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第32回

  こう結論づけると、教授にコンタクトをとったり、或いは図書館で心理学の専門書を紐解(ひもと)いた努力も帳消しとなる。そこで塩山と相談した結果、心理学の基礎部分だけは今後も続けようという結論に至った。事件に介在する力が霊力だとしても、それに左右されるのはその人間の心理であり、早い話、それは精神力の強い弱いによるものだ、と考えられるからである。度胸がある、鷹揚である、朗らか、沈着冷静、太っ腹などの心理構造を持つ者、或いは精神鍛錬をした僧、神主、牧師などの(たぐい)は、この霊力の介在を許さない免疫力が備わっていると解される。これは私独自の見解だが、塩山や悟君もそう思うかは別問題だとしても、(あなが)ち間違っているとも考えられない。それはともかく、青年心理学など幾つかの分野は継続しようということなのだ。私自身が提起した方針を、自らの迷いで軌道修正するという事態に、私は少なからず自己嫌悪に(おちい)っていた。

 翌週の土曜が瞬く間に巡った。

「悟君、悪いが君の持ち分さ、変更して貰えないだろうか…」

「どういうこってす?」

「実はこの前、君がいないときに塩山さんと話したんだが、研究のポイントを霊力に絞り込んでやってみては、という話になったんだ」

  詳細を語ると、彼は至極スンナリと得心した。

  今日のグルニエは、閑散としている。

「正夫はんや塩山はんが考えたはった、ずっと前から、本当を言うと僕はそう思とったんですわ。なんせ最近の世の中、どう考えても訳の分からん事件が増えとります。ほんで、なんか得体の知れんモンがあるんちゃうかと…。まあそれが、霊というモンでっしゃろな。取り分け、そうゆうもんを地縛(ぢばく)霊、浮遊霊、悪霊とか霊能者は呼んどりますわな。確かに眼に見えん魔力に影響されたとしか思えん事件もありまっさかい」と、例の如く天真爛漫(らんまん)に悟君は(まく)し立てた。

「私も以前の話ですが、知人に聞いた記憶があります。なんでも、そのモノには霊体とか幽体とかがあるそうです。霊体は悟って浄化している高級霊で、幽体は霊体の域に到達していない低級霊だとかでした。で、その低級霊である幽体の中には、さ迷う悪霊(あくりょう)もいるとか…」

「へぇ~、塩山はんの話は初耳でんな。そうだっか…。ちょっと怖い話やけど、ひとつ賢うなりましたわ」

「いや、俺も始めて聞く話です」と私も付け加えた。

  微細を塩山に訊くと、全てがこの世とかけ離れた世界、早い話、私達が住む世界とは異なる世界の話なのだ。ということは、いくら観察や研究をしたって[時]としては確証を掴めない訳だ。研究所はふたたび暗礁に乗り上げたのか…。三人は白衣に両手を突っ込み、沈黙してしまった。そして話はそのまま途切れ、中途半端な気分で店を後にした。

  グルニエを出ると、私達三人以外は動く者が誰もいないことに気づいた。それは偶然にも通行人が途絶えていた、ということに尽きるが、考えてみれば、私達の普通の生活空間に人自身の動きが極度に減少しているという事実を思い知らされる。確かに人は移動して秒単位で目的を果たそうとしているが、その大凡(おおよそ)には機械が介在している。自動車、バス、電車、飛行機、船etc.だ。このことは以前、研究したことなのだが、三次元物体である私達が時間移動する。それは所謂(いわゆる)、四次元の扉を開いていることに他ならないのではないか?

                                                  続

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