1 章 - 02
1 - 2. 鋼暦 3314 年 2 月 26 日 - ヴァンガード国ケイブ州
いくつもの恒星系を航行したと言われる古代文明は廃れてしまったが、その末裔は古代の技術を掘り起こし、いつか同じ高さに到達することを夢見て文明を発展させてきた。
今の世に流通する大半の技術が、自ら作り上げたものではなく、過去のテクノロジーを流用したものだというのだから、文明の衰退具合が知れようというもの。
もっとも、オーバーテクノロジーを完全に再現することなど不可能で、ダウングレードされたテクノロジーが生活に浸透し、人々の役に立っている。
過去の文明の痕跡が残る場所を遺跡と言う。その中でも 1 万年以上前のものを古代遺跡、 100 万年以上前の遺跡は超古代遺跡と呼ばれている。
遺跡と言えどもピンキリで、侵食によって破壊された遺跡もあれば、当時の生活跡を示す考古学的価値しかない遺跡もある。そういった遺跡は外れの部類に属し、一部の学者の好奇心を満たすに留まる。
未発見の遺跡が発見されると人々はこぞって調査に乗り出す。必ずしも有用な成果が得られるわけではなかったが、最悪でもデータは保存され、今後の遺跡調査に役立つだろう。
遺跡が当たりだった場合、当事国は倒れた草食獣を見つけたハイエナのごとく狂喜乱舞する。このような幸運は非常に稀な出来事ではあるが、さらに幸運な事象も起こり得る。
発見した草食獣が、ハイエナの手に余るほど巨大だった場合だ。そういう時は、お抱えの調査団だけでは手が足りず、外部に調査依頼を発注することになる。
トレジャーハンターなる人々がいる。彼らは古代遺跡を探索し、ガーディアンの目をかいくぐって遺物を持ち帰ることを生業としている。
より正確な表現を記すならば、トレジャーハンターとはトレジャーハンター協会が発行する B 級ライセンスを取得し、 A 級以上のトレジャーハンター指導の下で遺跡を 30 時間以上探索した人間のことを言う。その工程を踏んでいないものは、たとえ同じような仕事に就いていてもトレジャーハンターとは認められない。
トレジャーハンターの資格は非常に厳しいことで知られている。第一の、そして唯一の関門は、 B 級ライセンスの取得だった。その厳しさは常人に耐え得るものではなく、軍人や狩りを専門とする人間ですら総合戦闘科目、サバイバル科目の受講には二の足を踏む。一説によれば、志願者の 99 % は最終的に自ら断念すると言われている。
トレジャーハンターは専門知識とサバイバル技術をハイレベルに体得した専門職だった。その称号は一種のステータスでもあり、羨望の的でもあった。
トレジャーハンター協会に所属するのは多数のトレジャーハンター見習いと、一部のトレジャーハンターで構成される。生涯を見習いで終える会員も珍しくない。
そしてトレジャーハンターの中にもランクがある。古代遺跡に潜るためにはトレジャーハンターの格が重要になる。具体的には、その遺跡に格付けされた危険度以上のライセンスを所持している必要がある。
危険度とは、遺跡を守護する敵性体――主にガーディアンの強さである。例えば危険度 A の遺跡には最高で危険度 A のガーディアンが出現する。この遺跡には、 A 級ライセンスを所持するトレジャーハンターしか入ることができない。
このルールは、有用な人材を守り、遺跡を汚染しないために作られた。遺跡に潜る人間が相応の実力を持っていなければ、遺跡の中は死体だらけになる。遺跡側の浄化システムが回収に追いつかなければ、遺跡は危険な病原菌が蔓延する魔窟と化す。ただでさえ危険な遺跡のリスクが増すことになってしまう。
人類側の掃除屋も病原体となりうるもの――ゴミを回収するが、根本的な解決方法は汚れる原因を出さないことにあるだろう。
死者を汚れと扱うなど冒涜ではあるが、遺跡は国家の重要な資金源であるため、そこで生計を立てる人間も覚悟は持っていた。
遺跡が危険度で格付けされる一方、調査のしづらさを表す難易度も指標とされていた。難易度は、防衛システムや罠の攻撃性、古代遺跡の広さや施錠された扉の多さなどを総合的に判断した指標である。
このように、遺跡は危険度と難易度で格付けされるのだった。
ヴァンガード国は、新しく発見した遺跡調査のために 2 チームの武装調査団を送り込んでいた。
バックアップとして 1 チームは入り口前にキャンプを張って先行チームの帰還を待っている。
長期化する可能性のある古代遺跡調査において、バックアップを用意するのは常套手段である。注意力が散漫になって怪我人が出て、進退が窮まってしまった場合でも、救助隊が控えているのといないのでは安心感が違う。
バックアップチームは先行した調査団の帰還に合わせ、入れ替えて投入される予定だった。これを交互に繰り返すことにより、調査団の士気と体力の低下を防ぎ、短期間で効率的に調査する。
調査開始 1 日目。調査団の連絡は途絶えていた。古代遺跡では階層が違えば通信ができなくなることは良くあったので、この事実はさほど深刻に受け止められなかった。
翌 2 日目の朝。事態は急変した。
調査団は壊滅していた。生き残ったのは命からがら帰ってきた一人だけだった。生き残りが持ち帰った情報により、遺跡は単なる古代遺跡ではなく、超古代遺跡と判明した。
調査団にはそれぞれ A 級ライセンスを持つトレジャーハンターがいたのだが、彼らが帰ってこられなかったということは、特 A 級以上の遺跡であることを意味した。
ひょっとしたら危険度が S 級に匹敵するほどの遺跡に潜ることのできれるトレジャーハンターは限られている。ヴァンガード国は、国立古代遺跡研究所と協力関係にあったイスマルを招き、超古代遺跡の格付け調査を依頼した。




