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女神の勘違いで女の子に転生した俺、ギルドで測定不能と言われたけど普通に無双してました  作者: 夜華カナタ
第五章 鎖の少女、選ぶ

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第九十九話 紋様の根

リンが連れ去られた夜、そのまま続けての話です。

 夜半、宿を密かに抜け出した一行は、二手に分かれた。


 ノアは、少女を背に庇いながら、路地の暗がりを選んで進んだ。隣を、ガロンが音もなく歩く。大柄な体に似合わない、抑えた足運びだった。


「――止まれ」


 ガロンの手が、ノアの肩を掴んだ。曲がり角の先、松明を持った守備隊の二人組が、ゆっくりと近づいてくる。


 ノアは、少女を抱き寄せ、息を殺した。心臓の音が、やけに大きく聞こえる。


 足音が、すぐ手前で止まった。


「――誰かいたか」


「猫だろ。この辺、多いからな」


 足音が、遠ざかっていく。


 ノアは、詰めていた息を、ゆっくりと吐いた。少女の手が、いつの間にか、ノアの服の裾を強く握りしめていた。


「……大丈夫。もう少しだから」


 ノアは、少女の頭を、そっと撫でた。


 町を出て、街道を外れた森の小道を進むこと半刻。灯りの漏れる小さな家が、木々の間に見えてきた。アルトが以前から目星をつけていた、王都直属の隠れ里だった。


 戸口に立つ女性は、ガロンの顔を見るなり、事情を察したように頷いた。


「――アルトさんの紹介ね。子供は、預かるわ」


 少女は、ノアの服を、まだ強く握ったままだった。


「――ここにいれば、もう、割り振られなくていいの」


 ノアが、目線を合わせて言うと、少女は、初めて自分の意思で頷いたように見えた。


「……うん」


「約束はできない。でも、いつか必ず、様子を見に来る」


 ノアは、少女の手を、そっと戸口の女性の手に重ねた。指が離れる瞬間、少女は少しだけ泣きそうな顔をしたが、それでも、手を放した。


 戸が閉まる音を背に、ノアとガロンは、来た道を引き返し始めた。


「――良い顔だったな、今の」


 ガロンが、ぽつりと言った。


「はい。あの子が、自分で決めた顔でした」


 ノアは、そう答えて、木彫りの鳥をもう一度握りしめた。


 ◇


 一方、町の裏門へ向かうセレスたちも、影から影へと移動を続けていた。


 門の手前で、アルトが片手を上げ、全員を止めた。


「――哨戒が、こっちに向かってる」


 物陰から、松明の光が近づいてくる。足音は二人分、間隔は一定。訓練された歩調だった。イリスが、腰の剣にそっと手をかけた。


「戦うか」


「駄目だ」


 セレスが、短く止めた。


「今、騒ぎを起こせば、町中の目がここに集まる。ノアたちの足取りまで、危うくなる」


 光が、目の前の路地を横切っていく。全員が、崩れた壁の陰で、身を寄せ合うようにして息を潜めた。


 光が過ぎ去るまでの数十秒が、やけに長く感じられた。


「……行ったわ」


 レイフィアの声に、ようやく肩の力が抜ける。


「今のは、危なかったな」


 ミュゼが、胸に手を当てながら呟いた。


「これが、毎晩ってことですよね。あの子たちは」


 誰も、それには答えなかった。答える代わりに、足を速めて、裏門の外へと抜け出した。


 ◇


 町を出て半刻ほど進んだところで、一行は森の入り口に落ち着いた。


 ノアとガロンは、朝までに合流する手筈になっている。


 残ったセレスたちは、小さな焚き火を囲んで、束の間の休息を取った。


「――今夜は、交代で見張りだ。俺が最初にやる」


 アルトの言葉に、皆が頷いた。ミュゼとイリス、レイフィアが、それぞれ毛布にくるまり、目を閉じる。


 セレスだけは、しばらく眠れずにいた。


 手首の紋様に、指先で触れる。ここ最近、疼くたびに、なぜか同じ拍で、リンの手首の黒い線が動いていたことを思い出す。


(――同じ、拍だった)


 根が同じだと、誰かに聞かされたわけではない。ただ、感覚として、ずっとそう思っていた。自分の紋様と、リンの紋様は、どこか奥深くで繋がっている。


 届かない距離にいても、その根だけは、切れていない気がした。


 セレスは、焚き火の向こうに座るアルトへ、静かに口を開いた。


「――なあ。俺とリンの紋様が、繋がってるって話、知ってるか」


 アルトは、少し考えてから、首を振った。


「詳しくは知らない。だが、お前らの紋様が似た反応をする場面は、何度か見てきた」


「もし、本当に根が同じなら」


 セレスは、拳を握った。


「辿れないか。俺の方から、リンの居場所を」


 アルトは、火を見つめたまま、しばらく黙っていた。


「――試す価値はある。だが、今夜じゃない。お前は今、限界まで削れてる」


「分かってる」


 セレスは、拳を開いた。


「でも、何か手がかりが欲しい。ただ待つのは、性に合わない」


「その気持ちは、分かる」


 アルトは、小さく笑った。


「だが、根を辿るなら、万全な状態でやれ。半端な状態で潜って、お前まで戻れなくなったら、リンを助ける人間が一人減るだけだ」


 その言葉に、セレスは黙って頷いた。


 焚き火が、小さく爆ぜる。


 遠くの森の奥で、何かが動く気配がした。セレスは、反射的に立ち上がりかけたが――それは、ただの夜風が、木々を揺らした音だった。


 安堵しかけた、その時。


 手首の紋様が、これまでにない強さで、一度だけ、脈を打った。


「――今の」


 アルトが、その様子に気づいて顔を上げる。


 セレスは、自分の手首を見つめたまま、動けなかった。


 脈打った場所から、じんわりと熱が広がっていく。痛みではない。むしろ、誰かの体温に、じかに触れたような感覚だった。


 届いたのか、届いていないのか。それすら、まだ分からなかった。


 それでも、確かなことが一つだけあった。


(――繋がってる。まだ、切れてない)


 セレスは、夜空を仰いだ。同じ空の下、どこかに、リンがいる。


 第九十九話「紋様の根」をお読みいただき、ありがとうございます。次はセレスとリンを繋ぐ紋様の謎に、もう少し踏み込んでいく予定です。よろしければ、ブックマーク・評価で応援していただけると嬉しいです。

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