎧を着た男達が槍やら刀やらを掲げ、焼けた家を横目にどこかへと走っていった。
ハッとして立ち上がり、振り返ればブレッドが険しい目をして立っていた。セザールは絶句し、シフォンはガタガタと震えていた。
目の前のカラタチが静かに言った。
「大丈夫です。過去の再現――つまりは幻覚です。干渉されることも、することもありません」
伸ばされたチカゲの手を振り払い、リオンはふらふらと歩き出した。
恐らく居並ぶ廃屋の向こうに、幼い自分は逃げた。
そちらの方角を眺めれば、カラタチが悟ったように静かに目を細めた。
「あちらですか」
何が「あちら」だ。あちらできっと母は死んだ。記憶はぐるぐると渦巻く。歩き始めたカラタチをよそに、リオンは別の方向へと歩き始めた。自分の母がもう一度死ぬ瞬間なぞ――逃げてと言われて、走って逃げた自分の背中なぞ見たくはなかった。
この村は森に囲まれていた。まるで隠れた幻想郷のようだった。けれど今、あちこちに垂れ下がる美しい藤の花は馬鹿みたいに赤黒く焦げて、見る影もない。
リオンは仲間のことなどすっかり忘れていた。目の前であの日の恐ろしい出来事が再現されているのだ。村人達は鎧の男達に問いただされ、竜のことを知らないと分かると口封じに殺されていた。血飛沫があちこちに飛んでいる。
あの時父はどこにいたのか。リオンは幼いあの日、父を探す余裕もなくひたすら走った。
父を呼んだけれどとうとう現れなかった。
父は――平穏な日々の中でも、時折姿を消したものだった。別の女のところへ行っているわけでもなかった。母に尋ねても微笑んで頭を撫でられるばかりであった。
どこへ行っているのか――心当たりは一つあった。村の外れに美しい湖があって、そこの中央に祠があるのだ。
だが祠までの道はなく、誰も行けなかった。かつて作った時より水深が上がったのだろうと人々は言ったし、あそこへ行けるのは水の上を歩ける人間ぐらいだと笑っていた。
リオンの父がその湖へ向かっているのを見た村人が、何人かいた。幼いリオンはそれを聞いて、いるかも分からない竜神のために父は祈りにいっているのかもしれないと思った。もし本当に神様がいるなら、この村を――平穏でやさしい日々を守ってほしいと思っていた。
あの日行けなかったその場所へ、リオンは行こうと思った。これが過去の再現ならば、父が見つかるかもしれないと思った。仲間達が止める声も耳に入らない。
入るのは鎧の男達の怒号と、殺される者の悲鳴、そして断末魔。
炎の中リオンは歩いた。熱くないはずなのに熱くて苦しかった。
リオンはずんずんと歩いて行った。もう仲間の声も届かない。記憶を頼りに歩いていけば、あの湖に出た。
チカゲがかつて――リオンを殺そうとした時、竜の伝説に触れたことがあった。
その通りでないことを願った。
湖の淵に、父が立っていた。たくさんの男達に囲まれて。父は記憶の中と同じように、白い衣をまとっていた。カラタチのように烏帽子を被っていたが、彼とは雰囲気がまた違った。湖の方をまっすぐ見ていた。
「竜の居場所はここだと言ったな。嘘だったらただじゃおかねえぞ」
「どうせ命惜しさに適当言ってるだけだろう」
五人ほどの男に囲まれた父は、静かに言った。
「手遅れだった」
彼は告げる。
「気づいた時には遅かった。村は焼け――私の妻子もどうなっているのか分からない。だから確かに、これは時間稼ぎだ。それに村の真ん中で暴れては家々が潰れてしまうからな」
「はァ?」
五人が眉根を寄せていると、父は振り返り、次の瞬間には――雄々しく美しい竜の姿になった。
「お父さん!」
リオンは思わず叫んだ。まさか、本当に――ああ、信じられないけれど、それは真実だった。こんな姿を父が見せたことはなかった。
お父さん、と繰り返し叫べど、記憶の再生である彼に届くはずもなく。その事実すら忘れて声を上げる。
男達はとうとう見つけたとばかりに刀を抜いた。
父である美しい白銀の竜は尋ねた。
「刀をしまえ。私を侮るな。何故ここへ来た? 何故村を焼いた!!」
ごうごうと唸る風のように竜は吠える。
男達はわずかに慄いたが、刀をしまおうとはしなかった。
「神の心臓は賢者の石の材料だ。お前が竜神ならば、心臓は探し求めたそのものだ!」
――――ああ、チカゲさん。
視界が揺らいだ。かつて自分を殺そうとしたチカゲが、同じことを言っていた。神の血を引く心臓が欲しいのだと。リオンが竜の娘なら、その心臓は探し求める材料だと。
なんて馬鹿げた話だ。
竜が再び吠えた。木々がざわめく。炎も揺れた。
「馬鹿げたことを。それを理由に村を焼いたのか! 赦さない!! お前達一人残らず、生きては帰さぬ!!」
咆哮を轟かせ、竜が襲いかかる。男達は果敢に刀を振るった。それは大きな竜の前では爪楊枝のようで、竜は鋭い爪で鎧ごと彼らを砕き、牙で男達を噛み殺した。
その青い目に炎がちらちらと映り込み、ごうごうと燃える青い火のようだった。
仲間を呼んだのか、村を徘徊していた鎧の男達が、皆集まってくる。
竜は怒りに燃えていた。
「さあかかってこい! 私の求めるものは平穏、ただそれだけだった! お前達が破壊したものがどれほど尊いものだったのか、思い知らせてやる!!」
「やれ!!」
男達は懸命に刀を振るった、何本も竜の身体に刺さり、白銀の鱗の間から血が線のようにいくつもいくつも流れるのだった。
「お父さん――おとうさん!!」
まるで子どものようにリオンは叫んだ。自分が逃げた背後で、こんなことが起こっているなんて知らなかった。きっと父が時間稼ぎをしたから逃げられたのだろう。
そしてきっと、――きっと父は勝ったのだ。あの後便りがないのは、傷を負って眠りについたためだ。神様だから。そうに決まっている。
「心臓を狙え!!」
「貴様らなどに、この身体を渡すものか!!」
刀がいく本も突き刺さった中、竜は咆哮し、牙を剥く。
男達の数はどんどん減って行った。同時に竜の身体から流れる赤は増していく。
「もうやめてよ!!」
届くはずもないのに、リオンは叫んだ。覆らない過去に向かって叫んだ。
「もうやめて!!」
男のうちの一人が言った。
「刀では無理です。これでは全員やられてしまいます。槍を使いましょう。一気に仕掛けるのです」
「よし、やれ!!」
六人ほどの生き残りが、竜に向かって槍を構えた。
竜は咆哮した。
「赦さない、一人残らず帰すものか!!」
竜は果敢に戦った。その身体に、一斉に槍が刺さる。
六本もの槍に串刺しにされた竜は、尚も男達を鎧ごと噛み砕き、爪で裂いていく。
血飛沫が飛んだ。どちらのものかも分からない。
雷のように轟く声を上げ、竜は弓のようにしなり、湖へと落ちていく。
男達は皆死んだ。そして竜も――、
「お父さん!!」
だから、だからこれは誰も知らない昔話なのだ。
竜神の心臓は、誰も手に入れることができなかった。
湖に崩れゆく血塗れの竜を見て、リオンは咄嗟に走り出した。
「リオン!!」
背後で誰かが叫んだ。誰でも良かった。どうでも良かった。
「おとうさん、おとうさん――おとうさん!!」
血に染まる湖に飛び込んだ。
暗い水の中を、地上で燃える炎が照らしている。
向こうに沈んでいく竜の姿があった。
赤い血が流れ、銀の鱗が煌めいていた。遠ざかっていく父をリオンは追った。
沈んで行く父は――自分達を守ろうとしたのだ。本当の姿も知らなかった。
あれが父なら、助けなきゃ。
助からなくても、助けなきゃ。
ごぼりと、口から泡がこぼれた。追いついたところでどうやって地上へ連れて行くかなんて思い至らず、そもそも届くこともなく、涙が溢れそうになる。
必死に手を伸ばす向こうで、赤に塗れた白銀は遠ざかる。
それなのに、誰かが自分の腹に腕を引っ掛けた。死んだはずの敵の誰かだろうか。捕まってはいけない。それより父のところに行かなくちゃ。
誰かがどんどんリオンを引っ張って水面の方に泳いで行く。
いやだ、やめてよやめて。
おとうさんをたすけなきゃ。
はなしてよ。いかないで。
おとうさん。
突然、水面に打ち上げられたかと思えば、陸へと放り出される。
そこは草がぼうぼうに生えた場所だった。
「はーっはーっはーっ」
隣でチカゲが這いつくばるようにしてぼたぼたと身体中から水を垂らしている。
リオンは訳もわからず叫んだ。
「はあっ、はあっ、なんでこんなことするの、お父さんを助けなきゃいけないのにっ」
チカゲが眉を顰める。辺りは喧騒もなく、ただ木々がざわざわと風に吹かれているだけだった。
過去の記憶の再現はいつしか終わったのだ。けれどもリオンだけは――過去に囚われたままだった。
「なんでなのっ、あと少しでお父さんのところに行けたのにっ」
「落ち着きなさい! あれはっ、はーっはーっ、もう終わったことです、カラタチが見せた幻影です」
「とにかくいかなきゃ、わたしいかないと」
ぱちん、と頬をぶたれた。
「目を覚ませ。アナタの父親は死んだんだ」
冷たいチカゲの言葉に、不意に現実が蘇ってきて、みるみるリオンの目に涙が溜まった。
「し、しってたんだ、しってたんだよね?」
涙の膜が張った。視界が揺らいだ。
「そう、そうだよ、あなたわたしが竜の子どもだって前に言った」
「人伝に聞いただけです。それも仮説に過ぎず、昔の話で」
「だから、だからわたしを助けたんでしょ? 心臓が欲しいんでしょ?」
はらはらと涙がこぼれた。チカゲは絶句したが、すぐさま鬼の形相になり、リオンの肩を掴んだ。
「違う!!」
「違わない!! 賢者の石が欲しくて!! 材料を手に入れるために、わたしを助けたんだ!!」
ぽろぽろと泣くリオンはもはや正気じゃなかった。悲しみと絶望でどうにかなりそうだった。
「違うと言ってるだろうがいい加減にしろ!!」
チカゲがいつにない形相で怒鳴ったけれど、悲しくて涙が止まらない。
「うそつき、知ってるもん、あなたいつも嘘つくからっ」
「違う……待ってください、お願い泣かないで」
チカゲはとうとうたじろいで、それから必死にこちらの涙を拭った。
「落ち着いてください。泣かないで。お願いです。アナタに泣かれるとどうしていいか分からないんです」
「うそつきうそつきうそつきっ」
「嘘じゃないっ」
「本当はわたしのこと嫌いな癖にっ」
「……嫌いじゃないです」
リオンはようやく顔を上げた。大きな青い瞳から、涙がぽろりと落ちた。
「アナタを、殺す理由はもうないんです。とっくに。アナタが教えてくれた。大切なことを。忘れましたか?」
「わ、分かんない、わたし……」
不意にぎゅっと抱きしめられた。
「混乱しているのでしょう。ただ覚えていてください。ワタシはアナタが、アナタのことが……」
きつくきつく抱きしめられた。
「す、……、その、大切なんです、だから馬鹿な真似しないでください。勝手に死ぬなんてワタシが赦さない」
リオンの声が震えた。
「うん、うん、わかったよ」
はらはらと涙が落ちた。
「勝手にしなない、やくそくする」
「約束ですよ」
あまりにも大切そうに抱きしめるものだから、やっぱり涙が溢れて止まらなくなった。
後から追いついたらしいシフォンとセザール、そして隊長が二人を見た。
シフォンが口を開いた。
「リオン、湖に飛び込んだんだよ、覚えてる?」
少し目に涙を溜めて彼女が言った。
「幻影だってカラタチさんがはじめに言ったのに――訳わかんなくなっちゃったんでしょ? あんなに取り乱すなんて……」
「俺は知ってる。昔と同じ目をしてた。チカゲが助けに行ったからまだしも――」
ブレッドが言う。セザールが息をついた。
「なんにせよ無事で何よりだ。こっちの岸まで僕ら移動したんだよ。頼むから飛び込むのはやめて。心臓が持たないよ」
「うん、みんなごめんね……」
リオンはチカゲの腕の中で言った。とはいえまだ頭が少し混乱していた。あの過去の再現はあまりに生々しかった。血に濡れた竜の無惨で、しかしなんと雄々しかったことか。
父は命と引き換えに男達を殺した。そして自らの心臓を守ったのだ。
チカゲに抱き締められているのも不思議な心地だった。たまにこの人の行動は読めない。冷たいかと思えば助けてくれることもある。とにかく、自分の心臓目的ではないことは分かった。純粋に助けてくれたのだ。
チカゲがやさしく尋ねた。
「落ち着きました?」
「う、うん……チカゲさんに抱きしめられてたら、落ち着いた」
「そ、そうですか、もういいですよね?」
そっと離れたその体温が、なぜだか心底寂しく感じられた。水浸しのせいかもしれないけれど。きっと違う。本当はもっと抱きしめていて欲しかったけれど、仲間のいる手前言えなかった。それに今は警備隊の一人としてここにいるのだ。
そこへ遅れてカラタチがやってきた。
「一部始終は見ました。アヤメ様のことも。あなたがいなければこの術は再現できませんでした。だからここへ案内させたのですが――酷なことをさせました」
そう言ってリオンを見た。
「あなたの母君は前帝の正室でした」
「せいし――は?」
リオンは呆気に取られた。
「アヤメ様は帝都から離れて隠れてここで暮らしたのですよ、ご存知なかったでしょう」
「ちょっと待って……ごめんなさい、わたし今混乱してて」
「ええそうでしょう。あんな過去を見れば――私もそれなりに気をやられました。話は帰ってからにしましょうか。ご安心を。きちんとすべてお話ししますよ」
そうして一行はその場を去った。
帰り際、リオンは湖にある、遠くの祠を振り返った。父である竜神は眠っている訳ではない。きっと失われてしまった。
でも自分の中で、その血は生き続けているのだと、確かに信じることができた。
焚き火を囲みながらブレッドが言った。
「あの陰陽師、本当に何を考えているのか分からないやつだな」
カラタチは五人から少し離れた場所で、静かに考え事をするように座っていた。
リオンはこぼした。
「ええ、分からない人です。でも――悪い人ではないと、思います」
アヤメへの償いをしたいと彼は言った。
最初は何かよくないことをしたのかと疑っていたが、今はどこか悲しそうな目をしていたから、そうではないのだろうとリオンは思った。
チカゲが口を挟む。
「ワタシはそうは思いません」
彼は魚の串を取り、齧る。一口飲み込んで言った。
「あの男は幻影だとしても、あんな大掛かりな術を使える。――帝と関わりがあると思われるのも懸念すべきです。何よりリオンさんがあんなことになると予想できたなら、あの術を使うべきでは――」
「今日はよく喋るね」
リオンが言えば、チカゲはムッとしたように続けた。
「手のかかる誰かさんのせいですよ」
「それはそれはご迷惑をおかけしました」
リオンも自分の魚を齧って、わざとらしく言った。
「助けてくれて……どうもありがとう」
「…………」
チカゲがこちらを睨んだ。リオンはちょっと微笑んだ。彼は目を逸らして、魚を齧った。
シフォンとセザールはなぜか気まずそうにしていた。




