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対策

「…ここは、一旦対策を練った方がいいんじゃね?」十六夜が、微妙な空気を破って、言った。「維月は問題ないんだろうが。気が定期的に補充されるんなら、消滅の危機もねぇ。オレが感じてた通り、維月は命の危険を感じていなかったわけだ。ルシウスは、維月の膜がある場所が分かるんだろ?」

ルシウスは、頷いた。

「分かる。今さっき、あちらの方で移動が止まった。回りを霧に囲ませておるゆえ、正確に居場所がわかるのだ。そこだけ不自然に空洞に見えておるから、そこに膜があるのだとな。」

十六夜は、頷いた。

「だったら、いつでも行ける。ただ行くだけじゃ、相手に構えさせて対策を練られちまうかもしれねぇ。次に行く時は、万全の準備をして行くべきなんじゃねぇのか。」

ルシウスも、少し考えたが、頷く。

しかし、十六夜に抱かれているキリルがルシウスを見て、言った。

「でも…でも父上、母上を助けて差し上げなければ。危険ではないと、言い切れないと我は思います。だって、膜の外に居たら声は聴こえないはずなのに、なぜか隣りの膜の中の、別の男の声は聞こえたのです。母上と話をしていました。我は、膜の中同士なら聴こえるみたいと母上が仰っておったのでそうかと思うておりましたが、今考えてみたら、我だって膜に籠められておったのに。膜の外には、また膜があってそこへ籠められておったとお話ししましたでしょう。我らには、母上と多香子様の声が、外から聴こえてはいませんでした。おかしくはありませんか?」

ルシウスは、十六夜からキリルを抱き取りながら、言った。

「では主は、もう一つの膜の中のルキアンが怪しいと?」

キリルは、首を傾げた。

「分かりませぬ。ルキアンは母上が我にいろいろ教えてくれるのを、とても嫌そうな目で見ておっただけで。母上が言うには、闇の中には悪い闇も居ったから、闇が嫌いな神も居るのだと言っていたので、そうなのかなと思うておりました。でも、今考えてみると、あのルキアンという神は、我でも多香子様でもなく、母上の事を見ておったような気がするのです。母上はお美しいかただから、分かるけど…。」

それを聞いたルシウスと十六夜、維心と志心は顔を見合わせる。

維月は確かに美しいが、多香子と比べたら恐らく、多香子の方がかなり美しい部類ではないだろうか。

陰の月の気を感じ取れないはずの膜の中なので、並んでみたら、初見なら恐らく、多香子の方に目を奪われると考える。

だが、ルキアンが見ていたのは、維月だったと。

維心が、言った。

「…ならば、マズい。こちらで、匂いを追いながら漸と三人で考えておったのは、そのルキアンという神が、霧か闇に憑かれた状態でニコールに憑いておったのではないかと。何しろ、ルキアンの匂いに混じって、太古の神の戦があった場所の辺りの嫌な臭いが混じっていて、それが消えていないと言うのだ。もしや、そのルキアンの中の闇が、維月に取り入ろうと虎視眈々と狙っておる状態なのでは。維月は、その男とどれぐらい親しくなっておったのだ。」

キリルは、答えた。

「親しいことはありませんでした。なぜなら、ルキアンが我を毛嫌いするので、母上は途中からルキアンを相手にしておりませんでしたから。母上はルキアンに背を向けて、我にいろいろお教えくださっておって、話す暇もありませんでした。多香子様が、警戒するような視線をルキアンに向けておったので、何か気付いておられたのやもしれませぬ。我には、何も仰いませんでしたが…。」

ルシウスが、言った。

「…どちらにしろ、維月はそう簡単に気を許すことはないと思うておる。陰の月として心底同情するような、状況にはなっておらぬ。それはお互いに籠められておるから、そこに共通する意識はあろうが、そんなことで取り込まれるほど、陰の月というのは脆くはない。我は維月を信じておる。ここは、確実に奪還できるように、こちらで対策を練ってからが良いと我も思う。キリルは、思ったより多くの事を見て知っておる。ここは、一度考えようぞ。異変があれば、十六夜も我も気取るだろう。近くで待機しながら、話し合おう。」

志心が、頷いて飛び上がった。

「ならば、向こうの入り口付近で待機しておる、漸も連れて参る。主らは、そのまま維月と多香子の膜がある辺りの、地上辺りに移動しておけ。我は、主らの気配を追って参るから。」

維心は頷いて、十六夜を見た。

「行こう。十六夜よ、主が頼りぞ。主の浄化の光は何にでも有効であるし、わざわざ炎にする必要はなかろうが、我が一応、ドラゴンの浄化の炎を模した炎の出し方を教えておこう。それが役に立つやもしれぬから。それが利かぬ時が、厄介ぞ。」

十六夜は、頷く。

「まあ、オレは浄化専門の命だからよ。どうにでもいろいろ変えてみて、試してみるだけだけどな。炎のことは知ってるし、教えてもらわなくても大丈夫だと思う。それより、お前が知ってる浄化の種類ってのを教えてもらっといていいか。あれこれ試す時も、闇雲にやるよりいいだろうし。」

維心は、頷いた。

「分かった。」

ルシウスが、キリルを抱いて浮き上がり、その場所へと先導して行く。

二人は、それについて荒野の上を飛んで行ったのだった。


ルキアンの晒された事態を聞いた維月が絶句していると、多香子が静かに言った。

「…ならば、やはり闇なのか。」と、維月を見た。「この膜…ベンガルが失踪してからできたとしたら、その闇の存在はルシウスから見えておったはずなのではないのか?それなのに、放置しておったから、ルキアン達は囚われることになって、そしてこんな術も生まれて我らはこんなことになっておるのでは。4人の遺体は干からびておったと言うておったの?闇に食われたからではないのか。」

維月は、多香子を見た。

「…そうね、確かに。ルキアン達を捕らえた時には、きっとこの膜は存在していなかったはずよ。そもそも、この膜は、仙術であってもベンガルでなければ放つことができなかったわ。だから、この膜も、必ずベンガルを経由して放たれたはず。」と、ルキアンは見た。「ルキアン、あなたが生かされている理由は、きっとそれではないかしら。つまり、もしこれが闇の仕業なのだとしたら、あなたが闇に操られているのよ。」

ルキアンは、目を見開いた。

「我が?!我が己のことすらこうして術で籠めて、被害者を装っておると?!」

維月は、首を振った。

「装っているなど分からないわ。でも、あなたしか利用できる神は居ない。あなたが気を失っている時に、その体がどう使われていても分からないでしょう。闇には、意識を奪って乗っ取る能力もある。あなたが闇に憑かれていたとしたら、ここへ運ばれる際のことを覚えておらぬのもわかるのよ。」

多香子は、厳しい顔で言った。

「ルキアン達を浚ったのが、闇かもしれないと認めるのだな。ルシウスが見逃していたと。」

維月は、多香子を見返して、答えた。

「闇かもしれないとは思う。でも、ルシウスは知らなかった。それに、闇の発生は陽の月にも分かるものなの。だから、十六夜にも分からなかったことから、ルシウスが気取れなかったのも理解できる。この件は、闇が首謀者ならば月と闇、両方の目をすり抜けて発生した闇が起こしたことになるわ。どんな状況だったのか分からないけど…必ず、見付け出さねば。地上のこれからも関わって来るわ。どうして気取れなかったのか…原因を突き止めなければ。」

多香子は、ルキアンを見た。

ルキアンは、今聞いたことが間違いなのだと思いたいのか、こちらを睨んでいる。

「…主、薄々気付いていたのではないのか。」多香子が言うと、ルキアンは多香子を見た。多香子は続けた。「キリルと維月を見る目が気になっておった。特に、キリルを見る目は我らが闇を警戒する心以上の何かを感じたゆえ、我は気にしておったのだ。友を殺されたとしても、あれは異常ぞ。主が心を乱すと膜の回りの霧が騒ぐ。偶然とは思えぬ。そも、何故に主とはこうして会話できるのだ。外の霧も、大きな膜の中にあったはず。膜の中同士というのなら、キリルの元になった霧にも膜の中が見えたはず。膜の中の維月が見えておったら、霧は維月の声を聞いて姿を見て、その指示に従っていただろう。それが疑問だったのだ。何故に主とだけ、話ができる?」

言われて、維月はそうだ、と気付いた。

そうなのだ、霧達は維月を認識していなかった。

ここへ流れ込んで、初めてこちらを認識したのだ。

ということは、なぜルキアンだけ…?

ルキアンは、多香子を睨んでこちらを見ていたが、やがてその顔に、おおよそ神とは思えないような、醜悪な笑顔を浮かべた。

…やはり…!

維月と多香子は、それで全てを悟った。

ルキアンには、闇が憑いているのだ。

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