第33回
それは恰も霊が飛び交うようなものであろう。一次元、二次元を思考する人間よりも、四次元、五次元空間を思考する人間が増えつつある。それも、当然そうであるべきような世の風潮なのだ。一次元、二次元を思考するとは、点と線の次元に回帰しようとする発想なのだが、換言すれば、迅速な時の動きを否定して、ゆったりとしたときの流れに回帰しようという考えでもある。ゴフンという時間をフンで捉えるか、或いはビョウで考えるかの違いなのだ。フンで思考すれば僅かに5だし、ビョウで思考すれば300と膨大な数値となる。フンで移動する人間は、ビョウなど余り眼中になく短かく映る。逆に、ビョウで移動する者達には、フンという単位は、かなり長い時間に映る訳だ。今こうして、悟君、塩山、そして私の三人が人気のない町を白衣姿で闊歩している。私達はビョウで移動しているのだから長閑なもんだ。道路には不特定多数の車が行き交っている。それらの四次元移動物体は慌ただしい。当然、事故も多い、というのがポイントのひとつのように私には思えていた。
世の中の動きがスピードアップしたことで、仕方なく人間は迅速な行動を強いられているが、生理学的にこの抑圧を嫌う者は、トレッキング、ゴルフ、スケート、水泳、登山、サッカー、スキー、釣りetc.様々なものに逃避する。一次元、二次元世界は私達の子供時代に比べると非常に衰退し、今や、山岳地帯、海洋諸島、砂漠地帯、熱帯未開発地帯などの人口過疎地域に極小化しつつある。それも、未文明地域に限られる。文明は機械を招致するから×(バツ)なのだ。
「正夫はん、何か考えたはるんでっか?」
急に横の悟君が、私に声をかけた。
「うん? いやぁ…」と曖昧に暈したが、心に湧く雑念を拭えそうにない。グルニエを出て、もうジュウゴフンは歩いているだろう。しかも三人が向かう目的も、これといってない。霊媒体が人間の咄嗟の行動に影響を与える? 新問題は私達研究所にとって重大な活動の障害であり、[時]の危機でもあった。私達はそれぞれに想いを描いて、ただ歩く。人間が霊力を相手とするとき、勝てない迄もその影響を最小限に抑制するには、自らの身体で動くしかないように思える。自らが動くとは、足を使って自分の全ての体重を移動させることなのだが、それも機械の力を借りずに…となると、歩くか、或いは百歩譲っても自転車でペダルを漕ぐくらいだろう…などとも思えてくる。そういや、歩行や自転車は燃料を必要としないから、お足(貨幣)はいらない訳だ。(正確には、カロリーを消費しているから、見えない程の微少な、お足は必要とするのだが)
「動かず、影響を出来るだけ小さくするってのは、どうなんでしょうね?」つい私は、小声を発してしまった。
「えっ?」二人は両脇から私の顔を窺う。それもその筈で、私が思う心の内は分かる訳がないからだが…。それでも三人は、動きを止めずに横一列で同調して歩き続けていた。
「村越さん、今のは、どういう意味ですか?」
怪訝な面持ちで訊ねた塩山が、ついに足を止めた。一瞬、横一列は崩れる。仕方なく私も停止した。当然、悟君も止まった。
続




