表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
84/198

ルキアン

維月達の膜の移動は、止まった。

回りは相変わらず真っ暗で、霧が充満しているのが分かる。

そんな中で、ふと気がつくと、膜のすぐ横に、膜の中で倒れたルキアンの姿が見えた。

どうやら気を消耗しているらしく、目を閉じて横になってはいたが、どこか傷がついているということはなかった。

姿は、何やら金髪になっており、茶色の髪ではなくなっていた。

それに気付いた、多香子が言った。

「いったい、どこから。霧の中で運ばれておって気付かなんだのかの。」

維月は、頷いて呼び掛けた。

「ルキアン!ルキアン、大丈夫?」

ルキアンは、それに反応して、身を起こした。

「…維月様?」と、回りを見回した。「…あれ。我は、いったいどうして気を失っていたのでしょう。」

維月は、言った。

「分からないわ。あれから、結構な距離を移動して来たの。私達にはそちらが見えなかったけど、あなたは後から運ばれて来たのかしら。」

ルキアンは、少し考えたが、首を振った。

「覚えておりませぬ。」と、維月をみた。「…あの、闇は?」

維月は、答えた。

「もうここには居ないわ。膜が開いた時に、外に出て参ったから。きっと、我の片割れが助けてくれる。だから、信じて待っていて。」

ルキアンは、顔をしかめた。

「あなたの片割れ?」

維月は、頷いた。

「ええ。陽の月の、十六夜よ。私達は対の命で、どちらも居なくてはならない存在。私が囚われているのなら、十六夜は必ず助けに来るわ。どこに居ても。黄泉へでも、共に参ったことがあるぐらいよ。」

多香子は、初めて聞くことに驚いた顔をした。

「え、主は黄泉へ参ったことがあるのか?それを覚えておると?」

維月は、苦笑して頷く。

「そうなの。闇と戦ってね。とても性質良い闇で、自分を抑える術も知らなかった。それに取り込まれて、十六夜は私と共に黄泉へ行く事を選んで、共にお互いの力を放ち合って消滅したの。でも、また一緒に生まれて来たのよ。術で、記憶を封じて持って来たの。」

多香子は、思ってもいなかったようで、驚いた顔のまま、言った。

「闇に…殺されたのに、主は此度共存の道を選んだのだの。」

維月は、困ったように言った。

「それはそれ。あの時の闇はね、私を取り込んだりしたくなかったのよ。それなのに、生まれたばかりで誰にも教われなかったから、あんなことになってしまって。ルシウスは、太古から生きていて自分でその術を身に付けて行ったから、知っていたわ。もしかしたら、始祖だからいろいろ初めから知っていたのかもしれない。その違いがあるの。私は闇を恨んだりしていないわ。十六夜もよ。神が皆同じではないように、闇だって皆が皆同じではないのよ。もちろん、闇にだって性質が良くない者も出現するから、それを見つけて始末するために、私達は居るのよ。」

多香子にとっては、壮大なことだった。

これまで、犬神の宮という小さな世界で生きて来て、最近になって世界を知った自分と比べて、維月は早くからいろいろ見て、経験し、今があるのだ。

多香子は、言った。

「…我は、誠に何も知らぬ。主には、教えられる事ばかりぞ。」

維月は、フフと恥ずかし気に笑った。

「別に、特別なことは何もないわよ?私は私。それより、ルキアンよ。」と、ルキアンを見た。「あなたは、何も覚えていないの?ここへ来る前に、いきなりに霧が充満してお互いに見えなくなったわね。あの後の事は?」

ルキアンは、首を振った。

「霧が充満…ええっと、どうでしたっけ。覚えておるのは…膜が開いて、霧が入って来るので鬱陶しくて外へと追い出して…」と、首を傾げた。「そこから、覚えておりませぬ。どうなったのだろう。」

ということは、あの時移動が始まるか始まらないか辺りで、ルキアンはもう意識がなかったのだ。

もしかしたら、押し出したと思っていた霧が何かしたのかもしれないし、単純に膜が大きく揺れて、どこかにぶつかって気を失ったのかもしれなかった。

多香子が、隣りで息をついた。

「ならば、新たな情報はないな。何も見ておらぬのだからの。まだ、我らの方が情報は多いやもしれぬ。」

ルキアンは、こちらを見た。

「情報?ここへ来るまでに何かあったのですか。」

維月が、頷いた。

「ええ。仲間の闇と我の片割れが近くまで来ておる事を知ったわ。恐らく、それゆえにあの場所から移動させられたんじゃないかと思っているの。どうやってあちらがこちらの場所を特定しておるのかは分からないけれど、ここもすぐに見つけられるんじゃないかしら。この膜…ベンガルの術に似ておると申したでしょう?もしかしたら、同じように術で膜を消せるんじゃないかって、私は思うておるのですけどね。」

ルキアンは、パッと明るい顔をした。

「それなら、我らはすぐに帰ることができるということですか。」

維月は、それには顔をしかめた。

「それは、まだ分からない。でも、解決は近いと思うわ。それより、ずっと気を失っておったの?それとも断片的に覚えておるとかない?あなた、髪の色が金髪になっておるのよ。きっと元の色なんじゃない?」

言われて、ルキアンは自分の髪に触れた。

「…誠に?我は、見えておらぬので。他に何か変わっておりますか。」

維月は、うーんと見た。

「どうかしら。私はあまりあなたを知らぬから…色ぐらいしか、元のあなたを知らないのよ。ここへ来てからも、膜越しに見える顔を垣間見ただけだし…。」

多香子が、言った。

「我は見ておったから分かるが、主の顔立ちがスッキリしておって、より神らしい顔つきぞ。先程までは、どこか人のようなところもあったが、今はそれもない。疲れておるからかと思うておったが、今の体調はどうか?良うなっておるのではないのか。」

ルキアンは、頷いた。

「言われてみたら、何やら身が軽いような。先程までは、前も言うたように何やら己の体が己ではないようで。それがなくなり、力も使い易くなりました。これなら霧も、もっとあっさり追い出せそうです。」

維月は、言った。

「まあ、そうなの?いったいどうしてなのかしら。とりあえず、体調がよいのなら良かったわ。」と、回りを見回した。「相変わらず霧が多いし…ここがどんな所か、判断がつかないわね。後は、ルシウスに任せて待つしかないか。」

ルキアンは、言った。

「その、ルシウスとは誰なのですか?島の神?」

維月は、首を振った。

「いいえ、ルシウスは闇。闇の王よ。」ルキアンは、顔をしかめる。維月は続けた。「ルシウスは、あなたが思っているような闇ではありませぬ。助けられたら、あなたにも分かると思うわ。とても信頼できる命です。」

ルキアンは、それでも険しい顔を崩さない。

多香子が、言った。

「主の心地は分かる。だが、我も学んだ。闇にもいろいろ居るのだ。信じて待つのが良いと思うぞ。」

ルキアンは、黙っている。

維月は、ため息をついた。

「…仕方がないわ。少なからず、神にはまだ闇に対して抵抗があるものも居るのは事実。此度、あなた達が居らぬとなった時にも、真っ先に闇が疑われる事態になったわ。少しずつ分かってもらうしかないと思ってる。」

ルキアンは、顔を上げた。

「…我らが悪いのは分かっておりまする。ですが、あの不干渉地域の洞窟で、我らを襲ったのは間違いなく黒い霧だった。ゆえに我は、未だに友を殺したのは闇ではないかと思っておりまする。なぜか我は生かされている。ですが、4人を殺したのは闇。霧なのかも知れませぬが、意識を失う時に聞いた声はこの世のものとは思えなかった。霧は話しませぬ。絶対に、あれは闇だった。闇が友を殺したのです!」

維月は、息を飲んだ。

やはり、ルシウスの知らないところで闇が生まれていたの…?!

多香子も、じっと黙ってその様子を見ていた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ