第37回
「ああ…少し端折りました。要するに昨日の晩に遭遇した妙な出来事の次の日が消えたんです。待てよ…、これでも分からないか。掻い摘んで言いますと、いつもの繰り返しで朝食を済ませ登校しました。そして気づいたんです。黒板に書かれた《×月○日△曜日》で…。そうなんですよ。日付が一日飛んで、明日になってるんです。でも、最初は当番が書き間違えたんだろうって考えてました。ところが、そうじゃなかったんです。昼休みに雑談をしていて気づいたんです。そんな馬鹿な話があるかって想いもしました。それじゃ消えた一日、私は何をしていたんだろうってね。で、友達に訊くと、『お前、昨日は来なんだで…』って言うんです。当然、私には心当たりがありません。その午後の授業は、もう耳に入らず、入っても右から左でした」
「昨日は、どないなりましたんや?」
悟君が怪訝な面持ちで訊ねたが、私にしても同じだった。全く訳が分からない。
「いや、どうもね…、狐に、つままれたようなんですよ、完璧にね。両親の話では、深夜に帰った私はそのまま眠りについて、一昼夜、眠ったままだったということでした。私には全く覚えがありません。眠っていたんですから、当然と言や当然なんですが…」
「そんなことが実際にありまんのかいな」と悟君が笑う。
「塩山さんがそう言ってるんだから、事実、あるんだろう」と、敢えて私は肯定した。
「ですから、私はそういった不思議な体験の持ち主ですから、霊力に関しては否定しません。ただ、つままれたってことと悪霊の仕業とが一致するのか迄は判りませんが…」
「ところで塩山さん、何故、狐に、つままれたって言えるんです?」と、私は尚も問い続けた。
「あっ、そうでした。話には、まだ後日談があるんですよ。それを話すと長くなりますので、要点だけをお話しますと、その後、妙なことに苦手だった科目の成績が上がったり、クラスで人気者になったり、クラブ活動で全国優勝したりと、トントン拍子にいいことが続いたんです。そして私がふと思い当たったことは、いつも通学する畦道の近くに古い稲荷社があったということでした。その社は古びて参詣する者もなく、荒れ放題の祠がポッツリと存在するだけでした。与右衛門さんに化けたモノ。で、近くの古い祠。これを繋ぐと、狐に化かされたと、まあこういう結論になるんです」
「でも、よかったじゃないですか。悪い祟りじゃなく、いい報いがあったんですから」
「それで話の最後なんですが、全てを両親に打ち明けますと、父が偉く信心深くなりましてねぇ、灯篭を一対寄進し、社や祠も修築したんです。その結果かどうかは分かりませんが、お蔭で大学にも合格し、今ご覧のとおり、大企業にも就職できてますし、程ほどのポストにも就かせて戴いております」
「いいことづくし、じゃありませんか」
「そうやわ。与右衛門さん様々でんがな」
「まあまあ…そう言って貰うと嬉しい限りなんですがね。私の妙な体験談っていうのは、そんなところです」
「僕にはまだ信じられへんのやけど、ほんまにそないなことがありまんにゃろか? 別に塩山はんを疑る訳やないんでっけど…」
「悟君、そう疑心暗鬼にならずに、ここはひとつ塩山さんを信じよう」
「そうです。信じて貰うしかないんですよ。常識や科学では説明がつかないことなんですから…」
半信半疑の悟君だったが、そう言われて少しは納得したようだった。
「私の体験談と[時]の研究が、果して関連するのかどうか…それは分かりませんが、少なくとも私個人としては霊的なナニモノかが、人間の行動に影響を及ぼしているように思います。特に、ごく短い時間、所謂、咄嗟と言われる瞬間の判断には、そういう見えない力が介在していると考えます」
続




