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第34回

「いやぁ、人間が霊力の影響を受けない方法を考えていたんですよ」

「そうでしたか…。で?」塩山が畳み掛ける。

「動く場合は、できる限り自力で。そう、今の俺達みたいに自分で動く。即ち、歩くってことです。機械を使う場合でも、まあ普通の場合、陸上では自転車が限界ってとこですかね」

「正夫はん、なんで自分で動くと霊力の影響を受けないんでっか?」

「グルニエで話した霊力に関してだが、人間が自動車で移動するとき、これってのは、俺が思うには既に四次元なんだよ。俺はこの四次元を霊力の存在する霊界と捉えているんだな。いや、四次元以上と言った方がいいだろう。一次元、二次元、即ち、点→(から)線と、線→(から)面の世界は三次元の我々には確実に見えて認識できるから、そうではないと思うんだ。で、自分で動くってのは、三次元を維持して移動することだから、悪事を(たくら)む霊力は影響を与えられないことになるんだよ」

「はぁ~、そうゆうこってすか」

 悟君は納得したが、理解したかどうか迄は分からない。

「“坐禅”ってのがあるだろ? あれは時間を捨てているんだよ。別にそれに限っちゃいないが、停止した状態を維持するってことは、動態を捨ててるんだよ。例えれば、植物と同化するとか大自然と一体になるってことと同じだ。三次元にある俺達が、二次元へ、そして一次元へと回帰しようとする行為さ。時間が経過しようと同じところに動かず止まる行為は、動態を捨て、点になろうとする行為なんだ。点が動くと線になるだろ? 線が動くと面になる。さらに、面が動けば俺達のような三次元物体になる。だから、さっき言ったように、自動車を運転して四次元以上へ流れるか、坐禅をして二次元以下へ回帰するかは人それぞれだし、どちらが善でどちらが悪とも結論づけられないんだが…。ただ、低次元へ回帰した方が、殺伐としないことだけは確かだ」

「…………」塩山は立って聞いてはいるが、沈黙状態だ。悟君の方は、クドクド話す私の長話に疲れたのか、歩道に敷設されたベンチへ腰を下ろしてしまった。

「次元を増す方向への回帰は、霊力の影響を受けやすいだろう」

「ということはですね、ハプニングが起こったとき、慌てず騒がず、例えば深呼吸のひとつもして停止状態で冷静に考え、それから判断した方が霊力の影響を受けず、好結果が得られるってことになりますね。慌ててすぐ行動を起こし、所謂(いわゆる)咄嗟(とっさ)の判断で動いて、結果として間違ってしまったり、悪い結果を招くことになる。それは、霊力の影響を受けやすいということですね?」

「塩山さんが言うとおりだと俺は思います。飽くまでも推論に過ぎませんがね…」

「ほんで、これから僕らはどうしていくんでっか?」

「それだよ悟君。その判断にはゴフンと言わず、充分過ぎる時間があるじゃないか。これこそ、慌てず騒がず考えようや」

「はあ、僕はそれでええんでっけど…。通り魔事件の一件は?」

「そうそう、すっかり忘れるとこだったよ。悟君がグルニエで言ってくれたことは、観察帳に書いておいてくれ、それも詳しくな。忘れてからでは遅いからさ…。この一件については、ともかく資料を充分集めてからの研究にしよう」

「へい、よろしいおまっ」

「少しずつですが、面白くなってきましたね」

 珍しく塩山が仏頂面(ぶっちょうづら)を崩して微笑んだ。

                                                  続

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