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流れて行く先

漸は、岩場の方へと走ってから、そこで浮いた。

《ここ。ここに多くの神の匂いが残っておってな。それこそ5人どころの騒ぎではない。数が分からぬほどの人数の匂いぞ。》

志心が、顔をしかめた。

「ここは例のその昔闇が潜んだとかいう、神の戦があったと伝えられる場所では。」

義心が、頷いて言った。

「はい、今では綺麗に浄化されておりますが、それでも太古の神が大勢亡くなった場所なので、地から異様な残留思念が湧き出ておりますな。この辺りの若者が、秘かに観光気分で来るようなので、それらの匂いが残っておるのでしょう。」

志心は、頷く。

「困った奴らよ。ゆえにこのようなことに。」

漸が続けた。

《そこから、その着物の持ち主の匂いが…恐らく、その残留思念とやらに毒されたのか、嫌な匂いも混じった状態であちらへ流れておる。飛んでおったのか流されて広範囲に散っておるが、膜に入っておらなんだのだろうの、ハッキリ筋になって我には感じるのよ。》

志心も、頷いた。

「我も言われてみたらそのように感じる。あちらだの?」

漸は、頷く。

《そう、こちら。参れ、辿る。》

維心にはあまりわからないので、黙って漸の背を追って、人の作った道へと出た。

漸は、道をずっと走っていたが、ピタと足を止めた。

《…ここ。》漸は、辺りを嗅ぎ回りながら、言った。《ここで地上に降りておって、強い匂いを感じるが…ここから、人のような匂いが混じっておって、その後また匂いが分散しておるから、飛んだのかの。》

義心が、考える顔をした。

「人には飛べませぬゆえ…もし、人と接触したのなら、車というものに乗り込んだ可能性がございます。窓を開けておれば、外に匂いは拡散して出ますでしょう。人と混じったのは、神が人のふりをして、人と接触してそれに助けを求めて共に町へ向かったのでは。」

漸は、言った。

《ああ、あの金属の車輪の付いておる箱か。ならば、そうだろうの。ということは、そやつは人に紛れておるのではないか?知っていて失踪しておるのでは。なぜかは知らぬが、そやつは見つけて欲しくないのではないか。》

どういうことだ。

維心が、考え込む顔をした。

「…ということは、そのベンガルは他のベンガルを殺して失踪したと?初めから、それ目的でイゴールの結界を出て来たと?」

志心が、首を振った。

「ならば、あの死体の状態はおかしい。干からびていたのだぞ?友同士だと聞いておるのに、殺すにしてもあんな殺しかたをするか。殺るにしても、4対1で?そのベンガルは、そんなに手練れであったのか?」

皆は、顔を見合わせる。

可能性は薄そうだ。

だが、義心が言った。

「…王、その見つかっておらぬ男の事でありますが、名はルキアンと言うと聞いておりましたが、新たな情報が。イゴール様の申されるには、ルキアンは王族の皇女が降嫁した先の末で、何かに利用しようというならば格好の的であると。ゆえに他は要らぬという事なのかと、話しておりました。」

維心が、眉を寄せた。

「…いよいよ、ベンガルの術が関わっておるのではないか。早う見つけねば…あれが関わって碌な事がない。」

漸が、言った。

《…まあ、とりあえず隠れておるとてワケを聞かぬとな。これを追おう。町へ行くぞ。》

維心は頷いて漸の後を追って飛んだが、言った。

「それにしても、誰かに拐かされたのならその誰かの匂いも残っておるはずなのに、それがないのならやはり、己で逃げたと考えるのが正着なのかの。だが、気配が気取れぬのは何故ぞ。」

志心は、顔をしかめた。

「そう考えると、そのベンガルが逃げた先で囚われてそこで消えたと考えるのが良いやもな。とにかく、どこで消えたのかを調べておきたいのだ。そこに情報があるやも知れぬだろう。」

維心は、頷く。

それにしても、維月は無事なのだろうか。

あのままじっとしていたら、恐らくしばらくはもつはずなのだが、何しろベンガルが関わっているのなら、その膜は恐らく維月の気を消費させているはずなのだ。

前に籠められた時は、ヴァルラムが一緒だったので、浄化の炎で外から微々たる気を補充し、それを分けられていたから無事だったが、今度は多香子と共に籠められているのだ。

よく考えたら、維月は月なのでそれなりの気を持っているが、多香子はそれより少ないはずだった。

維心は、それに気付いて志心を見た。

…思えば、志心の方が切羽詰まった気持ちでいるはずだ。

だが、当の志心はそこまで感情的になる様子もなく、落ち着いている。

…やはり、まだ娶っておらぬからか。

維心は、そんなことを考えていたが、それでも志心がそれに気付いていないのかも知れず、何も言わずに漸が向かう、人の町へと向けて飛んだのだった。


その頃、維月はひたすら霧の話を聞いていた。

霧がこちらに籠められたのは、ほんの一月ほど前のことらしい。

その間に一所に籠められているので、自然集まって段々に意識が芽生えて来たようだった。

この霧達からは、前に消滅させたあの醜悪な闇とは違った気配がして、それは維月が可愛がる他の闇達と通じるところがあった。

よくよく聞いてみると、その霧が生まれたのは、もっと北でのことだったようだった。

つまりは、この元不干渉地域発祥の霧ではないのだ。

維月は、霧の波動を読んでみた。

するとそれには、ルシウスの気が混じっているのが感じられ、どう考えてもルシウスが、こちらの様子を探ろうと、自分の気を混ぜて放った霧の一部なのだと分かった。

「…この子達は、闇になっても大丈夫そう。」維月は、言った。「むしろ闇になってくれた方が、我らの力になってくれるかも。どうにもルシウス達と同じ気配がするのよね。」

多香子は、害はないとわかっていても、側に縮こまった状態で、答えた。

「誠に?我には…皆、同じに見えるがの。」

まあ、神にはそうよね。

維月は、苦笑した。

「分かるわ、この子達には、人や神を狂わせる力があるから。でも、それは私も同じこと。それをしないのだから、私と同じだと思うてくれて良いのよ。」

そうは言っても霧なのだ。

長年の気持ちが、そう簡単には消えそうにはなかった。

維月は、ため息をついた。

「ならば…この子達に。」と、維月は、手を翳した。「やったことがないけど、私の力で一気に凝縮してみるわ。そうして人型になってくれたら、きっとあなたも構えずに済むはず。」

多香子は、え、と慌てた。

「待たぬか、気を消費して大丈夫なのか。穴が開かなかったら?」

維月は、首を振った。

「今補充したばかりだし、平気よ。促すだけだからそんなに力は要らないと思うわ。」

多香子が止めるのも聞かず、維月は力を放った。

膜の中の霧が、途端に1ヵ所に集まって綺麗に球体になる。

多香子は、集まってくれるのは助かるが、いったいどうなるのだろうと、固唾を飲んでそれを見守ったのだった。


離れた場所から見ていた、ルキアンが言った。

「維月様!そんなことをしては、闇が…!」

維月は、そちらを見た。

「大丈夫。私にとって、霧は性質が良いなら可愛い存在なのよ。もちろん、粗野で粗暴で性質の悪い霧など要りませぬけど、これらはそんなことはないわ。」

それでも、ルキアンは言った。

「いくらなんでも、闇を作り出すおつもりですか?!なりませぬ、面倒なことに…!」

するとその時、ルキアンと維月達の膜の間の霧が濃さを増したのが見えた。

つまりは、膜と膜の間に霧が割り込んだようだった。

「…!!」維月は、驚いてそちらを見た。「どういうこと?!ルキアン?!」

ルキアンの姿が霧に隠れて見えなくなる。

維月と多香子の膜の天井が開いて、また気と霧が流れ込んで来たが、その時にはもう、維月の手の下には人の小学生くらいの大きさの、男の子が立っていたのだった。

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