episode 2
「この度はソルジャーの選抜、おめでとうございます。つきましては、大島様のソルジャーとしての今後についてですが……」
黒いスーツの男が何か話していさるが、一体何の話かなんて、理解できない。頭が上手く回らないとはこういうことを言うのか、なんて他のことに頭が回ってしまう。俺が? ソルジャー……なのか? そうなんだよな……信じられない。というか、信じたくない。冗談だって、嘘だって、誰も言うような空気じゃない。
「大島様? 聞こえてますでしょうか」
「あの……本当に俺が……ソルジャー……なんですよね……?」
「はい」
「あの俺、なんの特殊能力もありませんよ!?ソルジャーは能力者のはずじゃ……」
「大丈夫です。貴方は選ばれたのですから」
ああ、もうどう考えても無駄だ。もう俺は、ソルジャーになるしかないのだと、スーツ男の顔が俺にそう思わせた。
「大島様、住居の件ですが、今年の4月には正式に就任式が行われる為、3月末には引越しをしていただきます。部屋はこちらでご用意しますので、必要最低限の物だけで結構です」
「はい」
やっとスーツ男の話が耳に入ってきた。ほとんどニュースで知っている内容ではあるが、こうして聞くとソルジャーになることを思い知らされているように感じる。これからは随分前から建設されてきた専用の建物に住み、新しい生活を送っていく。そこから出られるのは、戦争が終わる時だ。もう誰にも会えなくなる。
「では、また来月迎えに参ります。ご準備よろしくお願いします」
「はい」
「……待って! 」
立ち去ろうとするスーツ男の動きが止まった。いや、止められたんだ。妹が強く、男の袖を掴んでいた。
「……待って……私は? 私はどうなるの? お兄ちゃん……お兄ちゃんいなくて私……どうしたら……」
「おい真紀、やめろ。……すみません」
「やだ……お兄ちゃんいなくなるなんて……絶対いや……やだよ……お願い……取り消して……ソルジャー取り消して下さい……! お願いします!お願いしま」
「真紀!! いい加減にしろ!手を離せ!」
「いや! お願いします!お願い」
「真紀!!」
スーツ男にしがみつく真紀の両手を無理矢理引き剥がす。真紀は今まで男の方を向いていた為見えなかったが、こちらを向かせて気づいた。目に涙をいっぱいためて、こんなにも手を震わせて……掴んだ腕から、真紀の不安が伝わってくる。
「……母さんがいるだろ」
「お母さん昨日も男の人と帰ってきたんだよ? ……私にはお兄ちゃんしかいないの……」
我慢していた涙が、真紀の頬を濡らしていく。……父さんが死んで、母さんは変わった。毎日毎日酒を飲んで、男に頼るようになった。俺らは頼れる人を、失ってしまった……
「お願い……お兄ちゃんを連れてかないで……」
お願い、お願い、と何度も呟く真紀。顔を手で覆って、泣きじゃくる小さな声が部屋に響く。
「……ポール、という役職があるのはご存じですか?」
「……ポール? 真紀知ってるか?」
「知らない……」
「まだ正式には発表されていないのですが……ポールとは主にソルジャーの生活を手助けする役職です。まあいわゆる執事やメイド、といったところですかね。そのポールはこちらで決められた者がなるのではなく、意欲的な者を募集し、その中から選抜されるのです。そろそろ募集の情報がメディアで流れる頃かと思います。そちらに募集されてみてはいかがでしょう」
ポール……世話係ってことか。兵士じゃないとしても、危険な場所にいることになるだろう。戦争に巻き込まれる可能性だって高くなるはずだ。
「……私……応募する」
「真紀! お前ちゃんと分かってんのか!? 自分から戦争に近づくことになるんだぞ!?」
「お兄ちゃんは黙ってて!」
「おい!」
「ポールになれば、そうとうな賃金が支払われます。それを狙った応募者が殺到し、競争率は計り知れないほどになると予測されますが……それでも、応募されますか?」
「はい」
「自分が選ばれる自信があると?」
「いえ。自信なんてありません。でもやります。私、このままは嫌なんです。なら、突き進むしかないから」
何かに真剣になる妹を初めて見た。まだ涙で潤む瞳に力を入れて、前だけを見据えている。
「ご健闘、お祈り申し上げております」
それだけを残して、男たちは去って行った。




