第40回
「…、それも私がお話した狐の一件と同じで、体験者以外には信じられない事柄なんじゃないでしょうか」
「そうですね。悟君がそう聞いたのなら、敢えて否定をするのも変だしなぁ。これはいつか君らに話したと思うけど、人間は全て科学で考え、非科学的なことは否定してしまう。科学だって人間が考えた学問だし、全宇宙から見りゃ、科学自体が正しいのかどうかは分からない。ということは、我々の空間で起こる非科学的なことも当然あり得る。例えばほら、今揚がった花火の空の果てを突き進んで行ったとして、その先にいったい限りがあるのか…って、思えるか。誰にも分かりゃしない。俺達の感覚には、進めば必ずナニかに突き当たるっていう潜在意識がある。これは俺達が三次元物質だからで、物体意識を持っているということ。三次元以上の世界、霊の世界がもしあるとして、あっ! 訂正。[時]はあるとしてたんだった。で、その世界からは宇宙の果て、いや宇宙そのものの概念が理解できるかも知れない。空間意識で恐らく捉えるんだろうな…そういう世界って」
私はいつの間にか自論を展開していた。二人は夜空に適当な間隔で揚がる花火を見ながら、終始無言で聞いている。いや、…のだろう。私にはそう思えた。
「花火なんかはさぁ悟君、まだ分かりいい方だよ。そら、今見える夜空の星なんか、何万光年、何億光年っていう天文学的な時空の尺度に存在する。だから、この瞬間に俺達が見ているあの星達は、遠い過去の光なんだ。今はもうなくなってるかも知れない。そう考えれば、人間が考える時間の概念なんて、かなりいい加減なもんさ」と言い終えて、私はふたたび黙り込んだ。
時折り静寂の中に劈く花火の轟音、照明と言えば、これも時折り輝き散る大空の花火模様のみである。あとは漆黒となる闇に三人がただ存在している。しかし、時間は刻一刻と確実に進んでいる。ただ、限りある時間の狭間ではなく、束縛のない自由な時を得ているだけなのだ。そういえば、ここのところ霊研究へ活動方針を変えたことで、心理学などの聴講は頓挫している。逆に[時]の活動は、時間的に聊かゆとりを生じていた。ひと月も前なら、このような時間に河川敷きでノンビリ花火見物など考えられなかった。それで余計に時間という概念を意識していたのかも知れない。
「塩山さん、大学の聴講、今後ですが、どうします?」
徐に訊くでもなく投げ掛けたが、「別にどちらでもいいですよ。所長にお任せします」と塩山は鰾膠もない。
「じゃあ、暫く休むとしますか。別に単位が目的じゃありませんしねぇ…」と返して、“霊研究”続行の方針を暗に示した。
時間研究が、いつしか霊研究へと方向を変えている。まあ考えてみれば、時というものの実態を探ろうと始めた研究ではなかった。時の流れの中で人が咄嗟に判断の選択を迫られる。そうなのだ。私達が最初に意図したのは、そこら辺りの微妙な人間行動なのだ。それに介在する要因の一つとして不可解な霊の存在もあるだろう、と考えたのだ。それが今では本末転倒で、霊研究へと、のめり込んでいる。それも一時は心理学によって行動の本質を究めようと聴講に通っていたのだった。
私達が研究する進路は、[時]として果たしてこれでいいのか? 私は既にこのとき、[時]そのものが、何か得体が知れぬモノに操られているような気がしていた。私一人が研究していた頃はよかったが、今や三人の[時](時間研究所)という厳然とした組織が存在する。私はその所長の立場にある。無碍に投げ出すなどという責任逃れは、もう出来ない。
「この前も報道していた妙な事件ががありましたやろ? ほうら何とか言ってましたでぇ…。あっ、そうや、家族惨殺事件ですわ。犯人はその後に自殺したというやつね。これは通り魔殺人とちっとも変わらへん。あない簡単に最愛の家族を殺せまんのかいなあ? 僕には、よう分かりまへんわ」
悟君が久しぶりに新ネタ? を披露した。彼が言わんとすることは余りに単純だが、理には適っている。
続




