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小さくなったリオン



それから二人で朝食を食べて、村へ出た。

「ここはアケボノ村です。ああ昨夜たどり着いた時に教えましたっけ?」

記憶の抜け落ちているリオンにいちいち説明してやらねばならなかった。

「それであれはダリウスさん。商人です」

「知り合いなの? こわそーな人だね」

チカゲは苦笑したが、そのままダリウスに近づいた。

「おはようございます」

「え、あ、え?」

ダリウスはリオンを二度見した。チカゲは面倒になって告げた。

「ビワにされました」

「な、なんてことだ……嬢ちゃん、ちっちゃくなっちまって……」

リオンはおっかなびっくりしていた。

「あ、あの、ごめんなさい、どなたですか」

ダリウスは絶句していたが、立ち直るのは早かった。

「ああー、えーと、俺は嬢ちゃんの知り合い、かな」

「記憶にないです、ごめんなさい」

「えー、ええと、じゃあこれは? ちょっと味見してくれる?」

ダリウスがジャムを渡す。リオンの大好きな苺ジャム。しかしリオンは目で蓋を示した。

「まずはおじさんが食べてください」

「お、毒味させる気か? その年で。大した警戒心。まあ悪いことではないか」

言いながら彼はジャムを食べた。

「ほら、甘くておいしい。苺だよ。どう?」

差し出され、食べたリオンはぱあっと顔を輝かせた。

「おいしい! おいしい!」

飛び跳ねそうな勢いだ。まあ好物なのだから当然だが。チカゲはなぜかちょっと面白くないと思った。

ダリウスはにこやかに笑ってリオンにジャムを渡した。

「やるよ。どうぞ」

「いいの? ありがと!」


その時だ。いかにも魔女ですという格好をした女が村の出口の方角から現れた。シフォンの借宿のある方角だ。

つばの広いとんがった帽子の先は曲がっている。全身紫色を纏った、金髪の美女だ。

シフォンも一緒にいる。

「いいですかカヌレさん、あなたを呼んだのはあくまでリオンをもとに戻してもらうため。おかしなことしたら許しませんからね!」

言っているシフォンは警戒したような目をしている。対してカヌレはにこやかに微笑んでいた。

「分かっているわ。金のインクを使うのは緊急事態の時。そうよね? そこまでして呼ばれたからにはなんとかしないとね」

服装もあいまって、人目を惹く美女である。これがカヌレか。思ったより面倒なのが来たなとチカゲは思った。

「まあリオン! 本当に小さくなってしまって!」

「カヌレさん!!」

カヌレを見たリオンはあっという間に走っていって抱きついた。

なんだかよくわからないがチカゲは虚しい気分になった。


「カヌレさん! 突然知らないところに放り出されて、捨てられたのかと思いましたよ!!」

「まあ記憶がごっそり抜け落ちちゃってるのね、というより巻き戻ってるのかしら? 聞いた通りだわ。なんてことなの」

よしよし、とカヌレがリオンを抱き上げる。

リオンはカヌレを信頼しきった目で見ていた。面白くない。


「カヌレさん、あのね、気づいたらよく分からない洞窟にいてね、隊長もいてね、」

「ええ、ええ。一つずつお話ししてちょうだいリオン」

懸命に喋るリオンの横でシフォンが苛立ちを隠さずに言った。

「ビワにやられました。指名手配犯です。王の元にいるならご存知でしょう。あなたの魔法ならなんとかなるはずです、戻してやってください」

「どうして? こんなにかわいいのに」

「カヌレさん!!」

シフォンが歯軋りしそうな勢いで怒っている。

「冗談よ、あと一日くらいいいじゃない?」

「あなたの場合は冗談が本気になるかもしれないから危惧してるんです!」

「信用ないのね、まあいいじゃない。この頃のリオンはかわいかったのに、十六のこの子ったら私を警戒してばっかりで」

「あなたがおかしなイタズラばっかりするからでしょーが!!」

「いやだわ子どもにはしないわよ」

「そういう問題じゃないでしょう!」

自分の知らないところでリオンの世界が回っている。当たり前のことなのにチカゲは苛ついた。

大体十六のリオンがこの女を警戒するとしたら、一体何をされたのか。おかしなイタズラとはなんなのか。苛つく。


思わず睨みつけるチカゲにカヌレがリオンを抱いたまま近づいてきた。

「黒い着物にヒガンバナの模様……赤い目……あなたね、チカゲって」

「ハァ、ワタシに何かご用ですか」

「ご用も何もさっきからずうっと睨まれてる気がするのだけれど」

にこにことカヌレが言う。食えない女だ。

「見間違いでは」

「あらそう。なるほどね? 報告書の通り。ああリオンの報告書は簡潔だから気にしないで。性格は偏屈で変人。妄信的とあったわ」

「っ、喧嘩売ってるんですか。あなたから恨みを買った覚えはないですが」

一瞬、カヌレはゾッとするような目をしたが、すぐに元の笑みに戻った。

「恨みを買った覚えはない? 私のかわいいリオンを奪っておいて?」

「ハァ?」

「リオンがあなたにご執心だとシフォンに聞いたわ。この子は私に懐いてたのに。男の趣味最悪ね」

なんなんだ一体。意味が分からないし苛つく。

「かわいいしもうこのまま子どものままにしておこうかしら」

シフォンが口を挟んだ。

「やめてくださいカヌレさん! あたしリオンに忘れられてるんですよ! あんなに一緒にいたのに!」

「ああ、あなたと会ったのはもう少し後だったものね」

よく分からず様子を見ていたリオンがシフォンを見て口を開いた。

「おねーさん、わたしに前に会ってるの?」

「そうだよリオン!」

一生懸命言うシフォンに、リオンは考え込む素振りを見せ、カヌレを仰いだ。

「カヌレさん、おかしいんです。昨日からわたしの知らないはずの人たちが……わたしあの洞窟にどうやって来たのかも分からないし……記憶がなくなっているみたい」

「そうねリオン、……あらあら」

リオンはカヌレの腕から降りるとシフォンの前に降り立った。

「ごめんねおねーさん、忘れちゃって」

「えっと、ああ……うん、仕方ないよ」

「わたしとおねーさんは、どんな関係だったの?」

「と、友達だった……」

だいぶ落ち込んでいるシフォンを見て、無垢な幼子は手を差し出した。

「それじゃあえっと、その……もう一度友達になって……もらえませんか」

真面目に言うリオンに、シフォンは目を輝かせた。

「リオン! うん! あたしとあなたは友達!」

両手で小さい手を握ったかとおもえば、次の瞬間には抱き上げる。

「わっ」

「あたし達はね! 親友だったんだよリオン! 今は友達でもいいや! 小さいリオン軽いね! かわいいー!」

リオンはびっくりして目を丸くしていたが、信用したらしく大人しくシフォンの腕に収まっている。シフォンはあっという間に機嫌を取り戻した。

リオンは抱き上げられながら、シフォンの白い髪を少しいじっていた。

「おねーさん、綺麗な髪だね……」

「そう? あちこちはねてて、くせっ毛だから……あたしはリオンのさらさらの黒髪の方が羨ましいけど」

「……でも綺麗だよ」

「そう? うふふ、うれしー!」



チカゲはその光景を黙って見ていた。あそこまで露骨に感情を出せるシフォンに、馬鹿馬鹿しいと思うと同時に、一抹の――寂寥が身をよぎった。つまりは羨ましいと思っているらしい。そんなはずはない。くだらない。


カヌレが告げる。

「その子を育てたのは誰だと思っているのよ、まったく」

シフォンが睨みつける。

「一時的に記憶がなくなってるだけです。今はもうあなたのものじゃない」

「相変わらずねシフォン、まあいいわ」

シフォンとはまた違う、艶やかで美しい金髪がなびいた。

「シフォンがいるなら大丈夫でしょう、また後で迎えにくるわ、リオン。明日には元に戻してあげる。夜には一緒に楽しい時間を過ごしましょう。ね?」

含みのある言い方だ。シフォンが思い切り睨みつけたが、カヌレはそのまま行ってしまった。

「あ、カヌレさんっ」

リオンはかなり不安そうな声を上げたが、シフォンに抱っこされて追いかけられない。

「カヌレさんが行っちゃう!」

「だいじょーぶ、後で迎えに来るって。あの人何考えてるかわかんないけど」

「カヌレさんは悪い人じゃないよ!」

シフォンが苦虫を噛み潰したような顔をした。何か事情があるのだろうがチカゲには分からない。


リオンは周りを見渡していたが、やがてシフォンに降ろしてくれと頼んだ。

シフォンが渋々降ろす。

リオンは考え込んでいたが、眺めていたダリウスの元へ行った。

「おじさん商人でしょ?」

「おじさんだけど、ダリウスと呼んでくれると嬉しいな」

「ええと、ダリウスさん、ここの地形を教えてほしいの。詳しいでしょ?」

「え? ああまあね。なんで?」

「迷子になった時に困らないように」

この辺はしっかりしているらしい。感心した様子でダリウスが紙を取り出して、地図を書き始める。

もうこうなると商売どころでもないのだが、無垢なリオンのかわいさに打ち負けたらしい。真面目に地図を書いている。大雑把だが。

「なるほど、昨日あっちから入って来たんだ、ここが通りになってて……」

シフォンがむぅ、と頬を膨らませた。

「あたしが教えてあげられるのにぃ」

リオンは熱心にダリウスに村の説明を聞いている。無駄なことだとチカゲは思った。どうせ明日には元に戻るのだ。覚える必要もない。


その時だった。

「え? ……リオン?」

セザールが現れた。また厄介なのが来たとチカゲは思ったが口には出さない。

「リオン……君リオンか……?」

シフォンが口を挟んだ。

「偵察に行った時にビワに小さくされちゃったの」

リオンは少し後ずさったが、どこか惚けたような目でセザールを見ていた。

「あの……ごめんね? おにーさんも、わたしの知り合い? 記憶があやふやで……」

「へえ? そ、そうなんだ。僕はセザール。大丈夫?」

かがみこんだセザールにリオンが赤くなった。

「お、王子様みたい……」

「は?」

チカゲは不機嫌な声を出したがセザールは破顔した。

「王子様みたいって、僕のこと?」

「わっ、近づかないで! 照れちゃう……」

ダリウスの後ろに隠れるリオン。そう、この小娘は子どもになっていて記憶がないのだ。仕方ない。誰が誰かも分かっていない。

だけれどあれほどチカゲを好きだと言っていたのに、この代わり身。まあ幼いリオンの好みが彼のような人間だったというだけだろう。だが解せない。というか腹が立つ。この尻軽め。


ダリウスがため息を吐く傍らで、セザールが優しく微笑んだ。彼は偽りなく、まさしく好青年であった。

「僕、そんなこと君に言われたの初めて。嬉しいな。セザールと呼んでよ」

「せ、セザール……さん」

「呼び捨てにして、リオン。お友達になろう?」

「せ、セザール。う、うん」

ふふ、と彼は笑ってリオンを抱き上げた。

「わっ」

リオンは真っ赤になっている。

「お、下ろして!」

照れてばたつくリオンをセザールは満足そうに抱きしめた。

「恥ずかしがらないで。嫌がってるわけじゃないんでしょ? 分かるよ、僕とても嬉しいんだ。君と僕は友達、ね?」

チカゲは苛ついた。理由ははっきりしないが、とにかくどうしようもなく苛ついた。

シフォンもイライラしているらしく、声を上げた。

「セザール、リオンを独り占めしないでよ! カヌレさんじゃあるまいし!」

「カヌレさんが誰か知らないけど、いつも引っ付いてるのは君の方じゃないか」

「いいから下ろして! 嫌がってるでしょ」

「別に嫌がってはいないよね?」

リオンは赤くなって黙りこくったが、なんとか口を開いた。

「え、えっと、びっくりしちゃったから、降ろしてほしい……」

セザールは困ったように笑うと、やさしく降ろした。リオンはささっとダリウスの後ろに隠れる。

ダリウスは三人の視線を受けて非常に居心地が悪そうだった。

「あの、えーと、なんで俺? 他の奴に頼れば? 例えば、あー、そこの黒い着物のおにーさんとか」

リオンはちらりとチカゲを見た。

「チカゲさんは……さっきから睨んでくるから」

はぁあ〜とダリウスはため息を吐いた。

「ええーと、リオン、なんで睨まれてるか分かる?」

「今朝チカゲさんには迷惑かけたの。りんごを切ってくれたんだよ! でもあの、嫌われたのかも……」

「――ええアナタなんか嫌いです」

チカゲは苛つきながら思わず口を開いた。色々我慢していた上でついこぼれてしまった言葉だった。

「人の気も知らないで! 勝手にあっちへ行ったりこっちへ行ったり! よくもそう愛想を振りまけますね? 小さなアナタは皆にかわいがられて――さぞかし楽しいでしょうね?」

分かっている、そもそもこの娘に記憶はないのだ、こんなのは大人げない八つ当たりだ。リオンはじいっとまんまるな目をしていた。

「…………」

静かにチカゲに近づいた。

「ちくちく言葉のチカゲさん」

「だからちくちく言葉は余計だと」

「もしかして寂しいの?」

「は?」

リオンはそばに寄った。

「わざと人を寄せつけないようにしてるように見える。昔ね、わたしもそうだったの」

まんまるな目は、真理を見つけたようにまっすぐで、チカゲはたじろぐしかなかった。

「…………」

そうなのかもしれない。遠ざけるために冷たくしているのかもしれない。これ以上くだらないことで傷つくのはごめんだから。――嫌いと言ったけれど、本当はこの娘が嫌いじゃない。それはもう気づいている。気づいてしまったことだ。どうにも嫌いになれないのだ。

「……言葉の綾です」

「じゃあチカゲさんも、わたしとお友達になる?」

チカゲは言葉に窮してしまった。友達になってくれと以前この娘にせがまれたことを思い出した。とっくになったはずなのに、記憶を失くしたこの娘とは一からやり直しなのか。明日には元に戻るならそれもすべて無駄なこと。馬鹿馬鹿しい。それなのに何故か心が痛んだ。

「チカゲさん、わたしを信用してないね?」

にっこりと、底の知れない目でリオンが笑う。ハッとした。夢の中の少女と重なったけれど、あの時と違って、リオンの目は澄んでいた。

「信用してくれない相手には秘密を教えるといいって、カヌレさんが教えてくれた」

一歩、またリオンが近づいてくる。食えない瞳だった。

「耳を貸して、チカゲさん。秘密を教えてあげる」

チカゲの瞳は揺らいだ。けれども好奇心には勝てなくて、思わずしゃがみ込んだ。

耳元でリオンは言った。

「わたしね、人を殺したんだよ、たくさん」


夢の中の光景がフラッシュバックする。憎々しげに嗤っていた濁った瞳の娘。

持っていたナイフは、血に汚れていた。

あの時点で既に、彼女は殺しをしていたのだ。

あの夢はただの夢じゃない。過去の真実の再現だ。

そして今目の前にいる彼女は、きっとカヌレに「矯正」されたリオンなのだろう。


「リオン……さん」

「なあに」

「アナタは今もそれが正しいことだと思っていますか」

「全然」

彼女はやっぱり底の知れない、けれど澄んだ目で言うのだ。

「でももし王様に仕えたら、守るために殺すかもしれない。それが正しいのか、今のわたしには分からないけれど」

彼女の言う王様は、アルジェントの前代の国王のことだろう。もうとっくに亡くなっているが、揺らぎのない目で彼女は言うのだ。

「カヌレさんが教えてくれた。困っている人には手を差し伸べなさいって」

彼女は両手を差し伸べた。

チカゲは顔を顰める。

「ワタシは困っていません」

「寂しいって顔をしてるよ」

「してなっ、――」

リオンが抱きしめてくる。

あの夢と同じはずなのに真逆だった。

そうだ、自分は寂しかった。友達がいるフリをしていて、けれどその実誰にも本心を開いていなかった。その孤独を誰も分かってくれなくて、ツクヨミ様すらどこにもいなくて――寂しかったのだ。

チカゲは固まったまま、呆然と少女を見た。夢の中とは違った。あの時は自分が彼女を慰めたはずだ。今は慰められている。どうしたらいいのか分からない。なぜこうも不思議と心に入り込んでくるのか。いつもは憎たらしいそれが、今は愛おしかった。小さな少女がくれたのが無償の愛だとなぜか分かって、泣きたくなった。


「なんだあの構図は」

ダリウスが困惑したように言った。

シフォンがちょっと面白そうな目をして言った。

「チカゲさんが固まってるー。めずらしー」

抱きしめられてしばらく固まっていたチカゲは、やがて我に返ってこほんと息をついた。

「離れなさい」

リオンは大人しく離れる。そうして告げた。

「寂しかったら言ってね。ぎゅってしてあげる。カヌレさんはしてくれるんだよ」

「いりません」

シフォンが声を上げた。

「あたししてほしー」

リオンは迷わずシフォンを抱きしめた。きゃーかわいいーと黄色い声が上がる。

「おねーさんほんとに寂しいの?」

怪訝な顔をしたリオンにシフォンは頷いた。

「うーん、今はかわいーって思ってるけど、早く思い出して欲しいな、あたしのこと」

「うーん」

リオンは真面目に考え込んだ。

「おねーさんはたぶんいい人。やさしくて、きっとモテて、お友達を大切にする」

「わっ、大当たり。……まあモテてはいないけど」

ちょっと困ったように、はにかむようにシフォンは笑った。どこか嬉しそうだった。



チカゲは目を細めた。彼ら自身は気づいてないがリオンもシフォンも村の男どもの目をそこそこ惹くのだ。リオンの言うことは的を得ていた。


セザールが近づいた。

「僕は? 僕はどう見える?」

「うーんセザールは、誠実で真面目、な印象かな。誰かを好きになったら、一途に愛するんだと思う」

「そう! その通りだよリオン!」

まったくその通りである。チカゲは不愉快に目を細めた。

セザールがきらきらした目でしゃがみ込み、リオンの手を握る。

「君は僕を王子様みたいだと言ったね? もしかして勝算があるのでは――」

「はいはいそこまでー」

シフォンが無理矢理その手を振り解いた。

「相手は子どもなんだからやめてよね!」

「……わか、分かったよ。でも僕、なんか希望が見えてきた!」

立ち上がったセザールをよそに、シフォンは話題を変えようとしたのか、チカゲを示した。

「リオン占い師、コイツは?」

「わたし占い師じゃないんだけどな……」

うーんと言いながら眺めるリオンをチカゲは表情も変えずに眺めた。なんとなく嫌な予感がした。

「チカゲさんは、顔が綺麗でー、背も高くてー、たぶんいっぱいモテる! それで……いっぱい遊んでそう」

「だってさチカゲさん!!」

何故か勝ち誇った様子のシフォンが言った。

女性にモテるだけなら褒め言葉だが、後半が余計だ。「いっぱい遊んでそう」ってなんだ。

チカゲは苛ついたが、女の目を引くことはよくあるし、昔娼館通いをしていたことはあったから、リオンの答えは正直的を得ていた。反論の言葉は出てこない。例え今は行ってないとしても、言い訳にしかならないだろう。

それにしても不愉快極まりない言い様である。


チカゲの不機嫌を見てとったのか、場を明るくするようにダリウスが割り込んだ。

「おじさんは? 俺はどう見える?」

「おじさんは……ダリウスさんは……ええと、顔が怖いからあんまり……モテなかったんじゃないかな」

ズバズバ言うリオンにダリウスはちょっとだけ引き攣った笑みを浮かべる。まあチカゲの知っている限りこの男の浮いた話は一度も聞いたことがない。当たっているのだろう。

けれどリオンは続けて微笑んだ。

「でも苺のジャムくれた! 根はいい人だから……お友達いっぱいいるんじゃない? お友達から大事にされてると思うよ」

そう告げるリオンに、ダリウスは破顔した。ダリウスの友人とは――リオン本人と――自分のことだろうかとチカゲは思う。

ダリウスは嬉しそうだった。

「そう思うかい?」

「うん!」


「あらあらなあにみんなで集まって」

みんなで話しているうちに日が傾いてきた。

いつのまにかまたやってきた美女がリオンに微笑みかける。

「カヌレさん! お友達できたよ! いっぱい」

「それは……素敵ね」

魔女は一瞬、ちょっと面白くなさそうな表情をしたものの、すぐに美しい笑顔に戻った。

「私も宿舎を取ったわ。すぐに撤退する予定だけど……。リオンはチョコ好きよね?」

「うんすき!」

「ディナーと一緒にご馳走してあげるわ、おいでなさい」

「夜の甘い物はおんなのてき、じゃないの?」

「今日は特別だからいーの。ほら」

魔女が手を差し伸べると、リオンはその手を信頼のこもった目で握った。

「カヌレさんが迎えにきてくれた! みんなまたね!」

シフォンがその背後に声をかける。

「カヌレさん、ちゃんと元に戻してくださいよ!!」

ひらひらとカヌレが手を振る。

手を握ったまま、魔女と幼子は行ってしまった。

まったく、やけに長い日だとチカゲは思った。



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