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女神の勘違いで女の子に転生した俺、ギルドで測定不能と言われたけど普通に無双してました  作者: 夜華カナタ
第五章 鎖の少女、選ぶ

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第百話 焚き火の縁

節目の百話です。今回は少し肩の力を抜いた回になります。

 夜が明ける少し前、木々の間から、二つの人影が近づいてきた。


「――待たせたな」


 ガロンの声に、見張りをしていたイリスが、緊張を解いた。


「ノア、無事に届けられたのね」


「はい。あの子は、ちゃんと預けてきました」


 ノアは、そう言って、焚き火のそばに腰を下ろした。強張っていた肩から、少しずつ力が抜けていくのが分かった。


「――疲れた顔してるわ」


 レイフィアが、毛布を差し出しながら言った。


「大丈夫です。ただ、少し安心して」


 ノアは、毛布を受け取り、肩にかけた。木彫りの鳥を、もう一度、そっと確かめるように握る。あの子の手の温もりが、まだ指先に残っている気がした。


「――お疲れ様。座って」


 ミュゼが、鍋を火にかけながら言った。ちょうど、朝食の支度が始まったところだった。干し肉と根菜を煮込んだだけの、簡単な鍋だったが、湯気の匂いに、誰もが少しだけ顔をほころばせた。


「これは、生き返るな」


 ガロンが、椀を受け取りながら呟いた。


「あんたが作ったものより美味い、なんて言わないでよね」


「そこまでは言ってねえよ」


 軽口が飛び交う中、レイフィアも小さく笑った。数日ぶりに、緊張のほどけた食卓だった。


 輪になって座ると、いつもより一つ、地面の隙間が目立った。誰も、そこに触れなかったが、誰の目にも、その空白は映っていた。


 ノアが、椀を膝に置いたまま、少しだけ視線を落とした。


「――リン、ちゃんと食べてるかな」


 ぽつりと零れた一言に、場の空気が、束の間だけ静かになった。


「食ってるか、食ってないかは分からねえ。だが」


 ガロンが、鍋を軽く叩いた。


「戻ってきたら、腹いっぱい食わせてやる。それだけは決めてる」


「――いいわね、それ」


 レイフィアが、ふっと表情を緩めた。


 セレスは、何も言わずに、椀の中身を見つめていた。言葉にはしなかったが、同じことを思っていた。


 ミュゼが、椀のおかわりを、もう二杯目に手を伸ばしている。


「――ミュゼ、味見はもう終わっただろう」


「これは味見じゃなくて、朝食です」


 悪びれもせず、ミュゼは匙を動かし続けた。


 しばらく他愛のない話が続いたあと、アルトが、地図を広げた。


「これからの動きだが、王都の伝手を頼る。ただし、真っ直ぐには向かわない。街道沿いは、あの紋章の目が届いてるかもしれない」


「遠回りする、ってことね」


「二日分、余計にかかる。だが、確実な方を選ぶ」


 誰も、異論は挟まなかった。


 セレスは、椀を置きながら、ふと思いついたことを口にした。


「――なあ、アルト」


「何だ」


「昔から、そういう伝手に詳しいよな。お前、王都で何やってたんだ」


 アルトは、少し目を細めてから、小さく笑った。


「昔の話だ」


「――随分、はぐらかすんだな」


「聞かれて答えるようなことでもない」


 アルトは、それ以上は語らず、地図を丸めた。過去の話は、いつもこの程度で切り上げる。セレスも、それ以上は踏み込まなかった。話したくなった時に、話してくれればいい。今は、それで十分だった。


「――仲、良いですよね、お二人とも」


 ミュゼが、椀を洗いながら、にやにやと口を挟んだ。


「そう見えるか」


「見えます」


「否定はしない」


 アルトは、肩をすくめただけだった。


 朝食を終え、一行は荷をまとめ、王都を目指して歩き出した。


 森を抜け、開けた街道に出た頃には、日が高く昇っていた。風が、草の匂いを運んでくる。誰もが、久しぶりに、少しだけ肩の力を抜いて歩いていた。


「――にしても、遠回りって、どのくらいですか」


 ノアが、荷物を背負い直しながら尋ねた。


「予定通りなら、あと三日ってところだ」


「三日……お腹、持ちますかね」


「お前は、そればっかりだな」


 ガロンが、呆れたように言う。ミュゼが、横で小さく吹き出した。


 そんな軽いやり取りが続く中、セレスの足が、ふと止まった。


「――どうした」


 隣を歩くイリスが、怪訝そうに尋ねる。


「いや……」


 セレスは、背後を振り返った。街道の先、何もない景色が続いているだけだった。木々のざわめきと、遠い鳥の声。それ以外、何も見当たらない。


 だが、確かに、視線のようなものを感じた。ほんの一瞬、木々の隙間から、こちらを見ている何かがあった気がした。肌の裏側を、冷たい指でなぞられたような感覚だった。


「――気のせいか」


 そう呟いたが、拭いきれない違和感が、胸の奥に残っていた。


「セレス?」


 レイフィアが、少し離れたところから振り返る。


「――何でもない。行こう」


 セレスは、もう一度前を向き、歩みを速めた。誰にも、その違和感を、まだ言葉にはしなかった。


 久しぶりに緩んだ空気の底で、何かが、静かに一行を見つめている。そんな気配だけが、セレスの中に、いつまでも残り続けていた。

第百話「焚き火の縁」をお読みいただき、ありがとうございます。おかげさまで百話まで書き続けることができました。これからも、セレスたちの旅を見守っていただけると嬉しいです。よろしければ、ブックマーク・評価で応援していただけると励みになります。


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